Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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2021年1月 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

俺の頭の調子はもっとおかしい

#BL小説

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ちょっと二次創作みたいなノリになってしまいましたw

風邪を引いた主人公のもとに見舞いにやってきた親友は、どこか色っぽいと感じてしまう雰囲気を普段から持っていた。
それは彼を好きと思っているから? いや、そんなはずはない。友達としてしか見ていないはずなんだ。

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 久しぶりに風邪を引いた。
 前日は中学生以来の三十八度まで熱があがってしまったが、なんとか微熱より強い程度まで下がってくれた。うまくいけば明日には復活できるかもしれない。
 一人きりは寂しくて嫌いというタイプではないのに、風邪特有のマジックか心細さを感じてしまう。本当に若干だが。

『ちゃんとおとなしく寝てろよ? お前、ただでさえ落ち着いてらんないタイプなんだから』

 休みのメッセージを送った友人からの返信を思い出す。
 大学の入学式で出会ってから一番仲がよくて気の合う、いわゆる「親友」という間柄だ。
 昨日は見舞いの打診をされたが、風邪がうつると大変だからとお断りのメッセージを送っていた。それでも彼のことだから、抜き打ちでやってくる可能性が高い。
 意外と面倒見のいいやつだから、黙って見過ごせないとかそういうことなのだろう。だとしても彼女じゃあるまいに、放っておいても問題ないのに。
「彼女がいたらお願いしちゃうかもだけどな〜」
 看護婦のようにやわらかな笑顔を向けられながら、甲斐甲斐しく世話をしてもらいたい。

『どうだ? 身体、少しはさっぱりしたか?』
『ああ。拭いてもらっちゃってほんと悪い。めんどくさかったろ?』
『なに言ってんだよ。付き合ってるんだからこれくらい当たり前だって』
『そ、そっか。そう、だよな』
『全く、そんな風に照れられたら困るだろ……手、出せないのに』

「ってなんでアイツ思い浮かべてんだ俺はよー!」
 かすれてパワーのない叫びでもせざるを得なかった。照れた親友の顔を思い出してひいい、と情けない悲鳴ももれる。
 ダメだ、予想以上に頭をやられている。彼「女」がいいのにどうして彼「氏」なんだそこで!
 ……確かに、あの親友は同性の目から見ても変に色っぽい雰囲気を醸し出すことがあるが、全くもって関係ない。関係ないはずなんだ。

「……んあ? インターホン?」
 もう一度寝直すしかないと布団をかぶって、意識が半分落ちかかったときだった。
 仕方ない。重い身体を起こしてゆるゆると玄関に向かう。

「よ、今日こそ見舞いに来てやったぞー」
 ついさっき妄想していたことを思い出して、固まってしまう。
 なぜか、見慣れたはずの整った顔が妙にきらきらしている。今まで一度もそんな現象にあったことはない。まさか妄想のせい?

「おい、どうした? あ、まだ熱高いか……それなら悪い」
「あ、い、いや。今はそこまで高くないよ。大丈夫」
 彼はほっとしたように笑う。……やっぱり、色っぽい。いや、むしろ可愛い?

「あ、上がってくか? お前がいいならかまわねーよ」
 慌てた拍子に、遊びに来たときのようなノリで口走ってしまう。自ら追い込むような真似をしてどうするんだ!
「おー、もともとそのつもりだったし。んじゃ、ちょっと上がらせてもらうわ」
 内心混乱する自分をよそに、彼はリビングにずんずんと進んでいく。後を追うと、手にぶら下げていた大きめのビニール袋からヨーグルトやゼリー、ペットボトルを取り出して冷蔵庫に入れてくれていた。

「ほら、おとなしく寝てろって」
 こちらの視線を飲み物が欲しいという訴えと勘違いしたのか、食器棚にあるコップとしまったばかりのペットボトルを両手に、こちらに向かってくる。
 まるでこの家のもうひとりの主であるような、実に無駄のない動きだった。

「他に欲しいものあるか?」
「あ、いや、大丈夫。つか、いろいろ買ってきてもらって悪いな。ありがとう」
「冷蔵庫の中スッカスカでびっくりしたぜ。昨日よく無事だったなお前」
「運よくプリンとかレトルトの粥とかあったから、それ食ったりしてた」
 スポーツドリンクのほんのりとした甘さがありがたい。くだらない妄想事件はともかくとして、風邪の定番ものを差し入れてくれて助かったのは事実だ。

