Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

カテゴリー
ハッシュタグ

結局、負けは確定

#BL小説

20210102200751-admin.png

一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負  に挑戦しました。
・「どうしてもって言うならば」
のお題を使用しました。大学生ぐらいの2人がキャッキャしてるような感じですw

----------

「……どうしても?」
「どうしても。これは罰ゲームだ、お前に拒否権はないはずだけど?」
 それを言われたら何も返せない。目の前のニヤニヤ顔を恨めしげに睨み返す。
 どうしてこんな展開になったのか、もはやきっかけも思い出せないが、「負けた方は勝った方の願い事をひとつ叶える」という条件だけはしっかり頭に焼き付いていた。条件が条件だ、当たり前だろう。
 そして自分は見事に敗者となってしまった。冷静に考えれば彼にゲームの腕で勝てるわけがないのに、さっきはどうかしていた。熱くなりすぎてしまった。
「で、でもさ? いくら恋人だからって普通に引くだろ? 女装してデートとかありえないって。しかも絶対スカートとか嫌すぎるわ!」
 まさかの条件に、最初は空耳かと疑った。二回目で冗談だと思い込みたかったのに、許してもらえなかった。
「だから大丈夫だって。お前結構可愛い顔してるじゃん? ばれないばれない」
 何て脳天気な恋人なのか。いや、これは違う。意地悪スイッチが全力でオンになっているんだ。
「そんなん理由になるか! あのな、周りって見てないようで見てたりするんだぞ? それに顔が可愛いって言ったって身長170以上あるしゴツめだし」
「俺と身長差そんなにないし、ぶかぶかした服着れば目立たないっしょ。姉貴、確か緩めの服いっぱい持ってたから大丈夫」
 爽やかな笑顔を向けられても絶望しかない。お姉さんにどう説明する気なんだ。彼のことだからきっとうまく口が回るのだろう。ああ、お姉さんの身長が170近くあることが今は恨めしい……。
「あのさ。俺にとっては嬉しくもあるんだぞ?」
 急に真面目な声で距離を詰められて、口ごもってしまう。
「何も気にしないで普通にデートできるんだぞ? 俺、密かに夢だったんだよ。その夢、叶えてくれないのか?」
 眉尻まで下がっている。どこか気弱にも見える仕草がらしくなくて、柄にもなく戸惑いかけた。
「……そうなんだ。ごめん気づかないで……ってそんな手に引っかかるか!」
「あら。ダメ?」
「口の端っこがびみょーに震えてたぞ」
「顔に出てたか……しまったなぁ」
「大体、今までだって何回も堂々とデートしてるだろ。おれが嫌だっていってもお構いなしにベタベタしてくるじゃないか」
「俺はいつでもそういう気持ちで楽しみたいからね」
 今の言い方はずるい。無駄に反応してしまったのは死んでも隠し通してやるけれど。
「じゃあ、誰よりも可愛い恋人を堂々と連れて悦に浸りたいっていうのじゃダメ?」
 さっきの理由より信頼できる物言いだった。だったが。
「お前、そういう奴だったのか……若干引くわー」
「そうか? 俺はたまらなく嬉しいけどね」
 頬に触れられたかと思った瞬間、唇を柔らかい感触が走る。
「だって、人目を引く奴の一番近くを占領してるんだぞ。どんな表情も独り占めできるし、こういうことだってできる。ものすごい優越感だと思わないか?」
 また、何も返せなくなってしまった。
 彼もそうだ。街中を歩けば、すれ違った異性が絶対反応する。時には声さえかけてくる。
 そんな彼の「一番」に君臨しているのは、紛れもない自分。自分だけが、いろんな姿の彼を知っている。時には本当の心に遠慮なく触れることだってできる。
 ああ、納得してしまったじゃないか。反論の材料がなくなってしまった。
「理解してくれたんだ?」
 狙い通りとも取れる笑みが腹立たしい。何でお前は見た目がいいんだと、理不尽な言い訳を叩きつけたくなってしまう。
「わかったよ、わかりました。お前がどうしても、って言って聞かないからな」
 これぐらいの負け惜しみは許してもらいたい。彼には全く効いていないみたいだが。
「ただし、一時間な。家を出てから一時間」
「短い。二時間、いや、四時間は欲しい。これは厳命だ」
 彼の目が本気すぎて、受け入れざるを得なかった。

「……待てよ。悦に浸るって、別に女装してる必要なくね?」
「今さら気づいたのか?」
「……またお前にいいように乗せられたああああ!」
「どうも、ゴチソウサマデシタ。可愛い可愛い恋人さん?」畳む

