Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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2021年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

星を散りばめて

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『光』です。
年上×年下(どちらも大人)な組み合わせです。頑張って甘くしたつもりですw

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 俺の恋人は海が大好きだ。
 ただ、観光地と化しているほど人の多い海ではなく、プライベートビーチのような物静かな海が好きらしい。俺も人混みは得意ではないから、今回の宿、もといコテージはあっさりと決まった。

「いやー、ほんと綺麗な海だなー!」
 さっきから彼は似たような感想を繰り返している。検索していたらたまたま見つけたコテージだったが、車通りも人影もほとんどない、おまけにメインの海はエメラルドの宝石をそのまま溶かしたような、まさに彼が喜ぶ類のものだったから、まさに完璧な選択だったわけだ。

「ねえ、俺ばっかりはしゃいでるけど、そこに座ったまんまでつまんなくないの?」
 彼は砂浜に座ってただ海を眺めたり、趣味である写真を撮ったりとなかなかに忙しない。俺はといえば、最初こそ彼に付き合っていたものの、楽しそうな背中をひたすら眺めてはコテージに引っ込んで、溜まっていた本をのんびり消化していた。
「別につまらなくなんかないよ。……でも、そうだな」

 まるで同棲しているように、気張らず、恋人らしいことをしないと、と気負いもせず、ただのんびり休暇を過ごす。旅行前に決めたルールだった。
 久しぶりに重なった休みというのもあって、特に彼の生き生きとした姿を素直に堪能したいという気持ちもあった。

「ん、やっぱり一緒になにかする?」
 目の前に立った俺を水面で輝く太陽のような瞳で見上げる彼に、まずは触れるだけのキスを落とす。
「そろそろ、俺にも構ってほしいかな」

 唇の表面を軽く喰んで、薄く開いた隙間に舌を差し込む。陽の下に晒され続けたせいか、いつもより熱い口内を丹念になぞっていく。
 耳をくすぐるのは、穏やかな波音に不釣り合いな、舌、唾液を絡ませ合う淫らにあふれた音、互いの乱れた呼吸だけ。

 人気のないという事実が、普段以上に大胆な気持ちを生み出す。それは彼も同様のようで、白いTシャツの裾から手のひらを滑り込ませても、甘さに震える声をこぼすだけで拒否はしてこない。
「……いいんだ? まだ日中で、こんなオープンな場所なのに」
 意地悪をされていると自覚しているらしく、わずかに頬を膨らませて欲情に濡れた瞳を釣り上げる。

「あんた、ほんとこういうときは性格悪いよね。オヤジだ」
「心外だな。五歳しか変わらないのに」
「五歳は結構ちが、っん!」
 小さく笑いながら、すでに尖っている箇所を爪先でなぞる。あっという間に目元を緩ませた彼が可愛くて片方も強めに弄ってやると、もはや堪らえようともしない悲鳴が鼓膜を震わせた。

「コテージまで、戻る?」
 耳元で囁くように問いかける。吐息がくすぐったいのか、首をすくませながらゆるゆると振る。
「我慢できないんだ」
「いいから! ……もう、意地悪しないで」
 肩口に歯を立てられた瞬間、年上の余裕はいとも簡単に消え去った。

  + + + +

「あーあ、結局こういうパターンか」
「いいじゃないか。俺、実は結構我慢してたんだし」
「えっ、それなら早く言ってよ!」

 ベッドから身を起こした彼は、こちらの変わらない笑顔を見て冗談だと悟ったらしく、溜め息をついてもそもそと元の位置に戻っていった。
「まったくの嘘ってわけでもないよ。ああしてのんびり過ごして、楽しそうな君を見ていたかったのも本当だから」
「それなら、いいけど……」

 あれからコテージに戻っても熱は冷めず、シャワーを簡単に浴びてからずっと、ベッドの上で過ごしてしまった。外はとっくに薄闇で塗り替えられ、小さな輝きと半分に欠けた夜の太陽が、外灯の代わりにコテージを照らしている。
「明日は岬のある方に行ってみよう。ちょっと距離があるけど、高い場所から見る海もなかなかいいからね」
 すぐに笑顔を取り戻した彼は素直に頷く。

