お題ショートショートまとめ
主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。
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photo by NEO HIMEISM
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雨降って幸運舞い込む
創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「桜流しの雨」「新生活」です。
BL要素はほとんどないです、すみません。。
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頭に濡れた感触を覚えて空を見上げると、いつの間にか青空は鉛色へと変わっていた。
時間がたっぷりあるのをいいことに飲みまくっていたら、また不幸に見舞われた。
「自覚なかっただけでそういう星の下に生まれたんだな、俺」
急に勤めていた会社をクビになったのもそのせいだし、その足で酔いたくて酒を飲みに行ったのに酔えなかったのも酒が強いという不幸体質のせい。
不幸のせいにしてしまえば、くっきり刻まれた傷の痛みも少しは紛れる気がした。
どんどん雨脚が強くなってきた。思い出したが、朝の天気予報で「昼過ぎから強い雨が降り始めて、風も吹き始めるでしょう」なんて言っていた。遅刻しそうだったから折りたたみ傘なんてまったく頭になかった。とことんまでついていない。
わざわざ傘を買うなんて馬鹿らしいし、どうせなら濡れて帰ってやる。
とはいえ、まっすぐ帰る気にもなれなくて、駅までの道を遠回りで進むことにする。どうせこの街にはもう来ないから、最後にどういうものがあるかぐらいは確認してみてもいいだろう。
「……こんな街中に、公園なんてあったんだ」
駅から少し離れた距離にあるからか、普通に散歩も楽しめそうな、そこそこの規模の公園だ。
この街の雰囲気は繁華街寄りだと思っているが、ゆえに憩いの場なるものがあるイメージがなかった。
「そうか、桜、満開だったっけ」
ざっと確認できただけで十本近くはあるだろうか、散策路を挟むように立っている。吸い込まれるように近づくと、地面に薄桃色の絨毯ができつつあることに気づいた。ついこの間満開を迎えたとネットニュースでも言っていた気がするが、もうこんなに散ってしまっている。
「これから雨風強まるみたいだし……お前たちも、不幸だな」
なぜか涙がこみ上げそうになる。人外でも仲間が見つかったことに孤独感を拭えたからなのか、よく、わからない。
「あの、大丈夫ですか?」
急に話しかけられて、思わず背筋が伸びた。
振り返った先には、作業着とわかる格好をした若い男性が怪訝そうにこちらを見つめている。
「雨強くなってきてますし、雨宿りするならすぐそこに屋根付きのベンチありますよ」
「……君、ここで働いてる人?」
「え、はい」
公園で働いている人というと、個人的に年齢層が高いイメージだった。アルバイトかもしれなくても、珍しい。
「ああ、気を悪くしたらごめん。公園で働く若者ってイメージがなかったからさ」
「あなたも若者なんじゃないですか?」
「若く見える? 一応三十近いんだけどね」
明らかに彼の目が見開かれた。昔から年相応に見られないことは慣れている。
「あの、なにかあったんですか?」
「え?」
「すみません、なんかすごく悲しそうに見えたんで」
そんなに顔に出ていたのか。急に恥ずかしくなってきたが、うまく誤魔化すすべも見つからない。
「っと、ほんとに雨強くなってきましたね。変なこと言ってすみません、早く雨宿りを」
「会社、急にクビになっちゃったんだよね」
笑ったつもりだったが、情けなく息が漏れただけだった。
「覚えがないことで犯人扱いされてね。反論したんだけど無駄で、事が大きいからもう会社に来るなって言われちゃって」
もう怒りも混乱もしない。ただ無気力だった。この先のことも考えられないし、たぶん、しばらく休みたいと全身が主張しているのかもしれない。
黙って聞いていた彼が、無言で腕を引っ張った。連れて行かれるまま従うと、屋根付きのベンチに辿り着く。
「いきなりすみません。このままじゃお互い風邪引くんで」
「いいよ、ありがとう。ごめんね、いきなり愚痴っちゃって」
「いえ、今でもそういうとんでもない会社ってあるんですね。びっくりしました」
彼は会ったばかりの他人に、本気で同情しているようだった。
「でも、無責任な言い方かもですけど、そういう会社ならどんな形でも辞められてよかったんじゃないですか」
正直、本気で驚いた。胸の中心を一陣の風が通り抜けたような、不思議な爽快感が残っている。
「そんなクソみたいな会社のことをずっと引きずってたらもったいないですよ。さっさと忘れて、いいところ見つけましょう」
一生懸命、彼が励ましてくれているのがわかる。その姿がとても可愛らしくて、嬉しくて……気づけば、口端が持ち上がっていた。
「え、な、なんですか?」
「あ、ご、ごめん。その……すごく、ありがとうって思って」
少し低い位置にある彼の頭を、子どもにするように撫でていた。バツが悪そうに視線を逸らした彼の頬がはっきりと赤く染まっている。
「そうだよね。いつまでも恨みつらみを向けてたって仕方ないよね。鬱にでもなりそうだ」
「ですよ。でも、ちょっとは休んだ方がいいと思います」
「確かに。ってことで、またこの公園に遊びに来てもいい?」
再び向けられた瞳が、丸い。
「そりゃ、もちろん構いませんけど」
「正確には、君に会いに来てもいい?」
「お、おれ?」
「君と話してると落ち着くんだよね。励みになるんだ」
今度は、頬が桜のようにほのかに染まる。
「仕事の邪魔にならないなら、まあ」
お礼を言ってまた頭を撫でると、今度は軽く怒られてしまった。なお、迫力は全然なかった。
最後の最後で、思わぬ幸運が舞い込んだ。
我ながら現金だと呆れながらも、彼との出会いは運命のように感じていた。畳む