Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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ダーリンはすでにおみとおし

#BL小説

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創作BLワンライ&ワンドロ!  のお題に挑戦しました。
お題は「ハニー」です。そのまんま? 使いましたw

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「今回も助かったよ~さっすが俺のハニーだね!」
「お前、何でもかんでもハニーって言っとけば済むと思うな……って待て!」
 突っ込みが終わる前に彼は走り去ってしまった。周りの生徒が小さな笑い声をあげていて、慣れてしまったとはいえ自然と眉間に力が入る。
 ……人の気も知らないで、気軽に肩を組んできて、ハニーだなんて。
 無視すればいいのにできない理由があるからこそ、表面上は「仲のいいお友達」の彼――国枝(くにえだ)をただ、恨めしく思った。
 そんな自身の感情にはおかまいなしに、国枝の過多なスキンシップと「ハニー」呼びは容赦なく続く。
「あ、いたいたハニー! あのさ、これから暇? 部活なかったよね?」
 満面の笑みがいつも以上にまぶしく映るのは己の理性が限界を迎えつつあるせいなのだろうか。いや、違う。認めたら多分いろいろと終わる。
「……部活はないけど、用はある」
 不自然にならないよう視線を机にある鞄に逸らして、呟く。
「うそつき。ほんと、そらちゃんってわかりやすいよね」
「お調子者」の色が抜けた声音に、思わず国枝を見上げ直してしまう。
 普段は丸みの目立つ瞳が、今は鋭さを増してこちらを射抜いている。
 だが、それもわずかな時間の出来事だった。
「ハニーにとってもすっごく大事な用事なんだよー! だから、ね? 付き合ってよ、お願い!」
 まるでお参りする時のようにお願いされてしまった。はっきり言って大げさすぎる。目立つためにわざとそういう振る舞いをしているんじゃないかと邪推してしまうくらいだ。
「わかったわかった、だからやめろ今すぐにだ。じゃないと付き合ってやらんからな!」
 言い終わる前に、鞄を掴んで教室を出ていく。
 国枝がやたら構うようになってきたのは去年の春――同じクラスになってからだが、我ながらうまく受け流してきたと思っていた。なのに最近はやたら苛立って仕方ない。国枝の無邪気すぎるパフォーマンスがここまで恐ろしいとは。
 ああ、早く一人になりたい。


