星空と虹の橋の小説を掲載しています。
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- こんな日は素直に休みましょう
2025/11/23 08:55:29 探偵事務所所長×部下シリーズ - 思いがけない小さな宝石たち
2025/11/18 14:42:15 探偵事務所所長×部下シリーズ - 【300字SS】拭えないまま
2025/10/04 22:41:49 ショートショート・その他 - 【300字SS】必然で唐突な運命
2025/07/05 22:00:07 ショートショート・その他 - 【300字SS】だから、独りを選ぶ
2025/06/07 22:41:10 ショートショート・その他
カテゴリ「ショートショート・その他」に属する投稿[35件]
【300字SS】必然で唐突な運命

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「3」です。
先日アップした、『重なり合うブルー・アワー』 のヒロイン視点・モノローグ的な感じです。
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また、この喫茶店に来てしまった。
鞄に入れっぱなしだったレシートを広げてみたら二枚あったから、もう三回目。
あの人と昔通った喫茶店と同じ名前というだけでふらりと扉をくぐって、雰囲気はもちろん違うのに、気づいたら思い出の紅茶一杯でだいぶ長居してしまっていた。
びっくりするくらい、居心地がよかった。ほんの少しだけ、軽くなれた。
二回目も同じ、そして今も。……気のせいじゃない。
注文を取りに来るマスターの声も、まるで寄り添ってくれているみたいに心地いい。
——私、きっとまたここに来るわ。
紅茶一杯で長居するなんて迷惑かもしれないけれど……このタイミングで出会えたのは、運命としか思えないから。
#[300字SS]
【300字SS】だから、独りを選ぶ

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「蝶」です。
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一体、なにを勘違いしているの?
ふらふらと惹かれて、近づいてきたのはあなた。
私はただ、蝶のようにひらひらと飛んでいただけ。
そして休憩しに止まった場所がたまたま、あなたの近くだったというだけ。
その休憩が——きっと、長すぎた。
勘違いなのだから、私のことは忘れて。
私はもう、別の場所を飛んでいるでしょう? 追いかけても逃げるだけ。現実の蝶もそうでしょう?
もうやめなさい。意味のない行動を続けるのはもう、やめて。
私はきれいな蝶じゃない。
そんな目を向けてもらえるような、存在じゃない。
#[300字SS]
【300字SS】また来週、確かめたいから、

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「金」です。
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(よし、今回も買えた!)
毎週金曜日だけ、よく通うスーパーに並ぶお菓子。それを購入するのが最近のルーティンになっていた。店内手作りだから? 一週間の疲れも取れるぐらい美味しいのだ。
「いつも購入いただいてありがとうございます」
次の週、いつもより遅くなってしまい、残り一個を無事手に取った瞬間だった。
自分と変わらないぐらいの歳——三十辺りに見える、エプロンをつけた女性だった。
「あ、ごめんなさい。いつも嬉しそうに買われていくので気になってたんです」
「い、いえ。め、目立ちますよね」
「いいえ。嬉しいです。また来週、お越しくださいね」
——心音が苦しいほど速い。まさか、あの子? 嘘だ、そんなわけないのに。
#[300字SS]
【300字SS】だれのためにもならないものがたり

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「さく」です。
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今は起承転結で言うならどのあたりなのか、誰か教えてほしい。
長いこと承か転のあたりを彷徨っている気がするのは転調の兆しがまったく、見えないから。
——最悪な出来を更新し続けているこの作品の始まりは一体、どこだったのか。
唯一はっきりと自覚しているのは、今すぐにでも逃げたいという気持ちだけ。……できないくせに。
ああ、誰も彼もがまぶしく見える。容赦なく押しつぶしてくる暗闇の重さを知らないように見える。
どこまで時を戻せば無邪気なままで……たとえ平凡で退屈な作品だとしても、描き続けていられただろう。
力強く掬い上げてくれる存在の登場を希いながら、今日も、力なくペンを握るのだ。
#[300字SS]
【300字SS】過去には進めない

