Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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2021年1月 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

遅咲きない青春

#CPなし

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こちらのお題 に沿って書かせていただきました。

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「青春はいいものだからって、自分の欲に身を任せすぎるのはよくないって私は思ってたのよ」
「言ってた言ってた。だからあの頃の宮本さんはすごーく努力してたよね」
「そうよ。人生設計をしっかり立ててたわ。後悔したくなかったのよ」

 学生といえば青春。
 青春はいい。その時にしかできないことがたくさんあるから後悔しないよう、感情のまま好きに行動した方が絶対にいい。

 くだらないと思ってきた。
 所詮、その場限りの甘い誘惑。悪魔のささやき。それに身を任せすぎて、先に待つ未来は失敗したと嘆く我が身に決まっている。
 だから周りが恋に遊びに浮かれる中、私は人生の設計図を蜜に作り上げていた。
 こんな世の中だからこそ絶対に後悔したくない。安泰な人生を生きたい。
 目の前でニコニコと笑みを刻んでいる、数年ぶりに再会した元同級生のように、呑気に過ごしている暇はなかった。

「高三だったから当たり前かもだけど、それにしたってきっちりしすぎっていうか」
 彼の性格を考えれば、その返答はある意味妥当だった。私にはある意味でもなく妥当で必要な行動だった。
「皆川くんは遊び人だったものね。むしろ緩すぎよ」
 ビールの注がれたグラスを握る手に、自然に力が入る。
 目に留まった時は、友達と大きな声で笑い合ったり廊下でふざけ合ったり、ときには女子と楽しそうにお喋りしていたり、まさに青春の一ページみたいな光景を繰り広げていた。
「そう? むしろ年相応じゃない? ってかその言い方だといやらしーい響きに聞こえるんだけど~」
「そ、そんなわけないでしょ!」
 アハハ、と軽快に笑う彼に浮かぶのは苛立ちばかり。
 無駄に爽やか系な顔立ちなのが、また増長してくれる。
「私にも遠慮なく声かけてきて……近寄り難いって噂になってたの知ってたでしょ?」
「うーん、まあ知ってはいたけど特に気にならなかったよ。だって宮本さん優しい人だったし」

 思わず変な声が出た。私に対して優しいなんて形容使う人、初めてだ。もしかしなくてもからかわれてる?
 顔にも出ていたのか、皆川くんは目元を和らげて小さく笑った。
「優しいよ。まあ、厳しいとこもあったけど周りをすごくよく見てるし、困ってる人がいたらフォローしてたじゃん」
 そんなに彼に観察されていたのかと思うと、今度は恥ずかしさがこみ上げてくる。酒が入っていてよかった。
「だから、宮本さんのことスカウトしに来たんだもの」

 呆然と、彼を見つめた。
 何を、言っているの。
 そういえば、しつこく呼び出しを受けたからわざわざ来たのに、まだ具体的な理由を聞いていない。いきなり昔話から始めるから、つい乗ってしまった私も悪いのだけれど。

「俺の会社に入ってくれない?」
 テーブルに両肘をつき、その手のひらに顎を預けたポーズをしながら、さらりと彼は告げてきた。
 意味が、よくわからない。
 大体、「俺の」会社ってどういうこと。
 いきなり皆川くんが吹き出した。雰囲気をあっという間に台無しにされて、このまま帰ってやろうかと本気で考えてしまう。
「あ、ごめん、ごめんなさい。ただ、宮本さんが間抜けな顔してるの初めて見たから、つい」
「っ、ふざけてないで……!」
「実は、会社作ろうと思ってるんだ」