 明後日はなにをしよう? 幸せなことに明々後日も、その次の日もある。まだ、彼をたくさん独占できる。
 けれど……ずっと、ではない。
「どうしたんだ?」

 本当に、感情の変化に敏い恋人だ。それとも、それだけ俺がわかりやすいのか。嘘をつくのは苦手ではないのに、思ったほど余裕がないのかもしれない。
 黙って肩を抱き寄せて、恐る恐る口を開く。
 本来なら、旅行の最終日に打ち明ける予定だった。

「ずっと、考えていたことがあるんだ」
 彼は何も言わない。かえって、俺のタイミングで続きを紡げばいいと言われているようで、少しだけ気が楽になる。
「俺と、一緒に住まないか?」

 俺にとっての同棲は、「これから先もずっと一緒にいたい」という、いわば結婚と同等の意味を秘めていた。
 彼も、それを知っている。

 ずっと迷っていた。隣で笑ってくれている彼は、未来でもそれを見せ続けてくれるのかと。俺はとうに覚悟を決めていたけれど、彼は違うかもしれないと少しでも考えると、なかなか口に出せないでいた。
 ようやく、なけなしの勇気を振り絞れたのだ。
 あとは彼を信じるしかない。俺に向けてくれる笑顔の輝きに、すべてを委ねるしかできない。

「まったくさ、遅いんだよ」

 虚空に響いたのは、呆れと愉悦の混じった声。
 次いで俺を見下ろす瞳は、逆光でもわかるほどに星を散りばめたような輝きで満ちていた。畳む

ワンライ 編集

お前だけに甘えた結果の現在(いま)なのか

#BL小説

「一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『アイスクリーム』『背比べ』です。
一応リーマンものです。暗くなってしまいました……。

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 定期的に冷凍庫を開けるクセがついてしまった。
 あいつは、俺から見たら異常なほどの果汁入りアイスクリームを愛する男で、規定の数がストックされていないと不機嫌になるのだ。
「やべ、残り三つじゃん」
 ひどいときは一日に十個も消費する。だから互いに確認を怠らず、五つ以下になっていたら補充しようというルールを設けていた。

「なに買うかな……オレンジ味と、グレープ味……」
 スマートフォンのメモアプリを立ち上げて、購入リストを作っていく。四つまで埋めたところで、指の動きを止めた。
「……俺の好きな味ばっか」
 気づけば俺も果汁アイスを好むようになっていた。柑橘類のあの爽やかな酸っぱさは、一度ハマると季節関係なく定期的に食べたくなる。
 ただ、あいつは果汁なら大体なんでも好きなクチだから、偏っていると不機嫌の原因となってしまう。

「一番食うんだし好みもうるさいんだから、いい加減自分だけで買うようにすればいいのに」
 メモを破棄して、ソファに身をだらしなく預ける。スマートフォンのカレンダーをぼんやり眺めながら、同棲を始めた五年前を思い出す。
 あの冷凍庫は、わざわざ単体で購入したものだった。まだ互いに大学生だったから、サイズと金額のバランスをこれでもかというくらい相談しあい考え抜いた末の、いわば思い出の品だった。ある意味受験や就職活動のときより真剣だったかもしれない。

『こんなん、ちゃんと付き合ってくれんのお前ぐらいだわ』
 スポーツ好きにふさわしい短く整えられた髪型のせいか、妙に爽やかな笑顔であいつがそう言っていたのを思い出す。
「そんなの、俺だって言いたかったさ。俺みたいなやつに付き合ってくれんの、お前だけだって」

 物心ついたときには同性しか好きになれない体質だった。大学に入って初めてあいつと出会って、友人として長く過ごすうちにそれ以上の感情を向けてしまっていた。
 自覚したら気持ちを押し殺しておけない困ったこの性格は、あいつに対しても例外なく発揮された。

