
「あ、あの、今日、ですか? ってかオレ、告白とかしてない……」
「したようなもんだろ?」
明らかに誘った目で舐めるように見上げてくる
部屋に戻った瞬間、俊哉に背中から抱きしめられた。思わず食料品が詰まったビニール袋を床に落としてしまう。
「しゅっ、俊哉さん? いきなり、何を」
「ちょっと、動揺しすぎじゃない?」
どこか楽しそうに小さく笑いながら突っ込む俊哉の腕を外して、落とした袋を拾う。そのまま部屋に上がると、背後からどこか戸惑った声がかけられた。
「黙ってスルーするの、そこ」
「敢えてです。すげー緊張してるんで」
あんまりくっつかれると、名前呼びを受け入れてくれた嬉しさも手伝って先へ先へといってしまいそうになる。
「じゃあ、すごく意識してるんだ?」
隣に立って、買ってきた物の整理を手伝いながら俊哉はまた笑う。もしかして試されているのだろうか?
「俊哉さん、オレの気持ち知らないわけじゃないっすよね?」
帰り道、電車に揺られながら今後のことを妄想していなかったわけじゃない。あの人への気持ちの整理がちゃんとついたらもっと仲を深めていって、ここだというタイミングで告白しよう、なんてプランを練ったりしていた。
まるで学生のようだと笑われるだろうが、それだけ真剣で慎重なのだとわかってもらいたい。他の誰よりも、俊哉には。
「まあね。
「なら、なおさらからかうような真似はやめてください。オレ、ほんと真剣なんです。あなたのこと、大事にしたいんです」
強引にキスマークをつけておいて、どの口が言うんだと突っ込まれてもいい。これは紛れもない本心だ。
目元を緩めた俊哉は、ふわりと身体を預けてきた。
「しゅ、俊哉さん! だから……!」
「わかってる。お前が俺を大事にしようとしてくれてるのは、わかってるよ」
こちらを見上げた俊哉の視線がただ、柔らかい。何でも受け止めてもらえそうな、しなやかな強さを感じる。
「高史が一緒に生きてほしいって言ってくれて、俺がどれだけ嬉しかったかわかる? まともに礼も言えなかったくらい嬉しくて……たまらなかった」
涙で歪みかける顔を、懸命に笑みの形にしようとする俊哉がたまらなくいとおしくて、震える両腕で抱きしめ返した。
もう、絶対に離さない。傷もつけさせない。
「ね、高史……お願い。キス、して」
蠱惑的な誘いだった。それをかわす余裕は、今の自分にはかけらも残っていない。
「んん、っふ……ぁ!」
唇だけを交わすのはそこそこに、呼吸ごと奪うように隙間をなくして、舌と唾液を勢いのままに絡める。主導を自分が取っているようで経験値の差か、なめらかに動く俊哉の舌に背筋を甘い痺れが幾度となく走る。
「……っは、たか、し……」
押しつけてきた中心の昂りを感じて、どきりと胸が高鳴る。同時にこちらの調子も筒抜けとなってしまった。
「あ、あの、今日、ですか? ってかオレ、告白とかしてない……」
「したようなもんだろ?」
「しゅ、俊哉さんはどうなんですか。ほんとに、オレのこと」
「好きだよ」
声も視線も、ひとつの歪みなく貫いてくる。
「放っておけないって理由だけで赤の他人拾って、身体張って自殺止めて、一緒に生きてほしいなんて言ってくれる高史が……俺にはもったいないくらい、好きだよ」
少し背伸びをして、耳朶に柔らかく熱い感触を当ててくる。それが夢ではないと繰り返し訴えている。
「だから、今がいいんだ。今、お前に抱いてほしい」
俊哉の想いの前では、自分の覚悟などちっぽけな存在だった。
「……ホテルまで、我慢できますか」
「生殺し?」
「ここ、安アパートだから壁薄いんです。俊哉さんの声を、誰にも聞かせたくない」
言葉を詰まらせた俊哉は、俯きながら小さく首を上下させた。