
移動に一時間はかかるとは言え、家の最寄り駅が電車一本で済むところでよかったと今は心から思う。
――今すぐ会いたいんだけど。
数分逡巡した後、家を飛び出した。終電を迎える一本前の各駅電車に揺られながら、頭に浮かぶのは連絡をよこした彼のことばかり。
今勤めている会社で、たった二人の新入社員として出会ってすぐ仲良くなった。足りなかったピースがようやく嵌まったような、不思議な感覚を覚えた。
『あのさ、変かもしれないけど……初めて会った気がしないんだよね』
『なんだそれ。って言いたいとこだけど、俺もなんだわ』
思いきって告白してみたら彼も同じ感想を持ってくれていたようで、胸の中がくすぐったくなったものだ。
趣味はあまり被らない。性格は周りから言わせれば「正反対」らしい。
それでも二人でいる時間は日だまりのように心地いいし、無駄に気張らなくてもいい。だらだらと喋るのも、仕事について真面目に意見を交わし、時に言い合いになっても、ただ互いの時間を隣で過ごすのも、彼となら楽しい。
親友、とは違う気がする。そう呼べる友が他に何人かいるが、同じカテゴリーに収められるような人間じゃない。
多分、近い単語は、相棒。かけがえのないパートナー。
少なくとも、自分はそう思っている。
最寄り駅が近づくにつれて、忘れていた緊張が湧き上がってきた。全くまとまらない宿題を前にして途方に暮れた気分にさえなる。
数日前にあったあの出来事を忘れたわけではない。
でも、彼から「会いたい」とこぼすときは、いつだって見逃してはならないサインだった。
一層強い音を立てて開かれた扉を数秒見つめてから、のろのろとくぐる。
つい時刻表を見つめて、頭を軽く振った。