🗐 ショートショートまとめ |星空と虹の橋

ワンドロやお題などで書いたSSまとめです

2021年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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わがまま猫な彼と僕

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創作BLワンライ・ワンドロ ! のお題に挑戦しました。
お題は「花より団子」です。タイトルは適当だし、花より団子……? な出来です←

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 二年前だったと思う。SNSでもかなり話題になったドラマだった。
 僕はもちろん、バイト先の先輩後輩も友達も大体見ていたし、感想や考察を話し合うのが当たり前になっていた。
 だが、今隣にいる僕の恋人は当時全く興味を示さなかった。
 と思ったら、今さら「気になるから今度一緒に観たい。レンタルしてきて」とおねだりまでしてきた。本当に読めないヤツだと思う。
 なのに……この状況はなんだ?

「あのさ……観てる? ドラマ」
 第五話まで来たところで、僕はたまらず声をかけた。これからどんどん面白くなるというのに、この男の行動が信じられない。
「んー? 観てるよ、もちろん」
「って言いながら画面見てないじゃん!」
「へー、わかるの?」
「さっきからちょっかいかけられてるからね」
 僕は、テレビは床に座って好きな体勢で観る派だ。彼はソファ派だから何となく縦に連なるような形になったのだけれど、そのせいで頭を撫でられたり耳たぶを触られたりと地味なスキンシップを受け続けている。
 彼がイタズラ好きというのは今に始まったことではないけど、言い出しっぺがこの態度だとさすがに文句も言いたくなる。
「そっちが観たい観たいってダダこねるから借りてきたんだよ? なのになんなの?」
「なんなのって、そりゃ決まってるだろ? お前が可愛すぎるから」
 思わず背後を振り向いた拍子に唇をさっと盗まれる。まるで手練れの怪盗だ。
 でも正直、ときめきじみたものは全然ない。
「誤魔化しのつもり? 普段そんなこと言わないくせに」
「心外だな。口に出してないだけでいつもそう思ってるぞ?」
 怪しい……。天の邪鬼と知りすぎてる僕からすればつい裏を読んでしまう。極端な話、スキンシップだけが頼りの綱だ。
 というか早くドラマに戻りたいんだけどな……。展開を知ってても、本当に面白いと関係なく見れてしまうものらしい。
「俺は照れ屋だからそういうのは簡単に口にしないの。だからそう疑うなって」
 隣に移動してきた恋人は頬を人差し指で突いてきた。完全に馬鹿にしている。
「というか、今んとこそんなに刺さってないんだよなードラマ。表情コロコロ変わるお前見てる方がよっぽど楽しいわ」
 何なんだ全く。本当は、ドラマ見終わったらいろんな話だってしたかったのに。楽しみにしていたレンタル中の僕が急激に色褪せてきて、悔しさと苛立ちのあまりリモコンの停止ボタンを押しかけて……止まる。
「……僕、見てたの? ちょっかい出してるだけじゃなくて?」
「あれ、気づかなかった?」
 頭をなでなでしてくるにやにや顔を呆然と見つめる。
「オチまで知ってんのに笑ったり泣きそうになったりしてさぁ。全然飽きないのなんのって。俺的にはそれが収穫だったなー」
 逃げたい。あるいは布団にくるまりたい。無防備な状態を観察されてたなんて恥ずかしい以外ない!
 思わず両手で顔を覆うも、遠慮なしに外された。そのまま押し倒されて、床に固定されてしまう。
「本当に天然だよな、お前」
「天然って、意味わかんない……」
 それ以上の反論は、互いの口の中に消えた。

 ドラマは、いつの間にか第六話に進んでいた。クライマックスに向けてますます盛り上がる大事な回だ。
 けれど、もう頭に入る余裕はなかった。

#[BL小説] 畳む
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どこまでフィクションな恋物語か

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一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
・文化祭
のお題を使用しました。無理やり感ハンパないです💦

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「今日は抱きしめるだけ。次来た時、まだ僕のことが好きだったらキスしてあげる」

 もちろん、好きなままだった。抱きしめられた時のあの高揚感と幸福感は、初めてに等しい強さだった。

「好きでいてくれてありがとう。じゃあ、約束通り……キスしてあげる」

 人生で初めてのキスを、同性から受ける。
 いや、性別は関係なかった。相手がこの人だったから、唇に最初触れられた時も、二度目三度目と繰り返されても、嫌な気持ちにならないどころか、もっと欲しくなった。
 この人への想いは嘘じゃない。本物だとようやく確信できた。

「おれ、あなたのこと本当に好きです。何があっても絶対ぶれません。だからもう、確認はいりません。……付き合ってください」

 自分を気遣って、段階を踏んでくれていたのはわかっていた。
 今こそまっすぐに応えたい。偽りない本心を届けたい。

「……また、会いに来るよ」

 返事はもらえなかった。それどころか、約束もなかった。
 確定された未来が目の前に降りてくるはずだったのに、一瞬で手が届かなくなってしまったようだった。
 嫌な予感がした。「会いに来る」と言われはしたが、それも果たされない気がしてならなかった。
 ——今度は、自分から会いに行かなきゃダメなんだ。怖いけれど、怖じ気づいていたらダメなんだ。

「まさか、君から来てくれるなんて思わなかったな」

 唯一の手がかりだったバイト先に何日も張り込んで、ようやく会えた想い人。本当に来るとは思っていなかったようで、純粋な驚きだけが存在していた。
 その場で言葉を連ねようとした自分の手を取ると、建物の裏に向かう。改めて対峙するも、なかなか彼は目線を合わせてくれない。

「……おれ、本気です。抱きしめてもらった時も、キスしてもらった時も、すごく嬉しかった。気持ち悪いとか全然なかった。……あなたは、違うんですか?」

 最後の問いかけはしたくなかった。その通りだったら立ち直れない。どうして期待させたんだと、恨みさえしてしまいそうだ。

「本当に好きになってくれるなんて、思ってなかったんだ」

 ようやく発された言葉は、意味のわからない内容だった。

「改めて告白された時に、僕も同じくらい好きなのかなって思ってしまったんだ。……僕からあんなことを提案したのに、最低だよね」

 最初に告白した後、段階を踏もうと言ったのは彼からだった。
『僕も好きだけど、本当に同じ気持ちなのかわからないから。確かめる意味でも、少しずつ恋人らしいことをしていこう?』
 結果は確かめるまでもなかった。だからこそ二人のこれからに心躍らせていたのに、現実は非情になりかけている。

