Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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さあ、賭けを始めよう

#BL小説

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「好きなヤツを振り向かせるってほんとムズいんだよ」
「まあ、そこは否定しねーよ。ってか、まさか恋愛相談だとは思わなかった……」
「苦手なのにごめんて。お前しか頼れなくってさ」
 夕暮れ時の教室で、幼なじみでもあり親友でもある彼と二人、顔を付き合わせて語る。かすかに聞こえる蝉の鳴き声が、ただでさえ不安定な決意をさらに鈍らせにかかってきて鬱陶しい。
 居残りに誘った時、最初は面倒そうな顔をしておきながらもこうして承諾してくれたコイツが実は優しい性格だと知っている人は数少ない。柔和とは言いがたい表情が癖のようになっているから、普通の人間はあまり寄りつかない。
「で? その好きなヤツとやらはどんなヤツで、どんだけ好きなんだ?」
「……先に長さを言うと、ずっとだ」
「ずいぶんふわっとしてんな」
「ここに、入学する前から」
 予想外だというように、少し切れ長の目が大きくなる。わりと珍しい表情だ。自分が落ち着きのない性格のせいか彼はいわゆるストッパー役に回ることが多く、おかげで冷静さを身に付けられたと語っていたのを思い出す。
 それでも、まだ崩すことはできたらしい。
「それって、もしかして中学も同じってことかよ?」
「当たり」
「……ほーう」
 彼がわずかに身を詰めてきた。顔の右半分を照らしている夕日の効果で、片目だけが無駄に輝いているように映る。
「お前にそんな相手がいるなんて知らなかったわ。もしかして小学校もだったり?」
「だとしたらどうする?」
「どうするもこうするも……つーか、もしかして俺が知ってるヤツだったりすんのか?」
「どう……かな」
 咄嗟に濁してしまう。白黒つけたがる親友には逆効果だと悟っても後の祭り、整った眉がわずかに寄っていた。
「お前さ、どうかなってことはないだろ。付き合い長いんだから下手なごまかしは通用しねーぞ」
「だよな。長いんだよな、オレ達」
 初めて互いを認識したのは幼稚園児の時だった。母親同士も仲のいい幼なじみだったこともあり、自然と二人で過ごす時間が増えていった。性格は似ているどころか対極に近いのにやけに気が合って、何よりとても楽しくて、心地よくて、気づけば離れられなくなっていた。
 その親友はますます不可解といった顔をしている。
「……俺、一応お前に、相談に乗って欲しいって言われたからわざわざ残ってんだけど」
 ――わかってる。お前の言いたいことはわかってるよ。
 けれど、いざ本番を迎えたらこの足は一歩を踏み出しかけて震えている。心の葛藤がそのまま出てしまっている。ここまでへっぴり腰だとは、ひたすら情けない。
「……それなら俺、もう帰っていいか?」
 言うが早いか、親友は深いため息をつきながら立ち上がった。慌てて腕を掴んで引き留める。
 ――ダメだ、ダメだ。
 そうだ、迷っている暇なんてない。はじめの一歩を出した瞬間から、立ち止まる選択肢は残されていなかった。
「何だよ、やっと白状する気になったのか?」
 一体何を渋っているのか全然わからない。
 真実を知らない親友の無言の訴えに苦笑したくなる。
「……幼稚園からの、付き合いなんだ。そいつは」
 顔まで見る勇気はなかった。喉が震えてうまく声が出そうにない。
「俺もそれくらいの付き合いだけど、そんな女いたっけか?」
「ちょっと素直じゃなくて、憎まれ口つい叩くようなところがあるけど、面倒見がよくて。いつもオレ、甘えちゃうんだ」
 親友の言葉が止んだ。勘が鋭いから気づいたのかも知れない。それでも懸命に否定のための材料をかき集めている、そんなところだろう。
 顔が見られないなどと言っている暇も、もうない。気力を振り絞って、頭を持ち上げる。

 ――本当の本番は、ここからだ。

「……わかるだろ?」
 格好つけてもやっぱり目を逸らしたいし、答えを聞かずにこの空気ごと放り投げて、すべてを振り出しに戻したくもなる。
 できるわけがなかった。苦痛が続く階段を上りたくなくて、出口へ向かいたくて、仕掛けたのだから。
「嘘、だろ。……まさか」
 驚愕と不信と戸惑いの混じったような、ごちゃごちゃな双眸が自分を捕らえる。
 急激に喉が渇いてきた。熱が出ていると錯覚しそうなほど、顔から汗が吹き出ているのがわかる。
「吉田先生、だったなんて」
 瞬きを五回ほど繰り返したところで我に返った。
 小学生時代の担任のわけがあるか。というか本気で言っているのかコイツは? わざとなのが見え見えだ!