ワンライ 編集

自信満々準備万端な勘違い

#男女もの

深夜の真剣物書き120分一本勝負  に挑戦しました。
②考証
のお題を使用しました。沿ってるかは自信ないです。。

---------

 おっかしいな……。
 私は自分の証明が見事にひっくり返ってしまったことに呆然としていた。頭が真っ白だ。
「何をぼけっとしている。俺からすれば、自信を持っていたことの方が驚きだが?」
 恋人になるはずだった想い人は、触れられそうにないほどの冷たい瞳と声でへたり込んだ私を射貫く。ある意味彼のチャームポイントみたいなものだけど、今はただ痛い。
「だって……だって、私だけに優しかったじゃないですか」
「優しかった? 俺が? お前だけに?」
 一言一句丁寧に訊き返されるのがきつくてたまらない。それでも私には証拠がいくつもあるのだ。知らないなんて言わせない。
「三日前です。私が廊下でへこんでたら先輩が来て、でも何も言わないでいてくれました。私に気を遣ってくれたんですよね? そういう時はいたずらに声をかけない方が相手のためになりますもんね」
「ミスが減らないお前に呆れてたんだ。いつになったらマシになるんだとな」
「そ、その前には誤字のあった書類の再提出を命じた時に、頭をポンってしてくれたじゃないですか。それは好きな人から女子がされたら嬉しい行動ランキング上位に入るやつですよ!?」
「誤解させたなら申し訳なかった。あれは三回もお前の書類をチェックさせられて、さすがの俺もイライラが抑えきれそうになくてな。張り倒したくなったのをギリギリで堪えたからだ」
 ひどい。私はあれで完全に恋に落ちたっていうのに、そんな残酷な種明かしがあるか。
 全身の力という力が消えそうだ。横たわったらきっと起きられない。
 でも諦めない。それより前にも、証拠となる言動は揃っている。
「そ、そういえば! 部長に頼まれて一緒に資料を探している時ですよ。私が躓いて転びそうになりましたよね? そうしたらいつもそっけない態度ばっかりだった先輩が抱き寄せて助けてくれました。絶対無視するって思ってたのに助けてくれたから、これがいわゆるツンデレなのかって」
「……ああ、二ヶ月くらい前のやつか。あれはお前が転んだ先にパソコンが置いてあったから、故障させないために不本意ながら助けたんだ。資料室のデータベースだぞ? 一大事どころの話じゃない」
 そ、それは確かに最悪クビになってもおかしくない、いや、クビだけじゃ済まないところだった……。先輩にも連帯責任が降りかかっていたかも知れない。
「その件に関しては、納得しました。大変申し訳ありませんでした。でも、まだまだあります」
「もういらん。どうせ勘違いだ」
「会議で発表していたプレゼンで、私が勘違いに気づかないままだったところに恥かかないよう訂正とフォローを入れてくれました! 嫌いだったらそういう態度は取りませんよね?」
「上司の俺の評価にも関わるからに決まっているだろう。お前のためでは断じて、ない」
「出社して挨拶した私の顔を見て慌てて目を逸らしたことありましたよね! 今思い出しました! あれは正真正銘照れ時の反応! もしくは不意打ちにやられた反応! 恋愛ドラマとか漫画で腐るほど見ましたよ!」
「お前のすっ飛んだ理屈の元凶はそれか……どうしようもない」
「私のバイブル達を貶めないでいただきたい! それよりどうなんですか!」
「もちろん盛大なお前の勘違い、というか間違えた気の遣い方だったんだなと今思い知ったよ。口の両端に食べ物のかすみたいなものがついてたから笑いそうになっちまったんだよ。一応女相手に失礼だろう?」
 うそ……。
 自信満々に繰り出した証拠がすべて勘違いと反論できない答えで叩き伏せられてしまった。
 本気で立ち直れない。ふられただけじゃなくて嫌いでしたと最悪の告白までされるなんて、ほんの数分前の私は想像できた?
 先輩は参考書によれば典型的なツンデレのはずなのに、デレは存在すらしていなかった。恋愛経験が乏しいせいでこんな結果になってしまったの?
「……せんぱい……」
「いいからとっとと頼んだ資料持って来い。いつまで待たせるつもりだ。ご丁寧にタイトルを一言一句正確にメモしてやったんだから間違えたとは言わせないぞ? わかってるな?」
 初めての笑顔がナイフみたいに鋭いなんて、ある意味夢みたいです先輩……。畳む

ワンライ 編集

わがまま猫な彼と僕

#BL小説

20210102190619-admin.jpeg

創作BLワンライ・ワンドロ !  のお題に挑戦しました。
お題は「花より団子」です。タイトルは適当だし、花より団子……? な出来です←

---------

 二年前だったと思う。SNSでもかなり話題になったドラマだった。
 僕はもちろん、バイト先の先輩後輩も友達も大体見ていたし、感想や考察を話し合うのが当たり前になっていた。
 だが、今隣にいる僕の恋人は当時全く興味を示さなかった。
 と思ったら、今さら「気になるから今度一緒に観たい。レンタルしてきて」とおねだりまでしてきた。本当に読めないヤツだと思う。
 なのに……この状況はなんだ?

