Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

カテゴリー
ハッシュタグ

恋路の始まりと信じていいの?

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜景」です。

-------

 夜景がやたら綺麗に見えるのはたぶん、隣のこいつに恋しちゃっているからだと思う。浮かれパワーというやつだ。
 仕事上ではよくつるむことが多いものの、プライベートは全く干渉せずだったはずが、どんな気まぐれか、彼から夕食の誘いを受けた。てっきりどこかの居酒屋だと思っていたのだが……

(ビアガーデンとはいえ、こんな夜景が堪能できるところとはね)

 席がフェンスに近い場所だからなおさらよく見える。周りにカップルも多いし、たぶんそういう層向けなのだろう。

「どうしたどうした、飲み悪くね?」

 しかし目の前のこいつは全然気にしていないらしい。まあ、いつでも「らしさ」を崩さない性格ゆえだ。

「ガラにもなく夜景きれいなーって思ってただけ」
「あ、だろ? ここ一人でも来るんだけど、景色いいから余計開放感あってたまらんのよ」
「ひ、一人で? カップル多いのに強いな」
「今日は金曜だから仕方ないさ。それ以外ならそんなでもないぞ」
「ていうかなんで俺を誘ったんだよ? 今まで俺らそういうのなかったじゃん」

 さりげなくうまく質問できただろうか。片思い中の身としては正直、夜景よりもそっちが気になってビールもつまみの味も曖昧のままだった。

「ん? ああ、前から気になってた、ってのはあったかな。でもずっとバタバタしててなかなかチャンス掴めなかったっていうか」

 ジョッキを置いて、彼は細めの瞳をますます細めて笑う。相変わらず爽やかな雰囲気を放ってやがる。

「オレら結構いいコンビだと思うのよ。オレって抜けてるとこあるけど、お前がいつもいい感じにフォローしてくれるから感謝してるんだぜ。そのお礼も兼ねてるかな」

 その「抜けてる」ところに最初はわりとイライラしていた。何度言っても直らないし、そのうちこっちも助けてもらうことが増えたし慣れてもきたから、ある意味懐柔された気がしないでもないが。

「お、お前はプライベートは俺には見せるつもりないって思ってたよ。あくまで仕事上の付き合いっての? ほら、他のやつともあんまり飲みに行ったりしないじゃん?」
「ほー、やっぱよく見てんな」

 そりゃあ好きなやつだから、観察力も上がるってもんだ。

「基本プライベートは一人で行動するのが好きなんだけど、お前は仕事のときも気が楽だし、お前ならいいかなって思ったんだよね」

 薄暗い場所でよかった。頬が無駄に熱いから、絶対はっきりと赤くなってる。というかナチュラルに口説いてくるなんて、心の準備が全然できていない。前もってそういう雰囲気なり出しておいてくれ。

「……俺は、」

 さりげなくを装ってビールを一口飲む。

「俺も、お前といると楽しいよ」

 落ち着かない、心臓がうるさい、こんなこと言えるわけないのに、うっかりこぼれそうになった。酒と片思い相手の不意打ちの力は予想以上に強い。

「そう? よかった。なんて、実は結構自信はあったんだね。オレお前に好かれてるよなって」

 特別な意味ではないとわかっているのに、俺は単純だ。

「どこまでもポジティブで羨ましいね」
「もー、素直に喜んでくれよ」

 してるよ。表に出したら絶対ドン引きするくらい、心の中ではめちゃめちゃ顔緩んでるよ。

「ん、なんか言った?」

 溜め息混じりに彼がなにかを言ったように聞こえたが、ちょうど背後で「かんぱーい!」と楽しそうな声と被ってしまった。

「気のせいだろ。よし、とにかく飲んで食おう!」
「俺あんまり酒強くないんだけど……」

 とりあえず今は、この幸運に身を任せていよう。この男の笑顔をたっぷり堪能してやるんだ。畳む

ワンライ 編集

たまらない瞬間

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「汗」です。
「そういう」行為をしていますが、直接的な描写はありません。