「っざ、けんな……!」

 親友が短い悲鳴をあげながら窓際までよろめき、背中を預ける体勢になった。すぐさま両腕を親友の両端に固定する。
 ――逃がさない。ここまで来たら、逃がしてなどやらない!
「お、おい! 外から見えるだろ、落ち着けよ」
「本当はわかってるくせに!」
 薄い唇を固く引き結んで、水面のように揺れる視線をこちらに向けて来る。ここまで狼狽するなんて、予測不可能な展開に弱いのは相変わらずだ。
 見慣れているはずなのに、状況を忘れてつい可愛いなんて思ってしまう自分に嫌気が差す。

「お前……本気、なのかよ」
「冗談で、こんな真似できるわけないだろ」
 唇に一瞬、触れる。呆然とこちらを見返す親友にもう一度触れたくなるが、堪える。

「オレが好きなのは……お前だ」

サイはもう投げられた。
オレが勝つか、お前が逃げ切るか。
賭けは始まっているんだ。畳む

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俺の頭の調子はもっとおかしい

#BL小説

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ちょっと二次創作みたいなノリになってしまいましたw

風邪を引いた主人公のもとに見舞いにやってきた親友は、どこか色っぽいと感じてしまう雰囲気を普段から持っていた。
それは彼を好きと思っているから? いや、そんなはずはない。友達としてしか見ていないはずなんだ。

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 久しぶりに風邪を引いた。
 前日は中学生以来の三十八度まで熱があがってしまったが、なんとか微熱より強い程度まで下がってくれた。うまくいけば明日には復活できるかもしれない。
 一人きりは寂しくて嫌いというタイプではないのに、風邪特有のマジックか心細さを感じてしまう。本当に若干だが。

『ちゃんとおとなしく寝てろよ? お前、ただでさえ落ち着いてらんないタイプなんだから』

 休みのメッセージを送った友人からの返信を思い出す。
 大学の入学式で出会ってから一番仲がよくて気の合う、いわゆる「親友」という間柄だ。
 昨日は見舞いの打診をされたが、風邪がうつると大変だからとお断りのメッセージを送っていた。それでも彼のことだから、抜き打ちでやってくる可能性が高い。
 意外と面倒見のいいやつだから、黙って見過ごせないとかそういうことなのだろう。だとしても彼女じゃあるまいに、放っておいても問題ないのに。
「彼女がいたらお願いしちゃうかもだけどな〜」
 看護婦のようにやわらかな笑顔を向けられながら、甲斐甲斐しく世話をしてもらいたい。

『どうだ? 身体、少しはさっぱりしたか?』
『ああ。拭いてもらっちゃってほんと悪い。めんどくさかったろ?』
『なに言ってんだよ。付き合ってるんだからこれくらい当たり前だって』
『そ、そっか。そう、だよな』
『全く、そんな風に照れられたら困るだろ……手、出せないのに』

「ってなんでアイツ思い浮かべてんだ俺はよー!」
 かすれてパワーのない叫びでもせざるを得なかった。照れた親友の顔を思い出してひいい、と情けない悲鳴ももれる。
 ダメだ、予想以上に頭をやられている。彼「女」がいいのにどうして彼「氏」なんだそこで!
 ……確かに、あの親友は同性の目から見ても変に色っぽい雰囲気を醸し出すことがあるが、全くもって関係ない。関係ないはずなんだ。

「……んあ? インターホン?」
 もう一度寝直すしかないと布団をかぶって、意識が半分落ちかかったときだった。
 仕方ない。重い身体を起こしてゆるゆると玄関に向かう。

「よ、今日こそ見舞いに来てやったぞー」
 ついさっき妄想していたことを思い出して、固まってしまう。
 なぜか、見慣れたはずの整った顔が妙にきらきらしている。今まで一度もそんな現象にあったことはない。まさか妄想のせい?

「おい、どうした? あ、まだ熱高いか……それなら悪い」
「あ、い、いや。今はそこまで高くないよ。大丈夫」
 彼はほっとしたように笑う。……やっぱり、色っぽい。いや、むしろ可愛い?