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「憧れ」です。
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「あんたのそれは憧れじゃないよ。完全に恋だね」
ふざけたことを言わないでほしい。あの人は自分の目標であり、超えなきゃいけない壁であり、でも肩を並べたい相手でもあり……とにかく単純ではない。
「あの人がいたらはっきり機嫌がよくなるし、誰かと話してるとすぐ割って入ってくるのに?」
そりゃあ面白くないって思うときもあるけれど、友達同士でもそういう感情があるんだ、別に変じゃない。
「ふうん……まあ、後悔しないといいけど。あの人も同じような態度だってことは言っとくよ」
後悔なんて、おかしなことを言わないでほしい。
けれど今、その時の判断がぐらぐら揺れている。
「実は……結婚、するんだ」
喉が震えて、何も出なかった。
#[300字SS]
【300字SS】つかの間、染まった先に

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「白」です。
このあと主人公の幻想が無残に打ち砕かれるような出来事が起きるかな、なんて考えながら書いてました(鬼畜
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伸ばした手は、虚しく空を掠めた。
たぶん、無意識に回避したのだ。
「どうしました?」
立ち止まった彼女はこの手を掴もうとしたけれど、直前で引っ込める。
「すみません、なんでもないんです」
「でも」
「さ、行きましょう」
彼女は綺麗だ。不純物などない世界で生きてきた人だ。だからこそこんな人間にも優しくしてくれる。
ゆえに実感する。
安易に触れてはいけないと。ほんの少しでも穢れに触れさせてはならないと。
「お礼を、言わせてください。私が目的を果たせるのは、貴方のおかげです」
「……もったいない、お言葉で」
短い間でも彼女の隣を歩けたのは一生の宝物に違いない。
——もうすぐ、現実がやってくる。夢が終わる。
#[300字SS]
【300字SS】装いはずっと新たに

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「装う」です。
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「本当のあなたはどこ?」
そんな言葉が出てくるということは、ここにいるのが偽りだと見抜いている証。
でも、知ったら君は離れていくに決まってる。
「なら、君だって本当の君がいるんだろう?」
予想に反して、君はきっぱり首を振る。
羨ましいよ。君はきっと、死ぬほど惨めな気持ちを味わったことがないんだね。
——二度とあんな思いをしたくないと、自然と纏えるまでに作り上げたこの人格を剥ぎ取るつもりはない。
ずっと身につけて生きていくんだ。僕なら絶対にやれる。
「僕だって、本当の僕だよ」
君は、とても悲しそうな顔をした。
#[300字SS]
【300字SS】意識を奪われたターゲットは

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「奪う」です。
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「あなた、泥棒?」
私としたことが、気配に全く気づかなかった。
姿形と表情が釣り合っていない少女は、怖がらないし、通報する素振りも見せない。
ただ、部屋の入口で私を見つめている。
「可愛いお嬢さん。だとしたら、どうします?」
逃げる算段を組み立てながら大仰に問うと、ふらりと距離を詰めてきた。
「盗むなら、あたしを、盗んで」
意図が読めない。
「……なぜ?」
「ここから盗むだけでいいの」
無だった表情に、一気に色が加わる。
「誰も来ないうちに、はやく」
私は人攫いに来たわけじゃない。子どもなんて稼ぎにもなりゃしない。
——救世主のように、必死に見上げてくるから?
握ってくる震えた手を払えないし、揺れる目も逸らせないのだ。
#[300字SS]
【300字SS】希望の防波堤

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「つなぐ」です。
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「散々にやられたようだな」
宿屋に併設の酒場までようやく辿り着くと、出入口近くの二人席で一人飲んでいた男に声をかけられた。
「一人、か。仲間を失ったか」
物理的にも精神的にも、支柱だったものが消えた。つながりが、跡形もなくなった。
「……おっさん、何者?」
震えそうな全身を誤魔化すためでも、不信感ゆえでもあった。
男は無言で、グラスを傾けた。
ため息をついて、足を進める。ヤケ酒は止めだ。
「まだ、使命を果たすつもりか」
初めて、男の顔をまじまじと見つめた。
記憶の隅に引っかかる、印象的な緑の双眸は薄く濁っている。
まさか、この人は。
「歴代の勇者の悲願もある。諦めるわけにはいかない」
返ってくるものは、何もなかった。
#[300字SS]
【300字SS】中身は、からっぽ?

