🗐 ショートショートまとめ |星空と虹の橋

ワンドロやお題などで書いたSSまとめです

2021年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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きみはおれだけのものだから

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『呼気』『許して』です。

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「許して」
 背中に届く声と呼吸のリズムは、まだ「普通」だった。
 細かく震えている程度なら、まだ「足りない」。

「許、して」
 次第に、呼吸の乱れが口調にも移り始めた。
 怖いものの苦手な人が、お化け屋敷の中間まで進んだような状態といえばわかるだろうか?
 でも、まだまだ足りないよ。君にはもっとわかってもらわないと。
 君が俺に対して、どんな愚行を犯したのかを。

「ゆる、して……おねがい、だから……」
 しゃくるような呼吸が混ざりだした。ようやく、自らの罪の重さを自覚し始めたのだろうか?
 自然と唇が持ち上がる。
 でも、まだ物足りないんだ。君はもっと、自分の立場というものを理解してもらわないといけない。
 何度、このくだらない茶番を繰り返していると思っているの?

「ごめ、なさ……も、二度としませんから……僕は、君だけのものだから……!」
 背中に引っ張られる感触を覚えた瞬間、身体ごとゆっくりと振り向いた。
 すべて想定通りの展開に、恋人の表情だった。

「本当に、わかってくれた?」
「俺のもとから逃げ出そうとしたくせに?」
「君は俺のものだって理解してくれたと、本当に信じていいの?」

 普段以上に大きい瞳を涙で埋めて、恋人は何度もうなずきを繰り返す。俺の腕をすがるように掴んだ手からは、はっきりとした震えが伝わってきていた。
 ああ、この表情がたまらない。
 俺から逃げられない、身体も心も完全に縛られていると実感できる瞬間は、麻薬にも似た高揚感を与えてくれる。

「二度と、自分の立場を忘れないで?」
 跪いて、小動物のような恋人に触れるだけのキスを与える。そのまま腕の中に引き寄せると、剥き出しになっている首筋に吸い付いた。
「君はずっと、俺だけのものだから。何があっても……ね」

#[BL小説] 畳む
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使用お題:もって三日の絶交

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「フリーワンライ企画」 さんのお題に挑戦しました。
いろいろネタを考えたけど、結局素直に使って書きましたw

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 絶交だと言われたけど、私はそんなに気にしていなかった。
 だって彼は、自分で言うのもなんだけど私のことが本当に大好きで、多分私がいないと生きていけないような人だから、もっても一日だけだと思ってた。

 なのにおかしい。
 三日目が終わろうとしてるけど、大学に行っている間以外は部屋に引きこもって顔も合わせようとしてくれない。
 私の部屋だけにあるダブルベッドも私ひとりきり。そういえばひとりで寝るってはじめてだ。
 そんなに怒らせてしまったなんて……私は、無意識に甘えすぎていた? 確かに、彼はなんでも笑って許してくれる。
 ああ、そういえば最初の頃は懐の深すぎる彼に甘えないようにって自分でブレーキをかけていたけど、いつからか緩んでいたかもしれない。
 気づいたら涙がこぼれていた。泣く資格なんてないのに、勝手に流れてくる涙が悔しい。

 私も、彼がいないと生きていけないからだになっていたんだね。
 それに今頃気づくなんて……ほんと、ばかみたい。

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい……!」
 部屋のドアを叩きながら叫ぶように謝って、その場に崩れ落ちてしまう。
 簡単に許されるなんて思ってない。自己満足って思われてもいい。とにかく謝って、また私に笑いかけてほしい。大好きだと言ってほしい。
 ややして、控えめにドアの開く音がした。
「……ごめん。今回は意地張っちゃったんだ。泣かせちゃって、俺こそ本当にごめんね」
 身体を包む三日ぶりのぬくもりに、違う涙が溢れた。畳む
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わずかになにかが変わった日

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『ターニングポイント』『エイプリルフール』です。

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「なあ、付き合ってみねえ?」
 いつもの学校の帰り道、まるで世間話のように切り出した俺に、隣を歩く幼なじみは一瞬動きを止めた。
「……どこに?」
「場所じゃねえって」
 口元を引き結んで真剣に見上げる俺の姿に、さすがに意味を理解したらしい。それでも視線は戸惑ったように四方をさまよう。
「……ああ、そういえば今日ってエイプリルフールだったな。くだらねーこと言うなって」
 軽く笑い飛ばして、無理やりでも冗談ですませようとしている。
 ある程度予想はしていた。ショックはあれど、表には出さない。
 だから――強気に出てみるしかないと思った。

 腕を組んでみる。
「っお、おい」
 そのまま恋人繋ぎをしてみる。
「ま、待て。離せって」
 並んで立つと、俺の頭の位置がちょうど彼の肩口に来るから、寄り添ってみる。
「や、やめろってば!」
 力づくで距離を作った彼の顔は、引くというより戸惑いだけで満たされていた。

 赤い顔が可愛いと思えてしまった時点で、抱きしめてキスまでしたいと願ってしまった時点で、やっぱり俺はこいつのことを……。
 いつからだ? 記憶を高速で巻き戻してもわからない。
 気づけばこの目は、女子ではなく彼だけを追っていたのだから。