「あ、そこに貼ってるやつもぬるいんじゃねえの? 替えてやるよ」
 実に自然な動作で額のシートを剥がされて、拒否するひまもなかった。
 面倒見のよさが遺憾なく発揮されている。
 ……行き過ぎな気がするのは思い過ごしだろうか。いや、そんな感想自体が危険な気も……。

「そうだ、お前が休んでたぶんの講義のプリント持ってきたぞ。コピー代は差し入れぶんと一緒に、あとできっちり請求するからな~?」
 どこか意地悪い笑みなのに、わずかに心臓が跳ねる。
 あの切れ長の双眸と左にある泣きぼくろが、色気の元凶かもしれない。
 さらに細められた状態で覗き込むように見つめられたら、道を踏み外しそうだ。

「お前さぁ……色気あるって、よく言われねえ?」
 口にしてから、無意味に唇を思いきり真一文字に結ぶ。自分で自分をコントロールできていない。熱の恐ろしさを改めて実感する。
「んー、そうでもないけど? てかいきなりなんだよ」
 自分も突っ込みたい。どう締めればいいのかわからず、とっさに「なんでもない」とありきたりで解決に向かない返しをしてしまう。

「……なるほど。お前、俺のこと色っぽいって思ってたんだ」
 面白い遊びを発見した子供のような表情に、寒気とは違うものが背筋を走る。うまく説明できない。
「そういえば俺が世話してやってたときも嬉しそうだったし、もしかしてそういう意味で好きだったり?」
 後ずさろうとして、背中を壁に預けていたことを思い出した。

「ま、俺としては狙った通りかな」
「……え、それって」
 どういうこと。
 訊き終わる前に、横になるよう促される。自分を映す瞳にますます輝きが灯って、ヘビに睨まれたカエルの気分そのものだった。

「のど、まだ乾いてるだろ?」
 自分が口をつけたカップを自らのほうに持っていき、軽く傾ける。トレーの上に役目を終えたそれが置かれた瞬間、ようやく彼の意図に気づいた。
「ま、待っ……ん!」
 口内に甘く冷たい感触が流れ込んでくる。火照った熱を冷ますように内壁もゆるくなぞられて、抵抗感が湧き上がらないどころか甘んじて受け入れてしまう。
 まさか、夢見ていたシチュエーションがこんなかたちで実現するなんて。

「おいしかっただろ?」
 満足げに微笑み、わざとらしく舌を這わせた親友の唇はつややかな光を放っていて、まるで蜜に誘われた蝶のように視線を奪われてしまう。
「それ、もっと欲しいって言ってんの?」
 再び重ねられたのは、首を上下に振っていたのだろう。
 すべてを飲み込んでもなお、唇は囚われたまま熱をさらに上げていく。不快感どころか、高揚感と気持ちよさを覚えるのは、彼がうまいせいか、風邪のせいか。

「……っあ」
 離れていくのが名残惜しい。心の中の声は、ばっちり相手に伝わっていた。
「お前さ……人のこと煽るの、やめろって。さすがにこれ以上、手出せないし」
「いいよ。別に」
 なんのためらいもなしに、肯定する。
「お前のせいで、下がってた熱がまた上がっちまった。見舞いに来たんなら、ちゃんと責任とれよ」

 わがままなヤツ。
 楽しそうに告げたその言葉が、合図だった。
 身体を覆っていた毛布をまくられる。シャツの裾から滑り込んでくる、少しひんやりとした手のひらはごつごつとした感触をしているのに、甘美な痺れを生み出す。

「あ……っ、ん」
 胸元をかすめた瞬間、思わず口元を塞いでしまった。なんだ、今の鼻にかかったような声は。
「ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ」
 いやだと拒否しても彼はお構いなしに壁を壊して、頭上にまとめられてしまう。

「いいから、おとなしくしてろって……」
 今度は舌でも触れられて、堪えきれずにみっともない喘ぎがこぼれ続ける。
 男でも感じる場所だと知らなかったのは自分だけに違いない。でなければ、ためらいもなく胸に吸いつけるわけがない。

「気持ちいいんだろ? ここ、反応してる」
 服の上からなぞられたら、抵抗する力はもうなかった。
「あ……はっあ、ぁ……、や……!」
 緩急をつけて揉みしだかれ、ゆれる腰と声を止められず、ついには下着ごと下ろされ、直に触れられた――