「おい、用事があるんじゃなかったのか」
「ん、そうだよ? だからおれん家に来たんじゃん」
 何を言ってるんだ、とはっきり書いてある顔で、国枝はお茶の入ったコップを持ってやってきた。
「へへ、そらちゃんが部屋に来るのすっごい久しぶりだね。ここんとこ全然来てくれないからさ~」
「……帰る」
 反射的に立ち上がった。理由は探りたくもないが、このままこの空間にいたらまずい気がする。
「ま、待って待って! まだ用件言ってないじゃん!」
「どうせくだらない理由だろ」
「違うよ!」
「全く、ちょっとでもお前を信じた俺がバカだったよ。いいから」
「……だって。あれくらいしないと来てくれなかったでしょ、空(そら)は」
 声音と空気の変化に気を取られて、動きを止めてしまった。
「う、わっ」
 肩を押された。思った以上の衝撃に足がもつれ、その場にみっともなく尻餅をついてしまう。
「な、んだよ……いったい、なんだってんだよ……」
 立ち上がれない。視線の先の国枝は立ったままこちらを見下ろしているだけで、妨害されているわけでもないのに、なぜか力が入らない。
「いい加減、受け入れてほしいんだよね。おれも限界だから」
 受け入れてほしい? 限界?
 脈絡なく告げられた言葉に当然疑問を持つが……「限界」の二文字に妙に同調してしまいたくなるのは、自分も似た状態にあるから?
 訊けるわけなどない。それは、自らの手の内も晒すことになる。
「どういう意味だって訊かないの? 空ならこういう意味わかんないとこは絶対突っ込んでくるじゃん」
 こいつ、もしかして「わかってる」のか?
 ありえない。完璧に押し隠してきたはずだ。たまに「ダーリン」と返してみても冗談で流れて終わっていた。周りの認識が「仲のいいお友達」止まりなのが何よりの証拠だった。
「相変わらず空は鈍いね。まあ、おれもあからさま過ぎたけど」
 国枝の苦笑がまるで馬鹿にしたように見えて、思わずテーブルに手を伸ばしていた。
「ふざ、けるな……」
 コップの中身を顔面にぶちまけられたくせに、国枝は拭いもせず平然としていた。ますます腹立たしい。惨めにさえ思えてくる。
「お前はいいよな? 毎日毎日ノーテンキに絡んでくるだけでいいんだもんな? 俺がどんな気持ちでいたか知らないで、本当にいい気なもんだ……!」
 もう堪えきれない。少し先の未来の不安より、気持ちが楽になっていく欲望を止められない。
「空は、おれが悪いって言いたいんだ?」
 前髪を軽く払って問いかける姿はまるで世間話のノリだった。ここまで内心が読めない国枝は初めてで戸惑いもあるが、もうどうでもいい。
「そ、そうだ。お前にどれだけ俺が振り回されてきたか、気づいてもいなかっただろ?」
「ふうん……」
 国枝の双眸がすっと細められ、胸の奥が嫌な音を立てる。
 本当はこっちが悪くてわがままなだけだとわかっている。余計なものを生んでしまったばかりに、一人で勝手に空回っているだけに過ぎない。
 最初は自他共に認める「仲のいい友達」だった。いつから綻び始めたかなんてわからない。気づけば容赦なく膨れ上がる想いを押し込む方に躍起になり、国枝との普段の接し方さえわからなくなり、「友達」のままの彼がありがたくもありうっとうしくもある、複雑な感情を向けるまでになった。
 国枝と、離れたくなかった。
 必死だった理由はただ、それだけ。
「……っくに、えだ」
 目線を合わせてきた男はなぜか、笑っていた。理由のわからない笑みを刻んでいる。
「じゃあさ。実はおれも空と同じ理由で振り回されてましたって言ったら、どうする?」
 心臓が耳元で動いているような、変な錯覚を覚える。
 国枝が、自分と同じ理由で、振り回されていた?
 あんなことを言ったのは、いつの間にか生まれていた、友情以上の気持ちのせいだ。知られるわけにはいかないと頑なだったせいだ。
 それと同じだと、目の前の男は告げている。
 息が詰まる。両手で顔全体を塞ぐ。全身があっという間に熱くなってきた。
 うそだ。だっていきなり、そんなことを告白されても飲み込めるわけが――
「ハニー」
 ある時から幾度となく呼ばれた、もう一つの呼称が鼓膜をゆるく震わせる。
「ねえ、ハニー。おれはいつだって、冗談で言ったつもりはなかったよ」
 顔を隠す壁はあっけなく破壊され、そのまま国枝の腕の中に閉じ込められる。
「ああ言ってれば、空はおれのものだって知らしめることができるでしょ?」
「ば……」
「馬鹿なことじゃない。だって、空は誰にも渡すつもりないもの」
 こんな、とんでもない爆弾を隠し持っていたなんて。
 完全に、してやられた。
 想像以上に、こいつはぶっ飛んだ奴だった。
「あれ、なんで笑ってるの」
「笑うしかないだろ。あれだけ悩んでたのに、なんだよこの展開はって」
「ハッピーエンドでよかったでしょ?」
 確かによかった。が、腹立つ。一発殴ってやりたい。
 だが、その企みは国枝の派手なくしゃみで立ち消えた。
「ご、ごめん。さっきぶっかけたせいだな」
「これくらい大丈夫。……と言いたいとこだけど」
 国枝の口元がいやに弧を描く。
 すぐさま違和感を覚えたのに、次の瞬間にはベッドの感触が背中を覆っていた。
「せっかくだから、ハニーにあっためてほしいな」
 見上げた先の、太陽のように眩しい笑顔がたまらなく、憎らしい。もちろん、言葉通りの意味でないと悟っているからだ。
「当然、断るなんて真似しないよね?」
「お、親が帰ってくるんじゃ……」
「残念でした。今朝から旅行中でーす」
「な、だ、だから俺を呼んだのか!」
「当たりー。それにいいの? 風邪引いたらそらちゃんのせいになるんだよ?」
 最終兵器を突きつけられたら……もう、何も返せない。
「……わか、ったよ」
「そこは『わかったダーリン』って言ってほしいなー。……いや、待てよ。最中の時のがもっと萌えるか」
「調子に乗るな!」
 せっかくだ、国枝の気が逸れている間にこっそり呼んでやる。
 それくらいの反抗なら許されるだろう?畳む