-------

 全身のあらゆる箇所から湧き出る熱と奥から絶え間なく生まれる快楽におぼれながら、ふと、頬に当たる感触にうっすらと理性が戻る。
 わずかに視線を上げれば、堪えるように眉根を寄せた彼の顔から、汗がたくさん浮かんでいる。そのうちのいくつかが、自分に垂れたのだ。
「っ、なに……?」
 顎から今まさに落下しそうになっていたひとしずくを人差し指で拭うと、訝しげな視線を投げられた。
「……いいや。相変わらずえろいなぁって」
 拭った人差し指をちろりと舌で舐める。
「相変わらずって、初めて聞いたよ? 俺」
「いつも思ってたよ? 言わなかっただけ」
 わずかに視線を外して言葉を詰まらせている。照れているときの仕草だ。
 普段どちらかというとクールな印象の彼からは想像できないくらい、最中のときはとても色っぽくて、むき出しになる素直な欲にあっけなく飲み込まれる。
 眉間に深い皺を刻んだ表情は雄っぽさが全面に出ていてたまらないが、特に、熱をぶつけられているときに顔を打ってくる彼の汗に一番興奮する。
 それだけ、自分自身に夢中になってくれているという証のようで。
 それだけ、自分も彼を「溺れされて」いる証のようで。
 好きになったのは自分からだったから、なおさら。
「ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「たまには振り回される側に回ってみたら? なんて」
 舌を這わせた顎を押さえて彼がうろたえている。今日は少しだけ意地悪したい気分らしい。
「もう、いい加減にしな、って」
 言葉が終わると同時に深く突かれて、思考が一気に塗り替えられる。
「もう一人で楽しむのはなし。こっちに集中して」
 ささやきが終わると同時に唇にも降りてきた熱を、嬉々として受け入れた。畳む

ワンライ 編集

雨降って幸運舞い込む

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「桜流しの雨」「新生活」です。
BL要素はほとんどないです、すみません。。