「あ、上がってくか? お前がいいならかまわねーよ」
 慌てた拍子に、遊びに来たときのようなノリで口走ってしまう。自ら追い込むような真似をしてどうするんだ!
「おー、もともとそのつもりだったし。んじゃ、ちょっと上がらせてもらうわ」
 内心混乱する自分をよそに、彼はリビングにずんずんと進んでいく。後を追うと、手にぶら下げていた大きめのビニール袋からヨーグルトやゼリー、ペットボトルを取り出して冷蔵庫に入れてくれていた。

「ほら、おとなしく寝てろって」
 こちらの視線を飲み物が欲しいという訴えと勘違いしたのか、食器棚にあるコップとしまったばかりのペットボトルを両手に、こちらに向かってくる。
 まるでこの家のもうひとりの主であるような、実に無駄のない動きだった。

「他に欲しいものあるか?」
「あ、いや、大丈夫。つか、いろいろ買ってきてもらって悪いな。ありがとう」
「冷蔵庫の中スッカスカでびっくりしたぜ。昨日よく無事だったなお前」
「運よくプリンとかレトルトの粥とかあったから、それ食ったりしてた」
 スポーツドリンクのほんのりとした甘さがありがたい。くだらない妄想事件はともかくとして、風邪の定番ものを差し入れてくれて助かったのは事実だ。

「あ、そこに貼ってるやつもぬるいんじゃねえの? 替えてやるよ」
 実に自然な動作で額のシートを剥がされて、拒否するひまもなかった。
 面倒見のよさが遺憾なく発揮されている。
 ……行き過ぎな気がするのは思い過ごしだろうか。いや、そんな感想自体が危険な気も……。

「そうだ、お前が休んでたぶんの講義のプリント持ってきたぞ。コピー代は差し入れぶんと一緒に、あとできっちり請求するからな~?」
 どこか意地悪い笑みなのに、わずかに心臓が跳ねる。
 あの切れ長の双眸と左にある泣きぼくろが、色気の元凶かもしれない。
 さらに細められた状態で覗き込むように見つめられたら、道を踏み外しそうだ。

「お前さぁ……色気あるって、よく言われねえ?」
 口にしてから、無意味に唇を思いきり真一文字に結ぶ。自分で自分をコントロールできていない。熱の恐ろしさを改めて実感する。
「んー、そうでもないけど? てかいきなりなんだよ」
 自分も突っ込みたい。どう締めればいいのかわからず、とっさに「なんでもない」とありきたりで解決に向かない返しをしてしまう。

「……なるほど。お前、俺のこと色っぽいって思ってたんだ」
 面白い遊びを発見した子供のような表情に、寒気とは違うものが背筋を走る。うまく説明できない。
「そういえば俺が世話してやってたときも嬉しそうだったし、もしかしてそういう意味で好きだったり?」
 後ずさろうとして、背中を壁に預けていたことを思い出した。

「ま、俺としては狙った通りかな」
「……え、それって」
 どういうこと。
 訊き終わる前に、横になるよう促される。自分を映す瞳にますます輝きが灯って、ヘビに睨まれたカエルの気分そのものだった。

「のど、まだ乾いてるだろ?」
 自分が口をつけたカップを自らのほうに持っていき、軽く傾ける。トレーの上に役目を終えたそれが置かれた瞬間、ようやく彼の意図に気づいた。
「ま、待っ……ん!」
 口内に甘く冷たい感触が流れ込んでくる。火照った熱を冷ますように内壁もゆるくなぞられて、抵抗感が湧き上がらないどころか甘んじて受け入れてしまう。
 まさか、夢見ていたシチュエーションがこんなかたちで実現するなんて。

「おいしかっただろ?」
 満足げに微笑み、わざとらしく舌を這わせた親友の唇はつややかな光を放っていて、まるで蜜に誘われた蝶のように視線を奪われてしまう。
「それ、もっと欲しいって言ってんの?」
 再び重ねられたのは、首を上下に振っていたのだろう。
 すべてを飲み込んでもなお、唇は囚われたまま熱をさらに上げていく。不快感どころか、高揚感と気持ちよさを覚えるのは、彼がうまいせいか、風邪のせいか。

「……っあ」
 離れていくのが名残惜しい。心の中の声は、ばっちり相手に伝わっていた。
「お前さ……人のこと煽るの、やめろって。さすがにこれ以上、手出せないし」
「いいよ。別に」
 なんのためらいもなしに、肯定する。
「お前のせいで、下がってた熱がまた上がっちまった。見舞いに来たんなら、ちゃんと責任とれよ」