ワンライ 編集

結局、負けは確定

#BL小説

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一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負  に挑戦しました。
・「どうしてもって言うならば」
のお題を使用しました。大学生ぐらいの2人がキャッキャしてるような感じですw

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「……どうしても?」
「どうしても。これは罰ゲームだ、お前に拒否権はないはずだけど?」
 それを言われたら何も返せない。目の前のニヤニヤ顔を恨めしげに睨み返す。
 どうしてこんな展開になったのか、もはやきっかけも思い出せないが、「負けた方は勝った方の願い事をひとつ叶える」という条件だけはしっかり頭に焼き付いていた。条件が条件だ、当たり前だろう。
 そして自分は見事に敗者となってしまった。冷静に考えれば彼にゲームの腕で勝てるわけがないのに、さっきはどうかしていた。熱くなりすぎてしまった。
「で、でもさ? いくら恋人だからって普通に引くだろ? 女装してデートとかありえないって。しかも絶対スカートとか嫌すぎるわ!」
 まさかの条件に、最初は空耳かと疑った。二回目で冗談だと思い込みたかったのに、許してもらえなかった。
「だから大丈夫だって。お前結構可愛い顔してるじゃん? ばれないばれない」
 何て脳天気な恋人なのか。いや、これは違う。意地悪スイッチが全力でオンになっているんだ。
「そんなん理由になるか! あのな、周りって見てないようで見てたりするんだぞ? それに顔が可愛いって言ったって身長170以上あるしゴツめだし」
「俺と身長差そんなにないし、ぶかぶかした服着れば目立たないっしょ。姉貴、確か緩めの服いっぱい持ってたから大丈夫」
 爽やかな笑顔を向けられても絶望しかない。お姉さんにどう説明する気なんだ。彼のことだからきっとうまく口が回るのだろう。ああ、お姉さんの身長が170近くあることが今は恨めしい……。
「あのさ。俺にとっては嬉しくもあるんだぞ?」
 急に真面目な声で距離を詰められて、口ごもってしまう。
「何も気にしないで普通にデートできるんだぞ? 俺、密かに夢だったんだよ。その夢、叶えてくれないのか?」
 眉尻まで下がっている。どこか気弱にも見える仕草がらしくなくて、柄にもなく戸惑いかけた。
「……そうなんだ。ごめん気づかないで……ってそんな手に引っかかるか!」
「あら。ダメ?」
「口の端っこがびみょーに震えてたぞ」
「顔に出てたか……しまったなぁ」
「大体、今までだって何回も堂々とデートしてるだろ。おれが嫌だっていってもお構いなしにベタベタしてくるじゃないか」
「俺はいつでもそういう気持ちで楽しみたいからね」
 今の言い方はずるい。無駄に反応してしまったのは死んでも隠し通してやるけれど。
「じゃあ、誰よりも可愛い恋人を堂々と連れて悦に浸りたいっていうのじゃダメ?」
 さっきの理由より信頼できる物言いだった。だったが。
「お前、そういう奴だったのか……若干引くわー」
「そうか? 俺はたまらなく嬉しいけどね」
 頬に触れられたかと思った瞬間、唇を柔らかい感触が走る。
「だって、人目を引く奴の一番近くを占領してるんだぞ。どんな表情も独り占めできるし、こういうことだってできる。ものすごい優越感だと思わないか?」
 また、何も返せなくなってしまった。
 彼もそうだ。街中を歩けば、すれ違った異性が絶対反応する。時には声さえかけてくる。
 そんな彼の「一番」に君臨しているのは、紛れもない自分。自分だけが、いろんな姿の彼を知っている。時には本当の心に遠慮なく触れることだってできる。
 ああ、納得してしまったじゃないか。反論の材料がなくなってしまった。
「理解してくれたんだ?」
 狙い通りとも取れる笑みが腹立たしい。何でお前は見た目がいいんだと、理不尽な言い訳を叩きつけたくなってしまう。
「わかったよ、わかりました。お前がどうしても、って言って聞かないからな」
 これぐらいの負け惜しみは許してもらいたい。彼には全く効いていないみたいだが。
「ただし、一時間な。家を出てから一時間」
「短い。二時間、いや、四時間は欲しい。これは厳命だ」
 彼の目が本気すぎて、受け入れざるを得なかった。