「それで、どうなんですか。おれのこと、本当に……好きなんですか? キスとかしたいって思うくらい、好きでいてくれてるんですか?」

 声が震える。そうだと肯定してくれ。お願いだから、おれを否定しないで。
 掴まれたままだった腕をぐいと引っ張られた。否応なしに目の前の胸元に飛び込む形になる。体勢を整える間もなく、頬を包まれた。
 呼吸のまともにできないキスをされている。口内を動き回る柔らかいものは……彼の、舌? それに、たまに聞こえる変な声はもしかして、自分のもの?
 無理やりされているのに、呼吸もまともにできなくて苦しいのに、背筋がぞくぞくしてたまらない。気持ちいい。

「……こういうこと、したくてたまらないって思ってたよ。だから、本当は今日会いに行こうって思ってた」

 こちらを見つめる瞳が熱い。気を抜いたらあっという間に染められてしまいそうなほど、鋭い光で照らしている。

「もう絶対離してあげられないよ。それでもいいの?」

 返事の代わりに、初めて自分からキスをした。


「……っていう台本はどうよ? さすがに文化祭の舞台向きじゃないかなぁ」
「当たり前だろ! しかもこのネタ元ってお前とバイト先の先輩とのやつじゃねえか!」
「もちろんある程度加筆修正してるよ? 例えばべろちゅーなんて実際されてないしね。キスはされたけど」
「……それ以前に平然とネタにできるお前がこええよ……」
「でも恋愛ものとしてはなかなかいいんじゃないかなーと思うんだけどなー。書き直すのも面倒だし、いっそのことおれを女子にしちゃうか!」
「先輩見に来たらどう思うのかね。知らんけど」

#[BL小説] 畳む
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結局は、自分かわいさ

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
②中途半端
③清濁
のお題を使用しました。ちょっとこねくり回しすぎた感があります。。

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「あなたの望みはなんだ?」

 無駄に装飾の凝った木製の椅子に座っていると気づいたのは、急に視界が明るくなったからだった。軽く辺りを見回して、どうやら私にだけスポットライトが当たっているせいらしい。
 それにしてもこの椅子、中世のヨーロッパにでも出てきそうだ。大体ここはどこなのか。

「あなたの望みはなんだ?」

 左右で別々の人に話しかけられているような心地悪い声で同じ問いを繰り返された。同時に、前方にぼんやりと何かが浮かび上がる。

「……そっか、これ、夢か」

 そう確信せざるを得なかった。今まで生きてきて、身体の半分が長い金髪の天使、もう半分がコウモリのような黒い羽根を生やした悪魔、という生き物に出会ったことがない。そもそもいるわけがない。

「望み? 働かなくてすむくらいのお金が欲しいわね」

 中途半端で気持ち悪い生き物に、鉄板の一つに含まれる回答を返す。夢なら敢えて乗ってみるのも悪くない。

「あなたは優しいのですね」

 天使の口端がゆっくり持ち上がった。声も目を閉じたくなるような清らかさだったが、片方からしか聞こえない。

「本音を言わないのは、相手を気遣ってのことでしょう?」

 言葉の意味はわからない。『相手』って、誰のこと?

「しらばっくれるな」

 今度は心臓が震える声だった。もう片方から容赦なく注がれた。

「あの女を憎らしく思っているくせに」

 頭の片隅で、一瞬鋭い光が灯った。見たくないのに主張してくるなんて、やめてほしい。というか、どうしてこの生き物がそんなことを知っているの。

(……だから、これは夢なんだって)

 もはや自身に言い聞かせるしかない。

「違いますよね。例えば今だって、彼女と距離を取っているのは余計な心配をかけさせないためでしょう? 幸せなままでいてほしいんですよね?」
「……やめて」

 なんて夢なんだ。リアリティがありすぎて息が苦しい。己を抱き込んでもさらに症状が重くなるばかり。

「笑わせる。あの女の結婚式に参加した時、素直に祝えないでいたくせに」
「やめて!」

 その日の感情が堰を切ったようにこぼれ出す。ずっと笑えていたかわからなかった私。ちゃんと彼女の顔を、隣の彼を見られなかった私。もらったブーケを帰宅してすぐに捨てた私。
 彼女が悪いわけじゃない。意中の彼とうまくいきたいと相談してはいたけれど、それが誰かを明確に告げていたわけではなかった。
 そもそも、その彼と彼女は知り合いですらなかった。どう運命が転んだのか、偶然二人が出会い、気づけば結ばれていたというだけ。

「そう思い込んでいるだけだろう」

 悪魔は容赦なく傷を抉ってくる。たまらなくなって逃げだそうとしたが、立ち上がれない。椅子に触れている箇所すべてが縫い付けられてしまったかのようだ。

「思い込みだなんて。二人にはこれからも幸せでいてほしいんですよね? だってとっても好きな二人なんですから」

 好きだ。好きなことに変わりはない。

「いいや、思い込みだ。なぜなら、お前にはまだ未練がある」

 ない、と反論できなかった。
 だって、本当に好きだった。誰からも頼りにされてしっかりしているかと思えば、少し抜けたところもある。見た目は落ち着いているのにどこか目を引く雰囲気を持っている。今まで出会ったことのないタイプだった。

 二人きりで飲みに行くまで仲を深めてきた。やっとここまで来たと嬉しくなった矢先に、彼女から彼を紹介された。
 その時の心境など言い表せるわけもない。どんな話をしたかも思い出せないくらいの衝撃だけが胸に残っていた。

「それでも友達に本当のことを言わなかったのは、友達が大切だったからですよね?」

 本音は、違う。
 お似合いすぎて、言えなかった。あるいは「友達の幸せを願ういいおともだち」でいたかった。表面上でも、二人の悪者にはなりたくなかった。
 結局はこのざまだ。正直に行動できなかったことを悔いて、想いをこじらせたままでいる。彼を奪われたわけでもないのに彼女に当たり散らしてしまいたくなっている。