「な、なあ」
 気まずい空気にとりあえず割り込んだのは、彼だった。
「その、もっかい確認するけど……エイプリルフールは、関係ないんだよな?」
 一語一語、噛みしめるように問いかけてくる。そういえばこいつは、根はとても真面目な性格だった。
「……うん」
 目を微妙にそらして頷く。今になって急に怖じ気づいてきてしまった。
 でも、ここまで行動しておいて黙ったままもずるいだけだ。もう一度、勇気を振り絞らないといけない。

「お前を見る目が、気づいたら変化してて」
「本当に、そういう目で見てるのかどうか、確かめたくて」
「勢いだけで、あんなこと言って、手繋いだりした」

 また目をそらしたい臆病さを何度も押し込んで、まっすぐに視線を向けてくる彼を捉え続けながら白状する。改めて考えれば、俺自身のために気持ちをまるっきり無視して利用したようなものだ。怒られても何も言えない。

「で、どうだったんだよ」
「……え?」
「だから、結果だよ。そういう目で見てたって、確定なのか?」
 予想もしなかった展開に頭が追いつかない。どう答えればいいのか戸惑っていると、突然彼は背中を向けてしまった。
「お、おい?」
「言えないなら、俺もなにも教えてやーんない」
「ちょ、ちょっと待てって。教えるってなにを? どういうことだよ?」

 俺をわずかに振り返った幼なじみの目は、どこか柔らかく見えた。

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文字書き60分一本勝負SS・身長差

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
お題を素直に使った、身長差のある学生カップルのお話。

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 私と彼の身長差が羨ましいとよく言われる。

 特に、包み込むように抱きしめられると嬉しいでしょ、守ってもらえてるみたいでいいよね――そういったセリフを何度浴びせられたかわからない。
 でもね、現実は憧ればかりがつまっているわけでもないんだ。

「相変わらずの不機嫌顔だねえ」
 学校から家までの道を、いつものように並んで歩く。百八十を超える身長の持ち主である幼なじみの恋人はずっとにやにやしっぱなし。腹立つ。彼の頭ひとつぶん低い私の歩幅にちゃんと合わせてくれているのがまた、悔しい。
「『私も見下されたい!』とか『背中から包み込んでほしい!』とか言われまくったらね。憧れるほどでもないけどって口酸っぱく反論したいわよ」
 実際したこともあるが、照れちゃって〜! とツンデレ扱いされて終わってしまった。面白がっている隣の恋人しか理解してくれていないというのが、実に悲しい。
「俺は好きなんだけどなぁ。お前、ほんとすっぽり抱きしめられる大きさなんだもん。心地いいっていうか」
 言いながら抱きしめられて、慌てて身じろぐも全く動けない。しまった、完全に油断していた。
 ……別に、こうされるのが嫌なわけじゃない。ただ、こういう「小さくてかわいい」みたいな扱いを全面に出されるのは性に合わないだけで。
「まあでも、お前はうんと女の子扱いされまくるのいやだもんな。うんうん、わかってるって」
 子どもにするみたいに頭をぽんぽんとされて、顔が熱くなった。こいつ、まさか……。
 彼の服の裾を握りしめると、ふいに抱擁が解かれた。短く名前を呼ばれて反射的に顔を持ち上げてしまい――すぐ、後悔するはめになる。

 その「目」だ。
 普段つけている仮面をいっさい取り払って、ただひたすらにまっすぐな視線を注ぎ込まれてしまうと、私はとたんに身動きができなくなってしまう。
 お前が大好き。誰にも渡せない。これからもお前だけを想い続けるから。
 直接そう囁かれているような気持ちになってしまって、身も心も預けてしまいたくなる。
 真正面から向き合うときとは違う。ずっと高い場所から見つめられることで、「男」と「女」を意識して、普段の私が行方不明になりそうになる。
 思えば、昔から「目は口ほどにものを言う」タイプの人間だった。だから、私もこうしてやられてしまったんだろう。

「かーわいい」
 触れるだけのキスをされても、いつもの抵抗はできなかった。今の私は、いつもの私じゃなくなっている。
「なあ、俺んち……寄ってくだろ?」
 確信に満ちた笑みさえ、素直に格好いいと思ってしまう。返事まで素直に返すのだけはためらって、服を握りしめたままの手に力を込めて、俯きがてらうなずく。
「お前さ、急激にかわいくなんのやめてよ。俺も大変だよ」
 意味わかんない。私はそんなつもり全然ないんだから。
 服を掴んでいた手は、いつの間にか彼の大きな手のひらに包まれていた。そのぬくもりを噛み締めながら、「女」もいいかもしれないと、少しだけ素直に思った。畳む
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偽りからの卒業

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
お題は『卒業』です。主人公のモノローグオンリーです。

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 卒業するんだ。

 恐怖はある。肩まで伸びた、軽くくせのある髪を切るためのはさみは、握る手の震えを受けて役目を果たせそうにない。
 悪いのはすべて自分。笑顔を向けてくれて、ときには二人きりで遊びにも誘ってくれた彼をずっと騙して、でも本当の自分をさらけ出せずにここまで来てしまった。

