主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。 男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。
2021.01.01 ワンライ 編集
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No.18
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admin
偽りからの卒業
#BL小説「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
お題は『卒業』です。主人公のモノローグオンリーです。
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卒業するんだ。
恐怖はある。肩まで伸びた、軽くくせのある髪を切るためのはさみは、握る手の震えを受けて役目を果たせそうにない。
悪いのはすべて自分。笑顔を向けてくれて、ときには二人きりで遊びにも誘ってくれた彼をずっと騙して、でも本当の自分をさらけ出せずにここまで来てしまった。
『君のこと、ずっと好きだった』
告白してくれたのに、逃げてごめんなさい。
変わらずバイト先に来てくれて、何もなかったように振る舞わせてしまってごめんなさい。
本当は好きだと、付き合って欲しいと言いたい。
でもきっと失望する。冷たい視線を向けられて、捨て台詞のひとつでも吐かれて目の前から立ち去ってしまうだろう。
胸が締め付けられる。今までのツケが回ってきただけなのに苦しいなんて、自分でもいやになる。
気づけば、向かいにある顔が醜くゆがんで揺らめいていた。
馬鹿としか言えない。みっともなく泣くくらいならさっさとやめて、本当の自分で勝負すればよかったんだ。諦めろと言い聞かせてもできなくて、なのに向けられる好意に甘え続けた結果が「これ」だ、自業自得にほかならない。
はさみを、改めて握りしめる。
目元を荒々しくこすって、弱さの象徴を見つめる。
彼が好きなのは、都合のいい夢を見続けた偽の自分。
自分が好きなのは、常に本当を見せてくれた彼。
フェアじゃないままの恋ほど、虚しいものはない。
髪を空いた手でつかみ、刃を当てる。
しゃくり、しゃくり、音をたてるたびに、影に隠れていた、情けなくもがいていた自分が暴かれていく。
「はは、なんか……あっけない」
スマートフォンを手にとって、履歴の一番上にある彼の番号をタップする。呼び出し音がこんなに怖いと思ったことはなかった。
『も、もしもし?』
「こんにちは。……あの、今って時間、あります? その、話がしたくて」
『も、もちろん! じゃあ、場所は……』
「あの喫茶店でいいなら、そこで」
『オッケー! じゃあ、またあとで!』
いつもより声が低いって、不思議に思わなかったかな。
女言葉も使ってなかったけど、気づいてたかな。
苦笑が漏れる。あのテンションじゃ、絶対気づいていない。安心すればいいのか、がっかりすればいいのか、自分もわからなかった。
「それじゃ、行きますかね。……オレ」畳む