 目を開けると、見慣れた天井が飛び込んできた。
 ……天井?
 耳の近くで鳴っていると錯覚しそうなほど心臓を脈打たせながら、首を軽く左右にひねる。いたはずの男がいない。というより初めから存在していない雰囲気だ。
「もしかして……」

 夢?
 声も感触もリアルに覚えているのに、まさかの夢オチ?
 茫然自失とは今にふさわしい。ショックも計りしれない。そっと毛布をめくり、身体の中心を確かめてさらに後悔した。
 どこからが夢だった? 変な妄想をしたところまでは覚えている。なら夢だけのせいにできないじゃないか。気の合う親友という認識だったはずなのに、ときどき色っぽく見えるなんて感想を抱いたばっかりに……!

 のろのろと起き上がり、膝を抱える。しばらく穴ぐら生活をしたい気分でいっぱいだった。誰の目も届かない場所で、落ち着いて頭の中を整理するのに最低一ヶ月の時間がほしい。
「とりあえず、俺があいつを好きだってのはない。絶対ないから」
 意味がなくても、言い訳をこぼしたかった。自分が好きなのは女の子、昔も今も女の子と恋仲になりたい。えろいことだってしたい。

『それ、もっと欲しいって言ってんの?』
『ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ』
『気持ちいいんだろ? ここ、反応してる』

 瞬間、部屋を満たした音に、突き上がった衝動がかき消される。
 家と外をつなぐ扉が、とてつもなく恐ろしく見えた。畳む

その他SS 編集

目の前に、夢と妄想

#男女もの

note の企画で書いたものです。

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 わたし、恋をするとこんなにも腑抜けになっちゃうんだ。

 委員会の仕事をようやく片づけてカバンを取りに教室へ戻ると、すっかり人気はなくなっていた。部活のある生徒くらいしか残っていない時間帯だから当たり前だ。
 仕事で溜まった疲れを逃がすように、短くため息をついて窓際の自席に向かう。
(……加賀谷くん)
 想い人の席を通り過ぎた瞬間、思わず足が止まった。

 カリスマ性があり、その気質に負けていない容姿を持つ新島は、このクラスどころか全学年の女子から絶大な人気を誇っている。加賀谷はそんな彼の親友だった。
 傍から見ると、加賀谷は完全に新島の影に隠れていると思われるかもしれない。それだけ新島の存在感が強すぎるのだが、自分は決して劣っているようには見えない。実際、加賀谷に惹かれている女子も少なからず存在している。

「あんなにかっこいいのに、誰に対してもスマートって、ずるいよ」
 誰もいないのをいいことに、思いきって席に座ってしまった。少しでも加賀谷のぬくもりを感じられた……なんて考えてしまう時点で、頭は相当お花畑状態らしい。

 新島は年相応の明るさを持ち、その場をいきなり華やかにしてしまうオーラを持っている。懐も広いから、男女問わず友人も多い。
 対して加賀谷はおとなしめで、親友のフォローをしている姿が目立つ。そのせいか誰に対しても物腰が柔らかく、周りをよく見ていて、彼がいるだけでぐっと安心感が高まる。
 実に勝手な持論だが、「イケメンは性格が悪い」を見事に覆してくれた二人だった。
 それでも加賀谷に惚れたのは……委員会の仕事で手いっぱいになっていたとき、メンバーでないのにたくさん助けてもらったから。

『困ったときはお互いさまだから気にしないで。深見はしっかりしてるから、仕事いっぱい任せられてるんだよな』
『そ、そんなことないよ……昔から要領悪くて、こうやってすぐいっぱいいっぱいになっちゃうんだよ』
『そうだとしても、おれがもし頼む側の立場だったら深見に頼みたくなるよ?』

「すっごい殺し文句……だよね」
 しかも爽やかな笑顔つき。一体どれだけの女子が、毒気を抜かれて虜になってしまっただろうか。
「しかもちょいちょい手伝ってくれてるし」
 メンバーじゃないのだからと断ってもうまくかわされてしまうし、まるで新しく委員会に加わったんじゃないかと錯覚してしまいそうにもなるのだ。
 嬉しくないわけはない。一緒にいられる時間が単純に増えるし、彼との会話も楽しい。
 この間は、昔から大好きだった本が同じという事実も判明した。長いシリーズもので、ドラマ化するかもしれないという噂も立っている。それについて否定的だという意見も一致した。
 そう、気が合うのだ。

