Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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ふたつの直線、交わる日はいずこ

#男女もの

——諦めない。気持ちを受け入れてもらえるまで。
*平泉春奈×エブリスタ 短編小説コンテスト 応募作品です。
エブリスタで読む場合はこちらから

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「すっかり遅くなっちゃったわね」
 依頼を受けた時は、まさか都内を飛び出すことになろうとは思いもしなかった。思わぬ遠出になってしまった。
 依頼主の関係者に話を聞く必要が出たまでは仕方ないものの、事情で正体を明かせない、理由も明かせないのはさすがに参った。
「でも、おかげで完璧な報告ができるんじゃないですか?」
 私の事務所でただひとりの所員である彼は弱々しくも明るく笑った。
「そうね。これなら謝礼もたんまりもらえることでしょう」
「さすが、たくましいリーダーですよ」
「でしょ?」
 上司と部下の垣根を越えたやり取りも、すっかり板についた。とても心地のいい、まさに理想的な状態だとつくづく実感して、幸せにさえ感じる。
 腕時計を確認すると、もうすぐ日没を迎えそうな時間だった。この道をまっすぐ進めばバス停に辿り着く。便はまだ残っているはずだった。
 背伸びついでに横を見ると、湖面に橋がかかっているように、オレンジ色の光が山の方へと伸びていた。今の疲労感に相応しい、優しく穏やかな景色ができあがっている。仕事でなければカメラ片手にゆっくり散歩を楽しんでいただろう。
「秋は紅葉とかすごそうよね、ここ」
 少し見上げればまだ瑞々しい葉をつけている木々が出迎えてくれる。先の季節を想像したら、ますますプライベートで訪れたくなった。
「実際、春と秋はそれなりに混むところらしいですよ。デートスポットとして密かな人気があるって、ネットの記事に書いてあったかな」
「へえ。じゃあ、さっきカップルの振りをしたのは間違いじゃなかったってことね」
 思い出してつい笑いそうになる。彼が妙に慌てふためいていたからだ。依頼人からたまに告白されることもあるらしいのに、意外と初なのかそもそも恥ずかしがり屋なのか。
「デートはこういうところでしたい派?」
「……僕は、あんまりこだわりはないですよ。好きな人とだったらどこでも楽しいと思うし」
「そうなの? ああ、でもあなたらしいね。好きな子が聞いたらすごく喜ぶんじゃない?」
 手を繋いでにこにこ散歩を楽しむ姿が頭に浮かぶ。きっと微笑ましい光景に違いない。
「所長は、どうなんですか?」
 声のトーンが変わった気がして、思わず足を止めた。
 少しずつ弱まる光に照らされた彼の表情が、変に真剣に見える。たいした話題でもないのに。
「私は、そうね。どっちかっていうとこういう静かなところとか、自然が多いところがいいかな。のんびりしたいから」
「のんびり、ですか。所長なら酒とつまみ、絶対持って行きそうな気がしますけど」
「あ、言うじゃない。確かにお酒は大好きだけど、飲み屋とかで思いっきり楽しみたいタイプだからね私」
「ええ、本当ですか?」
「本当よ! 何回も一緒に飲みに行ったことあるでしょ?」
 ……普通だ。
 さっきの違和感が嘘だったように、元通りの空気が流れている。
 単なる勘違いだったのか?
「じゃあ、それを証明するためにも今度出かけませんか?」
 一歩、彼が距離を詰めた。光が背中に隠れて、表情が見えにくくなる。
「何、デートでもしてくれるの?」
 再び変な緊張感を覚えて、わざとおどけてみせた。
 何が正解なのか、もはやわからない。こんな彼は知らない。
「……所長がそれでいいなら、僕、本気で誘いますよ」
 ――自分の身体が、どこかに連れて行かれたかと思った。
 視界が白く染まる。
 右目が少し眩しい。
 私以外の熱が、私に触れている。
「……ちょ、ちょっと?」
 ドラマや映画を観ていて、「どうしてすぐ行動できないの?」と登場人物に対してぼやくことが結構ある。
 実際、できるわけがなかった。
 体験し慣れてないほど、予測不能であればあるほど、頭が回らず、全身が縫い付けられてしまう。
 そして、意味もなく自問してしまう。
 どうして、私は彼に抱きしめられているの?
「さっき、所長が恋人の振りしてくれたとき、年甲斐もなく嬉しいって思ってました」
 伝わってくる心臓が速い。緊張しているのは明白だった。
 これが冗談なら、かなりの芸達者と言える。
「好きです。ずっと好きでした。僕が依頼人だったときから、ずっと」
「そんな、前から……」
 思わずつぶやいていた。