-------

 頭に濡れた感触を覚えて空を見上げると、いつの間にか青空は鉛色へと変わっていた。
 時間がたっぷりあるのをいいことに飲みまくっていたら、また不幸に見舞われた。
「自覚なかっただけでそういう星の下に生まれたんだな、俺」
 急に勤めていた会社をクビになったのもそのせいだし、その足で酔いたくて酒を飲みに行ったのに酔えなかったのも酒が強いという不幸体質のせい。
 不幸のせいにしてしまえば、くっきり刻まれた傷の痛みも少しは紛れる気がした。
 どんどん雨脚が強くなってきた。思い出したが、朝の天気予報で「昼過ぎから強い雨が降り始めて、風も吹き始めるでしょう」なんて言っていた。遅刻しそうだったから折りたたみ傘なんてまったく頭になかった。とことんまでついていない。
 わざわざ傘を買うなんて馬鹿らしいし、どうせなら濡れて帰ってやる。
 とはいえ、まっすぐ帰る気にもなれなくて、駅までの道を遠回りで進むことにする。どうせこの街にはもう来ないから、最後にどういうものがあるかぐらいは確認してみてもいいだろう。
「……こんな街中に、公園なんてあったんだ」
 駅から少し離れた距離にあるからか、普通に散歩も楽しめそうな、そこそこの規模の公園だ。
 この街の雰囲気は繁華街寄りだと思っているが、ゆえに憩いの場なるものがあるイメージがなかった。
「そうか、桜、満開だったっけ」
 ざっと確認できただけで十本近くはあるだろうか、散策路を挟むように立っている。吸い込まれるように近づくと、地面に薄桃色の絨毯ができつつあることに気づいた。ついこの間満開を迎えたとネットニュースでも言っていた気がするが、もうこんなに散ってしまっている。
「これから雨風強まるみたいだし……お前たちも、不幸だな」
 なぜか涙がこみ上げそうになる。人外でも仲間が見つかったことに孤独感を拭えたからなのか、よく、わからない。
「あの、大丈夫ですか?」
 急に話しかけられて、思わず背筋が伸びた。
 振り返った先には、作業着とわかる格好をした若い男性が怪訝そうにこちらを見つめている。
「雨強くなってきてますし、雨宿りするならすぐそこに屋根付きのベンチありますよ」
「……君、ここで働いてる人?」
「え、はい」
 公園で働いている人というと、個人的に年齢層が高いイメージだった。アルバイトかもしれなくても、珍しい。
「ああ、気を悪くしたらごめん。公園で働く若者ってイメージがなかったからさ」
「あなたも若者なんじゃないですか?」
「若く見える? 一応三十近いんだけどね」
 明らかに彼の目が見開かれた。昔から年相応に見られないことは慣れている。
「あの、なにかあったんですか?」
「え?」
「すみません、なんかすごく悲しそうに見えたんで」
 そんなに顔に出ていたのか。急に恥ずかしくなってきたが、うまく誤魔化すすべも見つからない。
「っと、ほんとに雨強くなってきましたね。変なこと言ってすみません、早く雨宿りを」
「会社、急にクビになっちゃったんだよね」
 笑ったつもりだったが、情けなく息が漏れただけだった。
「覚えがないことで犯人扱いされてね。反論したんだけど無駄で、事が大きいからもう会社に来るなって言われちゃって」
 もう怒りも混乱もしない。ただ無気力だった。この先のことも考えられないし、たぶん、しばらく休みたいと全身が主張しているのかもしれない。
 黙って聞いていた彼が、無言で腕を引っ張った。連れて行かれるまま従うと、屋根付きのベンチに辿り着く。
「いきなりすみません。このままじゃお互い風邪引くんで」
「いいよ、ありがとう。ごめんね、いきなり愚痴っちゃって」
「いえ、今でもそういうとんでもない会社ってあるんですね。びっくりしました」
 彼は会ったばかりの他人に、本気で同情しているようだった。
「でも、無責任な言い方かもですけど、そういう会社ならどんな形でも辞められてよかったんじゃないですか」
 正直、本気で驚いた。胸の中心を一陣の風が通り抜けたような、不思議な爽快感が残っている。
「そんなクソみたいな会社のことをずっと引きずってたらもったいないですよ。さっさと忘れて、いいところ見つけましょう」
 一生懸命、彼が励ましてくれているのがわかる。その姿がとても可愛らしくて、嬉しくて……気づけば、口端が持ち上がっていた。
「え、な、なんですか?」
「あ、ご、ごめん。その……すごく、ありがとうって思って」
 少し低い位置にある彼の頭を、子どもにするように撫でていた。バツが悪そうに視線を逸らした彼の頬がはっきりと赤く染まっている。
「そうだよね。いつまでも恨みつらみを向けてたって仕方ないよね。鬱にでもなりそうだ」
「ですよ。でも、ちょっとは休んだ方がいいと思います」
「確かに。ってことで、またこの公園に遊びに来てもいい?」
 再び向けられた瞳が、丸い。
「そりゃ、もちろん構いませんけど」
「正確には、君に会いに来てもいい?」
「お、おれ?」
「君と話してると落ち着くんだよね。励みになるんだ」
 今度は、頬が桜のようにほのかに染まる。
「仕事の邪魔にならないなら、まあ」
 お礼を言ってまた頭を撫でると、今度は軽く怒られてしまった。なお、迫力は全然なかった。

 最後の最後で、思わぬ幸運が舞い込んだ。
 我ながら現金だと呆れながらも、彼との出会いは運命のように感じていた。畳む

ワンライ 編集

現実を忘れられるなら、今は

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜桜」です。

続きを書きました→『夢から少しずつ、現へ』

-------

 夜風が頬を優しくくすぐり、淡いピンクの花びらを少しずつ散らす。
 また、「ここ」に来てしまった。
 かすかに聞こえてくる、浮かれた声が耳障りで仕方ない。こっちの気も知らずに、なんて無駄な八つ当たりを繰り広げてしまう。
 意味なんてない。何度「ここ」に来ても、失ったものはもどらない。時は巻き戻らない。
 残された側がただ、現実を受け止めきれていないだけで。


「どうも、こんばんは」


 桜の花びらが、ひときわ多く舞い散る。
 その散った先、木の幹に着物姿の男が立っていた。

「こん、ばんは」

 いつの間に? 少なくとも来たときは誰もいなかった。

「今宵も来てくださいましたね。ただ、とても花見を楽しむようなお顔ではありませんが」

 薄桃色の長い髪を揺らして近づいてきたその男は、慈しむような表情をしていた。改めて見ると、とても人間とは思えない容貌をしている。

「あの、今夜も、って」
「私は知っています。あなたも、かつて隣にいた方のことも」

 喉を絞められたような感覚が襲う。足元がふらついて、尻餅をついてしまった。

「……あなた、誰なんですか。なんで、そんなこと」
「信じてもらえないのを承知で告げますが、私はこの桜の木の精です。ですので、あなた方がこの時季を迎えるたび足を運んでくれていたのを知っていました」

 このあたりで一番大きいというわけでもなかった。それでもあの人と見つけたとき、お互いに特別目を奪われた。他に客がいないのを不思議に思ったものだ。
 何年も通ううちに、すっかり二人だけの特別な場所となっていた。
 その桜の、精だって?