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「育つ/育てる」です。
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「ああ、少しだけど笑うようになってきたね」
うそ。私が? ありえない。
「あれ、怒っているのかい? ごめん、そういえばまだ顔を洗っていなかったね」
確かにあなたは毎日柔らかい布で拭いてくれる。それがないからといって別になんとも思わない。
「ただいま。ああ、寂しくさせてしまったか」
ただの幻覚よ。あなたはその通りの表情をしているけれど。
「ごめんよ、情けない姿なんて見せてしまって……でも、君は黙って受け止めてくれるんだね」
当たり前じゃない。
だって、私は人形。
「君はただの人形じゃない。感情が、心が育ってきているから、いろんな顔を見せてくれるんだよ」
——どうして、心を読まれた、なんて。
私、本当に、なの?
#[300字SS]
【300字SS】この身体は自由

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「鳥」です。
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——あれ? もしかして空を飛んでる?
首をゆっくり回して、足元まで見て、夢じゃないって、やっと信じられた。
嬉しい、嬉しい! 願い事って、ずっと願っていたら本当に叶うんだね。
ずっと鳥みたく、空を自由に飛びたかったんだ。
もう、ここから見える、変わらない景色にはうんざりしていたから。
だってわかるんだよ。自分のことだもん。
腕を羽のように伸ばして、行きたい方向に自然と身体が動く。
すごい。自由ってこんなに気持ちがいいんだね。
絶対手に入らないって諦めてたから、涙が出そうだよ。
——だから、二人は泣かないで。どうか囚われないで。
ほら、顔を見てよ。全然苦しそうにしてないでしょ?
もう、二人も自由になって。
#[300字SS]
【300字SS】ここはあたたかくて、やさしくて、

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「朝」です。
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太陽の光と熱を感じて、瞼を持ち上げ、身体を起こす。
部屋着に着替えてリビングに向かうと、いつもの笑顔が瞳に飛び込んでくる。
「おはよう。今日も寝坊しないでちゃんと起きられたね」
それに憎まれ口を返しながら、朝食の並ぶテーブルにつく。
太陽の熱を感じて、瞼を持ち上げ、身体を起こす。
部屋着に着替えてリビングに向かうと、変わらない笑顔が瞳に飛び込んでくる。
「おはよう。今日も寝坊しないでちゃんと起きられたね」
それに憎まれ口を返して、朝食の並ぶテーブルにつく。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
いつまでも変わらない平和で穏やかな朝。
これ以外の朝はいらない。どうか壊れないで。
……? どうしてそんな願いを?
#[300字SS]
【300字SS】水底まで貫く光

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「折る」です。
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私が折り紙で作るものには、なぜか命が宿る。
いつからこんな力に目覚めたのか、私も周りもわからない。
——おお、怖い怖い。その得体の知れぬ力を二度と見せるでないぞ。
——その力、ぜひ我らの元で活かしませんか? 気味悪がられるより役に立つとわかれば、あなたも本望でしょう。
向けられる感情に疲弊して、私は人目から逃げた。
(普通の人で、いたかった)
無心で折った鶴が羽ばたき、頭上を旋回してから飛び立っていく。
……普通が無理なら、翼が欲しい。空を飛びたい。
「あの、今の鶴! あなたが折ったものですよね?」
「前に似た鶴を拾ったおかげで救われたから、どうしてもお礼を言いたかったんです」
眩しい。温かい。
これも、人の感情なの?
#[300字SS]
【300字SS】「いい子」はもう終わり

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「待つ」です。
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「大人しく待ってなさい。私がいいと言うまで来てはだめよ」
「ここは危険だから。お前を痛い目に遭わせたくないんだ」
待ったよ。充分待ったでしょ?
何度も寂しさで埋めつくされて、立ち上がれないほどに絶望しても、そうやって足を止めたよね。
二人の気持ちはわかってる。もう、小さな子どもじゃないもの。
そうよ、私、こんなにも大きくなったんだから。
——だけど、やっぱり耐えられない。何年経っても、他の誰と触れ合っても、胸の中に空いた暗い暗い穴は、消えない。
ねえ。私の親なら、私の気持ち、わかってくれるでしょ?
——ああ。二人の顔が歪んでる。
だけどごめんね。お願いだから、もう、そっちにいかせて。
#[300字SS]
【300字SS】継がれゆく