 働かせて欲しいとあんなに頼み込んできたのは、それが理由? 何回断っても諦めなかったのは、私を想ってくれていたから……?
 さらに引き寄せられる。身じろぎしても力は緩まない。
「気づいていたんじゃないですか? 僕の気持ち」
 半分正解で、半分外れだ。
 特別な好意をもってくれているのは、何となくわかっていた。だが、そこまでだった。深く探ろうとはしていなかった。
「所長の隣で過ごすようになって、どんどん好きになっていきました。仕事に誰よりも誇りを持っているところも、まっすぐ過ぎて時々不器用になるところも、可愛いものが好きなところも、何もかも」
 彼にはいろんな私を晒してきたと思う。
 それでも、決して否定することなく隣に立ち続けてくれていた。いつしか心地よさに変わっていったのは、嘘じゃない。
「僕は、あなたの特別になりたい。あなたの近くに、いたいです」
 嬉しい。
 素直な気持ちだった。こんなに想われて、いやなわけがない。もったいないとさえ思う。
 無意識に拳を握りしめていた。変に震えて、あまり力が入らない。
「……ありがとう」
 何とか、最初に言いたい言葉を返せた。
「私も好きよ。あなたがとても大事」
 抱きしめてもらえて、敢えてよかったかもしれない。顔を見ながらなんて、とてもできそうにないから。
 息をのむ音が聞こえたところで、緩く首を振った。
「私にとって……あなたは、最高の相棒よ。それ以上でも、それ以下でもない」
 時間が止まったようだった。
 空気が固まっている。微風さえ感じない。彼は動かない。
「他の誰も、代わりなんて務められないわ。私の隣に立てるのは、間違いなくあなただけ」
 彼が求めている答えではないとわかっている。ある意味、最上級の残酷な言葉を投げている。
「……仕事上での、相棒ですか」
 絞り出すような声がかすかに震えていた。
「光栄です。もったいないと思います。でも……仕事上、なんですね」
 納得できないと、言外に告げている。
「他に好きな人がいるんですか?」
「いないわ」
「僕みたいな男は眼中にもない?」
「そういうわけじゃない。あなたは本当に素敵な人だと思う」
「だったら!」
 縋り付かれているような心地だった。
「だったら……いいじゃ、ないですか……」
 もしかしたら、泣いているのかもしれない。私のせいで、いつも纏っている穏やかな空気を澱ませてしまった。
 それでも答えは変えられない。
 たとえ、たとえ彼がいなくなってしまったと、しても。
 ――本当に? 違う。本当はいやだ。彼に「相棒」であることを受け入れて欲しい。そして隣に立ち続けて欲しい。
 何て一方的なわがままだろうか。こんなわがまま、彼が受け入れるとは到底思えない。なのに、私は説得できる言葉を必死に探している。
「……私、本当に仕事だけね」
 彼に訊き返されるまで、声に出していたことに気づかなかった。
 夕日に照らされた彼の瞳は、陽炎のようにひどく揺らめいている。耐えきれず、少し目を伏せた。
「仕事の報告はすらすら言えるのに、駄目ね。あなたのことが、恋愛感情とか、そういうの関係なしに大事なんだってうまく言えそうにない」
「……うまく言えたとしても、意味なんてないです。僕は、あなたと恋人同士になりたい。あなたは、僕と相棒になりたい。着地点が違う」
 だから説得しても無駄だと、はっきり宣言されたも同然だった。
 力ない笑いがこぼれた。お互い、どこまで頑固なんだろう。どちらかが諦めなければまっすぐな道が映るばかりだ。
「はぁ……」
 距離を取った彼が、肺の中を空っぽにする勢いでため息をついた。
「やっぱり、勢いで告白なんてしたら駄目ですね」
 半分以上は山の裏側に沈んだ夕日を、正面から受け止めている。ぎりぎりまで細められた目が、やけに輝いているように見えた。
「本当は、わかってたんです。所長は僕のこと大事に思ってくれているけど、僕とは違う気持ちなんだって」
「……私、そんなにわかりやすい?」
「いつも仕事のことばかりなんですもん。仕事が好きすぎて、他が入り込む余地がないっていうか」
 何年も前に振られたときも同じことを言われた。その頃はまだ事務所を立ち上げたばかりで必死だったせいもあるが、仕事好きは当時も変わらなかった。
「それなのに……恋人の振りしただけで我慢できなくなるなんて、ほんと、格好悪い」
 身体の内側からじわりと熱くなってきた。裏を返せば、それだけ想いを募らせていたという証なわけで……。
 さっきの熱烈な告白たちを思い出して、自然を装って目線ごと俯く。
「何ですか、その顔。もしかして、今さら恥ずかしがってくれてるんですか?」
「い、今さらって、だって、いきなりだったし」
「でも、そういう反応してくれたんで、ちょっと自信つきました」
 そのまま歩き出した背中を、少し迷って追いかける。迷いを吹っ切った態度に見えるのは気のせいなのか。
 だとしたら、何を考えているのか。