「こんな人、絶対他にいないって……」
 机に額を押しつけて深く息を吐く。
 最近の頭の中は、加賀谷に告白されるシーンと、もし付き合えたらという楽しい妄想で埋まっている。
 デートはカフェでまったり過ごすのもいいし、彼がおすすめだという映画を楽しむのもいい。二人だからこそ楽しめる場所を開拓していくのも新鮮でおもしろいかもしれない。
 恋をするのは初めてだった。初めてだからこそ、こんなにも恋に夢中になってしまうとは思いもしなかった。
 怖い。それ以上に、彼と恋人同士になりたくて仕方ない。

「あれ、深見?」
 幻聴かと思った。けれどおそるおそる出入り口を見やって、頭が真っ白になってしまう。
「びっくりしたー。おれの席に誰か寝てるって思ったら、深見なんだもの」
 全身が一気に熱くなる。反対に内心は氷のように冷たい。
 気持ち悪いと思われても仕方ない。自分なら、よほど深い仲でない人が自席に座っていたらちょっと引く。さすがの加賀谷もマイナスな感情を向けるに違いない。

「ご、ごめんなさい! えっと、その、特に悪気はなかったっていうか……!」
 近づいてくる彼に全力で頭を下げる。言い訳もなにも浮かばなかった。謝るしかできそうになかった。
「そんな、別に怒ったりしてないって。顔あげてよ」
 おそるおそる言われた通りにすると、いつもの微笑みがこちらを見下ろしていた。ほっとしたと同時、特別なんとも思われてないのだと知って、がっかりもしてしまう。
 ――なんてわがままな感情だろう。

「でも、理由は知りたいかな」
 微笑みを少しだけ潜ませて――真顔に近いといえばいいのだろうか――、静かに彼は告げてくる。
「きみが意味もなく、こんなことする人じゃないって知ってるから。おれに対して、なにか思ってることがあるんだろ?」

 ばくばくと心臓を脈打たせながら、懸命に投げかけられた言葉の意味を考える。
 柔らかく、問いかける口調なのに、どこか断言しているように聞こえるのはなぜ?
 なにかしらの確信をもって、問いかけているという、こと?

「っだから……特に、理由はない、って」
 言えるわけない。自ら傷を負いにいく真似なんてできるわけない。
 もっと彼の気持ちが見えたとき、あるいは気持ちが暴走してどうしようもないときでないと、口にはできない。

「おれも君と同じ気持ちかもって言ったら、どうする?」

 一歩距離を詰めた加賀谷は、頬に触れながらそう告げた。
 夢の中でしかなかった距離に、加賀谷の顔がある。ぬくもりが、これは現実だと訴え続けている。
「かがや、くん……」

「いつも見てたんだよ。君のこと」

 ぬくもりが、今度は唇に降りてくる。
 夢だけでなく妄想さえも現実になるなど、さすがに予測はできなかった。畳む

お題SS 編集

どうしようもない馬鹿のスイッチを押すとどうなるか

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『偶然か必然か』『大好物』です。
大学生もの。攻めが頑張って口説き落とそうとしてくるのを、いつも通りかわしたはずだった。

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「ねえ、僕が君の好物を当てられたのってすごくない? 本当に偶然なんだよ。これってもう愛の力っていうか、惹かれ合うものがあるっていう証じゃない?」
「はいはいそうですね」
「なんで投げやりなんだよ! あ、そうか。自分が負けたって認めたくないってことか! うんうん、君はプライド高いもんね。そんなところも僕は大好きだけど」

 どうも盛大に勘違いをしているようなので、小説に落としていた視線を、ようやく目の前でぎゃんぎゃんとうるさい男に向けてやる。これから残念な種明かしをされるとも知らず、この男は俺が反応を示したことに素直な喜びを向けている。
「残念だけど、お前がこの小説を買ってきたことで証明されたのは、俺ではなくお前の敗北だ」
 日本語が理解できない。そんな表情を返してきたので栞をはさんで小説を閉じた。やはりきちんと説明する必要があるらしい。
「俺は、この小説が好きだということをあるひとりの友人に『だけ』話した」
 まだ彼は呆然としている。頭の中で己が取った行動を反芻していると言ったほうが正しいかもしれない。
「俺が、周りをちょろちょろしているお前に備えて、自分の情報を一切他に漏らしていないのは知っているな? だから『最初で最後のお願い』と、勝負を持ちかけられたときに思いついたのがこの方法だったのさ」