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「靴」です。
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桜を思わせる薄桃色のハイヒールは、私の憧れだった。履けたら一人前の大人になれる気がしていた。
「ふふ、有希にはまだ大きいわね」
ぶかぶかの足を見て微笑んでいた母が、履いている姿を見たことはない。
「お母さんはもう、似合わないからね。そうね、有希が履いた方がいいわ」
時々、母がハイヒールを寂しそうに手入れしていること。私の記憶にない、父の名前を呟いていること。
歳を重ねて、私はその素振りの意味を知った。
「遠慮しないで。大事にしてくれたら嬉しいわ」
笑顔と言葉に嘘はない。それでも、確かな哀感さがにじみ出ていた。
今、私の足元をあのハイヒールが彩っている。
二人分の思い出はちょっと重いけれど、心はあたたかい。
#[300字SS]
苦いイチゴはもういらない
くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「苺」「運命」です。
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「今日こそこのイチゴでケーキを作ってくれ!」
「だから無理」
ばたりと玄関のドアを閉めると、いつもの捨て台詞を残して彼は帰って行った。
諦めの悪いその根性だけは評価する。するけれど、どうして私がわざわざケーキを作ってやらないといけないの。
ため息をついて、ドアに寄りかかる。
ケーキ作りはもう、二度としない。あの日そう決めたのに、どういう運命の悪戯だろう。
昔、賞を取ったときの記事かなにかを見たらしいあの男は、たまたま同じマンションに引っ越してきた私の顔を見て開口一番「ようやく君の作るケーキが食べられる!」とキラキラの笑顔で告白してきた。
理由を聞いたら、デコレーションされたイチゴケーキの写真に「一目惚れ」したらしい。写真でこれなら、絶対味も素晴らしいと思ったとかなんとか。
『今日まで全然ケーキを見つけられなかったけど、まさかこんな運命が待っているとはね!』
こっちは最悪だ。せっかく辞めたのに、ああして求められて、たまったものじゃない。
じわりと胸の奥から黒い染みが広がりそうになって、慌てて首を振る。あれはもう過去のことだ。あのとき、何度も何度も己に言い聞かせたじゃないか。
「やあ、今日のイチゴはとっておきだぞ。前から食べてみたかった高級イチゴなんだ。君も作ってみたいって思うんじゃないかい?」
今日も彼は諦めず、眩しい笑顔で玄関先に立っている。
余計なトラブルにしたくなくてきつい言葉を使うのは避けていたけれど……もう、いい加減我慢するのはやめよう。
「だから、作らないって言ってるでしょう。何度断ればわかってくれるの。あなた、相当鈍いみたいね」
精一杯睨み付ける。初めて笑顔以外の表情を向けられて、なぜか視線を外してしまった。
「私は作りたくないの。いくら持ってこられても無理。こんなこと、今日で最後にして!」
さすがにわかってくれるだろう。一息ついてから、目線を持ち上げる。
「わかった。今は、作りたくないんだね」
また、彼は笑っていた。本気で理解できなくて頭が混乱する。
「でも、僕は本心じゃないと思ってるんだ。なんというか……君が抱えてる何かをなくせれば、解決するんじゃないかって」
鼓動が一瞬うるさく胸を叩いた。事情は一切話していないのに、なぜ。
「僕が助けになるよ」
「簡単に言わないで!」
反射的に叫んでいた。赤の他人がどうにかできるならとっくに解決している。
「一人で抱えているとどんどん辛くなるから。味方なんて誰もいない、自分のことは自分でしか面倒見れない、そうやって閉じこもっていってしまうんだ」
まるで彼自身に言い聞かせているように聞こえる。雰囲気もまるで変わったように感じたが、すぐにその違和感は消えた。
「だから、ね? ちょっとだけでも、試しになにも知らない僕に寄りかかってみるっていうのはどう?」
「……いいから、帰って」
力なく彼の身体を押して、ドアを閉める。
