#BL小説
片翼で鳥は飛べない

くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「阿吽の呼吸」「雛」です。

お題に触れているのは最初だけで、後半はお題とあまり関係なくなってしまいました😅

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「西島、そこを曲がった先だ!」
 頷いた彼は走るスピードを一層上げる。見失わないよう懸命に足を動かした。
 予想通り道を塞ぐように立ち塞がっている数人の敵に、早くも西島は踏み込んでいた。相変わらず鮮やかな体術を駆使して、果敢に攻めてくる者たちを次々なぎ倒している。
 ふと気配を感じてさりげなく視線を配ると、彼の死角になる位置から銃を構えている仲間がいた。素早く懐にあるナイフを投げつけて距離を詰め、押さえつける。
「死ぬのはお前のようだな」
 後頭部に突きつけられたのが何か、説明されるまでもない。
 ——落ち着け。焦る必要は全然ない。
「馬鹿だな。気づいてないとでも思ったか?」
 身震いしたくなる気配が近づいているが、相当鈍いのか察知している様子はない。
 のんきに訊き返してくる声は、途中で汚い悲鳴に変わった。
「大丈夫? 篠崎」
「ふん、間に合ったか」
「ひどい、せっかく助けてあげたのに」
「ばーか。お前なら余裕で間に合うって信じてたからだよ」
 先ほどまでの奮闘が嘘のような、どこかのんびりとした口調と雰囲気につられそうになりつつも報告を入れて、待機している仲間が来るのを待った。


「まったく、仕事のときは無駄に活躍するのにプライベートではこれだもんな」
「しょうがないじゃん。おれ、ほんと生活能力なさすぎるんだもん」
 仕事のときはどちらかというと西島主体で動くことが多いが、その舞台から降りた瞬間、完全に役立たずと化す。もはや雛のように後をついて回るだけと言っても過言ではない。
 片づけできない、料理できない、時間通りに起きられない、とにかくないない尽くし。
 初めて会ったときは、こんな人間が世の中にいるのかと衝撃を受けたものだ。
「篠崎のおかげで毎日生きていられるから、ほんと感謝してるんだよ」
「どうせなら仕事でそれくらい評価されたいね。どうしたって目立つのはお前だから」
「大丈夫だってー。おれだって篠崎のいないとこですごく言われるよ。お前は篠崎がいないと輝かないとかお前を完璧にフォローできるのは篠崎しかない感謝しろとか」
「せめて僕の前で言ってくれ……」
 文句を言いつつも、内心にやにやしていた。こういうのは自分のいないところで褒めてもらうほうが嬉しさ倍増だったりする。……まさか、それを見越して? なんたって仲間は彼に負けず劣らず個性派が揃っているから。
 作った夕飯をテーブルに並べていると、西島がにこにことこちらを無駄に見つめていた。はっきり眉根を寄せる。
「また余計なこと考えてるなお前」
「そう? おれは嬉しいなーってしみじみ実感してるだけだよ」
「嬉しい?」
「だって職場だと完璧人間みたいに思われてる篠崎がおれの前だと遠慮なく愚痴るから」
 変な声が漏れた。くそ、やっぱり言った通りじゃないか。
「人間ずっと気を張ってると精神やられるし? お前は生活面で僕に迷惑かけてんだからそれくらいいいだろ」
「おれなんにも言ってないじゃん。ふふ」
 最後の意味深な笑いはなんだ、気持ち悪い。突っ込むのは絶対面倒だからしないけれど。
「な、なんだよ?」
「そういうとこがかわいいなーって思ってるんだよ。いつも」
 掴まれた腕が全然ふりほどけない。見た目はぼんやりしているが、少なくとも力は自分より上なのだ。
「いらんことしたらメシ食わせないからな」
 絶対この時間にはふさわしくないアレコレをされる。先手を打たねば。
「的確に弱点突いてきたね。さっすがパートナー」
「ありがたくない褒め言葉をどうも」
 何度そっちのペースにのまれるという屈辱を味わってきたと思ってる。
「おっと、力ずくも禁止だ。作るのもやめるぞ」
 一番の好物である自分の手作り料理も存分に活用させてもらう。
「むう、恋人に向かってひどくない?」
「タイミングを考えろというだけの話だが?」
 ようやく解放された。と安堵したのが間違いだった。
「おれが今食べたいのは篠崎だけ、なんだけどな」
 最高に頭の悪い台詞だが、耳元で囁くのは反則じゃないか。こいつもピンポイントに弱点を突いてくる。
「なんてね。君のご飯が食べられなくなるのはいやだから、全部終わったあとでいただくよ」
 ふざけるないい加減にしろ!
 という反撃は、わざとリップ音を響かせたキスをされ、素早く逃げられたせいでタイミングを逸してしまった。
 真面目な声を作ってまで本当にバカとしか言えない。でもそんなバカと飽きずに一緒にいるのだから、人のことは言えない。
「しのざきー、早く食べようよ」
「誰のせいだよ」
 呆れながらも、口元が緩んでいるのは隠せなかった。
 ――明日朝早いから、いただかれるのは全力で拒否するが。畳む

ワンライ 編集