 二人が出会う前に告白だけでもしていれば、こんな現実にならずにすんだかもしれない。
 私と彼が結ばれる可能性だって少しはあったかもしれない。
 押し込めた後悔が怒濤の勢いでやってくる。
 いやだ、こんなの空しくなるだけなのに。どんなに頑張っても時間は戻せないのに。

「そうやって、どっちつかずの態度でいたツケが回ってきたってだけだ。自業自得じゃないか」

 もはや反論する気力もない。

「だから、もう本音をぶちまけちまえよ。その方が楽になるだろ?」

 まさに、悪魔のささやきだ。

「そうですね。優しいあなたが壊れてしまう前に、大本の原因を取り去ってしまいましょう」

 頭が変にふわふわしてきた。ゆっくり顔を持ち上げると、霞のかかった視界にあの生き物が映っている。最初と変わらないはずなのに、どこか違って見える。

「あなたの望みはなんだ?」

 私は。
 その先を告げたつもりが、アラームの音に上乗せされた。
 恐怖と安堵両方に、心臓が押しつぶされそうだった。
 私は、どっちにもなれない。畳む
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きっと死刑宣告

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一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
『やめてって言ったでしょ』『コンプレックス』です。
120分+若干オーバーで完成です。

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 なんだよこれ。どういうことだよ。
 口にしていたつもりが、出なかった。喉から先が詰まって、苦しささえ覚えた。
「どういう、ことなの……?」
 目の前で彼女が青ざめている。その言葉の意味は多分違う。
「あれ、意味わからなかった?」
 彼女も自分も同じ表情をしているはずだ。
 彼だけが、間違い探しのように明朗な笑みを浮かべている。
「君が浮気してるんじゃないかって疑ってる相手は、俺だったってこと」
「っうそ……うそ……! だってあなた、女がいるって……!」
 そう。嘘だ。こいつのことは大学を卒業してからも大切な親友のままだけど、そんな付き合いは一度もしていない。さらに言えば他の女だっていない。ずっと彼女だけを想ってきた。初めてできた恋人だなんだ。
 今夜も、彼女との幸せな時間を過ごせるはずだった。週末の予定をどうするか決めて、気持ちはそこに向かっていたはずだった。
 どうしていきなりこんな展開になった? 高い場所から突き落とされた?
「それが嘘。ついでに君に見せた写真も実は合成なんだよねぇ」
 スマホを取り出した親友は、実に愉快そうだった。真っ赤になる彼女が滑稽に映ってしまうくらいの余裕を見せている。
「……いい加減にしろよ」
 苦しさが、胸元から湧き上がる熱で溶けた。
 反論もろくにできないままでいられない。彼女の誤解を解けるのは自分しかいない。
「さっきからでたらめばっか言うなよ! ふざけんな!」
 胸ぐらを掴み上げても、彼の表情は変わらない。堪えようのない恐怖も生まれて、もはや彼がどんな存在なのかわからない。
「でたらめなんかじゃないよ? 俺は本当におまえを好きだし」
「好きだったらこんな馬鹿げたことしねえだろ!」
 掴み上げたままの拳が細かく震える。今まであんなに仲がよかったのに。誰よりも理解者でいてくれてたのに!
「するに決まってるだろ? 俺とお前は好き合ってるんだから」
「やめろって言ってんだよその嘘を!」
「嘘じゃないって言ってるのになぁ」
 再び、喉の奥が詰まった。唇が塞がれている。いやというほど覚えのある感触だ。それを今、目の前の男から——
 胸ぐらを解放して、思いきり彼を突き飛ばす。認識したくないのに、確かにあった感触が容赦なく現実と突きつけてくる。
 同時に、後ろの方で耳慣れた足音が遠ざかっていくのが聞こえた。慌てて振り返っても、どこかで曲がってしまったのか姿はない。なくなってしまった。
「やっと彼女もわかってくれたみたいだねぇ。いやあ、長かったよ。……本当に」
 身体中に、雑多に物を詰め込まれたようだった。吐き出す手段も、浮かばない。
 視界が歪む。堪えたいのに地面さえも映らなくなって、頬を、口元を押さえる指を、涙が何度もなぞっていく。本当にこれは現実なのか?
 顎をすくい上げられた。ある程度戻ってきた視界のすぐ先で、親友のはずの男がぞっとするほど綺麗に笑っていた。
「大学卒業したらこれだから、本当にまいったよ。やっぱり近くで見張ってないと駄目だね。お前はとっても人気者だから」
 自分の知らないところで、そもそも問題のわからない答え合わせをされている気分だった。考えないといけないのに、できない。
「あんな女、お前にふさわしいわけないだろ? 一番は俺。お前のこと絶対幸せにしてやれるって、あんなに一緒にいたのにわからなかった?」
 宝物に触れるように、両方の頬を撫でられる。感情が流れ込んでくることを防げない。
「俺はお前の全部が好きだよ。誰にでも分け隔てなく優しいところも、相手をつい優先させちゃうところも、でもいざという時は前に出て守ってくれるところも、もちろん身体も全部……好き」
 親指で、唇の表面をするりと撫ぜると、男の口元がさらに緩んだ。
「そういえばこのぷっくり気味の唇がコンプレックスだって言ってたっけ。俺からしたら全然そんなことないっていうか……いつも貪りたくてたまらなかったんだよ?」
 そのまま迫ってくる瞳を、そのまま受け止めてしまった。ゆるく食まれて、舌であますところなく撫でられて、ついには口内に侵入されても、抵抗できなかった。
 気力が、奪われていた。

「これで、お前はもう俺のものだね」

 彼は、今まで見た中で最高にまぶしい笑顔を顔面に飾っていた。
 死ぬまで、脳裏にこびりついて離れないような、笑顔だった。

#[BL小説] 畳む
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感情の共有

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 まだ離れたくないな、と思ってしまった。
 相手からすればただのわがままだ。しかも二人きりで出掛けたのはこれが初めて。それなのに求めすぎじゃないだろうか。

「どうかしたの?」

 口数が減っていたらしい。慌てて作り笑いを返して、本当に今日は楽しかったと改めて感想を伝えた。
 お世辞抜きに、ただ楽しかった。この人と一緒にいるととても心地いいし、多分「ピースがかちっと嵌まる」感覚はこのことを言うんだろうとさえ思えたくらいだ。
 視界の先に、駅の出入口が見えてきた。あそこに辿り着いたら今日は解散しなくてはならない。

 ――果たして、この人も同じ想いでいてくれているんだろうか?