あんなに固かった決意が、ほんの少しでも揺らいでいるのを感じる。
情けない。一人で消化しようと決めたのに、絆されるつもり?
……あんな思い、もうしたくないでしょう?
いつもはうっとうしいだけのあの笑顔が、こびりついて離れなかった。
#ワンライ
偶然か運命だったのか
深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①只者ではない」を使いました。
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「あたし、実は女優やってるのよね〜」
目深にかぶった帽子、首元で雑にくくられた髪型、体型にまったく合っていないぶかぶかトレーナーにジーンズ。
漫画に出てきそうな黒い太フレームのレンズなし眼鏡を外して笑いかけてきた瞬間、変な声が出た。
本物だ。芸能に疎い自分でも知っているくらい、知名度は抜群に高い。
眼鏡が制御装置にでもなっているんじゃないか? はんぱないオーラをびしばし感じる。メディア越しより何倍も可愛い。いい加減な服装も不思議と似合っているようにすら見えてしまう。
まさか、困っているところを助けただけでこんな奇跡が起ころうとは。なけなしの勇気をたまには振り絞ってみるものだ。
「その反応見る限りだと、あたしのこと知ってくれてるんだね。ありがとう! 嬉しい」
「い、いえそんな、恐縮っす」
「さっきの男気どこいったの〜? そんな緊張しないで、ね?」
「い、いや、芸能人と会ったの初めてだし、ほんと可愛いし、むりっすよ」
無邪気な笑顔が心臓に悪い。自分が今どんなみっともない表情をしているのか、想像もしたくない。
「そう? これでも昔はめちゃめちゃ地味だったんだけどね。いじめられたりもしたし」
本気でびっくりしてしまった。彼女の表情を見る限り嘘とは思えないし、一体どんなやつがそんなひどいことをしていたんだろう。
ふと、俯いた彼女がなにかを呟いたような気がした。あくまで気がしただけで、内容はもちろん聞き取れなかった。
「あ、そうだ。ねえ、これもなにかの縁だし……ひとつ、お願いしてもいいかな?」
小さい顔の前で両手を合わせて、覗き込むように見つめてくる。あざといのにやっぱりかわいい。
「さっきのヤツが諦めるまで、あたしの彼氏になってくれない?」
すんでで口元を押さえた。な、なにを言い出すのかこのひとは。出会ったばかりの赤の他人になんてことを言い出すんだ!
「君は信用できる人だってあたしのカンが言ってるのよ。あの男気にもほんと感動したし」
このまま黙っていたら勢いのまま決定されてしまう。確かに芸能人とお近づきになれる夢のような展開ではあるけれども、だ。
「ま、待ってくださいって! ほら、今ってSNSとかで簡単に炎上する時代でしょ? 万が一隠し撮りでもされたら俺、たまったもんじゃないっすよ」
困っているのに申し訳ないが、リスクはなるべく避けたい。というか警察なりに相談すべきでは……。
「今、警察に行けばって思ったでしょ。なるべく大事にはしたくないのよ」
ストーカーに命を狙われた、なんて事件もちょいちょい聞くのに、危機感がなさすぎる。
「恋人がいるってわかったら諦めると思うの。ムリなら大人しく警察に行くよ。だから、ね? お願い」
さらに距離を詰められた。
卑怯、あざとすぎる、絶対頑固な性格してる。
昔から押されると押しきられてしまう性格だった。大抵よろしくない方に作用するが、今回もやっぱりそうなりかけている。
「…………俺、で、よければ」
たっぷり五秒くらいはかけて、承諾してしまった。芸能人じゃないのに芸能人の気持ちをほんの少し堪能できた気がした。すでに胃が痛い。
「ありがとう~! 本当に嬉しい!」
抱きつかれて少し嬉しくなったものの、ネガティブな未来の数々には太刀打ちできそうもない。
「あの、俺、一般人ですからね。よろしく頼みますよ」
だからつい弱々しく呟いてしまったのだが、彼女は明るく笑い飛ばした。
「大丈夫! 君には迷惑かからないようにするから。……なるべく、ね」
なるべく、と聞こえたような気がしたが、これも気のせいだろう。
#ワンライ
【お題SS】心臓、高温、雨宿り

