Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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夢と誰か言ってくれ

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『音』『真紅』です。
主人公の独白メイン。暗いです。

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 目の前が赤く染まる。呆然と、その赤を瞳に映していた。
 生と死の狭間へと誘う音がだんだんと近づき、目の前で急停止する。

 大丈夫ですか! 意識はありますか!
 持ち上げるぞ!

 まるで、自分の身体がこの場に存在していないかのようだった。
 もしかすると夢かもしれない。だからこんなに現実感がないんだ。そうに違いない。

「すみません、お知り合いの方ですか?」
 目の前ではっきりと声をかけられ、薄れていた意識が無理やり戻る。頷いた、というよりも項垂れた。間違いなく現実だと、宣告されたようなものだから。

「お前に、俺のなにがわかるってんだよ……!」
 些細なきっかけで始まった喧嘩だった。このところ残業続きで疲れがたまっていて、それでも彼とのデートは数日前から楽しみにしていた。
 行きつけのバーでの出会いがきっかけで付き合うようになった二歳年下の彼は、年下とは思えないほどしっかりしていて、自分をよく見てくれている、ただの恋人では括れない大事なひとだった。
 その日のデートは彼からの提案だった。自分のためと確信できるのは、行く場所が好きなところだったからだ。
 心から楽しんでいた。恋人の絶えない笑顔も胸に染み渡る思いだった。
 それを、夕飯のときに入れたアルコールのせいで余計な口を滑らせ、口論したまま帰り道を進むはめになってしまった。
 一言謝れば済む話だ――そう頭のどこかではわかっていたのに、意地が先行して過剰な内容ばかりが飛び出す。
「いいからもうほっといてくれ! お前も俺に付き合うのはうんざりだろ!?」
「っお前は! そういうところが無駄に頑固だからいらつくんだよ!」
 優しい彼もいい加減我慢の限界に来たのか、背後から荒げた声をぶつけてきた。

 ハンドルを切り損ねたのか、先頭にいたからよくはわからない。
 空気を切り裂くような音が聞こえて、振り返ると白線を乗り越えた車のそばに、恋人が倒れていた。

 自分の周りだけが照らされた待合スペースで、光と闇が入り混じった床をただ見つめる。
 酒を飲まなければ。夕方で解散していれば。そもそも出かけなければ。
 後悔ばかりが今さら浮かんで、胸を、頭を圧迫しにかかる。もうひとりの自分が激しく責め立てている。
 喧嘩なんて、今までも何度かあった。そのたびにどちらかが折れて、元通りのふたりになっていた。
 それなのに今はどうして、ここに謝りたい相手がいない? どうして、生死をさまよい、祈る事態までいってしまった?

 失う未来なんて考えられない。たとえ喧嘩しても、誰よりも彼が大事なんだ。彼のいない日々に耐えられる自信なんてこれっぽっちもないんだ。
 組んだ手のひら同士を固く、痛みを感じても握りしめる。この強さは、彼への祈りの強さ。
 目を閉じればいろんな表情の彼が目の前に現れては消える。男にしては大きめの瞳で、まっすぐこちらを見つめ返してくれる視線の強さが好きだ。
 言葉にせずとも伝わってくる想いに、込められる想いをすべて返せば、何よりも幸せそうな表情を浮かべる瞬間が好きだ。

 どうか、その時間を再び味わわせてくれ。畳む

ワンライ 編集

どうしようもない馬鹿のスイッチを押すとどうなるか

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『偶然か必然か』『大好物』です。
大学生もの。攻めが頑張って口説き落とそうとしてくるのを、いつも通りかわしたはずだった。

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「ねえ、僕が君の好物を当てられたのってすごくない? 本当に偶然なんだよ。これってもう愛の力っていうか、惹かれ合うものがあるっていう証じゃない?」
「はいはいそうですね」
「なんで投げやりなんだよ! あ、そうか。自分が負けたって認めたくないってことか! うんうん、君はプライド高いもんね。そんなところも僕は大好きだけど」