 そうだ、今日があまりにも楽しすぎてその可能性を忘れていた。下半身から力が抜けていくような感覚に襲われて、一気に未来が怖くなった。
 足を止めてしまった自分を、想い人は怪訝そうに振り返った。
 絶対に、この出会いを無に帰したくなかった。この人とこの先も付き合っていきたい。

「……っあ、の」

 声は驚くほどに震えていた。目の前の表情が明らかな心配顔に変わる。違う、具合が悪いんじゃない。反射的に首を振ってから、勇気を出して左腕の裾を掴んだ。

「もう少しだけ、付き合ってくれませんか」

 わずかに開かれた目を必死に見つめ続ける。拒否されたら、という恐怖で押しつぶされそうな心を意地で食い止める。たとえどんな結果でも、この選択をしなかった後悔だけはしたくなかった。
 自分にとっては五分くらい経ったような感覚が身体を走った時、右手に少し湿ったようなぬくもりが触れた。

「ありがとう。……実は俺も、同じことを考えていたんです」

 ——ああ。少なくとも今は、同じ気持ちを共有しているんだ。

 望む未来への足がかりになれた。それだけで今はたまらなく幸せだ。
 触れたままの手に相手の指が絡まる。優しく込められた力に引かれるかたちで、解散予定だった場所とは反対の方向へと歩き始めた。畳む
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螺旋を描く悩み

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 一息つくために淹れた紅茶のカップを片手に、仕事場兼自室へと戻る。先ほど電話越しに頼まれた作業はもう終えたから、再び待機の状態だ。

 数年前からこうして、家族の自営業を手伝っている。一応正社員という扱いだが、感覚はアルバイトに近い。外勤が主なこの仕事の内勤は、待機が基本なのだ。
 やることがないわけではない。仕事に必要な荷物を受け取ったり、ほぼ毎日届くFAXやメールをチェックしたりと、一日のうちに不定期に発生する作業はある。
 ただ、待機が長いだけ。

 こう長いと、どうしてもいろいろ考えてしまう。
 例えば売り上げが落ちて食い扶持がなくなったら、他の仕事を探さないといけない。そうなったら正社員はまず無理だろうから、派遣社員かアルバイトになる。それで自分一人でも食べていけるのだろうか。

 今のうちに副業でも始めておくのが一番実行しやすい対処だと思う。副業といえば自分の好きなことや特技を活かすイメージが強い。
 なら、自分の強みは何だろう?

 メモ用紙とシャープペンをとりあえず置くも、ついため息がこぼれた。
 大学生の時にもやった「自己分析」。これが本当に苦手だった。自分を客観的に見るのは難しいし、両親に「私の強みってなんだろう?」と問いかけても明確な答えは返ってこなかった。つまり、そういうことだ。

 苦手なまま突き進んできたツケがこうして回ってきたのだと、無地な紙が叱咤する。半ば意地になって、とりあえず好きなことを抜き出してみた。
 写真を撮る。漫画を読む。旅行。カラオケ。スマホゲーム。料理……は料理教室まで通ってみたけど一向に楽しいと思えなかったから違う。

 ……これぐらいしかない。しかも、どうしようもないものばかり。
 写真はインスタに載せていたらバズった、なんてシナリオはありそうだが夢物語過ぎる。大体人目を引くような写真は撮れたためしがない。
 他にいけそうなのは旅行だが、例えば道中のレポをブログなどにまとめられるだけの文才はない。日記も三日坊主で終わることがほとんどだった。

 シャープペンを置いて椅子にもたれる。気持ちだけが焦るばかりで、全く行動が伴わない。伴えるだけの力がない。
 今から文章の勉強でもするべきか? それよりも「インスタ映え」しそうな写真を学ぶべきか? あるいはその両方か?

 頭を乱暴に掻いたその時、目の前のパソコンから通知音が鳴った。身体を起こして確認すると、取引先から添付ファイル付きのメールが来ている。圧縮されたファイルを開いて、中にある十枚以上の写真と共に、メール達を印刷した。

 世の中の事務仕事もこれくらい緩かったら、すぐ就職できそうなのにな。

Photo by Florian Pircher(Pixabay畳む
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ここから紡がれる

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一次創作お題ったー のお題に挑戦しました。『スタートライン』です。120分で完成。
前作に続いてのリハビリ仕様です。