『君のこと、ずっと好きだった』

 告白してくれたのに、逃げてごめんなさい。
 変わらずバイト先に来てくれて、何もなかったように振る舞わせてしまってごめんなさい。

 本当は好きだと、付き合って欲しいと言いたい。
 でもきっと失望する。冷たい視線を向けられて、捨て台詞のひとつでも吐かれて目の前から立ち去ってしまうだろう。
 胸が締め付けられる。今までのツケが回ってきただけなのに苦しいなんて、自分でもいやになる。

 気づけば、向かいにある顔が醜くゆがんで揺らめいていた。
 馬鹿としか言えない。みっともなく泣くくらいならさっさとやめて、本当の自分で勝負すればよかったんだ。諦めろと言い聞かせてもできなくて、なのに向けられる好意に甘え続けた結果が「これ」だ、自業自得にほかならない。

 はさみを、改めて握りしめる。
 目元を荒々しくこすって、弱さの象徴を見つめる。

 彼が好きなのは、都合のいい夢を見続けた偽の自分。
 自分が好きなのは、常に本当を見せてくれた彼。
 フェアじゃないままの恋ほど、虚しいものはない。

 髪を空いた手でつかみ、刃を当てる。
 しゃくり、しゃくり、音をたてるたびに、影に隠れていた、情けなくもがいていた自分が暴かれていく。

「はは、なんか……あっけない」

 スマートフォンを手にとって、履歴の一番上にある彼の番号をタップする。呼び出し音がこんなに怖いと思ったことはなかった。

『も、もしもし?』
「こんにちは。……あの、今って時間、あります? その、話がしたくて」
『も、もちろん! じゃあ、場所は……』
「あの喫茶店でいいなら、そこで」
『オッケー! じゃあ、またあとで!』

 いつもより声が低いって、不思議に思わなかったかな。
 女言葉も使ってなかったけど、気づいてたかな。
 苦笑が漏れる。あのテンションじゃ、絶対気づいていない。安心すればいいのか、がっかりすればいいのか、自分もわからなかった。

「それじゃ、行きますかね。……オレ」畳む
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さあ、賭けを始めよう

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「好きなヤツを振り向かせるってほんとムズいんだよ」
「まあ、そこは否定しねーよ。ってか、まさか恋愛相談だとは思わなかった……」
「苦手なのにごめんて。お前しか頼れなくってさ」
 夕暮れ時の教室で、幼なじみでもあり親友でもある彼と二人、顔を付き合わせて語る。かすかに聞こえる蝉の鳴き声が、ただでさえ不安定な決意をさらに鈍らせにかかってきて鬱陶しい。
 居残りに誘った時、最初は面倒そうな顔をしておきながらもこうして承諾してくれたコイツが実は優しい性格だと知っている人は数少ない。柔和とは言いがたい表情が癖のようになっているから、普通の人間はあまり寄りつかない。
「で? その好きなヤツとやらはどんなヤツで、どんだけ好きなんだ?」
「……先に長さを言うと、ずっとだ」
「ずいぶんふわっとしてんな」
「ここに、入学する前から」
 予想外だというように、少し切れ長の目が大きくなる。わりと珍しい表情だ。自分が落ち着きのない性格のせいか彼はいわゆるストッパー役に回ることが多く、おかげで冷静さを身に付けられたと語っていたのを思い出す。
 それでも、まだ崩すことはできたらしい。
「それって、もしかして中学も同じってことかよ?」
「当たり」
「……ほーう」
 彼がわずかに身を詰めてきた。顔の右半分を照らしている夕日の効果で、片目だけが無駄に輝いているように映る。
「お前にそんな相手がいるなんて知らなかったわ。もしかして小学校もだったり?」
「だとしたらどうする?」
「どうするもこうするも……つーか、もしかして俺が知ってるヤツだったりすんのか?」
「どう……かな」
 咄嗟に濁してしまう。白黒つけたがる親友には逆効果だと悟っても後の祭り、整った眉がわずかに寄っていた。
「お前さ、どうかなってことはないだろ。付き合い長いんだから下手なごまかしは通用しねーぞ」
「だよな。長いんだよな、オレ達」
 初めて互いを認識したのは幼稚園児の時だった。母親同士も仲のいい幼なじみだったこともあり、自然と二人で過ごす時間が増えていった。性格は似ているどころか対極に近いのにやけに気が合って、何よりとても楽しくて、心地よくて、気づけば離れられなくなっていた。
 その親友はますます不可解といった顔をしている。
「……俺、一応お前に、相談に乗って欲しいって言われたからわざわざ残ってんだけど」
 ――わかってる。お前の言いたいことはわかってるよ。
 けれど、いざ本番を迎えたらこの足は一歩を踏み出しかけて震えている。心の葛藤がそのまま出てしまっている。ここまでへっぴり腰だとは、ひたすら情けない。
「……それなら俺、もう帰っていいか?」
 言うが早いか、親友は深いため息をつきながら立ち上がった。慌てて腕を掴んで引き留める。
 ――ダメだ、ダメだ。
 そうだ、迷っている暇なんてない。はじめの一歩を出した瞬間から、立ち止まる選択肢は残されていなかった。
「何だよ、やっと白状する気になったのか?」
 一体何を渋っているのか全然わからない。
 真実を知らない親友の無言の訴えに苦笑したくなる。
「……幼稚園からの、付き合いなんだ。そいつは」
 顔まで見る勇気はなかった。喉が震えてうまく声が出そうにない。
「俺もそれくらいの付き合いだけど、そんな女いたっけか?」
「ちょっと素直じゃなくて、憎まれ口つい叩くようなところがあるけど、面倒見がよくて。いつもオレ、甘えちゃうんだ」
 親友の言葉が止んだ。勘が鋭いから気づいたのかも知れない。それでも懸命に否定のための材料をかき集めている、そんなところだろう。
 顔が見られないなどと言っている暇も、もうない。気力を振り絞って、頭を持ち上げる。