「……待てよ。悦に浸るって、別に女装してる必要なくね?」
「今さら気づいたのか?」
「……またお前にいいように乗せられたああああ!」
「どうも、ゴチソウサマデシタ。可愛い可愛い恋人さん?」畳む

ワンライ 編集

わがまま猫な彼と僕

#BL小説

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創作BLワンライ・ワンドロ !  のお題に挑戦しました。
お題は「花より団子」です。タイトルは適当だし、花より団子……? な出来です←

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 二年前だったと思う。SNSでもかなり話題になったドラマだった。
 僕はもちろん、バイト先の先輩後輩も友達も大体見ていたし、感想や考察を話し合うのが当たり前になっていた。
 だが、今隣にいる僕の恋人は当時全く興味を示さなかった。
 と思ったら、今さら「気になるから今度一緒に観たい。レンタルしてきて」とおねだりまでしてきた。本当に読めないヤツだと思う。
 なのに……この状況はなんだ?

「あのさ……観てる? ドラマ」
 第五話まで来たところで、僕はたまらず声をかけた。これからどんどん面白くなるというのに、この男の行動が信じられない。
「んー? 観てるよ、もちろん」
「って言いながら画面見てないじゃん!」
「へー、わかるの?」
「さっきからちょっかいかけられてるからね」
 僕は、テレビは床に座って好きな体勢で観る派だ。彼はソファ派だから何となく縦に連なるような形になったのだけれど、そのせいで頭を撫でられたり耳たぶを触られたりと地味なスキンシップを受け続けている。
 彼がイタズラ好きというのは今に始まったことではないけど、言い出しっぺがこの態度だとさすがに文句も言いたくなる。
「そっちが観たい観たいってダダこねるから借りてきたんだよ? なのになんなの?」
「なんなのって、そりゃ決まってるだろ? お前が可愛すぎるから」
 思わず背後を振り向いた拍子に唇をさっと盗まれる。まるで手練れの怪盗だ。
 でも正直、ときめきじみたものは全然ない。
「誤魔化しのつもり? 普段そんなこと言わないくせに」
「心外だな。口に出してないだけでいつもそう思ってるぞ?」
 怪しい……。天の邪鬼と知りすぎてる僕からすればつい裏を読んでしまう。極端な話、スキンシップだけが頼りの綱だ。
 というか早くドラマに戻りたいんだけどな……。展開を知ってても、本当に面白いと関係なく見れてしまうものらしい。
「俺は照れ屋だからそういうのは簡単に口にしないの。だからそう疑うなって」
 隣に移動してきた恋人は頬を人差し指で突いてきた。完全に馬鹿にしている。
「というか、今んとこそんなに刺さってないんだよなードラマ。表情コロコロ変わるお前見てる方がよっぽど楽しいわ」
 何なんだ全く。本当は、ドラマ見終わったらいろんな話だってしたかったのに。楽しみにしていたレンタル中の僕が急激に色褪せてきて、悔しさと苛立ちのあまりリモコンの停止ボタンを押しかけて……止まる。
「……僕、見てたの? ちょっかい出してるだけじゃなくて?」
「あれ、気づかなかった?」
 頭をなでなでしてくるにやにや顔を呆然と見つめる。
「オチまで知ってんのに笑ったり泣きそうになったりしてさぁ。全然飽きないのなんのって。俺的にはそれが収穫だったなー」
 逃げたい。あるいは布団にくるまりたい。無防備な状態を観察されてたなんて恥ずかしい以外ない!
 思わず両手で顔を覆うも、遠慮なしに外された。そのまま押し倒されて、床に固定されてしまう。
「本当に天然だよな、お前」
「天然って、意味わかんない……」
 それ以上の反論は、互いの口の中に消えた。

 ドラマは、いつの間にか第六話に進んでいた。クライマックスに向けてますます盛り上がる大事な回だ。
 けれど、もう頭に入る余裕はなかった。畳む

ワンライ 編集

どこまでフィクションな恋物語か

#BL小説

一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負  のお題に挑戦しました。
・文化祭
のお題を使用しました。無理やり感ハンパないです💦

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「今日は抱きしめるだけ。次来た時、まだ僕のことが好きだったらキスしてあげる」