 どうも盛大に勘違いをしているようなので、小説に落としていた視線を、ようやく目の前でぎゃんぎゃんとうるさい男に向けてやる。これから残念な種明かしをされるとも知らず、この男は俺が反応を示したことに素直な喜びを向けている。
「残念だけど、お前がこの小説を買ってきたことで証明されたのは、俺ではなくお前の敗北だ」
 日本語が理解できない。そんな表情を返してきたので栞をはさんで小説を閉じた。やはりきちんと説明する必要があるらしい。
「俺は、この小説が好きだということをあるひとりの友人に『だけ』話した」
 まだ彼は呆然としている。頭の中で己が取った行動を反芻していると言ったほうが正しいかもしれない。
「俺が、周りをちょろちょろしているお前に備えて、自分の情報を一切他に漏らしていないのは知っているな? だから『最初で最後のお願い』と、勝負を持ちかけられたときに思いついたのがこの方法だったのさ」

 二週間の間に、今現在の俺の大好物を当てる。それを「己の力だけで」解き明かせたら、「付き合いたい」という彼の願いを叶えてやる。
 相手にとってはただ分が悪いだけの条件をつけても承諾したのは、まぎれもないこの男だった。
 彼がどれだけの頭脳を持ち合わせているか、高校二年の頃に知り合ってから大学生となった現在まで付きまとわれている以上、いやでも把握している。自力で割り出せるはずがないとはじめからわかっていた。
 全くの予定通りすぎて、浮かんだのは喜びより呆れだった。

「自ら負け戦をするとは、お前も相当のバカだな」
 ため息をついて、再び小説に視線を落とす。こちらとしては、タダでこの本を手に入れられて棚からぼたもち状態と同等だった。ハードカバーだから、学生の身には懐が少々痛む金額なのだ。
 すっかりおとなしくなった男に小さく名前を呼ばれるが、生返事だけを返す。早く物語の世界に浸りたい。
 瞬間、頭が持ち上がるような、不思議な浮遊感が走った。

「っお、ま……っ、ん!」
 唇を塞ぐ感触を必死に引き剥がそうと、両腕にありったけの力を込めるがびくともしない。そういえば彼は、高校時代も今も運動部に所属している。体育ぐらいでしか運動していない俺との筋力の差は、認めたくないが歴然だった。
 口内でうごめくこれは、舌だ。恋人になることすら許していないのにこんなキスをあっさり許してしまうなんて、失態以外のなにものでもない。
 ――告白だけは掃いて捨てるほどしてきても、強引な手段に出ることは一度たりとて、なかったのに。
「ふ、ぁ……は……」
 耳を塞ぎたくなるような声だけが漏れてしまう。心なしか、背中にぞわりとした感覚も生まれている気がする。
 それでも、角度を変えながら欲望をぶつけるようなキスを、何度も彼は続けた。

「……僕、諦めないから」
 ようやく唇を解放するなり、彼は囁くように告げた。同時に切れた細い糸に、熱が顔に収束するのを感じる。
 身体が動かない。すべて生気を吸い取られてしまったように、情けなく真顔の彼を見つめるしかできない。
「絶対、君を手に入れてみせる。最初で最後のお願いは、撤回する」
 瞳の奥に、赤い炎が見えた気がした。こんな気迫も、今まで一度も見たことがない。
 頬をひと撫でしてから、彼は静かに立ち去った。もともと人気がほとんどない大学校舎の奥にあるベンチに、本当の静寂が訪れる。

「……ありえない、こんなの」
 はじめてあの男にペースを乱され、心臓が無駄に早鐘を、打っているなんて。
 胸の上の服を、力任せに掴むしかできなかった。畳む

ワンライ 編集

俺の頭の調子はもっとおかしい

#BL小説

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ちょっと二次創作みたいなノリになってしまいましたw

風邪を引いた主人公のもとに見舞いにやってきた親友は、どこか色っぽいと感じてしまう雰囲気を普段から持っていた。
それは彼を好きと思っているから? いや、そんなはずはない。友達としてしか見ていないはずなんだ。