 わがままなヤツ。
 楽しそうに告げたその言葉が、合図だった。
 身体を覆っていた毛布をまくられる。シャツの裾から滑り込んでくる、少しひんやりとした手のひらはごつごつとした感触をしているのに、甘美な痺れを生み出す。

「あ……っ、ん」
 胸元をかすめた瞬間、思わず口元を塞いでしまった。なんだ、今の鼻にかかったような声は。
「ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ」
 いやだと拒否しても彼はお構いなしに壁を壊して、頭上にまとめられてしまう。

「いいから、おとなしくしてろって……」
 今度は舌でも触れられて、堪えきれずにみっともない喘ぎがこぼれ続ける。
 男でも感じる場所だと知らなかったのは自分だけに違いない。でなければ、ためらいもなく胸に吸いつけるわけがない。

「気持ちいいんだろ? ここ、反応してる」
 服の上からなぞられたら、抵抗する力はもうなかった。
「あ……はっあ、ぁ……、や……!」
 緩急をつけて揉みしだかれ、ゆれる腰と声を止められず、ついには下着ごと下ろされ、直に触れられた――


 目を開けると、見慣れた天井が飛び込んできた。
 ……天井?
 耳の近くで鳴っていると錯覚しそうなほど心臓を脈打たせながら、首を軽く左右にひねる。いたはずの男がいない。というより初めから存在していない雰囲気だ。
「もしかして……」

 夢?
 声も感触もリアルに覚えているのに、まさかの夢オチ?
 茫然自失とは今にふさわしい。ショックも計りしれない。そっと毛布をめくり、身体の中心を確かめてさらに後悔した。
 どこからが夢だった? 変な妄想をしたところまでは覚えている。なら夢だけのせいにできないじゃないか。気の合う親友という認識だったはずなのに、ときどき色っぽく見えるなんて感想を抱いたばっかりに……!

 のろのろと起き上がり、膝を抱える。しばらく穴ぐら生活をしたい気分でいっぱいだった。誰の目も届かない場所で、落ち着いて頭の中を整理するのに最低一ヶ月の時間がほしい。
「とりあえず、俺があいつを好きだってのはない。絶対ないから」
 意味がなくても、言い訳をこぼしたかった。自分が好きなのは女の子、昔も今も女の子と恋仲になりたい。えろいことだってしたい。

『それ、もっと欲しいって言ってんの?』
『ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ』
『気持ちいいんだろ? ここ、反応してる』

 瞬間、部屋を満たした音に、突き上がった衝動がかき消される。
 家と外をつなぐ扉が、とてつもなく恐ろしく見えた。畳む

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螺旋を描く悩み

#CPなし

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 一息つくために淹れた紅茶のカップを片手に、仕事場兼自室へと戻る。先ほど電話越しに頼まれた作業はもう終えたから、再び待機の状態だ。

 数年前からこうして、家族の自営業を手伝っている。一応正社員という扱いだが、感覚はアルバイトに近い。外勤が主なこの仕事の内勤は、待機が基本なのだ。
 やることがないわけではない。仕事に必要な荷物を受け取ったり、ほぼ毎日届くFAXやメールをチェックしたりと、一日のうちに不定期に発生する作業はある。
 ただ、待機が長いだけ。

 こう長いと、どうしてもいろいろ考えてしまう。
 例えば売り上げが落ちて食い扶持がなくなったら、他の仕事を探さないといけない。そうなったら正社員はまず無理だろうから、派遣社員かアルバイトになる。それで自分一人でも食べていけるのだろうか。

 今のうちに副業でも始めておくのが一番実行しやすい対処だと思う。副業といえば自分の好きなことや特技を活かすイメージが強い。
 なら、自分の強みは何だろう?

 メモ用紙とシャープペンをとりあえず置くも、ついため息がこぼれた。
 大学生の時にもやった「自己分析」。これが本当に苦手だった。自分を客観的に見るのは難しいし、両親に「私の強みってなんだろう?」と問いかけても明確な答えは返ってこなかった。つまり、そういうことだ。

 苦手なまま突き進んできたツケがこうして回ってきたのだと、無地な紙が叱咤する。半ば意地になって、とりあえず好きなことを抜き出してみた。
 写真を撮る。漫画を読む。旅行。カラオケ。スマホゲーム。料理……は料理教室まで通ってみたけど一向に楽しいと思えなかったから違う。

 ……これぐらいしかない。しかも、どうしようもないものばかり。
 写真はインスタに載せていたらバズった、なんてシナリオはありそうだが夢物語過ぎる。大体人目を引くような写真は撮れたためしがない。
 他にいけそうなのは旅行だが、例えば道中のレポをブログなどにまとめられるだけの文才はない。日記も三日坊主で終わることがほとんどだった。

 シャープペンを置いて椅子にもたれる。気持ちだけが焦るばかりで、全く行動が伴わない。伴えるだけの力がない。
 今から文章の勉強でもするべきか? それよりも「インスタ映え」しそうな写真を学ぶべきか? あるいはその両方か?