「あのさ……観てる? ドラマ」
 第五話まで来たところで、僕はたまらず声をかけた。これからどんどん面白くなるというのに、この男の行動が信じられない。
「んー? 観てるよ、もちろん」
「って言いながら画面見てないじゃん!」
「へー、わかるの?」
「さっきからちょっかいかけられてるからね」
 僕は、テレビは床に座って好きな体勢で観る派だ。彼はソファ派だから何となく縦に連なるような形になったのだけれど、そのせいで頭を撫でられたり耳たぶを触られたりと地味なスキンシップを受け続けている。
 彼がイタズラ好きというのは今に始まったことではないけど、言い出しっぺがこの態度だとさすがに文句も言いたくなる。
「そっちが観たい観たいってダダこねるから借りてきたんだよ? なのになんなの?」
「なんなのって、そりゃ決まってるだろ? お前が可愛すぎるから」
 思わず背後を振り向いた拍子に唇をさっと盗まれる。まるで手練れの怪盗だ。
 でも正直、ときめきじみたものは全然ない。
「誤魔化しのつもり? 普段そんなこと言わないくせに」
「心外だな。口に出してないだけでいつもそう思ってるぞ?」
 怪しい……。天の邪鬼と知りすぎてる僕からすればつい裏を読んでしまう。極端な話、スキンシップだけが頼りの綱だ。
 というか早くドラマに戻りたいんだけどな……。展開を知ってても、本当に面白いと関係なく見れてしまうものらしい。
「俺は照れ屋だからそういうのは簡単に口にしないの。だからそう疑うなって」
 隣に移動してきた恋人は頬を人差し指で突いてきた。完全に馬鹿にしている。
「というか、今んとこそんなに刺さってないんだよなードラマ。表情コロコロ変わるお前見てる方がよっぽど楽しいわ」
 何なんだ全く。本当は、ドラマ見終わったらいろんな話だってしたかったのに。楽しみにしていたレンタル中の僕が急激に色褪せてきて、悔しさと苛立ちのあまりリモコンの停止ボタンを押しかけて……止まる。
「……僕、見てたの? ちょっかい出してるだけじゃなくて?」
「あれ、気づかなかった?」
 頭をなでなでしてくるにやにや顔を呆然と見つめる。
「オチまで知ってんのに笑ったり泣きそうになったりしてさぁ。全然飽きないのなんのって。俺的にはそれが収穫だったなー」
 逃げたい。あるいは布団にくるまりたい。無防備な状態を観察されてたなんて恥ずかしい以外ない!
 思わず両手で顔を覆うも、遠慮なしに外された。そのまま押し倒されて、床に固定されてしまう。
「本当に天然だよな、お前」
「天然って、意味わかんない……」
 それ以上の反論は、互いの口の中に消えた。

 ドラマは、いつの間にか第六話に進んでいた。クライマックスに向けてますます盛り上がる大事な回だ。
 けれど、もう頭に入る余裕はなかった。畳む

ワンライ 編集

どこまでフィクションな恋物語か

#BL小説

一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負  のお題に挑戦しました。
・文化祭
のお題を使用しました。無理やり感ハンパないです💦

----------

「今日は抱きしめるだけ。次来た時、まだ僕のことが好きだったらキスしてあげる」

 もちろん、好きなままだった。抱きしめられた時のあの高揚感と幸福感は、初めてに等しい強さだった。

「好きでいてくれてありがとう。じゃあ、約束通り……キスしてあげる」

 人生で初めてのキスを、同性から受ける。
 いや、性別は関係なかった。相手がこの人だったから、唇に最初触れられた時も、二度目三度目と繰り返されても、嫌な気持ちにならないどころか、もっと欲しくなった。
 この人への想いは嘘じゃない。本物だとようやく確信できた。