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 久しぶりに風邪を引いた。
 前日は中学生以来の三十八度まで熱があがってしまったが、なんとか微熱より強い程度まで下がってくれた。うまくいけば明日には復活できるかもしれない。
 一人きりは寂しくて嫌いというタイプではないのに、風邪特有のマジックか心細さを感じてしまう。本当に若干だが。

『ちゃんとおとなしく寝てろよ? お前、ただでさえ落ち着いてらんないタイプなんだから』

 休みのメッセージを送った友人からの返信を思い出す。
 大学の入学式で出会ってから一番仲がよくて気の合う、いわゆる「親友」という間柄だ。
 昨日は見舞いの打診をされたが、風邪がうつると大変だからとお断りのメッセージを送っていた。それでも彼のことだから、抜き打ちでやってくる可能性が高い。
 意外と面倒見のいいやつだから、黙って見過ごせないとかそういうことなのだろう。だとしても彼女じゃあるまいに、放っておいても問題ないのに。
「彼女がいたらお願いしちゃうかもだけどな〜」
 看護婦のようにやわらかな笑顔を向けられながら、甲斐甲斐しく世話をしてもらいたい。

『どうだ? 身体、少しはさっぱりしたか?』
『ああ。拭いてもらっちゃってほんと悪い。めんどくさかったろ?』
『なに言ってんだよ。付き合ってるんだからこれくらい当たり前だって』
『そ、そっか。そう、だよな』
『全く、そんな風に照れられたら困るだろ……手、出せないのに』

「ってなんでアイツ思い浮かべてんだ俺はよー!」
 かすれてパワーのない叫びでもせざるを得なかった。照れた親友の顔を思い出してひいい、と情けない悲鳴ももれる。
 ダメだ、予想以上に頭をやられている。彼「女」がいいのにどうして彼「氏」なんだそこで!
 ……確かに、あの親友は同性の目から見ても変に色っぽい雰囲気を醸し出すことがあるが、全くもって関係ない。関係ないはずなんだ。

「……んあ? インターホン?」
 もう一度寝直すしかないと布団をかぶって、意識が半分落ちかかったときだった。
 仕方ない。重い身体を起こしてゆるゆると玄関に向かう。

「よ、今日こそ見舞いに来てやったぞー」
 ついさっき妄想していたことを思い出して、固まってしまう。
 なぜか、見慣れたはずの整った顔が妙にきらきらしている。今まで一度もそんな現象にあったことはない。まさか妄想のせい?

「おい、どうした? あ、まだ熱高いか……それなら悪い」
「あ、い、いや。今はそこまで高くないよ。大丈夫」
 彼はほっとしたように笑う。……やっぱり、色っぽい。いや、むしろ可愛い?

「あ、上がってくか? お前がいいならかまわねーよ」
 慌てた拍子に、遊びに来たときのようなノリで口走ってしまう。自ら追い込むような真似をしてどうするんだ!
「おー、もともとそのつもりだったし。んじゃ、ちょっと上がらせてもらうわ」
 内心混乱する自分をよそに、彼はリビングにずんずんと進んでいく。後を追うと、手にぶら下げていた大きめのビニール袋からヨーグルトやゼリー、ペットボトルを取り出して冷蔵庫に入れてくれていた。

「ほら、おとなしく寝てろって」
 こちらの視線を飲み物が欲しいという訴えと勘違いしたのか、食器棚にあるコップとしまったばかりのペットボトルを両手に、こちらに向かってくる。
 まるでこの家のもうひとりの主であるような、実に無駄のない動きだった。

「他に欲しいものあるか?」
「あ、いや、大丈夫。つか、いろいろ買ってきてもらって悪いな。ありがとう」
「冷蔵庫の中スッカスカでびっくりしたぜ。昨日よく無事だったなお前」
「運よくプリンとかレトルトの粥とかあったから、それ食ったりしてた」
 スポーツドリンクのほんのりとした甘さがありがたい。くだらない妄想事件はともかくとして、風邪の定番ものを差し入れてくれて助かったのは事実だ。