お題bot* のお題に挑戦しました。お題は「心臓、高温、雨宿り」です。
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帰路に急ぐ足がふいに止まる。
いつも私をからかう彼が、おそらく野良だろう猫を傘の下に入れてあげていた。
すぐ逃げようと思ったのに、まだ足は止まったまま。
そんな顔、私に一度も見せたことないじゃない。
足に頭をすり寄せちゃって、猫ちゃん騙されてるよ。そいつはうんざりするくらい私をおもちゃみたいに扱うんだから。
「お前人慣れしてんなぁ。エサ持ってねーぞ俺」
動物相手だから声も表情も柔らかいんだ。漫画とかでよく見る悪党そのものじゃない。
「お前みたいに素直になれたら、あそこまで嫌われないんだろうな……」
心臓がどくどくと高鳴り出す。みっともなく叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
私のことを言っているのだとすぐにわかった。
人が見てないと思って、本気で後悔しているみたいな態度を取って、卑怯以外になにがある?
今の光景を見なかったことにして、ゆっくり踵を返す。
野良猫に情けない姿を晒す暇があるなら、さっさと謝ってきてもらいたい。
行き場のない怒りを、私はひとり耐えるしかできなかった。
#お題もの
【300字SS】お題「謎」

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「謎」です。
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「謎は謎のまま終わるっていうのもいいものよ。いろいろ想像できて楽しいし?」
理解できない。だって気持ち悪いもの。たとえバッドエンドでも謎ひとつ残らず完結したほうがすっきりできるでしょ?
……そう、思っていたんだけど。
「最初はそんなつもりじゃなかったんだ! 君を傷つけるつもりは……」
「ちょっと魔が差したというか……今は本当に反省してる、もう絶対君を裏切らない!」
ドラマみたいな台詞を受け続けて、ああ、今はあの気持ちがわかるかもなんて、頭のどこかで感じていた。
衝撃を通り越して、もはや奇妙な楽しささえ生まれつつある。
ゆっくりと、下に向いていた視線を持ち上げる。
さて、私はどうオチをつけたと思う?
#[300字SS]
【300字SS】さまざまな想いをのせて

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「石」です。
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「不完全なのがいいのよ」
一粒の天然石が彩られたブレスレットを弄りながら彼女はほのかに笑った。
「もちろん宝石なみにキレイなのもあるけどね。でも、わたしはひび割れてたり透明じゃなかったり、そういうのが愛おしいの」
「そういうもんかなぁ……私は宝石の方が好きだけど」
宝石は完璧だ。どの角度から見ても美しいし、隙がない。身につけていると自身の格も上がる気がする。
「わかるわよ。でも、その好きは憧れっていうのもあるんじゃない?」
こういう鋭いところ、本当侮れない。
「……じゃあ、あなたは?」
「……落ち着くのよ」
自分も完璧じゃないから? いや、彼女は完璧にみえる。
変わらない笑みからは、答えは読めなかった。
#[300字SS]
死神は気まぐれに舞い降りる

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①肌寒い夜」を使いました。
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「もしもし?」
耳に届くすすり泣く声に、やっぱりな、と眉をひそめる。
予感じゃない。スマホに表示された名前を見てからとうに確信していた。
『ねえ、あなたも、見たでしょ? 見てしまったんでしょ?』
「……ああ」
溜め息だったのか、息を飲んだのか。
どれだけの衝撃と絶望を感じているのかだけは、ただ、わかった。
『なんで……なんで、なの……!』
俺たちには不思議なつながりがあった。
夢――一人の人間が意識なく宙に浮いていて、少しすると頭の先から白い煙のようなものが狼煙のように立ち上り続けるという内容を、何の前触れもなしに見ることがある。
それは、彼女も同じ夢を見たという証拠。
どちらかの知り合いが、亡くなったという証拠。
今日……いや、明日かその次の日か。いずれ、逃れられない事実を突きつけられる。
俺たちに血縁関係もなければ、共通の知り合いもいない。たまたま就業先で出会っただけなのに、その瞬間から死神とも言うべき力が発現したのだ。
まるでファンタジーな出来事を前に打つ手など思いつきやしなかった。ただただ翻弄され、神経を蝕まれていく。
『もう……もういやよ! 私もうこんなのいや……!』
荒々しい吐息に同調しかけて、やめた。俺だけはしっかりしていなくては、お互い堕ちる事態だけは避けなければ。
「……神様でも悪魔でも気まぐれ起こして、なくしてくれるかも。いや、なくなれって祈ってないと」
『そんな気休めいらない!』
「ごめん。ただ、」
――そう言い聞かせでもしてないと気がおかしくなるから。
言えなかった。俺はそうでも彼女は俺じゃない。気持ちだけは痛いほどわかるから責められない。叫び出したいのは俺だって同じだ。
スマホを握る手が細かく震え出す。
たったふたりで世界に閉じ込められたようだ。生き延びるすべはどこにあるのかとがむしゃらに足掻いて、無駄に終わり、絶望しながら夜明けを迎えている——そんな気分にさせられる。
『……いえ、ごめん、なさい。あなただって私と同じ、なのに』
力なく首を振った。喉の奥からこみ上げてくるものを必死に飲み込む。
なぜ、いきなりこんな能力に目覚めたのか。
なぜ、俺たちなのか。
なぜ、俺たちでなければならなかったんだ。
「……とりあえず、また大きな図書館とかネットとか、見てみる」
検索していないワードはなんだろう。まだ行っていない図書館は?
先が見えなくても、無駄な足掻きでも、今はとにかく動き続けるしかない。「見えない」ということは、未来が決まっていないということだから。
『……スピリチュアルなお店とか、意味、あるかな』
「そうか、そうだね。全然ありそうだから、そういうところも当たってみよう。意外にすぐ手がかりが見つかったりして」
努めて明るめの声を出す。事実、その線は今まで考えつかなかったのだ。落ち着いてさえいれば、突破口を見つけてくれるのはいつも彼女だった。
『いつもありがとう。……頼ってばかりで、本当にごめんなさい』
少しだけ、声色に精気が戻ったように聞こえた。
「ううん、俺もありがとう。正直、ちょっと折れかけてた」
『……絶対、こんな力、なくそう』
電話を終えて、部屋の窓を開けた。真夏にさしかかろうという季節なのに、肌を撫でる風に思わず首をすくめる。
身体の芯は、あの日からすっかり冷え切ってしまった。
毎夜、こわくてたまらない。好きだった静寂の時間は、すっかり塗り替えられてしまった。
早く、取り戻さないと。
俺たちは、ただの人間なんだ。
#ワンライ
【300字SS】嗚呼 孤独の日々