 もちろん、好きなままだった。抱きしめられた時のあの高揚感と幸福感は、初めてに等しい強さだった。

「好きでいてくれてありがとう。じゃあ、約束通り……キスしてあげる」

 人生で初めてのキスを、同性から受ける。
 いや、性別は関係なかった。相手がこの人だったから、唇に最初触れられた時も、二度目三度目と繰り返されても、嫌な気持ちにならないどころか、もっと欲しくなった。
 この人への想いは嘘じゃない。本物だとようやく確信できた。

「おれ、あなたのこと本当に好きです。何があっても絶対ぶれません。だからもう、確認はいりません。……付き合ってください」

 自分を気遣って、段階を踏んでくれていたのはわかっていた。
 今こそまっすぐに応えたい。偽りない本心を届けたい。

「……また、会いに来るよ」

 返事はもらえなかった。それどころか、約束もなかった。
 確定された未来が目の前に降りてくるはずだったのに、一瞬で手が届かなくなってしまったようだった。
 嫌な予感がした。「会いに来る」と言われはしたが、それも果たされない気がしてならなかった。
 ——今度は、自分から会いに行かなきゃダメなんだ。怖いけれど、怖じ気づいていたらダメなんだ。

「まさか、君から来てくれるなんて思わなかったな」

 唯一の手がかりだったバイト先に何日も張り込んで、ようやく会えた想い人。本当に来るとは思っていなかったようで、純粋な驚きだけが存在していた。
 その場で言葉を連ねようとした自分の手を取ると、建物の裏に向かう。改めて対峙するも、なかなか彼は目線を合わせてくれない。

「……おれ、本気です。抱きしめてもらった時も、キスしてもらった時も、すごく嬉しかった。気持ち悪いとか全然なかった。……あなたは、違うんですか?」

 最後の問いかけはしたくなかった。その通りだったら立ち直れない。どうして期待させたんだと、恨みさえしてしまいそうだ。

「本当に好きになってくれるなんて、思ってなかったんだ」

 ようやく発された言葉は、意味のわからない内容だった。

「改めて告白された時に、僕も同じくらい好きなのかなって思ってしまったんだ。……僕からあんなことを提案したのに、最低だよね」

 最初に告白した後、段階を踏もうと言ったのは彼からだった。
『僕も好きだけど、本当に同じ気持ちなのかわからないから。確かめる意味でも、少しずつ恋人らしいことをしていこう?』
 結果は確かめるまでもなかった。だからこそ二人のこれからに心躍らせていたのに、現実は非情になりかけている。

「それで、どうなんですか。おれのこと、本当に……好きなんですか? キスとかしたいって思うくらい、好きでいてくれてるんですか?」

 声が震える。そうだと肯定してくれ。お願いだから、おれを否定しないで。
 掴まれたままだった腕をぐいと引っ張られた。否応なしに目の前の胸元に飛び込む形になる。体勢を整える間もなく、頬を包まれた。
 呼吸のまともにできないキスをされている。口内を動き回る柔らかいものは……彼の、舌? それに、たまに聞こえる変な声はもしかして、自分のもの?
 無理やりされているのに、呼吸もまともにできなくて苦しいのに、背筋がぞくぞくしてたまらない。気持ちいい。

「……こういうこと、したくてたまらないって思ってたよ。だから、本当は今日会いに行こうって思ってた」

 こちらを見つめる瞳が熱い。気を抜いたらあっという間に染められてしまいそうなほど、鋭い光で照らしている。

「もう絶対離してあげられないよ。それでもいいの?」

 返事の代わりに、初めて自分からキスをした。


「……っていう台本はどうよ? さすがに文化祭の舞台向きじゃないかなぁ」
「当たり前だろ! しかもこのネタ元ってお前とバイト先の先輩とのやつじゃねえか!」
「もちろんある程度加筆修正してるよ? 例えばべろちゅーなんて実際されてないしね。キスはされたけど」
「……それ以前に平然とネタにできるお前がこええよ……」
「でも恋愛ものとしてはなかなかいいんじゃないかなーと思うんだけどなー。書き直すのも面倒だし、いっそのことおれを女子にしちゃうか!」
「先輩見に来たらどう思うのかね。知らんけど」畳む

ワンライ 編集

きっと死刑宣告

#BL小説

一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
『やめてって言ったでしょ』『コンプレックス』です。
120分+若干オーバーで完成です。

