主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。 男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。
2021.01.24 ワンライ 編集
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2021年1月24日(時系列順)[1件]
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それぞれの不機嫌の理由
#男女もの深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②不機嫌」を使いました。こういう少女マンガ的展開が大好きですw
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「そのマンガ面白いの?」
急に物語の世界から追い出されて、変にうわずった声が出てしまった。
「びっくりしたー。すごい集中力だね」
どうやら声の主は正面にいるらしい。慌てて視線を直すと、一方的にだが見慣れた顔があった。
「じ、神宮寺、くん?」
「うん。佐原さん」
相変わらず人当たりのいい笑顔をしている。ふいに目に留まる時はいつもこの表情だ……って、そんな感想はどうでもいい。
なんで接点のまるでない神宮司くんが目の前にいるの?
「な、なんで? ここに?」
「なんでって、ここ俺らの教室じゃん」
きょうしつ?
「ど、どしたん?」
非常に覚えのある状況だ。つまりちょっとパラ読みするだけのつもりが、あっという間に漫画の世界に取り込まれてしまったという……
「ま、またやったよもう……!」
漫画の厚さは一般的な単行本より多分二倍はある。しかも腰を据えて読まないといけないタイプだったりするから、短時間でも読みたい誘惑に駆られるのは御法度なのだ、たとえ通学時間が一時間近くあろうとも駄目なのだ、そうとわかっていたつもりなのに!
「やっぱり持ってこなきゃよかった……」
「え、面白いから夢中で読んでたんじゃないの?」
「だからこそなの……やっぱり家で集中して一気に読むべきだったの! 隙間時間で読むべき本じゃないってわかってたのに私のバカ!」
って、ちょっと待って。
私は今、誰と会話してるんだっけ?
「あはは、佐原さんって面白いなー! 相当面白いんだね、それ」
逃げたい。
黙ったまま背中を向けて、一気に走り去りたい。
全然話したこともない、しかも人気のある男子相手にあんな醜態をさらすなんて、ますます気味悪いって思われる。
というか神宮司くんはどうして普通に笑っていられるの? そもそもどうして声なんてかけたの? まあ、ある意味ありがたいと思ってはいるけれど……。
「ねえ、それなんて本なの? こーんな顔して読んでたから気になっちゃってさ」
世間話のノリで、神宮司くんは胸元を指差した。視線を落としてようやく、楽しみにしていた新刊をがっちり抱き込んでいたことを知る。
落ち着きはまだ戻りそうにないものの、とりあえず本のタイトルを告げようとして、気づく。
「こんな顔、って……それでよく声、かけたね」
神宮司くんは眉間に皺を寄せた顔を作っていた。
面白いと感じれば感じるほど、まるで不機嫌そのものな表情ができあがってしまう。
ほんの少しの面白さなら笑えるのに。
「ごめん、からかったりとかするつもりじゃなくて……前から気になってたんだ。佐原さん、本読んでる時だいたいさっきみたいな顔してるから」
誰も気にしていないと思っていた。端から見れば近寄りがたい女子そのものだからか、入学してからだいぶ経った今でも友達は全然いない。
そんな私とは真逆にいるタイプの神宮司くんが、私を気にしていた?
「佐原さんって、好きなものの前だとああいう顔になる性格なんでしょ? なんつーか、我慢しちゃうような感じになるっていうか」
素直に驚いた。
その結論に辿り着くなんて、奇跡としか言えない。
「なんで、わかって……」
「……俺もそうなんだよ。俺の場合は無表情に近い感じになるらしいんだけど、とにかく似てるでしょ?」
全く想像できない。それが顔に出ていたのか、神宮司くんは苦笑いを浮かべた。
「学校とかだと無理やり笑うようにしてるだけだよ。正直、かっこ悪いなぁって思ってる」
「そんなこと……ないよ。すごいと思う。私はどうしても、無理だから」
「別にすごくないって。だって顔に出さないようにしてるの、自分の中でじっくり味わいたいからってだけだし。あと素直になりすぎるのもなんか悔しいなって。ほんと、しょうがない理由だよね」
ちょっと可愛いと思ったが、どんな理由であれあまのじゃくみたいな行動を取ってしまう人が近くにいたとわかっただけで、心がすっと軽くなる。
「佐原さんもじっくり味わいたいからだったりする?」
仲間ができた嬉しさが伝わってくる。その喜びに水を差したくなくて、私だけがわかる嘘をついた。
「私も、そうかな。読んでる本が本だし」
タイトルを見せると、神宮司くんの眉がぴくりと揺れた。
「なに、『諸葛亮のすべて』? えっと……確か、三国志だっけ」
「うん。私、偉人のマンガが大好きなの。作者によって解釈も違うから、読み比べてみると面白いよ」
「へー。じゃあ織田信長もそうなんだ?」
「探してみるとわかるよ。いっぱいタイトル出てくるから」
「そう聞くと確かに面白いかもなー。しっかし、こんなしっぶいの読んでたとは……いや、ある意味イメージ通りかも?」
小さく笑い合う。これでも引かないなんて、神宮司くんが人気者の理由がわかる。
……仲間ができて嬉しいのは、私も同じ。たとえ理由は違っても、その気持ちだけは嘘じゃない。嘘じゃないから。
その時、教室を見回りに来た先生に軽く叱られてしまった。慌てて帰り支度を整える。
「じゃあ、神宮司くん、またね。話かけてくれて、ありがとう」
今日はとても素晴らしい日になった。「ありがとう」にたっぷりの感謝を込めて、頭も下げる。
「え、待ってよ。俺、一緒に帰ろうと思ってたんだけど」
「……いいの?」
せっかくの縁を、この場限りにしたくないとは思っていた。でも、元来のネガティブさが顔を覗かせたばかりに、避けようとしてしまっていた。
「もちろん! だって『仲間』でしょ? 俺たち」
いつか、神宮司くんに本当の理由を告げられるだろうか。
それだけの勇気を、私は持てているのだろうか。
でも今は、この喜びに浸っていたい。畳む