『……え、お前が、オレ、を?』
『悪い。……気持ち悪いだろ、ほんとごめん。困らせるつもりはなかったんだけど』
『お、おい。待てよ』
『これで何回も失敗してんのにマジ学習能力ねえな俺。……今までありがとう。じゃあ』
『だから待てって!』

 そのとき腕を掴まれた力は、今でも昨日のことのように思い出せる。あんなふうに引き止められたことは一度もなかった。
 さらに、「今すぐ返事できないから少し時間がほしい」と返され、社交辞令かと思っていたら本当に返事をくれて、それが断りでなかったことにもっと驚いた。

『ちゃんと考えたんだよ。お前と離れたくないって思ってるのは友人だからなのか、そうじゃなかったら恋人とするようなことをしたいほどなのかって。
 それで……したいって、思った。多分気づいてなかっただけで、オレもお前が好きだったんだ』
 根は真面目な、あいつらしい返事だった。それが思わず泣いてしまうくらいに嬉しくて嬉しくて、夢なんじゃないかと疑ったくらいだった。
 抱きしめてぎこちないキスをくれたのに、次の日に同じ講義で再会するまでは夢と現実の区別が本当につかなかった。
 ――だから、無意識に甘えてしまっていたのかもしれない。

 この関係はずっと変わらない。
 なにがあっても、隣を見ればあいつの顔がいつもある。
 俺とあいつは同じ想いを抱き合っているんだ。

「……アイス、買いに行くか」
 テーブルの上に置きっぱなしになっていた長財布をポケットにねじ込んで、ゆらりと立ち上がる。あいつが特にうまいと繰り返していた商品を中心に揃えておこう。

 あいつが突然いなくなって、二度目の夏がやって来ようとしていた。畳む

ワンライ 編集

あなたの手のひらが合図

#男女もの

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「体調不良版ワンドロ/ワンライ」 さんのお題に挑戦しました。
お題は『息抜き』です。
ある夫婦の日常の一コマ。ほのラブです。

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 息抜きするのが下手だね、とよく言われてきた。
 実際その通りだと自覚はしている。キリのいいところまで作業したいと気持ちが先走って、気づけば三、四時間経っていた、なんてこともザラだ。
 そしてひどく疲労してしまう。反省するのはこの瞬間で、なのに馬鹿の一つ覚えのように同じ行動を繰り返してきた。

 急に目の前が闇に包まれて、文字と図で埋まったモニタが消える。
「そろそろ休憩しないと、また体調崩すよ」
 視界を覆っていた彼の手を取ると、柔らかな笑顔が次に待っていた。
 モニタの右下に目を移して短く息を呑む。昼過ぎだったはずが、もう夕方に差し掛かっている。
「またやっちゃった……いつもごめんなさい。わたしのこと気にさせちゃって」
「気にするなよ。店の売上管理とか広告作りとか、頼りにしっぱなしだし」
 表に出るのは彼の役目、裏方は自分の役目。だから気にする必要はないと首を振るのだが、彼としては心苦しいらしい。
「もう少し勉強したら手伝えると思うから! 待っててくれる?」
「ふふ。わかった」
 彼に立ち上がるよう促され、そのまま寝室へと手を引かれる。これも日常茶飯事のようなものだった。
「別に寝なくても大丈夫だと思うんだけどな……それに夕飯どうするの?」
「少しくらい遅くなっても大丈夫だって。前に頑張りすぎてめまい起こしたこと、もう忘れたの?」
 あのときは寝不足もあったから、と説明しても、彼にとっては忘れがたい事件だったらしい。大事にしてくれるのは本当に嬉しいけれど、少し過剰すぎな気もする。
 それでも強く言えないのは――向けられる愛情が心地よくて、幸せだから。
 隣で肘をついて、横向きになりながら彼は頭を優しく撫でてくる。
 何年経っても変わらない。言葉にせずとも伝わってくる心からの労り。手のひらから癒やしの力が出ているかのように、全身へと染み渡っていく。
 ――ああ、やっぱりわたし、疲れていたのね。
 いつも自己管理の甘い自分を助けてくれてありがとう。
 頭を撫でる手を唇まで持っていき、軽く押し当てる。うろたえる彼を可愛く思いながらゆっくりと目蓋を下ろした。畳む