 頭を乱暴に掻いたその時、目の前のパソコンから通知音が鳴った。身体を起こして確認すると、取引先から添付ファイル付きのメールが来ている。圧縮されたファイルを開いて、中にある十枚以上の写真と共に、メール達を印刷した。

 世の中の事務仕事もこれくらい緩かったら、すぐ就職できそうなのにな。畳む


Photo by Florian  Pircher(Pixabay

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感情の共有

#男女もの

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 まだ離れたくないな、と思ってしまった。
 相手からすればただのわがままだ。しかも二人きりで出掛けたのはこれが初めて。それなのに求めすぎじゃないだろうか。

「どうかしたの?」

 口数が減っていたらしい。慌てて作り笑いを返して、本当に今日は楽しかったと改めて感想を伝えた。
 お世辞抜きに、ただ楽しかった。この人と一緒にいるととても心地いいし、多分「ピースがかちっと嵌まる」感覚はこのことを言うんだろうとさえ思えたくらいだ。
 視界の先に、駅の出入口が見えてきた。あそこに辿り着いたら今日は解散しなくてはならない。

 ――果たして、この人も同じ想いでいてくれているんだろうか?

 そうだ、今日があまりにも楽しすぎてその可能性を忘れていた。下半身から力が抜けていくような感覚に襲われて、一気に未来が怖くなった。
 足を止めてしまった自分を、想い人は怪訝そうに振り返った。
 絶対に、この出会いを無に帰したくなかった。この人とこの先も付き合っていきたい。

「……っあ、の」

 声は驚くほどに震えていた。目の前の表情が明らかな心配顔に変わる。違う、具合が悪いんじゃない。反射的に首を振ってから、勇気を出して左腕の裾を掴んだ。

「もう少しだけ、付き合ってくれませんか」

 わずかに開かれた目を必死に見つめ続ける。拒否されたら、という恐怖で押しつぶされそうな心を意地で食い止める。たとえどんな結果でも、この選択をしなかった後悔だけはしたくなかった。
 自分にとっては五分くらい経ったような感覚が身体を走った時、右手に少し湿ったようなぬくもりが触れた。

「ありがとう。……実は俺も、同じことを考えていたんです」

 ——ああ。少なくとも今は、同じ気持ちを共有しているんだ。

 望む未来への足がかりになれた。それだけで今はたまらなく幸せだ。
 触れたままの手に相手の指が絡まる。優しく込められた力に引かれるかたちで、解散予定だった場所とは反対の方向へと歩き始めた。畳む

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ひっつき虫が可愛く見えるまで

#BL小説

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ふらっと思いついたまま書いてみたものです。
主人公:無自覚な友達以上恋人未満
お相手:片思い
な雰囲気です。

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 コイツは風邪を引いたりすると、必ず自分に泣きついてくる。
 ……それまでは少しでも困ったことがあると、だったが「本当にピンチな時だけにしろ」と交渉しまくった結果が、今だったりする。コイツにとってのピンチは風邪らしい。
『病気になると寂しくなったり人恋しくなったりするじゃん!』
 とは、本人の心からの弁である。
 幸い、高校時代までスポーツをやっていたおかげか頻繁に起きはしないものの、非常にうっとうしいのにかわりはない。