 耳を疑ってしまった。
 皆川くんが、学生の頃に遊びまくってた皆川くんが、起業だって?
「俺、事務とか細かい仕事がてんで苦手でさ。そんで、ぜひ宮本さんに……と思って。さっき会社辞めたって言ってただろ? 宮本さん的にはイラつくかもだけど、俺的にはすごいチャンスだと思ってるんだ」
 二年勤めた会社は、時間を重ねれば重ねるほど私の描いていた理想とずれた事実を突きつけてくる場所だった。転職先の目処もたてないまま辞めたのは、今考えると本当に私らしくなかったと思う。
 後悔はしていなかったけど、皆川くんに愚痴同然の告白をしていたのは完全に八つ当たりだった。順風満帆そう見えていたから、なんてひどい思い込み……だと今さら申し訳なく思っていたら、まさかそんな話を隠し持っていたなんて。

「……他に、人いないの」
「え、あ、俺入れたら三人いるよ。でもみんな、外回りタイプばっかでさ。実力も人脈も言うことなしなんだけどね」
 皆川くんもどちらかといえば同じタイプだと思う。起業にあたって人脈はとても大事だと聞いたことがあるから、少なくとも彼が勢いだけで始めたわけではないと理解はできる。
 わからないのは、たったひとつ。

「なんで、わざわざ私なんかを……」
 特別、仲がよかったわけじゃない。
 ただ、物珍しさでなのか皆川くんから話しかけてきたり、文化祭のような行事があった時は一緒に実行委員をやることがあったり、それくらいの付き合いしかなかった。
「いや、まあ……宮本さんしか思い浮かばなかったというか、宮本さんが、よかったというか」
 なぜか視線を逸らしながら言われた内容はとてもむず痒くて、でも不快じゃない、じんわりとした感触を胸の中に生んだ。
 とにかく変に落ち着かない。どうにかしたくて、無駄にビールを呷ってしまう。
「……どうせ、その三人も皆川くんみたいな雰囲気なんでしょう」
「そ、その通り。鋭いね」
 とりあえずというように呟いた言葉に、皆川くんも乗ってきてくれた。
 彼と似た者同士の集まりなら、会社も「そう」なるのは目に見えている。
「皆川くん昔とあんまりノリ変わってないし、作ろうとしてる会社もきっと、大人になっても子供の心を忘れないように! みたいな雰囲気になるんでしょうね」
「さすがの、分析力」
「私、そういうノリが苦手だってさっき言ったわよね」
 だんだん皆川くんが小さくなっていくように見える。
 変なの。あの頃はどっちかというと私が振り回されていた方なのに、今は逆だ。

「……宮本さん。苦手って言ってるわりに、顔、笑ってますけど」
 思わず言葉を詰まらせてしまった。
 そう、私は少しだけ、楽しいと感じている。皆川くんのにやにや顔を見ればからかわれてもおかしくないから、素直に認めたくなくてうまくごまかそうと思った、のに。
「私も今から遅い青春でもしてみようかなって思っただ、け……」
 何を、口走った? 思わず口元を押さえてももちろん効果はなく、皆川くんも固まっている。
「それ、ってもしかして」
「ちが、違うの。私は別に」

 それ以上、反論を続けられなかった。
 ……もしかして、心のどこかで羨んでいた?
 私は自分で納得したつもりであの学生生活を送っていたけど、その時は気づかなかっただけか、見て見ぬ振りをしていたのか。「くだらないことをやって笑い合いたい」という気持ちが少しあったのかも知れない。
 その時に気づいていれば……いや、それまでの私を考えたらきっと素直に認められなかった。
 私も、しょせんは子供だったんだ。

「ありがとう!」
 いきなり手を握られて、反射的に振りほどこうとしたけどさすが男、全然びくともしない。
「話、受けてくれるってことだろ?」
「ちょ、ちょっと」
「ほんとありがとう! すっげー嬉しい!」
 大げさじゃないだろうかと思いつつも、あの頃を思い出すような満面の笑顔に私も不思議とつられてしまう。
「ほんと、変わらないわね。まだ学生やってるみたいな気持ちになるわ」
 思わず呟いた言葉に、皆川くんはきょとんと私を見つめていたけど……