 二週間の間に、今現在の俺の大好物を当てる。それを「己の力だけで」解き明かせたら、「付き合いたい」という彼の願いを叶えてやる。
 相手にとってはただ分が悪いだけの条件をつけても承諾したのは、まぎれもないこの男だった。
 彼がどれだけの頭脳を持ち合わせているか、高校二年の頃に知り合ってから大学生となった現在まで付きまとわれている以上、いやでも把握している。自力で割り出せるはずがないとはじめからわかっていた。
 全くの予定通りすぎて、浮かんだのは喜びより呆れだった。

「自ら負け戦をするとは、お前も相当のバカだな」
 ため息をついて、再び小説に視線を落とす。こちらとしては、タダでこの本を手に入れられて棚からぼたもち状態と同等だった。ハードカバーだから、学生の身には懐が少々痛む金額なのだ。
 すっかりおとなしくなった男に小さく名前を呼ばれるが、生返事だけを返す。早く物語の世界に浸りたい。
 瞬間、頭が持ち上がるような、不思議な浮遊感が走った。

「っお、ま……っ、ん!」
 唇を塞ぐ感触を必死に引き剥がそうと、両腕にありったけの力を込めるがびくともしない。そういえば彼は、高校時代も今も運動部に所属している。体育ぐらいでしか運動していない俺との筋力の差は、認めたくないが歴然だった。
 口内でうごめくこれは、舌だ。恋人になることすら許していないのにこんなキスをあっさり許してしまうなんて、失態以外のなにものでもない。
 ――告白だけは掃いて捨てるほどしてきても、強引な手段に出ることは一度たりとて、なかったのに。
「ふ、ぁ……は……」
 耳を塞ぎたくなるような声だけが漏れてしまう。心なしか、背中にぞわりとした感覚も生まれている気がする。
 それでも、角度を変えながら欲望をぶつけるようなキスを、何度も彼は続けた。

「……僕、諦めないから」
 ようやく唇を解放するなり、彼は囁くように告げた。同時に切れた細い糸に、熱が顔に収束するのを感じる。
 身体が動かない。すべて生気を吸い取られてしまったように、情けなく真顔の彼を見つめるしかできない。
「絶対、君を手に入れてみせる。最初で最後のお願いは、撤回する」
 瞳の奥に、赤い炎が見えた気がした。こんな気迫も、今まで一度も見たことがない。
 頬をひと撫でしてから、彼は静かに立ち去った。もともと人気がほとんどない大学校舎の奥にあるベンチに、本当の静寂が訪れる。

「……ありえない、こんなの」
 はじめてあの男にペースを乱され、心臓が無駄に早鐘を、打っているなんて。
 胸の上の服を、力任せに掴むしかできなかった。畳む

ワンライ 編集

夢と誰か言ってくれ

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『音』『真紅』です。
主人公の独白メイン。暗いです。

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 目の前が赤く染まる。呆然と、その赤を瞳に映していた。
 生と死の狭間へと誘う音がだんだんと近づき、目の前で急停止する。

 大丈夫ですか! 意識はありますか!
 持ち上げるぞ!

 まるで、自分の身体がこの場に存在していないかのようだった。
 もしかすると夢かもしれない。だからこんなに現実感がないんだ。そうに違いない。

「すみません、お知り合いの方ですか?」
 目の前ではっきりと声をかけられ、薄れていた意識が無理やり戻る。頷いた、というよりも項垂れた。間違いなく現実だと、宣告されたようなものだから。

「お前に、俺のなにがわかるってんだよ……!」
 些細なきっかけで始まった喧嘩だった。このところ残業続きで疲れがたまっていて、それでも彼とのデートは数日前から楽しみにしていた。
 行きつけのバーでの出会いがきっかけで付き合うようになった二歳年下の彼は、年下とは思えないほどしっかりしていて、自分をよく見てくれている、ただの恋人では括れない大事なひとだった。
 その日のデートは彼からの提案だった。自分のためと確信できるのは、行く場所が好きなところだったからだ。
 心から楽しんでいた。恋人の絶えない笑顔も胸に染み渡る思いだった。
 それを、夕飯のときに入れたアルコールのせいで余計な口を滑らせ、口論したまま帰り道を進むはめになってしまった。
 一言謝れば済む話だ――そう頭のどこかではわかっていたのに、意地が先行して過剰な内容ばかりが飛び出す。
「いいからもうほっといてくれ! お前も俺に付き合うのはうんざりだろ!?」
「っお前は! そういうところが無駄に頑固だからいらつくんだよ!」
 優しい彼もいい加減我慢の限界に来たのか、背後から荒げた声をぶつけてきた。