 ――本当の本番は、ここからだ。

「……わかるだろ?」
 格好つけてもやっぱり目を逸らしたいし、答えを聞かずにこの空気ごと放り投げて、すべてを振り出しに戻したくもなる。
 できるわけがなかった。苦痛が続く階段を上りたくなくて、出口へ向かいたくて、仕掛けたのだから。
「嘘、だろ。……まさか」
 驚愕と不信と戸惑いの混じったような、ごちゃごちゃな双眸が自分を捕らえる。
 急激に喉が渇いてきた。熱が出ていると錯覚しそうなほど、顔から汗が吹き出ているのがわかる。
「吉田先生、だったなんて」
 瞬きを五回ほど繰り返したところで我に返った。
 小学生時代の担任のわけがあるか。というか本気で言っているのかコイツは? わざとなのが見え見えだ!

「っざ、けんな……!」

 親友が短い悲鳴をあげながら窓際までよろめき、背中を預ける体勢になった。すぐさま両腕を親友の両端に固定する。
 ――逃がさない。ここまで来たら、逃がしてなどやらない!
「お、おい! 外から見えるだろ、落ち着けよ」
「本当はわかってるくせに!」
 薄い唇を固く引き結んで、水面のように揺れる視線をこちらに向けて来る。ここまで狼狽するなんて、予測不可能な展開に弱いのは相変わらずだ。
 見慣れているはずなのに、状況を忘れてつい可愛いなんて思ってしまう自分に嫌気が差す。

「お前……本気、なのかよ」
「冗談で、こんな真似できるわけないだろ」
 唇に一瞬、触れる。呆然とこちらを見返す親友にもう一度触れたくなるが、堪える。

「オレが好きなのは……お前だ」

サイはもう投げられた。
オレが勝つか、お前が逃げ切るか。
賭けは始まっているんだ。

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遅咲きない青春

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こちらのお題 に沿って書かせていただきました。

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「青春はいいものだからって、自分の欲に身を任せすぎるのはよくないって私は思ってたのよ」
「言ってた言ってた。だからあの頃の宮本さんはすごーく努力してたよね」
「そうよ。人生設計をしっかり立ててたわ。後悔したくなかったのよ」

 学生といえば青春。
 青春はいい。その時にしかできないことがたくさんあるから後悔しないよう、感情のまま好きに行動した方が絶対にいい。

 くだらないと思ってきた。
 所詮、その場限りの甘い誘惑。悪魔のささやき。それに身を任せすぎて、先に待つ未来は失敗したと嘆く我が身に決まっている。
 だから周りが恋に遊びに浮かれる中、私は人生の設計図を蜜に作り上げていた。
 こんな世の中だからこそ絶対に後悔したくない。安泰な人生を生きたい。
 目の前でニコニコと笑みを刻んでいる、数年ぶりに再会した元同級生のように、呑気に過ごしている暇はなかった。

「高三だったから当たり前かもだけど、それにしたってきっちりしすぎっていうか」
 彼の性格を考えれば、その返答はある意味妥当だった。私にはある意味でもなく妥当で必要な行動だった。
「皆川くんは遊び人だったものね。むしろ緩すぎよ」
 ビールの注がれたグラスを握る手に、自然に力が入る。
 目に留まった時は、友達と大きな声で笑い合ったり廊下でふざけ合ったり、ときには女子と楽しそうにお喋りしていたり、まさに青春の一ページみたいな光景を繰り広げていた。
「そう? むしろ年相応じゃない? ってかその言い方だといやらしーい響きに聞こえるんだけど~」
「そ、そんなわけないでしょ!」
 アハハ、と軽快に笑う彼に浮かぶのは苛立ちばかり。
 無駄に爽やか系な顔立ちなのが、また増長してくれる。
「私にも遠慮なく声かけてきて……近寄り難いって噂になってたの知ってたでしょ?」
「うーん、まあ知ってはいたけど特に気にならなかったよ。だって宮本さん優しい人だったし」