「おれ、あなたのこと本当に好きです。何があっても絶対ぶれません。だからもう、確認はいりません。……付き合ってください」

 自分を気遣って、段階を踏んでくれていたのはわかっていた。
 今こそまっすぐに応えたい。偽りない本心を届けたい。

「……また、会いに来るよ」

 返事はもらえなかった。それどころか、約束もなかった。
 確定された未来が目の前に降りてくるはずだったのに、一瞬で手が届かなくなってしまったようだった。
 嫌な予感がした。「会いに来る」と言われはしたが、それも果たされない気がしてならなかった。
 ——今度は、自分から会いに行かなきゃダメなんだ。怖いけれど、怖じ気づいていたらダメなんだ。

「まさか、君から来てくれるなんて思わなかったな」

 唯一の手がかりだったバイト先に何日も張り込んで、ようやく会えた想い人。本当に来るとは思っていなかったようで、純粋な驚きだけが存在していた。
 その場で言葉を連ねようとした自分の手を取ると、建物の裏に向かう。改めて対峙するも、なかなか彼は目線を合わせてくれない。

「……おれ、本気です。抱きしめてもらった時も、キスしてもらった時も、すごく嬉しかった。気持ち悪いとか全然なかった。……あなたは、違うんですか?」

 最後の問いかけはしたくなかった。その通りだったら立ち直れない。どうして期待させたんだと、恨みさえしてしまいそうだ。

「本当に好きになってくれるなんて、思ってなかったんだ」

 ようやく発された言葉は、意味のわからない内容だった。

「改めて告白された時に、僕も同じくらい好きなのかなって思ってしまったんだ。……僕からあんなことを提案したのに、最低だよね」

 最初に告白した後、段階を踏もうと言ったのは彼からだった。
『僕も好きだけど、本当に同じ気持ちなのかわからないから。確かめる意味でも、少しずつ恋人らしいことをしていこう?』
 結果は確かめるまでもなかった。だからこそ二人のこれからに心躍らせていたのに、現実は非情になりかけている。

「それで、どうなんですか。おれのこと、本当に……好きなんですか? キスとかしたいって思うくらい、好きでいてくれてるんですか?」

 声が震える。そうだと肯定してくれ。お願いだから、おれを否定しないで。
 掴まれたままだった腕をぐいと引っ張られた。否応なしに目の前の胸元に飛び込む形になる。体勢を整える間もなく、頬を包まれた。
 呼吸のまともにできないキスをされている。口内を動き回る柔らかいものは……彼の、舌? それに、たまに聞こえる変な声はもしかして、自分のもの?
 無理やりされているのに、呼吸もまともにできなくて苦しいのに、背筋がぞくぞくしてたまらない。気持ちいい。

「……こういうこと、したくてたまらないって思ってたよ。だから、本当は今日会いに行こうって思ってた」

 こちらを見つめる瞳が熱い。気を抜いたらあっという間に染められてしまいそうなほど、鋭い光で照らしている。

「もう絶対離してあげられないよ。それでもいいの?」

 返事の代わりに、初めて自分からキスをした。


「……っていう台本はどうよ? さすがに文化祭の舞台向きじゃないかなぁ」
「当たり前だろ! しかもこのネタ元ってお前とバイト先の先輩とのやつじゃねえか!」
「もちろんある程度加筆修正してるよ? 例えばべろちゅーなんて実際されてないしね。キスはされたけど」
「……それ以前に平然とネタにできるお前がこええよ……」
「でも恋愛ものとしてはなかなかいいんじゃないかなーと思うんだけどなー。書き直すのも面倒だし、いっそのことおれを女子にしちゃうか!」
「先輩見に来たらどう思うのかね。知らんけど」畳む

ワンライ 編集

結局は、自分かわいさ

#CPなし

深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
②中途半端
③清濁
のお題を使用しました。ちょっとこねくり回しすぎた感があります。。

-----------

「あなたの望みはなんだ?」

 無駄に装飾の凝った木製の椅子に座っていると気づいたのは、急に視界が明るくなったからだった。軽く辺りを見回して、どうやら私にだけスポットライトが当たっているせいらしい。
 それにしてもこの椅子、中世のヨーロッパにでも出てきそうだ。大体ここはどこなのか。

「あなたの望みはなんだ?」

 左右で別々の人に話しかけられているような心地悪い声で同じ問いを繰り返された。同時に、前方にぼんやりと何かが浮かび上がる。

「……そっか、これ、夢か」

 そう確信せざるを得なかった。今まで生きてきて、身体の半分が長い金髪の天使、もう半分がコウモリのような黒い羽根を生やした悪魔、という生き物に出会ったことがない。そもそもいるわけがない。

「望み? 働かなくてすむくらいのお金が欲しいわね」

 中途半端で気持ち悪い生き物に、鉄板の一つに含まれる回答を返す。夢なら敢えて乗ってみるのも悪くない。

「あなたは優しいのですね」

 天使の口端がゆっくり持ち上がった。声も目を閉じたくなるような清らかさだったが、片方からしか聞こえない。

「本音を言わないのは、相手を気遣ってのことでしょう?」

 言葉の意味はわからない。『相手』って、誰のこと?