「宮本さんも変わらないよ。……ああでも、大人っぽくなったというか、きれいになったかな」

 心持ち、距離を詰められた気がする。
 今まで見たことのない、女の子なら誰でも喜びそうな笑みに変えて。
 今まで言われたことのない言葉を、向けられた。
「はは、顔真っ赤だ」
「っば、ばかなこと言ってないで! いい加減この手も放してっ」
 あっさり解放された手を固く握りしめる。
 心臓がやけにうるさいのは、珍しい一面を見せられたせいだ。物珍しくてびっくりしただけ。ほら、今はもうあの頃の皆川くんになってる。私みたいな人間にも話しかけてくるくらい人見知りしなくて、ちょっと人を小馬鹿にしたような、からかい混じりの笑みが似合う顔をしていて……。
「……もう、ほんと宮本さんさぁ……」
 溜め息とともに吐き出された声には、なぜか苛立ちが含まれているように聞こえた。
「な、なに?」
「いや? なんでもないよ。ごめんね」
 また、戻った。いや、かわされた?
 意味がわからない。相変わらず忙しい人だと思う。

「それじゃ、改めまして。宮本さん、よろしくお願いします」

 また、違う笑顔を向けられた。
 経営者としての覚悟を背負った、同い年なのにずっと大人に感じるものだった。

「……よろしく、お願いします」
 またうるさくなった心臓の上を、そっと握りしめた。畳む

お題SS 編集

さあ、賭けを始めよう

#BL小説

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「好きなヤツを振り向かせるってほんとムズいんだよ」
「まあ、そこは否定しねーよ。ってか、まさか恋愛相談だとは思わなかった……」
「苦手なのにごめんて。お前しか頼れなくってさ」
 夕暮れ時の教室で、幼なじみでもあり親友でもある彼と二人、顔を付き合わせて語る。かすかに聞こえる蝉の鳴き声が、ただでさえ不安定な決意をさらに鈍らせにかかってきて鬱陶しい。
 居残りに誘った時、最初は面倒そうな顔をしておきながらもこうして承諾してくれたコイツが実は優しい性格だと知っている人は数少ない。柔和とは言いがたい表情が癖のようになっているから、普通の人間はあまり寄りつかない。
「で? その好きなヤツとやらはどんなヤツで、どんだけ好きなんだ?」
「……先に長さを言うと、ずっとだ」
「ずいぶんふわっとしてんな」
「ここに、入学する前から」
 予想外だというように、少し切れ長の目が大きくなる。わりと珍しい表情だ。自分が落ち着きのない性格のせいか彼はいわゆるストッパー役に回ることが多く、おかげで冷静さを身に付けられたと語っていたのを思い出す。
 それでも、まだ崩すことはできたらしい。
「それって、もしかして中学も同じってことかよ?」
「当たり」
「……ほーう」
 彼がわずかに身を詰めてきた。顔の右半分を照らしている夕日の効果で、片目だけが無駄に輝いているように映る。
「お前にそんな相手がいるなんて知らなかったわ。もしかして小学校もだったり?」
「だとしたらどうする?」
「どうするもこうするも……つーか、もしかして俺が知ってるヤツだったりすんのか?」
「どう……かな」
 咄嗟に濁してしまう。白黒つけたがる親友には逆効果だと悟っても後の祭り、整った眉がわずかに寄っていた。
「お前さ、どうかなってことはないだろ。付き合い長いんだから下手なごまかしは通用しねーぞ」
「だよな。長いんだよな、オレ達」
 初めて互いを認識したのは幼稚園児の時だった。母親同士も仲のいい幼なじみだったこともあり、自然と二人で過ごす時間が増えていった。性格は似ているどころか対極に近いのにやけに気が合って、何よりとても楽しくて、心地よくて、気づけば離れられなくなっていた。
 その親友はますます不可解といった顔をしている。
「……俺、一応お前に、相談に乗って欲しいって言われたからわざわざ残ってんだけど」
 ――わかってる。お前の言いたいことはわかってるよ。
 けれど、いざ本番を迎えたらこの足は一歩を踏み出しかけて震えている。心の葛藤がそのまま出てしまっている。ここまでへっぴり腰だとは、ひたすら情けない。
「……それなら俺、もう帰っていいか?」
 言うが早いか、親友は深いため息をつきながら立ち上がった。慌てて腕を掴んで引き留める。
 ――ダメだ、ダメだ。
 そうだ、迷っている暇なんてない。はじめの一歩を出した瞬間から、立ち止まる選択肢は残されていなかった。
「何だよ、やっと白状する気になったのか?」
 一体何を渋っているのか全然わからない。
 真実を知らない親友の無言の訴えに苦笑したくなる。
「……幼稚園からの、付き合いなんだ。そいつは」
 顔まで見る勇気はなかった。喉が震えてうまく声が出そうにない。
「俺もそれくらいの付き合いだけど、そんな女いたっけか?」
「ちょっと素直じゃなくて、憎まれ口つい叩くようなところがあるけど、面倒見がよくて。いつもオレ、甘えちゃうんだ」
 親友の言葉が止んだ。勘が鋭いから気づいたのかも知れない。それでも懸命に否定のための材料をかき集めている、そんなところだろう。
 顔が見られないなどと言っている暇も、もうない。気力を振り絞って、頭を持ち上げる。