 ハンドルを切り損ねたのか、先頭にいたからよくはわからない。
 空気を切り裂くような音が聞こえて、振り返ると白線を乗り越えた車のそばに、恋人が倒れていた。

 自分の周りだけが照らされた待合スペースで、光と闇が入り混じった床をただ見つめる。
 酒を飲まなければ。夕方で解散していれば。そもそも出かけなければ。
 後悔ばかりが今さら浮かんで、胸を、頭を圧迫しにかかる。もうひとりの自分が激しく責め立てている。
 喧嘩なんて、今までも何度かあった。そのたびにどちらかが折れて、元通りのふたりになっていた。
 それなのに今はどうして、ここに謝りたい相手がいない? どうして、生死をさまよい、祈る事態までいってしまった?

 失う未来なんて考えられない。たとえ喧嘩しても、誰よりも彼が大事なんだ。彼のいない日々に耐えられる自信なんてこれっぽっちもないんだ。
 組んだ手のひら同士を固く、痛みを感じても握りしめる。この強さは、彼への祈りの強さ。
 目を閉じればいろんな表情の彼が目の前に現れては消える。男にしては大きめの瞳で、まっすぐこちらを見つめ返してくれる視線の強さが好きだ。
 言葉にせずとも伝わってくる想いに、込められる想いをすべて返せば、何よりも幸せそうな表情を浮かべる瞬間が好きだ。

 どうか、その時間を再び味わわせてくれ。畳む

ワンライ 編集

あなたの手のひらが合図

#男女もの

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「体調不良版ワンドロ/ワンライ」 さんのお題に挑戦しました。
お題は『息抜き』です。
ある夫婦の日常の一コマ。ほのラブです。

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 息抜きするのが下手だね、とよく言われてきた。
 実際その通りだと自覚はしている。キリのいいところまで作業したいと気持ちが先走って、気づけば三、四時間経っていた、なんてこともザラだ。
 そしてひどく疲労してしまう。反省するのはこの瞬間で、なのに馬鹿の一つ覚えのように同じ行動を繰り返してきた。

 急に目の前が闇に包まれて、文字と図で埋まったモニタが消える。
「そろそろ休憩しないと、また体調崩すよ」
 視界を覆っていた彼の手を取ると、柔らかな笑顔が次に待っていた。
 モニタの右下に目を移して短く息を呑む。昼過ぎだったはずが、もう夕方に差し掛かっている。
「またやっちゃった……いつもごめんなさい。わたしのこと気にさせちゃって」
「気にするなよ。店の売上管理とか広告作りとか、頼りにしっぱなしだし」
 表に出るのは彼の役目、裏方は自分の役目。だから気にする必要はないと首を振るのだが、彼としては心苦しいらしい。
「もう少し勉強したら手伝えると思うから! 待っててくれる?」
「ふふ。わかった」
 彼に立ち上がるよう促され、そのまま寝室へと手を引かれる。これも日常茶飯事のようなものだった。
「別に寝なくても大丈夫だと思うんだけどな……それに夕飯どうするの?」
「少しくらい遅くなっても大丈夫だって。前に頑張りすぎてめまい起こしたこと、もう忘れたの?」
 あのときは寝不足もあったから、と説明しても、彼にとっては忘れがたい事件だったらしい。大事にしてくれるのは本当に嬉しいけれど、少し過剰すぎな気もする。
 それでも強く言えないのは――向けられる愛情が心地よくて、幸せだから。
 隣で肘をついて、横向きになりながら彼は頭を優しく撫でてくる。
 何年経っても変わらない。言葉にせずとも伝わってくる心からの労り。手のひらから癒やしの力が出ているかのように、全身へと染み渡っていく。
 ――ああ、やっぱりわたし、疲れていたのね。
 いつも自己管理の甘い自分を助けてくれてありがとう。
 頭を撫でる手を唇まで持っていき、軽く押し当てる。うろたえる彼を可愛く思いながらゆっくりと目蓋を下ろした。畳む

ワンライ 編集

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