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 なんだよこれ。どういうことだよ。
 口にしていたつもりが、出なかった。喉から先が詰まって、苦しささえ覚えた。
「どういう、ことなの……?」
 目の前で彼女が青ざめている。その言葉の意味は多分違う。
「あれ、意味わからなかった?」
 彼女も自分も同じ表情をしているはずだ。
 彼だけが、間違い探しのように明朗な笑みを浮かべている。
「君が浮気してるんじゃないかって疑ってる相手は、俺だったってこと」
「っうそ……うそ……! だってあなた、女がいるって……!」
 そう。嘘だ。こいつのことは大学を卒業してからも大切な親友のままだけど、そんな付き合いは一度もしていない。さらに言えば他の女だっていない。ずっと彼女だけを想ってきた。初めてできた恋人だなんだ。
 今夜も、彼女との幸せな時間を過ごせるはずだった。週末の予定をどうするか決めて、気持ちはそこに向かっていたはずだった。
 どうしていきなりこんな展開になった? 高い場所から突き落とされた?
「それが嘘。ついでに君に見せた写真も実は合成なんだよねぇ」
 スマホを取り出した親友は、実に愉快そうだった。真っ赤になる彼女が滑稽に映ってしまうくらいの余裕を見せている。
「……いい加減にしろよ」
 苦しさが、胸元から湧き上がる熱で溶けた。
 反論もろくにできないままでいられない。彼女の誤解を解けるのは自分しかいない。
「さっきからでたらめばっか言うなよ! ふざけんな!」
 胸ぐらを掴み上げても、彼の表情は変わらない。堪えようのない恐怖も生まれて、もはや彼がどんな存在なのかわからない。
「でたらめなんかじゃないよ? 俺は本当におまえを好きだし」
「好きだったらこんな馬鹿げたことしねえだろ!」
 掴み上げたままの拳が細かく震える。今まであんなに仲がよかったのに。誰よりも理解者でいてくれてたのに!
「するに決まってるだろ? 俺とお前は好き合ってるんだから」
「やめろって言ってんだよその嘘を!」
「嘘じゃないって言ってるのになぁ」
 再び、喉の奥が詰まった。唇が塞がれている。いやというほど覚えのある感触だ。それを今、目の前の男から——
 胸ぐらを解放して、思いきり彼を突き飛ばす。認識したくないのに、確かにあった感触が容赦なく現実と突きつけてくる。
 同時に、後ろの方で耳慣れた足音が遠ざかっていくのが聞こえた。慌てて振り返っても、どこかで曲がってしまったのか姿はない。なくなってしまった。
「やっと彼女もわかってくれたみたいだねぇ。いやあ、長かったよ。……本当に」
 身体中に、雑多に物を詰め込まれたようだった。吐き出す手段も、浮かばない。
 視界が歪む。堪えたいのに地面さえも映らなくなって、頬を、口元を押さえる指を、涙が何度もなぞっていく。本当にこれは現実なのか?
 顎をすくい上げられた。ある程度戻ってきた視界のすぐ先で、親友のはずの男がぞっとするほど綺麗に笑っていた。
「大学卒業したらこれだから、本当にまいったよ。やっぱり近くで見張ってないと駄目だね。お前はとっても人気者だから」
 自分の知らないところで、そもそも問題のわからない答え合わせをされている気分だった。考えないといけないのに、できない。
「あんな女、お前にふさわしいわけないだろ? 一番は俺。お前のこと絶対幸せにしてやれるって、あんなに一緒にいたのにわからなかった?」
 宝物に触れるように、両方の頬を撫でられる。感情が流れ込んでくることを防げない。
「俺はお前の全部が好きだよ。誰にでも分け隔てなく優しいところも、相手をつい優先させちゃうところも、でもいざという時は前に出て守ってくれるところも、もちろん身体も全部……好き」
 親指で、唇の表面をするりと撫ぜると、男の口元がさらに緩んだ。
「そういえばこのぷっくり気味の唇がコンプレックスだって言ってたっけ。俺からしたら全然そんなことないっていうか……いつも貪りたくてたまらなかったんだよ?」
 そのまま迫ってくる瞳を、そのまま受け止めてしまった。ゆるく食まれて、舌であますところなく撫でられて、ついには口内に侵入されても、抵抗できなかった。
 気力が、奪われていた。

「これで、お前はもう俺のものだね」

 彼は、今まで見た中で最高にまぶしい笑顔を顔面に飾っていた。
 死ぬまで、脳裏にこびりついて離れないような、笑顔だった。畳む

ワンライ 編集

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