 ――本当の本番は、ここからだ。

「……わかるだろ?」
 格好つけてもやっぱり目を逸らしたいし、答えを聞かずにこの空気ごと放り投げて、すべてを振り出しに戻したくもなる。
 できるわけがなかった。苦痛が続く階段を上りたくなくて、出口へ向かいたくて、仕掛けたのだから。
「嘘、だろ。……まさか」
 驚愕と不信と戸惑いの混じったような、ごちゃごちゃな双眸が自分を捕らえる。
 急激に喉が渇いてきた。熱が出ていると錯覚しそうなほど、顔から汗が吹き出ているのがわかる。
「吉田先生、だったなんて」
 瞬きを五回ほど繰り返したところで我に返った。
 小学生時代の担任のわけがあるか。というか本気で言っているのかコイツは? わざとなのが見え見えだ!

「っざ、けんな……!」

 親友が短い悲鳴をあげながら窓際までよろめき、背中を預ける体勢になった。すぐさま両腕を親友の両端に固定する。
 ――逃がさない。ここまで来たら、逃がしてなどやらない!
「お、おい! 外から見えるだろ、落ち着けよ」
「本当はわかってるくせに!」
 薄い唇を固く引き結んで、水面のように揺れる視線をこちらに向けて来る。ここまで狼狽するなんて、予測不可能な展開に弱いのは相変わらずだ。
 見慣れているはずなのに、状況を忘れてつい可愛いなんて思ってしまう自分に嫌気が差す。

「お前……本気、なのかよ」
「冗談で、こんな真似できるわけないだろ」
 唇に一瞬、触れる。呆然とこちらを見返す親友にもう一度触れたくなるが、堪える。

「オレが好きなのは……お前だ」

サイはもう投げられた。
オレが勝つか、お前が逃げ切るか。
賭けは始まっているんだ。畳む

その他SS 編集

偽りからの卒業

#BL小説

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
お題は『卒業』です。主人公のモノローグオンリーです。

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 卒業するんだ。

 恐怖はある。肩まで伸びた、軽くくせのある髪を切るためのはさみは、握る手の震えを受けて役目を果たせそうにない。
 悪いのはすべて自分。笑顔を向けてくれて、ときには二人きりで遊びにも誘ってくれた彼をずっと騙して、でも本当の自分をさらけ出せずにここまで来てしまった。

『君のこと、ずっと好きだった』

 告白してくれたのに、逃げてごめんなさい。
 変わらずバイト先に来てくれて、何もなかったように振る舞わせてしまってごめんなさい。

 本当は好きだと、付き合って欲しいと言いたい。
 でもきっと失望する。冷たい視線を向けられて、捨て台詞のひとつでも吐かれて目の前から立ち去ってしまうだろう。
 胸が締め付けられる。今までのツケが回ってきただけなのに苦しいなんて、自分でもいやになる。