「あなたの気の済むまで、相棒でいてあげます。その間に、絶対惚れさせてみせます。僕の諦めの悪さはよくご存じでしょう?」

 顔だけ振り返った彼は、あのときと一緒の笑顔を浮かべていた。
 社員として彼の採用を決めたときと、同じ。
「……何よ。一人で勝手に解決して、勝手に決めて」
 わざと彼を追い抜いてやった。聞こえた笑い声は空耳に違いない。
「大事な相棒が辞めるんじゃないかって心配だったんじゃないですか?」
 すぐ隣に並んだ彼の顔が目に浮かぶようで、正直悔しい。反論はしないが多分正しい。
「いいわ。あなたの挑戦、受けてあげる。でもそう簡単にいくかしら」
「長期戦はとっくに覚悟してます。でも、今まで通りだと思ったら大間違いですよ」
 回り込んできた彼の顔が、やけに近い。いつの間にか顎も掴まれて、動けなくなっていた。
「ちょ、っと。まだ付き合ってないのに、反則じゃない?」
 彼を至近距離で見つめるのは初めてだった。改めてなかなか整っていると実感する。それを活かして何度か偵察に向かわせたこともあった。最初は初々しかったけれどだんだん板についてきて頼もしく感じると同時に少し寂しさも―― 「また緊張してる。隠そうとしても無駄ですよ」
 呆気なく見破られた。
 いや、それよりもキスをされた。口ではなく頬だが、キスにかわりはない。
「じゃ、いい加減行きましょうか。帰れなくなっちゃいますしね」
 反射的に繰り出した拳は虚しく空振りに終わった。そのまま小走りで逃げていく背中をすぐ追いかける。
「頬もだめじゃない!」
「あれ、頬へのキスは親愛の証だって知らないんですか? 親が子どもにやったりするじゃないですか」
「私たちの関係は今そういうのじゃないでしょ!」

 もしかしたら、早まったかもしれない。
 相棒を失わない代償に手元にやってきた、変化の確定した日々を想像しただけで落ち着かない。
 これも、彼の作戦?
 だとしたら、バス停に着くまでにいつもの私を少しでも取り戻さなくちゃ。
 戦いはもう、始まっているのだから。畳む

その他SS 編集

【300字SS】永遠に

#男女もの

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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「おくる」です。

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 見送った日の背中が未だに忘れられない。
『……僕を信じて、待っててくれ』
 向かった場所は教えてくれなかった。連絡を取るのも禁じられた。お互いを唯一つないでいるのは、ネックレスに通した婚約指輪だけ。
 苛立ち以上に不安が大きかった。最悪の想像ばかりが脳裏をよぎって仕方ない。
「ごめんね、説得できなかったよ」
 ようやく、ようやく逢えた彼は、目を伏せながら当たり前のようにそう告げた。
 訊き返す声は、出なかった。
「人間と結婚したら君を殺すと言われた。秘密を知られるわけにはいかないって」
 寒い。足の力が抜けていく。
「わかってくれるよね? 僕は、君を誰にも渡したくないんだ」
 この感触は、薬指から?
 ……私、笑えてるかしら畳む

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【300字SS】甘い言葉をくれるひとは

#男女もの

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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「甘い」です。

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「貴方の声は簡単に私を虜にしてしまうの。耳が蕩けるようよ」
「なら僕は『君の瞳も格好いい声も柔らかい髪も、全部僕を虜にして離さない……君はまさに運命なんだ!』」