「ちょ、っと待って。ほんと、意味が」
「あなた方は毎年、私を愛おしく見守って、時には優しく触れてくださいましたね。そのおかげで私も立派に咲き誇れていたのです」

 記憶がよみがえっていく。必死に蓋をした想いが、にじみ出していく。

「特にあなたは、ただまっすぐに毎年私に会いたいと願ってくれていました。本当に、嬉しかった」

 肩に触れる感触は、あの人よりも、柔らかい。

「このようにお会いするつもりはありませんでした。ですが、心配で。あなたまで、そのお命を失ってしまいそうで、黙って見ていられなくなりました」

 目の裏が熱を帯びていく。あの日、とっくに涙など涸れ果てたと思っていたのに、まだ出し足りないのか。

「……俺なんかがいなくなったって、君には関係ないだろ」
「いいえ、関係ありますとも」

 意外に近くから聞こえた声にゆっくり顔を上げる。
 年齢不詳、皺一つない顔、中性的過ぎて二次元の世界でないと浮いてしまう容姿。
 ああ、確かに彼は人間ではない。

「あなたがいなくなったら、きっと私はすぐさまこの身を枯らしてしまう。会えなくなるなんて、耐えられません」

 肩から細かい震えが伝わってくる。茶色と緑のオッドアイが、今にも涙をこぼしそうに不安定に揺れている。

「……俺がいなくなっても、悲しんでくれる人なんていないって思ってた」

 両親はとうに他界した。特別仲のいい友人はいない。
 あの人が、すべてだった。
 彼が緩く首を振る。

「少なくとも私にとっては、あなたは命の恩人みたいなものです。これからもいてくださらないと、困ります」


『そばにいてくれよ! お前がそばにいてくれないと……俺は、もう、生きていけない』
『お前が俺をこんなにしたんだぞ! 責任、とれよな……!』


 やけくそ気味に、あの人に投げつけた告白とは呼べない言葉の数々を思い出す。
 受け入れてくれたときの、豪快で気持ちのいい笑顔を思い出す。
 まさか立場が入れ替わるとは、人生は本当にわからない。

「今度は私が、あなたを護る番です。護らせてください」

 両手を包み込むように握りながら、まるでプロポーズのように彼は告げる。

「……護るって、君、ここから離れられないんじゃないか」

 変なところで現実的になる癖がここでも出てしまった。

「それは今から考えます。どうにかしますのでご心配なく」
「わ、わかったよ。でも今は大丈夫だから」

 本当に思考を煮詰めそうになっていたので慌てて止める。

「また、会いに来るよ。約束する」

 彼のせっかくの厚意を無駄にするのは気が引けるし、どうせなら非現実に身を置くのも悪くないと思い始めていた。
 現実を普通に生きるのは、まだ、つらい。

「……はい。願わくば、あなたの一時の、拠り所となれますよう」

 向けられた笑みは、どこか寂しそうに見えた。畳む

ワンライ 編集

片翼で鳥は飛べない

#BL小説

くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「阿吽の呼吸」「雛」です。

お題に触れているのは最初だけで、後半はお題とあまり関係なくなってしまいました😅

-------

「西島、そこを曲がった先だ!」
 頷いた彼は走るスピードを一層上げる。見失わないよう懸命に足を動かした。
 予想通り道を塞ぐように立ち塞がっている数人の敵に、早くも西島は踏み込んでいた。相変わらず鮮やかな体術を駆使して、果敢に攻めてくる者たちを次々なぎ倒している。
 ふと気配を感じてさりげなく視線を配ると、彼の死角になる位置から銃を構えている仲間がいた。素早く懐にあるナイフを投げつけて距離を詰め、押さえつける。
「死ぬのはお前のようだな」
 後頭部に突きつけられたのが何か、説明されるまでもない。
 ——落ち着け。焦る必要は全然ない。
「馬鹿だな。気づいてないとでも思ったか?」
 身震いしたくなる気配が近づいているが、相当鈍いのか察知している様子はない。
 のんきに訊き返してくる声は、途中で汚い悲鳴に変わった。
「大丈夫? 篠崎」
「ふん、間に合ったか」
「ひどい、せっかく助けてあげたのに」
「ばーか。お前なら余裕で間に合うって信じてたからだよ」
 先ほどまでの奮闘が嘘のような、どこかのんびりとした口調と雰囲気につられそうになりつつも報告を入れて、待機している仲間が来るのを待った。