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 付き合ってから初めてのケンカをしてしまった。
 内容は、今考えると本当にくだらない。例えるなら犬の方が可愛い、いいや猫の方がいいと決着のつきそうにない言い合いをしていたようなものだ。
 スマホを手にしてから体感で五分ぐらい経っているのに。指は全く動きそうにない。代わりに思考回路が無駄な足掻きを続けている。
 原因は間違いなく自分側にあるとわかっている。彼もさぞ驚いたことだろう。普段おとなしく言うことを聞くような人間が感情をただぶつけてきたら当たり前だ。
 無意識に我慢していたのだと、今さら気づく。初めてできた恋人だし、本当に好きだから絶対に嫌われたくなかった。不満があっても飲み込んできた。きっと「いい子」を演じすぎていたのだ。
『もうちょっとわがまま言ってもいいんだぞー? 俺はもう少し言われたいなぁ』
 以前そう言われたことを思い出す。冗談だと流してしまったけれど、本音だった?
 両手でスマホを握りしめ、深く息を吐き出す。
 悲観的になる必要なんてない。ケンカしただけで「別れよう」と切り出すような人でないのはわかっている。原因は自分にあると自覚しているのだから、早く謝るべきなんだ。
「……よし」
 無駄に力の入った指で、通話ボタンを押す。コール音の無機質さがどこか怖い。いきなり空中に放り出されたようで気持ち悪い。
『もしもし』
 意外に普通の声で驚いた。不機嫌さを隠しているだけとも取れる。
「……あ、あの。良くん。あの、さ」
 反応はない。顔が見えないだけでこんなにも不安を煽られる。
「今日のことなんだけど。……本当に、ごめんなさい」
 言いたい言葉をどうにか吐き出せた。
『うん』
 そっけない返答だった。想像以上に傷つけてしまっていたとしか思えず、全身が震えそうになる。
「つい、カッとしちゃって。おれ、すごく楽しみにしてたのに行けなくなって、ついわがまま言っちゃった」
『うん』
「り、良くんの都合も考えないでごめん。仕事なら仕方ないのに、今までだってそういうことあったのに、おかしいよね」
『我慢してたからでしょ?』
 恋人の声に咎めるような音はなかった。それでも深く、胸に突き刺さった。とっくに見抜かれていたと知ってしまった。
『新太(あらた)は言いたいことあっても言わないで、俺に合わせてくれてたから』
 いつもの自分ならとっさに反論していた。良くんに合わせてるとかそんなんじゃない。おれの意思だ。本当にそう思っているんだよ。――それが今は、出ない。
「ご、めんなさい、ごめんなさい……おれ、ほんとに、良くんが好き、で」
 涙が浮かぶなんて卑怯以外の何物でもない。目元や口元に一生懸命力を込めるが、嗚咽が強くなるばかりで無意味だった。恋人ができてから、元々弱い涙腺に拍車がかかってしまった。
『俺だって新太が好きだよ。本当に好きだ』
 声が少し柔らかくなったように聞こえたのは自分の願望のせいだろうか。
『正直さ、嬉しかった。やっと新太がわがまま言ってくれたって』
 ――幻聴かと疑ってしまった。ケンカの原因を作った相手にかける言葉じゃない。
『何て言うんだろ……信用されてないのかな、って。俺の気持ち。俺にいつも従順なのは本心なのかなって』
 電話越しに、必死に首を振る。嫌われたくない一心が、彼を傷つけていた。疑心を向けさせてしまった。
『だからほっとした。……変かもしれないけど、やっと恋人同士になれたなって思ったんだ』
 想いを伝え合ってから二ヶ月は過ぎた。その間に改めて彼の人となりを知って、やっぱり好きになってよかったと思えて、けれどその嬉しさをうまく伝えられていなかった。
「……おれ、ほんとバカだ」
『な、なんだよ急に?』
「自分に置き換えて考えればよかった。良くんにわがまま言われたくらいで、嫌いになるわけないのに」
 小さく吹き出したような音が聞こえた。
『そうだよ。ていうか、今までわがまま聞いててくれたろ?』
「そんなの、わがままに入らないよ」
『へえ。じゃあ、例えばどういうの?』
 改めて問われると難しい。たっぷり唸り声をこぼしていると、「長すぎ」と突っ込まれてしまった。
『わがまま言い慣れてないなぁ』
「し、しょうがないでしょ。元々苦手なんだから」
『じゃあ、ひとつ例を出してやるか』
 そして告げられた「わがまま」に、すぐ電話を切って身支度を整え、家を飛び出す。
 たった電車二駅ぶんの距離が、倍以上に長くてもどかしかった。

#[BL小説]畳む
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現実につながる夢

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一次創作お題ったー のお題に挑戦しました。『こんな夢を見た。』です。120分+若干オーバーで完成。
久しぶりのお題SSです。思いっきりリハビリ仕様です。。

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 普段から交流のある人が夢に出てきて、しかも内容を大体覚えていると何だか気になってしまう。それから好意に変わる。改めて容姿やら性格やらを観察するようになって、意外な面を発見したりこういう仕草がツボだと知るからだろう。
 多分珍しいことではないと思う。……相手が異性だったら。