 思わず変な声が出た。私に対して優しいなんて形容使う人、初めてだ。もしかしなくてもからかわれてる?
 顔にも出ていたのか、皆川くんは目元を和らげて小さく笑った。
「優しいよ。まあ、厳しいとこもあったけど周りをすごくよく見てるし、困ってる人がいたらフォローしてたじゃん」
 そんなに彼に観察されていたのかと思うと、今度は恥ずかしさがこみ上げてくる。酒が入っていてよかった。
「だから、宮本さんのことスカウトしに来たんだもの」

 呆然と、彼を見つめた。
 何を、言っているの。
 そういえば、しつこく呼び出しを受けたからわざわざ来たのに、まだ具体的な理由を聞いていない。いきなり昔話から始めるから、つい乗ってしまった私も悪いのだけれど。

「俺の会社に入ってくれない?」
 テーブルに両肘をつき、その手のひらに顎を預けたポーズをしながら、さらりと彼は告げてきた。
 意味が、よくわからない。
 大体、「俺の」会社ってどういうこと。
 いきなり皆川くんが吹き出した。雰囲気をあっという間に台無しにされて、このまま帰ってやろうかと本気で考えてしまう。
「あ、ごめん、ごめんなさい。ただ、宮本さんが間抜けな顔してるの初めて見たから、つい」
「っ、ふざけてないで……!」
「実は、会社作ろうと思ってるんだ」

 耳を疑ってしまった。
 皆川くんが、学生の頃に遊びまくってた皆川くんが、起業だって?
「俺、事務とか細かい仕事がてんで苦手でさ。そんで、ぜひ宮本さんに……と思って。さっき会社辞めたって言ってただろ? 宮本さん的にはイラつくかもだけど、俺的にはすごいチャンスだと思ってるんだ」
 二年勤めた会社は、時間を重ねれば重ねるほど私の描いていた理想とずれた事実を突きつけてくる場所だった。転職先の目処もたてないまま辞めたのは、今考えると本当に私らしくなかったと思う。
 後悔はしていなかったけど、皆川くんに愚痴同然の告白をしていたのは完全に八つ当たりだった。順風満帆そう見えていたから、なんてひどい思い込み……だと今さら申し訳なく思っていたら、まさかそんな話を隠し持っていたなんて。

「……他に、人いないの」
「え、あ、俺入れたら三人いるよ。でもみんな、外回りタイプばっかでさ。実力も人脈も言うことなしなんだけどね」
 皆川くんもどちらかといえば同じタイプだと思う。起業にあたって人脈はとても大事だと聞いたことがあるから、少なくとも彼が勢いだけで始めたわけではないと理解はできる。
 わからないのは、たったひとつ。

「なんで、わざわざ私なんかを……」
 特別、仲がよかったわけじゃない。
 ただ、物珍しさでなのか皆川くんから話しかけてきたり、文化祭のような行事があった時は一緒に実行委員をやることがあったり、それくらいの付き合いしかなかった。
「いや、まあ……宮本さんしか思い浮かばなかったというか、宮本さんが、よかったというか」
 なぜか視線を逸らしながら言われた内容はとてもむず痒くて、でも不快じゃない、じんわりとした感触を胸の中に生んだ。
 とにかく変に落ち着かない。どうにかしたくて、無駄にビールを呷ってしまう。
「……どうせ、その三人も皆川くんみたいな雰囲気なんでしょう」
「そ、その通り。鋭いね」
 とりあえずというように呟いた言葉に、皆川くんも乗ってきてくれた。
 彼と似た者同士の集まりなら、会社も「そう」なるのは目に見えている。
「皆川くん昔とあんまりノリ変わってないし、作ろうとしてる会社もきっと、大人になっても子供の心を忘れないように! みたいな雰囲気になるんでしょうね」
「さすがの、分析力」
「私、そういうノリが苦手だってさっき言ったわよね」
 だんだん皆川くんが小さくなっていくように見える。
 変なの。あの頃はどっちかというと私が振り回されていた方なのに、今は逆だ。

「……宮本さん。苦手って言ってるわりに、顔、笑ってますけど」
 思わず言葉を詰まらせてしまった。
 そう、私は少しだけ、楽しいと感じている。皆川くんのにやにや顔を見ればからかわれてもおかしくないから、素直に認めたくなくてうまくごまかそうと思った、のに。
「私も今から遅い青春でもしてみようかなって思っただ、け……」
 何を、口走った? 思わず口元を押さえてももちろん効果はなく、皆川くんも固まっている。
「それ、ってもしかして」
「ちが、違うの。私は別に」

 それ以上、反論を続けられなかった。
 ……もしかして、心のどこかで羨んでいた?
 私は自分で納得したつもりであの学生生活を送っていたけど、その時は気づかなかっただけか、見て見ぬ振りをしていたのか。「くだらないことをやって笑い合いたい」という気持ちが少しあったのかも知れない。
 その時に気づいていれば……いや、それまでの私を考えたらきっと素直に認められなかった。
 私も、しょせんは子供だったんだ。

