Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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No.69

#BL小説
穏やかに、確実に、時は流れゆく

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③感無量」を使いました。
以前書いた「息抜きの場所は恋人の隣だけ」 の設定を使っていますが、雰囲気はちょっと違ってます。

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「所長。これ、頼まれてた資料です」
「お、ありがとー。ちょうどいいからちょっと休憩しようか。ほら、梓くんも」
「……わかりました。じゃあ、せっかくなんでお茶請け買ってきますよ」
 彼女がそう言い出すときは「自分が食べたいものがある」という証拠なのだが、突っ込む者はいない。止めても無駄というより、だいたい素晴らしいチョイスをしているからという理由が大きい。
 かすかな鼻歌をこぼしながら扉をくぐって行った梓を見送ると、牛乳だけを混ぜたコーヒーを応接に使うテーブルに置く。待ってましたとばかりに所長が隣に腰掛けた。
「……うん、おいしい~。すっかり僕好みの味になったね」
「そりゃほぼ毎日淹れてますからね」
「仕事もすっかり手慣れて」
「入社して一年経ちますからね。もちろん、まだまだ勉強不足ですけど」
 すると、なぜか微妙な顔つきになっていた。拗ねているかと思ったが、断言できる自信がない。
「……なんですか? その気持ち悪い顔」
 だから、こう言うしかできなかった。
「ひどっ! 仮にも上司に向かって!」
 しかし、なぜかにんまりとした笑顔に変わった。
「あぁ、でも生意気なところは変わらないよねぇ。ここに来たばっかりの頃を思い出すよ」
「所長だって、失礼ですよ」
 ますます笑みは深まるばかり。
「僕、昇(のぼる)くんのそういうところ結構好きなんだよね。なんか、裏表なくて微笑ましい」
「んなっ!」
 くそ、乱された。この人のぶっこみ方、いつもタイミングが読めなくて嫌いだ。
 どう返すべきかと必死に思考を回していると、肩を引き寄せられた。反射的に視線を向けた先には、やっぱり幸せそうな所長の顔が待ち構えていた。
「ちょ、ちょっと。仕事中ですし梓さん帰ったんじゃないですよ、買い出しですよ、そろそろ戻ってきますって」
「大丈夫だって。梓くんは僕たちの関係知ってるし」
 そうだとしても、実際見られたらたまったもんじゃない!
 ……訴えたところで言うことを聞いてくれないのも、悲しいかな一年の付き合いで学んだことだった。
「……だ、だったら。せめてこれ、やめてくれません?」
 頭を優しく撫で続けている手のひらを指差すも、可愛くないぶりっこ声で拒否された。
「君がここに来てからの日々を思い返してしみじみしてるんだもの、無理無理」
 声が甘くて柔らかくて、反論したいのにできない。なんだかんだで、こういう時に感情を誤魔化さないでくれるところが自分も好きだったりする。
 梓が戻らないことを祈りつつ、ぎこちない動きで身体を寄せていく。左側から伝わってくる、徐々に馴染みつつある熱が心地いい。
 始めの頃は反発ばかりして、人間としても新人としてもまるで駄目な人間だったのに、よくクビにされなかったどころか恋人関係にまでなるなんて、本当人生はどう転ぶかわからない。
 今でも単なる気まぐれなのでは、と不安になることもあるけれど……不思議と、このひとの隣にいるとネガティブな感情はたちまち消えてしまうのだ。
「あ、昇くんなんだか可愛い顔してる」
 頭を撫でていた手で顎を掬われた。訊き返す暇をもらえなかった原因は、唇を覆う柔らかい感触のせい。
「あー、そんな反応されると止まらなくなっちゃうなぁ。もっとしていい?」
「っだ、だめに決まってるでしょ! このエロ所長いいかげんに……!」

 コンコン。
 ごほんごほんっ。

 犯人、いや、救世主は誰か、言わずもがな。
 慌てて隣を突き飛ばし、平謝りしながら救世主を招き入れたのだった。畳む

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