ワンライ 編集

夢と誰か言ってくれ

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『音』『真紅』です。
主人公の独白メイン。暗いです。

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 目の前が赤く染まる。呆然と、その赤を瞳に映していた。
 生と死の狭間へと誘う音がだんだんと近づき、目の前で急停止する。

 大丈夫ですか! 意識はありますか!
 持ち上げるぞ!

 まるで、自分の身体がこの場に存在していないかのようだった。
 もしかすると夢かもしれない。だからこんなに現実感がないんだ。そうに違いない。

「すみません、お知り合いの方ですか?」
 目の前ではっきりと声をかけられ、薄れていた意識が無理やり戻る。頷いた、というよりも項垂れた。間違いなく現実だと、宣告されたようなものだから。

「お前に、俺のなにがわかるってんだよ……!」
 些細なきっかけで始まった喧嘩だった。このところ残業続きで疲れがたまっていて、それでも彼とのデートは数日前から楽しみにしていた。
 行きつけのバーでの出会いがきっかけで付き合うようになった二歳年下の彼は、年下とは思えないほどしっかりしていて、自分をよく見てくれている、ただの恋人では括れない大事なひとだった。
 その日のデートは彼からの提案だった。自分のためと確信できるのは、行く場所が好きなところだったからだ。
 心から楽しんでいた。恋人の絶えない笑顔も胸に染み渡る思いだった。
 それを、夕飯のときに入れたアルコールのせいで余計な口を滑らせ、口論したまま帰り道を進むはめになってしまった。
 一言謝れば済む話だ――そう頭のどこかではわかっていたのに、意地が先行して過剰な内容ばかりが飛び出す。
「いいからもうほっといてくれ! お前も俺に付き合うのはうんざりだろ!?」
「っお前は! そういうところが無駄に頑固だからいらつくんだよ!」
 優しい彼もいい加減我慢の限界に来たのか、背後から荒げた声をぶつけてきた。

 ハンドルを切り損ねたのか、先頭にいたからよくはわからない。
 空気を切り裂くような音が聞こえて、振り返ると白線を乗り越えた車のそばに、恋人が倒れていた。

 自分の周りだけが照らされた待合スペースで、光と闇が入り混じった床をただ見つめる。
 酒を飲まなければ。夕方で解散していれば。そもそも出かけなければ。
 後悔ばかりが今さら浮かんで、胸を、頭を圧迫しにかかる。もうひとりの自分が激しく責め立てている。
 喧嘩なんて、今までも何度かあった。そのたびにどちらかが折れて、元通りのふたりになっていた。
 それなのに今はどうして、ここに謝りたい相手がいない? どうして、生死をさまよい、祈る事態までいってしまった?

 失う未来なんて考えられない。たとえ喧嘩しても、誰よりも彼が大事なんだ。彼のいない日々に耐えられる自信なんてこれっぽっちもないんだ。
 組んだ手のひら同士を固く、痛みを感じても握りしめる。この強さは、彼への祈りの強さ。
 目を閉じればいろんな表情の彼が目の前に現れては消える。男にしては大きめの瞳で、まっすぐこちらを見つめ返してくれる視線の強さが好きだ。
 言葉にせずとも伝わってくる想いに、込められる想いをすべて返せば、何よりも幸せそうな表情を浮かべる瞬間が好きだ。

 どうか、その時間を再び味わわせてくれ。畳む

ワンライ 編集

どうしようもない馬鹿のスイッチを押すとどうなるか

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『偶然か必然か』『大好物』です。
大学生もの。攻めが頑張って口説き落とそうとしてくるのを、いつも通りかわしたはずだった。