「まったく、仕事のときは無駄に活躍するのにプライベートではこれだもんな」
「しょうがないじゃん。おれ、ほんと生活能力なさすぎるんだもん」
 仕事のときはどちらかというと西島主体で動くことが多いが、その舞台から降りた瞬間、完全に役立たずと化す。もはや雛のように後をついて回るだけと言っても過言ではない。
 片づけできない、料理できない、時間通りに起きられない、とにかくないない尽くし。
 初めて会ったときは、こんな人間が世の中にいるのかと衝撃を受けたものだ。
「篠崎のおかげで毎日生きていられるから、ほんと感謝してるんだよ」
「どうせなら仕事でそれくらい評価されたいね。どうしたって目立つのはお前だから」
「大丈夫だってー。おれだって篠崎のいないとこですごく言われるよ。お前は篠崎がいないと輝かないとかお前を完璧にフォローできるのは篠崎しかない感謝しろとか」
「せめて僕の前で言ってくれ……」
 文句を言いつつも、内心にやにやしていた。こういうのは自分のいないところで褒めてもらうほうが嬉しさ倍増だったりする。……まさか、それを見越して? なんたって仲間は彼に負けず劣らず個性派が揃っているから。
 作った夕飯をテーブルに並べていると、西島がにこにことこちらを無駄に見つめていた。はっきり眉根を寄せる。
「また余計なこと考えてるなお前」
「そう? おれは嬉しいなーってしみじみ実感してるだけだよ」
「嬉しい?」
「だって職場だと完璧人間みたいに思われてる篠崎がおれの前だと遠慮なく愚痴るから」
 変な声が漏れた。くそ、やっぱり言った通りじゃないか。
「人間ずっと気を張ってると精神やられるし? お前は生活面で僕に迷惑かけてんだからそれくらいいいだろ」
「おれなんにも言ってないじゃん。ふふ」
 最後の意味深な笑いはなんだ、気持ち悪い。突っ込むのは絶対面倒だからしないけれど。
「な、なんだよ?」
「そういうとこがかわいいなーって思ってるんだよ。いつも」
 掴まれた腕が全然ふりほどけない。見た目はぼんやりしているが、少なくとも力は自分より上なのだ。
「いらんことしたらメシ食わせないからな」
 絶対この時間にはふさわしくないアレコレをされる。先手を打たねば。
「的確に弱点突いてきたね。さっすがパートナー」
「ありがたくない褒め言葉をどうも」
 何度そっちのペースにのまれるという屈辱を味わってきたと思ってる。
「おっと、力ずくも禁止だ。作るのもやめるぞ」
 一番の好物である自分の手作り料理も存分に活用させてもらう。
「むう、恋人に向かってひどくない?」
「タイミングを考えろというだけの話だが?」
 ようやく解放された。と安堵したのが間違いだった。
「おれが今食べたいのは篠崎だけ、なんだけどな」
 最高に頭の悪い台詞だが、耳元で囁くのは反則じゃないか。こいつもピンポイントに弱点を突いてくる。
「なんてね。君のご飯が食べられなくなるのはいやだから、全部終わったあとでいただくよ」
 ふざけるないい加減にしろ!
 という反撃は、わざとリップ音を響かせたキスをされ、素早く逃げられたせいでタイミングを逸してしまった。
 真面目な声を作ってまで本当にバカとしか言えない。でもそんなバカと飽きずに一緒にいるのだから、人のことは言えない。
「しのざきー、早く食べようよ」
「誰のせいだよ」
 呆れながらも、口元が緩んでいるのは隠せなかった。
 ――明日朝早いから、いただかれるのは全力で拒否するが。畳む

ワンライ 編集

タグ「BL小説36件]2ページ目)

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0.
template by do.

admin