「ありがとう!」
 いきなり手を握られて、反射的に振りほどこうとしたけどさすが男、全然びくともしない。
「話、受けてくれるってことだろ?」
「ちょ、ちょっと」
「ほんとありがとう! すっげー嬉しい!」
 大げさじゃないだろうかと思いつつも、あの頃を思い出すような満面の笑顔に私も不思議とつられてしまう。
「ほんと、変わらないわね。まだ学生やってるみたいな気持ちになるわ」
 思わず呟いた言葉に、皆川くんはきょとんと私を見つめていたけど……

「宮本さんも変わらないよ。……ああでも、大人っぽくなったというか、きれいになったかな」

 心持ち、距離を詰められた気がする。
 今まで見たことのない、女の子なら誰でも喜びそうな笑みに変えて。
 今まで言われたことのない言葉を、向けられた。
「はは、顔真っ赤だ」
「っば、ばかなこと言ってないで! いい加減この手も放してっ」
 あっさり解放された手を固く握りしめる。
 心臓がやけにうるさいのは、珍しい一面を見せられたせいだ。物珍しくてびっくりしただけ。ほら、今はもうあの頃の皆川くんになってる。私みたいな人間にも話しかけてくるくらい人見知りしなくて、ちょっと人を小馬鹿にしたような、からかい混じりの笑みが似合う顔をしていて……。
「……もう、ほんと宮本さんさぁ……」
 溜め息とともに吐き出された声には、なぜか苛立ちが含まれているように聞こえた。
「な、なに?」
「いや? なんでもないよ。ごめんね」
 また、戻った。いや、かわされた?
 意味がわからない。相変わらず忙しい人だと思う。

「それじゃ、改めまして。宮本さん、よろしくお願いします」

 また、違う笑顔を向けられた。
 経営者としての覚悟を背負った、同い年なのにずっと大人に感じるものだった。

「……よろしく、お願いします」
 またうるさくなった心臓の上を、そっと握りしめた。畳む
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文字書き60分一本勝負SS・週に一度の楽しみ

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
BLCPです。大学生と猫カフェ店長のお話。勢い任せすぎな内容ですw

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「ミーアちゃんにも……店長にも、会いに来てるって言ったら」
「……え?」
 この口め、バカか。
 言うつもりなんてなかったのに、つい、滑ってしまった。
 あなたがあまりにも可愛い顔して、飛び上がるほど嬉しいことを言ってくるから。
 でも、せめてここで止めないと。


 可愛い動物が好きそうな外見はしていない。我ながら悲しい自己分析だと思う。
 それでも、週に一度の動物カフェめぐりはオレにとっての最高の癒やしでありやめられない趣味で、その最中にオレはある店長と出会った。
「君、猫好きなんだ! 嬉しいな〜」
「猫っていうか可愛い動物が、ですけど……でも、男一人でこういうとこって気持ち悪くないすかね?」
「なんで、そんなこと全然ないよ! 少なくとも僕は新しい仲間ができたみたいですごく嬉しいよ」
 自分より背の低い年上の彼はそう見えないほわんとした笑顔で、一人きりのゴツめな男性客で若干遠巻きに見られていたオレに話しかけてきてくれた。

 驚くほどあっけなく、恋に落ちた。

 週末限定で「出勤」するというメス猫のミーアちゃん――黒白で結構人懐こい。オレにもずいぶん心を許してくれるようになった。と思う――目当てという口実で、週一の逢瀬を楽しんでいた。

「ほんとにいいの? 片付け手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ。オレも猫ちゃん達とまだいれるの嬉しいですから」
 逢瀬も三ヶ月目に突入すると、ただの客と店長の間柄ではなくなっていた。互いに一週間何があったかを報告しあってから好きな動物の話へと移る、という流れがすっかり定着している。オレも同士の仲間が増えた。
 店長の、熱のこもった大好きなもの話に付き合っていたらあっという間に閉店時間を迎えたので、どさくさついでに居座っている。オレとしてはむしろ喜ばしい状況だった。
「正直、手伝ってくれて助かるよ〜。ほら、お客さん増えてきたでしょ? だからだんだん一人じゃさばききれなくなってきてね」
 それなら、バイトでも申し出てみようか。特に募集はしてないなと思ってはいたけど、今の話を聞いたら雇ってくれそうな気がする。この特別な時間を、週一だけにしたくない。


 瞬間、店の扉にぶら下がっている鈴の音がした。
「あ、今日はもう閉店――」
 店長の声が止まった。不思議に思って見やると、今まで見たことのないような強ばった表情をしていた。
「お前の姿を見かけた気がしたけど……マジで当たってたのか」
 スーツ姿の男は吐き捨てるように言った。反射的に男と店長の間に立つと、鋭い眼光を送られた。
「誰だお前」
「バイトです。アンタこそなんです、いきなり」
 この場に猫ちゃん達がいなくてよかった。勘だけど、こいつは躊躇なく蹴り飛ばしそうな雰囲気をしている。
「ここ、猫カフェだって? よく動物まみれの店でバイトできんな」
「……それなら、今すぐお帰りください。なんの得もないでしょう」
「それだけじゃねえよ。後ろで震えてるあいつ、男が好きなんだぜ? どうすんの、狙われちゃうよ?」
 後ろで息を吸う音が聞こえた。
 オレも驚いた。それは否定しない。でも気持ち悪いなんて感想はもちろんなかった。オレは店長という人を好きになったし、男でも女でもきっと関係なかった。

