【5話】ただずっと、隣で笑い合っていたいから、

 多分、鳥のさえずりが聴こえたと同時に目が覚めたと思う。こんな早い時間に起きることはまれだ。
 西山の腕に包まれて、寝顔をずっと眺めている。そういえば部屋に泊まるのは初めてだった。
 年齢より幼く見えるのは、相当気の抜けた表情だからだろう。見事な「へ」の形をした眉が一番貢献しているかもしれない。口元もよく見ると若干開いている。
 率直に言うと、可愛い。スイッチが入っている時は絶対にお目にかかれない。自然と小さな笑い声がこぼれた。
「……んぁ、……?」
 もぞもぞと布団の中が動く。反対側を向こうとしたのか、下敷きにしている腕が持ち上がりかけ、再び唸り声が響く。
「ごめん、起こしちゃったか」
 ゆっくり開かれた瞳は数秒天井を映し、同じようなスピードでこちらを向いた。この様子だと半分も覚醒していない。
「出勤までまだ時間あるからもう少し寝てなよ」
 頬を撫でると、ほんの少しざらりとした感触が返ってきた。
「……夢じゃ、なかった」
 撫でていた手のひらに唇を滑らせて、心から安堵したように笑う。
「俺たち、恋人同士にもなれたんだな」
「なったよ。うそじゃない」
 大好きなおもちゃを前にした子どもみたいに、無邪気な笑みが返ってくる。
「身体、だいじょうぶか?」
「今んとこ。あんなに手慣れててびっくりしたけどな」
「ばーか。勉強したに、決まってんだろ……」
 次第に瞼が閉じられていく。軽く頬をつねってみるが反応はなく、穏やかな呼吸をただ繰り返している。
「勉強したって、どんだけ自信があったんだよ」
 なんて、本当はわかっている。
 ハッピーエンドだけを信じていたわけじゃない。「臆病」と己を評する男だから、もう一つの可能性も頭の片隅に入れて、準備していたに違いない。
 だとしたら、何を用意していたのだろう。
 ……無駄な想像はやめよう。せっかくの幸福感をわざわざ逃がす必要はない。
 今はただ、相棒であり恋人でもあるこの男の隣を堪能しよう。心地いい気だるさに包まれていよう。
「ありがとう。好きだよ、ずっと」
 この気持ちは、何があっても揺るがない。
 西山がいてくれるなら、きっと、信じ続けることができる。

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