(多様性がどうの、っていう時代なのはわかってるよ?)
 心の中で自身に向かって言い訳をするのも今日だけで二桁はいっている。ちゃんと数えていないけれど体感的にはそれくらいいっている。
 目の前にある唐揚げをひとかじりしながら視線の端で捕らえようとしているのに気づいて、無理やりテーブルの上の小皿に戻す。これも何度繰り返しただろう。
 大学のサークルつながりで仲良くなった同年代たちと笑い合っている声が右耳をがんがんに打ってくる。近所迷惑になりそうな声量ではないし距離だって四人分くらい離れているのにそう聞こえるのは、己の精神状態のせいか。
 ふと視線を感じた気がしたが、反応はできなかった。もしあいつだったらどうすればいいのかわからない。すでに二回ぶつかっているから余計に混乱する。
 ああ、酒が飲めれば逃げられそうなのに。あと一年がもどかしい。
「どうしたの大ちゃん、元気ないじゃん?」
 賑やかし担当が多いメンツの中でも比較的おとなしい女子――安田が気遣うように話しかけてきた。そういえば「大ちゃん」という愛称もあいつ発祥ですっかり定着してしまった。
「そうかなー?」
 そんなに顔に出ていただろうか。まあ、わかりやすいねと言われるのが多いのは認める。
「だって、いつもなら章くんとバカやって楽しんでるじゃない。今日はなんか違うなーって」
 さすがに露骨だったらしい。
 こっちだって夢のことがなければとっくにそうしている。それとなく二人きりを避けたり遊びを泣く泣く断ったりもしない。今日は人数が多いからそれほど気にしなくていいと思ったから参加したのに、このざまだ。
 すべては約一ヶ月前に見た夢のせいなんだ。忘れたいのに忘れられないせいなんだ。
「んー、具合悪いのかもしんないわ。俺、先に帰ろうかな」
 待ちに待った夏休みが始まってから最初の集まりだったのに、本当に残念でもったいない。けれど、粘ってもこれ以上気分は変わってくれない。店に入ってからずっとこの調子だから断言できる。
「……本当に具合悪いだけ?」
 急に声をひそめてきた彼女を怪訝そうに見返すと、なぜか隣に移動してきた。嫌な予感がするのはなぜなのか。
「な、なんだよ。口説くつもりか?」
「違うから。……本当は章ちゃんとケンカでもしたんじゃないの?」
 どうしてそんな質問をされないといけない? 戸惑っているとさらに言葉を重ねられる。
「どうしたんだろうって言ってる人もいるんだよ」
「な、なんでそんなこと」
「当たり前でしょ。あんなに仲いいのに急によそよそしくなったら怪しむって」
 予想以上に筒抜け状態だった。このぶんだと彼も同様に感じているかもしれない。もしかしてさっきの視線もそういうことなのでは……。
「き、気にしすぎだって。ほんと何でもないんだから。ケンカってガキじゃあるまいし」
「年齢関係ないから。それより、ケンカじゃないって言葉信じてもいいんだね?」
「だから違うって。つか、やたらつっかかってくんじゃん」
 誰かの差し金かと疑いたくなるしつこさだった。だが安田からは返答をもらえないどころかそそくさと立ち去っていってしまった。残されたのはどうしようもないモヤモヤとした気持ち悪さだけ。
(本当に具合悪くなってきた……)
 あいつも安田同様に怪しんでいると想像したら逃げたくなった。仮に問い詰められたら言い逃れできる自信がない。というか言いたくない。
「悪い、先に帰るわ」
 空気を敢えて無視して金をテーブルに置き、足早にその場を後にする。途中退場を咎めるような連中ではないが戸惑うような声はちらほらと聞こえた。
 夜風の生ぬるさに顔をしかめる。こんな時はいっそ凍えそうな温度でお願いしたい。
 どうしたら忘れられる? というより、どうしてここまで気にしないといけない? あの夢は一ヶ月も前の、幻みたいなものなのに。
 大学で初めて見つけた、気の合う友人だった。最初は素直で単純なだけかと思っていたが、実は真面目な部分も持ち合わせていたり、実は尻込みするところのある自分を引っ張ってくれる力強さもあったり、中学生かと突っ込みたくなるような無邪気な笑顔がどこか可愛いと思ったり……。
(だからどうして可愛いとか考えてんだ俺は!)
 水風呂にでも飛び込みたい。喝を入れてもらいたい。
「大ちゃん」
 いつの間にか止まっていた足を動かそうとした時だった。
 一番聞きたくない声が、背後から響いた。
 振り向きたくない。露骨でも、違和感だらけと思われても、どんな顔をすればいいのかわからない。
「大ちゃん。オレも一緒に帰るよ」
 許可を求めてこなかった。つまり、逃がさないという意思表示。
 反射的に駆け出していた。電車になんて乗れるわけがない。でも行き先はわからない。
「まて、ってば!」
 逃走は予想通り失敗に終わった。無我夢中だったからいつの間にか住宅地に迷い込んでいたらしく、目印は木製のベンチが二つ並べられた、屋根付きの休憩スペースぐらいしかなかった。
「……花岡。もう、逃げないから。だから腕、離してくれ」
 花岡はそろりと掴んでいた手の力を抜いた。支えを失ったように、ベンチに腰掛ける。隣からどこか荒々しい音が響いた。
 屋根があってよかった。電灯はあれど、互いの顔ははっきり見えない。
「……オレ、大介になんかした?」
 沈黙は長く続かなかった。絞り出すような声には苛立ちよりも困惑の方が大きいように聞こえた。
「してないよ」
 嘘じゃない。現実のお前は何も悪くない。すべては自分一人で不格好に踊っているだけに過ぎない。
「なら、逃げたのはなんで? 避けてるのもなんでだよ?」
 当たり前の疑問だった。逆の立場なら同じ行動を取る。そこまでわかっていながら、理由を告げるのが……馬鹿らしいけれど正直、怖い。
 親友に近い関係といえど、笑ってすませてくれないんじゃないか。本気で引かれたら今まで通りでいられなくなる。
 思わず頭を左右に振った。全く無駄な言い訳だ。
 一ヶ月も経っていながら「単なる夢」だと切り捨てられなかった時点で通用しない。うすうす、気づいていた。
「大介……?」
「……夢を、見たんだよ。お前が出てくる夢」
 肩にある感触が少し震えた。次の瞬間にはきっと離れていく、そう想像するだけで喉の奥が詰まりそうになる。
 けれど、もう年貢の納め時だ。
「どんな夢だと思う? 俺とお前、恋人同士だったんだぜ」
 意味が飲み込めない。そんな問い返しだった。
「抱きしめて、キスだってしてた。それ以上の、ことだって、してた」
 ベッドの上に組み敷いた夢の中の花岡は、恍惚とした笑みを浮かべてあらゆる行為を受け入れていた。そんな彼がたまらなく愛おしくて、また火がつく。まさに「溺れる」状態。
 ――オレ、お前がたまらなく好きだよ。好きすぎて、苦しい。
 熱に浮かれた花岡に応えた瞬間、薄い光が視界を埋めた。
 ただ呆然とするしかなかった。驚きこそすれ、さほど嫌悪感を抱いていない自分にも呆然とするしかなかった。
 さらに一ヶ月かけて、夢と現実の想いがイコールになるなんて思わなかった。
「な? 普通に引くだろ? 俺もなんかまともにお前の顔見れなくて変に避けちまってたんだよ」
 これで仕方なしでも納得してくれれば御の字、呆れたように笑ってくれたら上出来だ。
「こんな理由で、しかも気持ち悪くて、ほんと悪い。俺もさ、何でそんな夢見たのかわかんないんだよ」
 沈黙が怖い。何を考えているのだろう。本心を悟られていたらどうしよう。一番大事にしたい関係なのに壊れたらどうしよう。
「大介」
 短く名を呼ばれて、肩をぐいと押された。否応なしに、顔ごと花岡に向き直る形になる。年齢より上に見られることがある端正な顔がうっすらと浮かび上がっていた。
 瞬きを一度する間に、口元に熱が生まれた。
 正解の反応がわからない。ただ馬鹿みたいに再び目の前に現れた無表情の花岡を見つめるしかできない。
「全く、どんな告白だよ。斜め上すぎるわ」
 叱責に聞こえない叱責に、感情のこもらない謝罪がこぼれる。それどころじゃない。今起こった出来事をどう処理すべきかわからない。
「そんな夢見たって言われて、一ヶ月もオレの顔まともに見れないとか言われたらさ、期待するしかないじゃん」
 期待、という二文字が大きく響いた。期待するしかない、漫画やドラマなどでよく聞くワード。
「好き、なのか?」
 まるで他人事のような心地だった。小さな苦笑が返ってくる。
「じゃなかったらキスなんてしないし、お前が見たような夢も見たりしないよ」
 軽く引き寄せられて、耳元にその夢の内容を吹き込まれる。次第にじっとしているのが苦しくなってきて、思わず身を捩ってしまった。素直に解放してくれた花岡は、今度は楽しそうな笑い声をこぼす。
 頭の回転速度が全然足りない。ここ一ヶ月の出来事をいきなり全否定されたような気さえしてくる。
「……お前、実は嘘つくのうまいだろ」
 こんな物言いはどうなんだと思いながらも、大なり小なり反撃したくてたまらなかった。
「俺はみっともない態度取っちまったのに、お前いつも通りすぎただろ」
「そりゃそうだよ。だって大好きなお前に絶対嫌われたくなかったんだから」
 密かな努力を褒めてほしい。そう言い切った花岡に再び抱きしめられた。
 ――夢の中と違って、自分はどうやら翻弄される側らしい。

#[BL小説]畳む
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夏のソメイヨシノは春を運ぶのか?