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「ねえ、僕が君の好物を当てられたのってすごくない? 本当に偶然なんだよ。これってもう愛の力っていうか、惹かれ合うものがあるっていう証じゃない?」
「はいはいそうですね」
「なんで投げやりなんだよ! あ、そうか。自分が負けたって認めたくないってことか! うんうん、君はプライド高いもんね。そんなところも僕は大好きだけど」

 どうも盛大に勘違いをしているようなので、小説に落としていた視線を、ようやく目の前でぎゃんぎゃんとうるさい男に向けてやる。これから残念な種明かしをされるとも知らず、この男は俺が反応を示したことに素直な喜びを向けている。
「残念だけど、お前がこの小説を買ってきたことで証明されたのは、俺ではなくお前の敗北だ」
 日本語が理解できない。そんな表情を返してきたので栞をはさんで小説を閉じた。やはりきちんと説明する必要があるらしい。
「俺は、この小説が好きだということをあるひとりの友人に『だけ』話した」
 まだ彼は呆然としている。頭の中で己が取った行動を反芻していると言ったほうが正しいかもしれない。
「俺が、周りをちょろちょろしているお前に備えて、自分の情報を一切他に漏らしていないのは知っているな? だから『最初で最後のお願い』と、勝負を持ちかけられたときに思いついたのがこの方法だったのさ」

 二週間の間に、今現在の俺の大好物を当てる。それを「己の力だけで」解き明かせたら、「付き合いたい」という彼の願いを叶えてやる。
 相手にとってはただ分が悪いだけの条件をつけても承諾したのは、まぎれもないこの男だった。
 彼がどれだけの頭脳を持ち合わせているか、高校二年の頃に知り合ってから大学生となった現在まで付きまとわれている以上、いやでも把握している。自力で割り出せるはずがないとはじめからわかっていた。
 全くの予定通りすぎて、浮かんだのは喜びより呆れだった。

「自ら負け戦をするとは、お前も相当のバカだな」
 ため息をついて、再び小説に視線を落とす。こちらとしては、タダでこの本を手に入れられて棚からぼたもち状態と同等だった。ハードカバーだから、学生の身には懐が少々痛む金額なのだ。
 すっかりおとなしくなった男に小さく名前を呼ばれるが、生返事だけを返す。早く物語の世界に浸りたい。
 瞬間、頭が持ち上がるような、不思議な浮遊感が走った。

「っお、ま……っ、ん!」
 唇を塞ぐ感触を必死に引き剥がそうと、両腕にありったけの力を込めるがびくともしない。そういえば彼は、高校時代も今も運動部に所属している。体育ぐらいでしか運動していない俺との筋力の差は、認めたくないが歴然だった。
 口内でうごめくこれは、舌だ。恋人になることすら許していないのにこんなキスをあっさり許してしまうなんて、失態以外のなにものでもない。
 ――告白だけは掃いて捨てるほどしてきても、強引な手段に出ることは一度たりとて、なかったのに。
「ふ、ぁ……は……」
 耳を塞ぎたくなるような声だけが漏れてしまう。心なしか、背中にぞわりとした感覚も生まれている気がする。
 それでも、角度を変えながら欲望をぶつけるようなキスを、何度も彼は続けた。

「……僕、諦めないから」
 ようやく唇を解放するなり、彼は囁くように告げた。同時に切れた細い糸に、熱が顔に収束するのを感じる。
 身体が動かない。すべて生気を吸い取られてしまったように、情けなく真顔の彼を見つめるしかできない。
「絶対、君を手に入れてみせる。最初で最後のお願いは、撤回する」
 瞳の奥に、赤い炎が見えた気がした。こんな気迫も、今まで一度も見たことがない。
 頬をひと撫でしてから、彼は静かに立ち去った。もともと人気がほとんどない大学校舎の奥にあるベンチに、本当の静寂が訪れる。

「……ありえない、こんなの」
 はじめてあの男にペースを乱され、心臓が無駄に早鐘を、打っているなんて。
 胸の上の服を、力任せに掴むしかできなかった。畳む

ワンライ 編集

2021年62件]7ページ目)

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