「大丈夫ですよ」
 振り返って、怯えている店長の手をそっと握る。震えた声で、それでも安堵したように名前を呼ぶ店長をさらに抱きしめて安心させたかったけど、先にアイツを何とかしないといけない。
「はは、お前もそいつにやられちまったのかよ。どうせ一時的な気の迷いだったって後悔するだけだぜ!」
「いいから、とっとと出てけ」
 身長の高さとゴツめの見た目がこんな形で役に立つとは思わなかった。
 そそくさと背中を向けた男が完全に視界から消えるのを待ってから、改めて店長を振り返る。とりあえず近くの席に座るよう促して、震える背中を撫でてやった。
 ややして、萎れた花のような笑顔が向けられる。
「……ごめん、ありがとう。今日は、君に助けられてばっかだね」
「いえ、気にしないでください。店長こそ大丈夫ですか?」
 アイツは、店長が大学生時代に付き合っていた相手らしい。
 今思うと、動物嫌いでイライラが募ると暴力を振るうような男にどうして惹かれたのかわからないと、店長は苦笑しながらこぼした。
「向こうの方から別れてくれって言われた時はほっとしたよ。やっと興味をなくしてくれたって……彼と付き合ってる間は、怖くて動物も飼えなかったんだ」

 思わず、店長を抱きしめていた。こんな重い話をしている時にある意味拷問じゃないかと、すぐ我に返って身を引こうとしたのに、できなかった。
「君の腕の中、すごく安心する……君がいてくれて、本当によかったよ」
 今度は、驚きのあまり固まってしまった。慌てたように店長が抱擁を解いても、身体も頭も動かない。
「ご、ごめん! 気持ち悪いこと言っちゃったね!」
 違う。オレが言いたいのは、そんな期待をもたせるようなことを言っていいのかって――

「……オレが、週一でここに来てるの」
 口が勝手に動いてしまう。
「ミーアちゃんにも……店長にも、会いに来てるって言ったら」
「……え?」

 そう、ここで止めないとだめだ。店長にも申し訳ない。純粋に助けてくれてありがとう、という感謝の気持ちなだけのはずなのに。
「す、すみません! なんでもないです、忘れてください。えっと、そろそろ帰りますね」
 どうしていいかわからないオレが取れる行動は最低にも「逃げる」だけだった。これ以上ここにいたらどんなうっかりをしでかすかわからない。多分もっと店長を傷つけてしまう。

「待って」

 凛とした声と、腕をつかむ震えた手に、足を止められた。
 でも振り返れなかった。まるで叱られた犬のような心境だ。
 伝わってくる震えが、一層強くなる。

「……僕が、ミーアと一緒に、君を待ってたって、言ったら」

 訊き返すのは、今度はオレの番だった。
 見下ろした先の店長は、見間違えようのない赤い顔をしていた。

#[BL小説] 畳む
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文字書き60分一本勝負SS・本命

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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
男女CPです。最後が尻切れトンボですw

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 私は絶対、首を縦には振らない。

「いい加減認めなよ。俺のこと、好きになっただろ?」
「なってない。あんたみたいな遊び人、誰が好きになるもんですか」
 放課後、人のいない教室の窓辺でくだらない攻防が続いている。いい加減にしてほしいのはこっちなのに、目の前の男が壁と化しているせいで叶わない。
「もしかして、まだ信用できないの? 俺なりに、告白の証明になるような行動をしてきたつもりなんだけど」
 整った眉をわざとらしくひそめて、彼は嘆く。
「信用できない。大体、今まで私とまともに話したこともなかったくせに、よく言うわ」
「それは近寄り難い雰囲気だったからって言っただろ? ほんとは話ししたかったんだよ、ずっと」
「私が悪いって、言うの……」
 ああ、もう! 苛立ちで歯を噛みしめる。
 この場面だけを誰かが見ていたら、多分悪者になるのは私だ。
 でも違う。誤解している。「悪」なのは間違いなく、彼。そう断言できる証拠を私は握っている。
「私、知ってるんだから」
 まっすぐに彼を睨みつけて、うるさくなる心臓を宥めるように制服の裾を固く握る。
「あんたが他の男子と、私を落とせるかどうかで賭けてたことをね」
 細めの双眸がわずかに開かれた。初めて「本物」と信じられる反応だった。
 見たのは偶然だった。それでも、ずっと抱いていた違和感の正体にようやく気づけたことが嬉しかった。すっとした。
 どこか人を小馬鹿にするような態度が目立ちながらも、女子に大人気の彼が真面目一辺倒な私なんかを相手にするはずがない。その考えが見事証明されたようなものだった。
「……へえ、さすがだな」
 不敵な笑みに変わっていく。特に動揺はしていないようだけど、私がそれだけの存在だったという自覚が強まるだけでなんとも思わない。
「でも、さ」
 だからもう解放して。
 口にするはずだった台詞は、彼の声に遮られてしまった。
「君はもう、そんなの関係なく俺に惚れてるだろ?」
 ――こいつは、何を。
「そんな、わけないでしょ。ばかにしないで!」
 反応が遅れて悔しい。でも仕方ない。あまりに的はずれすぎることを言うから……!
「おとなしく素直になった方が楽だよ?」
 動揺が収まらないまま、あろうことか彼の腕の中に閉じ込められてしまう。ほのかな香水の匂いに頭がくらりとした。
 これ以上は危険だ。何も得にならない。
「離して……私は別に、好きになんてなってない……!」