 気づけば、向かいにある顔が醜くゆがんで揺らめいていた。
 馬鹿としか言えない。みっともなく泣くくらいならさっさとやめて、本当の自分で勝負すればよかったんだ。諦めろと言い聞かせてもできなくて、なのに向けられる好意に甘え続けた結果が「これ」だ、自業自得にほかならない。

 はさみを、改めて握りしめる。
 目元を荒々しくこすって、弱さの象徴を見つめる。

 彼が好きなのは、都合のいい夢を見続けた偽の自分。
 自分が好きなのは、常に本当を見せてくれた彼。
 フェアじゃないままの恋ほど、虚しいものはない。

 髪を空いた手でつかみ、刃を当てる。
 しゃくり、しゃくり、音をたてるたびに、影に隠れていた、情けなくもがいていた自分が暴かれていく。

「はは、なんか……あっけない」

 スマートフォンを手にとって、履歴の一番上にある彼の番号をタップする。呼び出し音がこんなに怖いと思ったことはなかった。

『も、もしもし?』
「こんにちは。……あの、今って時間、あります? その、話がしたくて」
『も、もちろん! じゃあ、場所は……』
「あの喫茶店でいいなら、そこで」
『オッケー! じゃあ、またあとで!』

 いつもより声が低いって、不思議に思わなかったかな。
 女言葉も使ってなかったけど、気づいてたかな。
 苦笑が漏れる。あのテンションじゃ、絶対気づいていない。安心すればいいのか、がっかりすればいいのか、自分もわからなかった。

「それじゃ、行きますかね。……オレ」畳む

ワンライ 編集

文字書き60分一本勝負SS・身長差

#男女もの

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
お題を素直に使った、身長差のある学生カップルのお話。

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 私と彼の身長差が羨ましいとよく言われる。

 特に、包み込むように抱きしめられると嬉しいでしょ、守ってもらえてるみたいでいいよね――そういったセリフを何度浴びせられたかわからない。
 でもね、現実は憧ればかりがつまっているわけでもないんだ。

「相変わらずの不機嫌顔だねえ」
 学校から家までの道を、いつものように並んで歩く。百八十を超える身長の持ち主である幼なじみの恋人はずっとにやにやしっぱなし。腹立つ。彼の頭ひとつぶん低い私の歩幅にちゃんと合わせてくれているのがまた、悔しい。
「『私も見下されたい!』とか『背中から包み込んでほしい!』とか言われまくったらね。憧れるほどでもないけどって口酸っぱく反論したいわよ」
 実際したこともあるが、照れちゃって〜! とツンデレ扱いされて終わってしまった。面白がっている隣の恋人しか理解してくれていないというのが、実に悲しい。
「俺は好きなんだけどなぁ。お前、ほんとすっぽり抱きしめられる大きさなんだもん。心地いいっていうか」
 言いながら抱きしめられて、慌てて身じろぐも全く動けない。しまった、完全に油断していた。
 ……別に、こうされるのが嫌なわけじゃない。ただ、こういう「小さくてかわいい」みたいな扱いを全面に出されるのは性に合わないだけで。
「まあでも、お前はうんと女の子扱いされまくるのいやだもんな。うんうん、わかってるって」
 子どもにするみたいに頭をぽんぽんとされて、顔が熱くなった。こいつ、まさか……。
 彼の服の裾を握りしめると、ふいに抱擁が解かれた。短く名前を呼ばれて反射的に顔を持ち上げてしまい――すぐ、後悔するはめになる。