「しらばっくれるな」

 今度は心臓が震える声だった。もう片方から容赦なく注がれた。

「あの女を憎らしく思っているくせに」

 頭の片隅で、一瞬鋭い光が灯った。見たくないのに主張してくるなんて、やめてほしい。というか、どうしてこの生き物がそんなことを知っているの。

(……だから、これは夢なんだって)

 もはや自身に言い聞かせるしかない。

「違いますよね。例えば今だって、彼女と距離を取っているのは余計な心配をかけさせないためでしょう? 幸せなままでいてほしいんですよね?」
「……やめて」

 なんて夢なんだ。リアリティがありすぎて息が苦しい。己を抱き込んでもさらに症状が重くなるばかり。

「笑わせる。あの女の結婚式に参加した時、素直に祝えないでいたくせに」
「やめて!」

 その日の感情が堰を切ったようにこぼれ出す。ずっと笑えていたかわからなかった私。ちゃんと彼女の顔を、隣の彼を見られなかった私。もらったブーケを帰宅してすぐに捨てた私。
 彼女が悪いわけじゃない。意中の彼とうまくいきたいと相談してはいたけれど、それが誰かを明確に告げていたわけではなかった。
 そもそも、その彼と彼女は知り合いですらなかった。どう運命が転んだのか、偶然二人が出会い、気づけば結ばれていたというだけ。

「そう思い込んでいるだけだろう」

 悪魔は容赦なく傷を抉ってくる。たまらなくなって逃げだそうとしたが、立ち上がれない。椅子に触れている箇所すべてが縫い付けられてしまったかのようだ。

「思い込みだなんて。二人にはこれからも幸せでいてほしいんですよね? だってとっても好きな二人なんですから」

 好きだ。好きなことに変わりはない。

「いいや、思い込みだ。なぜなら、お前にはまだ未練がある」

 ない、と反論できなかった。
 だって、本当に好きだった。誰からも頼りにされてしっかりしているかと思えば、少し抜けたところもある。見た目は落ち着いているのにどこか目を引く雰囲気を持っている。今まで出会ったことのないタイプだった。

 二人きりで飲みに行くまで仲を深めてきた。やっとここまで来たと嬉しくなった矢先に、彼女から彼を紹介された。
 その時の心境など言い表せるわけもない。どんな話をしたかも思い出せないくらいの衝撃だけが胸に残っていた。

「それでも友達に本当のことを言わなかったのは、友達が大切だったからですよね?」

 本音は、違う。
 お似合いすぎて、言えなかった。あるいは「友達の幸せを願ういいおともだち」でいたかった。表面上でも、二人の悪者にはなりたくなかった。
 結局はこのざまだ。正直に行動できなかったことを悔いて、想いをこじらせたままでいる。彼を奪われたわけでもないのに彼女に当たり散らしてしまいたくなっている。

 二人が出会う前に告白だけでもしていれば、こんな現実にならずにすんだかもしれない。
 私と彼が結ばれる可能性だって少しはあったかもしれない。
 押し込めた後悔が怒濤の勢いでやってくる。
 いやだ、こんなの空しくなるだけなのに。どんなに頑張っても時間は戻せないのに。

「そうやって、どっちつかずの態度でいたツケが回ってきたってだけだ。自業自得じゃないか」

 もはや反論する気力もない。

「だから、もう本音をぶちまけちまえよ。その方が楽になるだろ?」

 まさに、悪魔のささやきだ。

「そうですね。優しいあなたが壊れてしまう前に、大本の原因を取り去ってしまいましょう」

 頭が変にふわふわしてきた。ゆっくり顔を持ち上げると、霞のかかった視界にあの生き物が映っている。最初と変わらないはずなのに、どこか違って見える。

「あなたの望みはなんだ?」

 私は。
 その先を告げたつもりが、アラームの音に上乗せされた。
 恐怖と安堵両方に、心臓が押しつぶされそうだった。
 私は、どっちにもなれない。畳む

ワンライ 編集

2021年1月2日23件]

Powered by てがろぐ Ver 4.2.0.
template by do.

admin