「俺が、賭け事関係なしに好きになったって言ったら?」

 いつもの軽い調子ではない、地に足の着いたような声音だった。
 まさか、そんなはずはない。ほんの数日前に、確かに彼は賭け事をしていると自分で証明していた。他の男子と実に楽しそうに笑っていた。
 それを自分で覆すと言うの。
「信じられるわけない! あ、あんな楽しそうにしてたくせに、私はちゃんと見て……」
「下手に言い訳しても信じないだろうから、俺は同じことしか言わない」
 好きになったんだ。最初はゲームのつもりで接近したけど、好きになってたんだ。
 耳元で呟かれる、思ってもみない言葉の数々に全身が熱くなっていく。頭の中で必死に繰り返していた否定の言葉に、説得力がなくなっていく。
 なんで私なんかを。信じられない、信じられるわけない。こういうことでもなければ接点なんてないような存在だったのに、急にこんな展開になるなんて。
「顔、真っ赤だ」
 いつの間にか抱きしめていた腕が緩められて、正面に小さく笑う彼の顔があった。
 慌てて、両手で顔を覆う。よりにもよって一番見られなくない状態の時に、もういい加減にして欲しい。――私が、保てなくなる。
「その反応、もう答えが決まってるようなものだけど……いいんだよな?」

 私は絶対、首を縦に振らない。そう、決めていたのに。畳む
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文字書き60分一本勝負SS・追いかける

20210101233511-admin.jpg

「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
男女CPです。年下×年上な組み合わせ。

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 早く大人になりたかった。
 大人になれば、どうあがいてもどうにもできない年齢差なんて気にならないようになると思っていたんだ。

「やっぱり年の差って結構でかいよなぁ」
「え、急にどうしたの?」
「……べっつにー。何でもない」

 しまった、つい声に出してしまった。
 誤魔化しにならない誤魔化しをしてしまったけれど、彼女は不思議そうに首を傾げるだけだ。セミロングのくせ毛がふわりと揺れる様子は相変わらず可愛い。

 この春からやっと社会人になり、念願だった同棲生活もスタートできた。それでも「年下」という意識はしつこくこびりついている。
 好きになった時、彼女は大学生だった。
 告白して付き合えるようになった時、彼女は卒業を間近に控えていた。
 そして今――すでに彼女は社会人人生を四年先に歩んでいる。

 大人になれば、と子供だった自分はすべて解消すると思っていたのに、現実はひとつも変わっていない。
「……年上な彼女は、やっぱりいや?」
 だんだん眉尻が下がっていったと思ったら、とんだ勘違いをさせていたらしい。慌ててテーブルにカップを置いて、向かいに座る彼女の手を握る。

「違うよ! ……オレはやっぱ、大人になっても年下属性だなぁ」
 多分彼女は気にしていない。対等に見てくれている。悩んでも無駄に過ぎない。……わかっている、わかっているのに。
 まっすぐな視線を向けていた彼女の口元がふっと緩む。ああ、見破られた。

「私、ずいぶん頼りにしちゃってるけどなぁ」
 よくそう言ってくれるけれど、慰めじゃないのだろうか……。
「ほら、結構情けない姿とか見せちゃってるし。私の方が年上なのに、年下みたいって思う時結構あるんだよ」

 確かに、よく泣いたり怒ったり、付き合う前までは見たことのない表情をよく目にする。最初は驚きっぱなしだったのを今さら思い出した。
「でも、そう思われてるってことは……年上の威厳ってものを、無意識に保ちたいって思っちゃってるのかもね」

 いたずらっぽい笑みに変えて、どこか楽しそうに彼女は続けた。
「……それでも、本当に頼りにしてるんだよ。毎日がすごく幸せなの。もう、あなたなしじゃ生きていけないくらい」
 今度は頬を染めて、こちらの手を握り返しながらわずかに視線を逸らし、告げてきた。

 ――やっぱり、敵わない。
 多分年上でなかったとしても、勝てる要素はゼロに等しいかも知れない。
 ――そうだ。年齢差を嘆いている暇があったら、これからも彼女に頼られる男でいられるよう頑張らねば。

 彼女の背後に立ち、そっと腕を回す。熱さの残る頬に唇と吐息を寄せた。
「オレも、お前がいないと無理だよ。もう、絶対離せないから」

 追いかけ続けた背中に、今やっと追いつけた気がした。畳む

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2022年10月01日(土) 22時20分50秒