「「いやいや、甘すぎ!」」

 二人してお腹を抱える。まさか一言一句綺麗に揃うなんて、素晴らしい奇跡だ。
「ああ、こんなに笑ったの久しぶりだよ」
 笑いで生まれた熱が消えていく。現実が代わりに降り積もる。
「これで、きっと穏やかにいける」
 白いベッドに腰掛けたままの彼は、こうなって幾度目かの苦笑を零す。
「身体がなくても、僕はずっと君と一緒だ。今度は夢で、たくさん逢おう」
 意識して唇を持ち上げた。
「……忘れないで」
 忘れないよ。あなたが最初で最後だもの。畳む

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【300字SS】最初で最後

#男女もの

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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「初」です。

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「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。僕としては自分でよかったのかなって今でも思ってるけど」
「いいえ、いいえ。わたく、私こそ我が儘を聞いていただいて、感謝しています」
 もうすぐ今日が終わってしまう。
 終われば、この人の前にはもう、いられなくなる。
 最初で最後の初恋は、甘くもあり苦くもあった。
 ……大好きな人と一日、自由にいられただけでも、幸運と思わないと。
「ど、どうしたの? どこか痛い?」
「お気に、なさらないで。とても、幸せで」
 負の感情は一切含ませてはいけない。一番の宝物としてしまっておけるものにしておきたい。
「それじゃあ、さようなら」

 彼が引き止めてくれても、初恋は消える定めなのだ。畳む

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無意識な色仕掛け?

#男女もの

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②媚」を使いました。
一応お題に沿っている……つもりです😅
だいぶアホっぽいノリになりましたw

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「っもう、またなにするのよ……!」
 仕方ない。
「ごめんごめん」
「全然反省してないのも同じだし!」
 だって、本人はまったく狙っていないとわかっていても、どうしても「誘われて」しまうから。もちろん本人は悪くない、悪いのは完全にこっち。
「公共の場でやめてって前からずっと言ってるでしょ? もう」
 あ、そのふくれ面、上から見ると本当に可愛い。突き出た唇がちょっとつやつやしていて、今度はそこにキスをしたくなってしまう。ダメだダメだ、さすがに怒り狂っての帰宅コースになってしまう。下手したら一ヶ月はスキンシップを自粛せざるを得なくなる。ああ、でも……
「ぶっ」
「黙ってやられてばっかのわたしじゃないから。てかやっぱり反省してないじゃん!」
 手のひらで口元を覆われてしまった。
 というか相変わらず突き出たままの唇に加えて上目で睨んでくるその仕草は、はっきり言って逆効果だ。「わざとやってるだろ!」と突っ込みたくなってしまうほどだ。
 ……付き合う前から痛いほど実感していたことではあるが、天然の恐ろしさを改めて思い知らされる。
「ひゃっ!? な、なに!?」
 慌てて手を引っ込ませ、固く握りしめる。なにをされたかようやく理解したのか、今度は目線を上げてもっと鋭く睨み付けてきた。
「し、信じらんない……!」
 ……わかっているんだろうか。涙目のせいで、ある意味クリティカルヒット級のダメージを与えてしまっていると、実は理解したうえでやっているんじゃないのか!?
「……俺、本当にお前が好きだ」
「は、あ?」
「すごく可愛いって毎日思ってるし、離れたくないし、今すぐ同棲したいくらい」
 なんだこいつと思われてもいい。でも、爆発しそうなこの気持ちを落ち着けるにはこうするしかないんだ!
「や、やだやめてよ! そういうのも恥ずかしいからー!」
 丸い頬は真っ赤に染まり、丸い両目がさらに潤んでいく。しまった、逆効果か!? ならどうやってこの感情を落ち着かせればいいんだ……!


「……あのさ、いい加減パフェのアイス溶けるよって敢えて言うべき? それとも黙って帰るべき?」
「こいつらダブルデートだってこと忘れてるよな」
「あんたの友達も大概だけど、あの子も本気で嫌がってないのが余計にああさせてんのよねぇ。突っ込んだらそんなわけない! って真っ赤になりながら否定するんだろうけど」
「お互いメロメロだからね。って言っても同じ反応しそうだね」
「はぁ……勘弁してよバカップル……」畳む

ワンライ 編集

タグ「男女もの31件]

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