20210102183528-admin.jpg

noteの企画で書いたものです。

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 僕たちは対等であるはずがなかった。

 一つ上の先輩に、密かに想いを抱く日々。意を決して突撃しそうものなら、僕はたちまち蜂の巣にでもされてしまう。
 片や才色兼備、片や平凡以下の後輩モブ。許されるのは妄想ぐらいだ。
 こういう場所をふたりで歩きたいと妄想しながら、僕はいろんな風景を写真で切り取っている。せっかくだからとSNS上に投稿していたら、たくさんの反応をもらえるようになっていた。
 SNSでは、僕はヒーローだった。
「こういうところでデートできたらいいなって、つい思っちゃいます」
 アイコンでもわかる、背中に流れる黒髪が美しい人は、心の中を覗いたような感想をいつもくれる。
 僕も、想い人の彼女に言われてみたい。少なくとも、モブから名前のあるキャラには昇格できる気がする。
 口の中に苦味を感じながら当たり障りのない返事を打つと、ちょうど電車が目的の駅で止まった。
 十五分ほど歩いて、足を止める。小遣いをこつこつ貯めて購入したデジカメをリュックから取り出した。まずは歩道側から海に向かって一枚。空と海にはっきりと水平線が引かれた快晴で、コントラストの差が眩しい。
 左を見ると、数人上陸できそうな平たい陸地を中心に、三日月状に岩が数個並んでいる。クラスの男子がイカダでも漕いで行ってみたいよな、なんてふざけ合っていたのを思い出す。
 まるで隔離されたみたいに、穏やかな波音だけが鼓膜を撫でている。こんな雰囲気の中を彼女と談笑しながら歩けたら、どんなに幸せだろう。
 寄せる波がぎりぎり届かない場所に立ち、海岸沿いに視線を送る。こみ上げる想いを、レンズに込めてシャッターを切った。
 そのまま、砂浜に腰掛けて反対側を向いて撮る。海を背に上半身だけを振り返る笑顔を想像して陸地を入れずに空と海だけを捉えて撮る。二人で砂山を作っているところを想像して、製作途中の山と自らの手を入れて撮る。
「……なにやってんだろ」
 妄想のままにシャッターを切った回数は、いつの間にか三桁に突入していた。想いをこじらせている証拠だ。いくら募らせたとて、未来は変わらないのに。
 レジャーシートの上で仰向けになって構えていたカメラを下ろし、横になりながらスマホを取り出す。SNSを見ると、黒髪アイコンの人から返信が来ていた。朝、海が今日の舞台ですと投稿した内容に、律儀に反応してくれていた。
 ゆっくり身体を起こす。暑さが限界だし、ネタも十分に集まった。
「……ピンク?」
 歩道側に向かって俯きがちに歩いていると、砂浜では目立つ色が落ちていた。
 内側が咲き始めのソメイヨシノを思わせる、瑞々しく可愛らしい色合いの貝殻だった。
 ピンクを親指でなぞると、彼女の唇がよぎった。リップクリームを塗っているのか、薄色でつやっとしていて、他の女子に羨ましがられていた。
 いよいよ変態じみてきた。そう呆れながらも、撮影の準備を止められない。
 再び、波際に歩み寄っていく。親指ほどの高さの山を作り、ピンク色の側を自分に向けて立てる。
 シートを再び広げてうつ伏せに肘をついて寝そべり、液晶モニターを覗き込む。貝殻にピントを合わせ、ぼやけた海を背景に入れる。
 波音を、機械音が一瞬横切った。
「……かわいいな」

『あの写真の場所、私、知ってます。家の近くなのでびっくりしました』
『貝殻、すごく可愛いです! 私も今度探してみようと思います』
 僕は一週間後、再びあの海に出向いていた。SNSの受信ボックスに届いていた感想に、舞い上がっていたのだと思う。
 今日は、素直に景色を収めようかな。
 あの日と違い、空には薄い膜が張り巡らされていて、彼方を見つめるほど地上との境界線がぼやけている。また違った雰囲気が楽しめそうだ。
 構図を探そうと波打ち際から少し離れて、海に沿って歩き出した足は――ふいに止まる。
 最初に目に入ったのは、黒い頭だった。両頬のあたりから髪が一房ずつ垂れて、ゆらゆらと踊っている。水色のジーンズに覆われた足を少しずつ前進させながら、頭を軽く左右に振っている。
 カメラを握る手に、力が込められていく。第六感がガンガンと主張している。このシルエットに覚えがあるはずと、繰り返し訴えている。
 もう五センチも縮まって腕を伸ばせば触れられそう。そんな距離で、相手は足を止めた。
 ――呼吸の仕方が、わからなくなった。

「あ、ご、ごめんなさい。捜し物をしてたから、気づかなくて」

 上品な響きの声が、聡明な瞳が、僕に向けられている。
 現実を疑う僕に追い打ちをかけるように再び、第六感が主張を始める。そんな偶然があるわけないと冷静な部分が訴えているのに、高まる高揚を止められない。

「それって、ピンクの貝殻ですか?」

 僕は、少しでも対等に近づけただろうか?畳む
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予想外のプレゼントは七夕

「体調不良版ワンドロ/ワンライ」 さんのお題に挑戦しました。
お題は『七夕』です。
友達が仕組んでくれたおかげで、ずっと好きな彼がお見舞に来てしまった。私は無下にする真似もできなくて……。