「あ、そこに貼ってるやつもぬるいんじゃねえの? 替えてやるよ」
 実に自然な動作で額のシートを剥がされて、拒否するひまもなかった。
 面倒見のよさが遺憾なく発揮されている。
 ……行き過ぎな気がするのは思い過ごしだろうか。いや、そんな感想自体が危険な気も……。

「そうだ、お前が休んでたぶんの講義のプリント持ってきたぞ。コピー代は差し入れぶんと一緒に、あとできっちり請求するからな~?」
 どこか意地悪い笑みなのに、わずかに心臓が跳ねる。
 あの切れ長の双眸と左にある泣きぼくろが、色気の元凶かもしれない。
 さらに細められた状態で覗き込むように見つめられたら、道を踏み外しそうだ。

「お前さぁ……色気あるって、よく言われねえ?」
 口にしてから、無意味に唇を思いきり真一文字に結ぶ。自分で自分をコントロールできていない。熱の恐ろしさを改めて実感する。
「んー、そうでもないけど? てかいきなりなんだよ」
 自分も突っ込みたい。どう締めればいいのかわからず、とっさに「なんでもない」とありきたりで解決に向かない返しをしてしまう。

「……なるほど。お前、俺のこと色っぽいって思ってたんだ」
 面白い遊びを発見した子供のような表情に、寒気とは違うものが背筋を走る。うまく説明できない。
「そういえば俺が世話してやってたときも嬉しそうだったし、もしかしてそういう意味で好きだったり?」
 後ずさろうとして、背中を壁に預けていたことを思い出した。

「ま、俺としては狙った通りかな」
「……え、それって」
 どういうこと。
 訊き終わる前に、横になるよう促される。自分を映す瞳にますます輝きが灯って、ヘビに睨まれたカエルの気分そのものだった。

「のど、まだ乾いてるだろ?」
 自分が口をつけたカップを自らのほうに持っていき、軽く傾ける。トレーの上に役目を終えたそれが置かれた瞬間、ようやく彼の意図に気づいた。
「ま、待っ……ん!」
 口内に甘く冷たい感触が流れ込んでくる。火照った熱を冷ますように内壁もゆるくなぞられて、抵抗感が湧き上がらないどころか甘んじて受け入れてしまう。
 まさか、夢見ていたシチュエーションがこんなかたちで実現するなんて。

「おいしかっただろ?」
 満足げに微笑み、わざとらしく舌を這わせた親友の唇はつややかな光を放っていて、まるで蜜に誘われた蝶のように視線を奪われてしまう。
「それ、もっと欲しいって言ってんの?」
 再び重ねられたのは、首を上下に振っていたのだろう。
 すべてを飲み込んでもなお、唇は囚われたまま熱をさらに上げていく。不快感どころか、高揚感と気持ちよさを覚えるのは、彼がうまいせいか、風邪のせいか。

「……っあ」
 離れていくのが名残惜しい。心の中の声は、ばっちり相手に伝わっていた。
「お前さ……人のこと煽るの、やめろって。さすがにこれ以上、手出せないし」
「いいよ。別に」
 なんのためらいもなしに、肯定する。
「お前のせいで、下がってた熱がまた上がっちまった。見舞いに来たんなら、ちゃんと責任とれよ」

 わがままなヤツ。
 楽しそうに告げたその言葉が、合図だった。
 身体を覆っていた毛布をまくられる。シャツの裾から滑り込んでくる、少しひんやりとした手のひらはごつごつとした感触をしているのに、甘美な痺れを生み出す。

「あ……っ、ん」
 胸元をかすめた瞬間、思わず口元を塞いでしまった。なんだ、今の鼻にかかったような声は。
「ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ」
 いやだと拒否しても彼はお構いなしに壁を壊して、頭上にまとめられてしまう。