「安藤~どこ行くんだよ~オレを一人にしないで~」
「だー! 買い出しだってんだろが!」
「そんなの宅配とか通販でいいじゃんか~」
「今すぐ持ってきてもらえるわけないし配達の方に申し訳なさすぎるわ! てか徒歩5分もかからないコンビニなんだから我慢しろっての!」
 これである。毎回、これである。
 とにかくべったりひっついてくるのだ。いくら友人とはいえ同性に隙間なくくっついて気持ち悪くないのだろうか?
「ったく、お前は毎回毎回しょーもないな……」
 やはり寝入った隙に行くしかない。一応病人だから気を遣う心はあるものの、精神力が異常にがりがり削られて、気を抜いたら共倒れしてしまうんじゃないかと思うこともある。
「へへ、安藤が優しいとこも毎回変わらないよ」
「へいへい、嬉しいお言葉をどうも」
 ベッドに大人しく横になった石川はふにゃりと口元を緩めた。身長が180以上ある、精悍な男の笑顔にはつくづく見えない。
「つーか、いい加減彼女とか作れよ。よっぽど甲斐甲斐しく世話してもらえんぜ?」
 余計なお世話だろうが、言わずにはいられなかった。自分だって、いつまでも「お世話係」をやらされたらたまったもんじゃない。
「……え?」
 さっきまでの笑顔はどこへやら、見事に固まってしまった石川にこちらも面食らう。
「な、なんだよ。俺ヘンなこと言ったかよ。そりゃ余計なお世話だと思ったけどよ」
 その気になれば、恋人という関係を手に入れられる容姿も性格も備わっている。他の友人もきっと同じ評価をするだろう。
「……オレを捨てるんだ」
 全く予想外の言葉に勢いよく殴られた。恋人に縋り付くダメ男そのものじゃないか。
「オレが頼れるのは安藤しかいないのに……」
「いやいや、他にもいるだろ。お前が俺にばっか言ってくるだけで」
「オレは安藤がいいの!」
 本当に、物理的に縋り付いてきた。振りほどきたくとも病人相手に本気は出せないのに、ものすごい力が腕にかかっていて痛い。
「おま、ちょっと力ゆる」
「安藤じゃなきゃイヤなんだ。いつだって、安藤にそばにいて欲しいんだよ」
 似たようなことは高校生の頃から言われてきた。まるでお熱い告白のようにも聞こえると冗談まみれで返しては石川がただ笑って、気づけばやり取りの頻度は減った。
 どういうつもりで言葉にしているのか、深くは考えていなかった。ただ、石川がどこか寂しそうな雰囲気を漂わせていたような気はする。
「そ、そばにって、なんか、意味合い違うように聞こえるんだけど」
 今日はいつもと違う。風邪を引いているせい? だとしてもこんなに戸惑うだろうか。らしくない返答をしてしまうだろうか。
「ちがくないよ。オレにとっては一緒だから」
 見上げてくる石川の瞳は完全に高熱で揺れていた。触れたら崩れてしまうんじゃないかとつい思ってしまうほど、頬も熟れすぎている。
「オレには安藤だけだもん。知らないでしょ、オレがどんだけ安藤を」
「ま、待て待て。お前風邪引いた勢いで変なこと言うんじゃねえって」
 この流れはお互いにとって不幸しか生まない気がする。もし危惧している通りの流れになったら正直受け止め切れない。
「変なことじゃないよ。オレ、前から言ってるじゃん」
 触れられた腕から伝わる熱さで、自分まで眩暈でも起こしそうだ。こんな展開になるなんて誰が想像しただろう。
「安藤……本当に、だめ? オレ、一ミリも望みなし?」
 これでもかというくらいに眉尻を下げて、図体とは正反対の空気を一気に纏いだした。
 正直、ずるい。こんなの、駄目だと一刀両断しづらいじゃないか。いや、ここで中途半端な態度を晒してしまうのがいけないんだと思う、思うが。
「……なんだかんだで、大事な奴だとは思ってるよ。じゃなかったら、クソ面倒なお世話なんてしねえし」
 石川が求める意味とは違うだろうが、嘘ではない。一番つるんでいる友人だし、一緒にいると気が楽というか、自然体でいられる存在だったりする。
「……安藤がそんなこと言ってくれるの、はじめてだね」
 本当に驚いたようで、小さい双眸がかなり見開かれている。
「ありがとう、納得したよ。今はね」
「今は、ってなんだよ」
「うーん……そうだなぁ」
 頬をそろりとひと撫でした石川は、唇の端をわずかに持ち上げた。
「覚悟しといてね、ってことかな」
 小悪魔のような笑みとは、今のような表情を言うのだろうか。
 初めて、心臓が無駄に高鳴ってしまった。
「へいへい。心からお待ちしておりますからいい加減寝ろ」
 悟られないよう、石川の頭を枕に押しつけて布団をかぶせる。
 きっと自分も見えない熱に浮かされているに違いない。そう思い込まないと、動揺を抑えられそうにはなかった。畳む

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