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 重い身体を動かして玄関を開けた私は、固まってしまった。
「……どうも。見舞いに来た」
 おそらく今日の講義で配られたであろうプリント数枚とビニール袋を掲げて見舞いアピールをしている。いや、別に来てくれたのは構わない。わざわざ持ってきてくれたのもありがたい。
「え、ええと、なんであんたが?」
「いや、お前が休みだって聞いて、見舞い引き受けたんだ」
 風邪を引いたみたいだから今日は休む、と連絡したのは同性の友人にのみだった。幸い授業は二つだけで、小テストのような重要性の高いものも予定されていなかったからこそ休みにしたのだが、見舞い相手が彼だというのは全くの予定外だった。
『差し入れついでに見舞い行ったげるよ。楽しみにしてて~』
 なにが楽しみなのかと疑問に思っていたが、そういうことだったのか……!
「と、とにかく上がっていいよ」
「えっ、いいのか? 別に俺、ここで帰ってもいいんだけど」
「せっかくだから、授業でなにかあったか軽く聞いておこうかなと。ほら、結構難しい授業でしょ? あれ」
 我ながらよくわからない理由を述べつつ、内心で無下に追い返すのも申し訳ないためだと懸命に言い聞かせて招き入れる。やはり彼はためらっていたけれど、上がることを決意したらしい。遠慮がちに肩をすくめながらついてくる。
「結構きれいにしてんだな」
「あんまり、物を置いておきたくないのよ」
「ふーん。今流行りのミニマリストってやつか」
「そういうつもりでもないんだけど」
 プリントをまとめたクリアファイルをテーブルに置いたあと、冷蔵庫を開けてもいいかと聞かれたので頷く。飲み物以外にもなにかを買ってきてくれたらしい。
「あいつらからの差し入れも入ってるから。遠慮なく食べてねって言ってた」
「ありがとう。正直、すごく助かったよ」
「熱あるのか?」
「ちょっとね。あんまり高くはないんだけど、身体動かすのはしんどいかな」
 それなら早めに説明を済ませると前置きして、彼は今日の授業について簡素にまとめてくれた。頭がいい人だなと最初から思っていたが、その感想は間違っていなかった。
「ありがとう! これならプリント見返しても大丈夫そう」
「難しいのは本当だからな。ちょっとでも力になれたならよかったよ」
 わずかに口端を持ち上げて微笑む彼はとても爽やかだ。風邪のせいじゃない熱が、ぐっと奥から湧き上がる。
 この授業は名前だけでも難易度が高いとわかるもので、取っている生徒はとても少なかった。
 そこで出会った彼に、多分私は一目惚れをした。
 理由はよくわからないけれど、「この人と付き合いたい」と思ったのだ。
 自分から他人に話しかけにいく行為は不得意ではなかったはずなのに、彼に話を振る瞬間は戸惑うくらいに緊張した。でもそれが功を奏したのか私と彼の仲は順調に深まり、今では互いの友人も交えて仲間のような空気ができあがっていた。
 だから、私の友人は気を利かせて彼をわざわざ寄越したのだ。
 彼も彼だ、別にお人好しを発揮させてわざわざ引き受けなくてもいいのに……。
 素直に嬉しいと思う部分と、申し訳ない部分と、素直になれない部分がゆるい喧嘩を繰り広げている。
「……あ、友達かな」
 落ち着かなくなってしまった気持ちを見計らったかのように、スマホが小さく震えた。なんともいえない空気になってしまった空気を壊してくれた誰かに感謝しながらスリープを解除して……ロック画面に表示されていたメッセージに思わず息をつまらせた。
「お、おい大丈夫かよ?」
「だっ、大丈夫! ごめん、なんでもない、からっ」

 ――彼とはうまくいってるー? 今日は七夕だ、この際だから願い事言っちゃえ! 好きだって言っちゃえ!

 病人に鞭打つような真似してどうする! とものすごく突っ込みたい。突っ込みたいが、それはあとだ。彼が帰ってから存分に文句を言ってやる。
「顔、すごい真っ赤だぞ……? なんでもなくないだろ、それ」
 彼は少し戸惑うと、長い腕を伸ばして背中に手を添えてくれた。天然って恐ろしい。さらに動揺させるようなことを平気でしてくる。
「ほ、ほんともう大丈夫だから! 背中、ありがと」
 身をよじるのはやりすぎだろうかと心配になったが、それよりも自身の平静を取り戻すのが先だった。
「……友達がね。今日は七夕だよって、ばかみたいなお願い事送ってきたのよ。それでつい吹き出しちゃって」
 とっさの嘘にしてはうまくできたと思う。普段の友人を知っているからだろう、彼は納得したように小さく笑った。
「どうせ今すぐ彼氏がほしいとか、そういうやつだろ」
「そ、そうそう。よくわかってるじゃん、さすが」
 彼氏、という単語に激しく動揺してしまった。まさか、彼も彼女がほしいなんてことを願って……?

「お前は、どうなんだ?」

 一瞬、問われた内容の意味を理解できなかった。
「お前は、そういう願い事……あるのか?」
 彼の視線は、とてもまっすぐだった。穴が開きそうなくらいに私を見つめているのではないかと思うくらい、熱のこもった視線だった。
「わたし、は……」
 どうしてだろう。告白されているような気分になるのは、どうしてなんだろう。
 他でもない、彼から。ずっと想い続けてきて、そのうち告白するつもりだった、彼から。
「もしあって、迷惑じゃなかったら……俺に、しろよ」

 私は、私に起きていることを理解できなかった。
 説明なら、できる。彼の唇が、私のそれに重ねられている。
 湿気の多いこの時期でも関係なしにかさついた感触が、優しくふさいでいる。
 そして、彼は小さく謝りながら今まさに背中を向けようとしている。

「逃げないで」
 布団から腕を伸ばして、シャツの裾を掴む。
 足を止められた彼は、なおもこちらを振り向かなかった。
「私の返事を聞かないで、逃げようとしないで」

 自惚れてもいいってことなんでしょう?
 私は、もっと未来にするつもりだった告白を、ここでしていいってことなんでしょう?
 友達からもらった笹の葉に、素直な願い事を書いてもいいんでしょう?

「……逃げないから、離してくれ。ちゃんと、聞くから」
 振り向いた彼は、まるでこの世に絶望したような顔をしていた。きっと勢いでしてしまったんだろう。
 でも、その誤った勢いが、私には思わぬプレゼントだった。
 ちゃんと笑っていられてるかな。できればきれいに着飾って、雰囲気のいいときに告白したかったけど、降って湧いたチャンスを逃したくなんて、ない。

「ずっと好きでした。私と、付き合ってください」畳む

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2021年10月31日(日) 00時24分23秒