「いいから、おとなしくしてろって……」
 今度は舌でも触れられて、堪えきれずにみっともない喘ぎがこぼれ続ける。
 男でも感じる場所だと知らなかったのは自分だけに違いない。でなければ、ためらいもなく胸に吸いつけるわけがない。

「気持ちいいんだろ? ここ、反応してる」
 服の上からなぞられたら、抵抗する力はもうなかった。
「あ……はっあ、ぁ……、や……!」
 緩急をつけて揉みしだかれ、ゆれる腰と声を止められず、ついには下着ごと下ろされ、直に触れられた――


 目を開けると、見慣れた天井が飛び込んできた。
 ……天井?
 耳の近くで鳴っていると錯覚しそうなほど心臓を脈打たせながら、首を軽く左右にひねる。いたはずの男がいない。というより初めから存在していない雰囲気だ。
「もしかして……」

 夢?
 声も感触もリアルに覚えているのに、まさかの夢オチ?
 茫然自失とは今にふさわしい。ショックも計りしれない。そっと毛布をめくり、身体の中心を確かめてさらに後悔した。
 どこからが夢だった? 変な妄想をしたところまでは覚えている。なら夢だけのせいにできないじゃないか。気の合う親友という認識だったはずなのに、ときどき色っぽく見えるなんて感想を抱いたばっかりに……!

 のろのろと起き上がり、膝を抱える。しばらく穴ぐら生活をしたい気分でいっぱいだった。誰の目も届かない場所で、落ち着いて頭の中を整理するのに最低一ヶ月の時間がほしい。
「とりあえず、俺があいつを好きだってのはない。絶対ないから」
 意味がなくても、言い訳をこぼしたかった。自分が好きなのは女の子、昔も今も女の子と恋仲になりたい。えろいことだってしたい。

『それ、もっと欲しいって言ってんの?』
『ばか、塞ぐなって。そういう声、もっと聞かせろよ』
『気持ちいいんだろ? ここ、反応してる』

 瞬間、部屋を満たした音に、突き上がった衝動がかき消される。
 家と外をつなぐ扉が、とてつもなく恐ろしく見えた。畳む

その他SS 編集

お題SS:初めてついた嘘

#BL小説

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「一次創作お題ったー!」で生成されたお題に挑戦しました。
相手の気持ちをはかるためについたはずの嘘が、利用された?

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「あの子、お前のこと好きなんだってよ」

 危険な賭けだった。
 最悪、おれだけが悪者となって終わるだけ。
 それでも、友達ポジションに甘んじたままの現状から脱却するにはこれしかないと思った。
 多分、相当に追い込まれているのだろう。

「……ふーん」
 クールが基本な想い人は、やはりクールに相槌を打った。
「嬉しくない? ほら、あの子って高嶺の花とか言われてるほどじゃん?」
 普段、誰それが好きという話は全く聞かずとも、ネットにあふれる女性画像達に「この胸は好み」だの「尻の形がたまらない」だのと話題にしている姿を見ているから、人気のある女子から好かれていると知れば少なからず好意的な反応を取るだろうと踏んでいた。
 それは同時に、自らの恋に終止符を打ち込まれるようなものだが……もはや、構わない。

 ――そうか。一ミリの期待さえも砕かせるための嘘だったのかも知れない。

「……そうだな。嬉しいかな」
 こちらをじっと見つめていたかと思うと、目元を緩めてそう返してきた。
「そ、う。やっぱり、そうだよな」
 ――覚悟していたとはいえ、つらい。
 いや、覚悟が足りなかったんだ。どれくらい彼への思いを秘めていたか、理解していたようでできていなかった。
「じゃ、じゃあ、もういっそ告白しちゃえば? いやーうらやましいなぁ。でも絶対お似合いのカップルになるだろうな、うん」
 頭をかくフリをして俯く。なにを言っているのかおれ自身もよくわからない。口を開いていないとみっともなく泣いてしまいそうなことだけは自覚していた。
 身から出た錆。今の状態にふさわしすぎる言葉だ。