 その「目」だ。
 普段つけている仮面をいっさい取り払って、ただひたすらにまっすぐな視線を注ぎ込まれてしまうと、私はとたんに身動きができなくなってしまう。
 お前が大好き。誰にも渡せない。これからもお前だけを想い続けるから。
 直接そう囁かれているような気持ちになってしまって、身も心も預けてしまいたくなる。
 真正面から向き合うときとは違う。ずっと高い場所から見つめられることで、「男」と「女」を意識して、普段の私が行方不明になりそうになる。
 思えば、昔から「目は口ほどにものを言う」タイプの人間だった。だから、私もこうしてやられてしまったんだろう。

「かーわいい」
 触れるだけのキスをされても、いつもの抵抗はできなかった。今の私は、いつもの私じゃなくなっている。
「なあ、俺んち……寄ってくだろ?」
 確信に満ちた笑みさえ、素直に格好いいと思ってしまう。返事まで素直に返すのだけはためらって、服を握りしめたままの手に力を込めて、俯きがてらうなずく。
「お前さ、急激にかわいくなんのやめてよ。俺も大変だよ」
 意味わかんない。私はそんなつもり全然ないんだから。
 服を掴んでいた手は、いつの間にか彼の大きな手のひらに包まれていた。そのぬくもりを噛み締めながら、「女」もいいかもしれないと、少しだけ素直に思った。畳む

ワンライ 編集

わずかになにかが変わった日

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『ターニングポイント』『エイプリルフール』です。

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「なあ、付き合ってみねえ?」
 いつもの学校の帰り道、まるで世間話のように切り出した俺に、隣を歩く幼なじみは一瞬動きを止めた。
「……どこに?」
「場所じゃねえって」
 口元を引き結んで真剣に見上げる俺の姿に、さすがに意味を理解したらしい。それでも視線は戸惑ったように四方をさまよう。
「……ああ、そういえば今日ってエイプリルフールだったな。くだらねーこと言うなって」
 軽く笑い飛ばして、無理やりでも冗談ですませようとしている。
 ある程度予想はしていた。ショックはあれど、表には出さない。
 だから――強気に出てみるしかないと思った。

 腕を組んでみる。
「っお、おい」
 そのまま恋人繋ぎをしてみる。
「ま、待て。離せって」
 並んで立つと、俺の頭の位置がちょうど彼の肩口に来るから、寄り添ってみる。
「や、やめろってば!」
 力づくで距離を作った彼の顔は、引くというより戸惑いだけで満たされていた。

 赤い顔が可愛いと思えてしまった時点で、抱きしめてキスまでしたいと願ってしまった時点で、やっぱり俺はこいつのことを……。
 いつからだ? 記憶を高速で巻き戻してもわからない。
 気づけばこの目は、女子ではなく彼だけを追っていたのだから。

「な、なあ」
 気まずい空気にとりあえず割り込んだのは、彼だった。
「その、もっかい確認するけど……エイプリルフールは、関係ないんだよな?」
 一語一語、噛みしめるように問いかけてくる。そういえばこいつは、根はとても真面目な性格だった。
「……うん」
 目を微妙にそらして頷く。今になって急に怖じ気づいてきてしまった。
 でも、ここまで行動しておいて黙ったままもずるいだけだ。もう一度、勇気を振り絞らないといけない。

「お前を見る目が、気づいたら変化してて」
「本当に、そういう目で見てるのかどうか、確かめたくて」
「勢いだけで、あんなこと言って、手繋いだりした」

 また目をそらしたい臆病さを何度も押し込んで、まっすぐに視線を向けてくる彼を捉え続けながら白状する。改めて考えれば、俺自身のために気持ちをまるっきり無視して利用したようなものだ。怒られても何も言えない。

「で、どうだったんだよ」
「……え?」
「だから、結果だよ。そういう目で見てたって、確定なのか?」
 予想もしなかった展開に頭が追いつかない。どう答えればいいのか戸惑っていると、突然彼は背中を向けてしまった。
「お、おい?」
「言えないなら、俺もなにも教えてやーんない」
「ちょ、ちょっと待てって。教えるってなにを? どういうことだよ?」

 俺をわずかに振り返った幼なじみの目は、どこか柔らかく見えた。畳む

ワンライ 編集

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