「そんなにうらやましいのか」
 聞こえてくる声は、どこか愉快そうだった。
「全く、わざわざ下手な嘘なんかつかなくてもいいのに」
 よく、意味がわからなかった。
 名前を呼ばれて、反射的に顔を上げてしまう。

 漫画だらけの見慣れた本棚が、片目に映る。
 あれ、どうして片目だけ?
 もう片目には……また見慣れた、彼の顔、いや目が、見え……。

「はは、見事に固まってら」
 口の片端を少しだけ持ち上げた、友人得意の笑いを見た瞬間――急激に時間が回り始めた。
 言葉にならない声が唇からただこぼれる。恐怖に包まれたようにじりじりと後ずさって、勉強机の椅子にすぐ背中を塞がれてしまった。
 どうして彼にいきなりキスをされたんだ?
 どうしてずっと夢で見るだけだった光景が、前触れもなくやってきたんだ?

「半ギレでもして、嬉しいなんて言うなとか言ってくれるかと思ったのに、あっさり身を引くんだもんなぁ」
 全く事態を飲み込めない自分をよそに、彼はやれやれと溜め息をついている。
「俺を試そうとか、お前が一番苦手なことをわざわざやらなくていいよ。だったら素直にぶつかってこいっての」
 な? と小首をかしげて、彼はいたずらっぽく笑ってみせる。

 バレていた、とでも言うのか。
 あんなに必死にひた隠しにしていたはずの気持ちを、この男はとっくに見破っていたと、いうのか。
「バレてない。そう思ってた?」
 頬をするりと撫でる感触が、まぎれもない現実なのだと知らしめてくる。
「知ってたよ。俺はずっと、お前の気持ちに気づいてたんだ」

 女子と、恋する人間誰もが見惚れる笑顔が近づいてくる。
 独り占めしているのは、他の誰でもない……おれ、ただひとり。
 そう飲み込んだ瞬間、自然とまぶたが下りていた。畳む

お題SS 編集

きみはおれだけのものだから

#BL小説

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「一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は『呼気』『許して』です。

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「許して」
 背中に届く声と呼吸のリズムは、まだ「普通」だった。
 細かく震えている程度なら、まだ「足りない」。

「許、して」
 次第に、呼吸の乱れが口調にも移り始めた。
 怖いものの苦手な人が、お化け屋敷の中間まで進んだような状態といえばわかるだろうか?
 でも、まだまだ足りないよ。君にはもっとわかってもらわないと。
 君が俺に対して、どんな愚行を犯したのかを。

「ゆる、して……おねがい、だから……」
 しゃくるような呼吸が混ざりだした。ようやく、自らの罪の重さを自覚し始めたのだろうか?
 自然と唇が持ち上がる。
 でも、まだ物足りないんだ。君はもっと、自分の立場というものを理解してもらわないといけない。
 何度、このくだらない茶番を繰り返していると思っているの?

「ごめ、なさ……も、二度としませんから……僕は、君だけのものだから……!」
 背中に引っ張られる感触を覚えた瞬間、身体ごとゆっくりと振り向いた。
 すべて想定通りの展開に、恋人の表情だった。

「本当に、わかってくれた?」
「俺のもとから逃げ出そうとしたくせに?」
「君は俺のものだって理解してくれたと、本当に信じていいの?」

 普段以上に大きい瞳を涙で埋めて、恋人は何度もうなずきを繰り返す。俺の腕をすがるように掴んだ手からは、はっきりとした震えが伝わってきていた。
 ああ、この表情がたまらない。
 俺から逃げられない、身体も心も完全に縛られていると実感できる瞬間は、麻薬にも似た高揚感を与えてくれる。

「二度と、自分の立場を忘れないで?」
 跪いて、小動物のような恋人に触れるだけのキスを与える。そのまま腕の中に引き寄せると、剥き出しになっている首筋に吸い付いた。
「君はずっと、俺だけのものだから。何があっても……ね」畳む

ワンライ 編集

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