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「洗う」です。
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初めての時はみっともなく両手が震えていた。時には失敗して報復を受け、逆に命の危険を覚えたほどだ。
何とも思わなくなったのはいつからだろう。
ある日、一心不乱に手を洗う自分を見下ろしているもう一人の自分がいた。
「そいつ」は全く落ちない両手のよごれを信じたくないというような素振りで確認と洗浄を繰り返していた。時にはみっともなく奇声まで上げる始末。
——馬鹿だ。ああ、本当に馬鹿だ。
だったらなぜこの道を選んだ。どうしても成し遂げたい目的があるから、この道を選択したんだろう?
もっと非情になれ。感情を捨てろ。洗い落とすべき対象はそっちだ。
足を踏み入れた時点でもう、「明るい未来」などやってはこないのだから。
#[300字SS]
【300字SS】つかまってしまった。

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「残る」です。
物語の序章みたいな展開になりました。
-------
理解できない。
どうして彼が我が物顔で隣に座ってるんだろう。
「ねえ、あんたは居残り勉強する必要ないでしょ」
先生が戻ってこないうちに帰らせたい。本当はこんな変わり者の相手なんてしたくないのに。
「ほう、君も必要ないのに?」
彼はにやりと笑った。
「君の成績は確か、僕の三つ下だったはずだが」
「頭のいいあんたにはわかんないでしょう」
余計なことを言う気がして怖い。早く出て行って!
「矛盾した行動を取る理由は推察できる。が、君は彼にとって生徒でしかない」
「目的は、何」
唇を噛みしめる私に、彼は変わらない表情で対峙する。
「興味があるんだ。無駄とわかっていながら行動する感情源に」
観察させろ。
私に、拒否権はなかった。
#[300字SS]
そこまで触れないで

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦したのですが、時間内に間に合わなかった代物です😅
途中まで書いていたので、もったいない精神で完成させました。
お題は「①確信 ②核心」を使いました。
だいぶむかーしに、ふと浮かんだシーンを殴り書きしたまま放置していたものだったりします。
珍しく、ファンタジーものです。
-------
――ようやく、ここまで来たのよ。
懸命に息を殺して、視線の少し先で俯いたまま座る男を見やる。以前は少しでも動いたら目を覚ましていたのに、最近はよほどのことがない限りなくなった。
回復術兼攻撃魔術も少し操れる術士を探しているという噂を聞きつけた時は、幼い頃から身につけていた教養と元々の素質に感謝した。
偶然を装い、男の仲間に加われたのは我ながらうまく演じられたと思う。
警戒心が強い性格ゆえに、仲間を増やしたがらないということはわかっていた。敢えて「そこそこ使える術士」を演じていたのも、無駄に警戒させないため。意外に面倒見のいいところがあったおかげで解雇されずに済んだのは幸運だと言えよう。
そう、幸運ばかりだった。きっと神は、何もかも失った私を哀れんでくださったに違いない。
髪留めに偽装した、針のように細いナイフをそっと抜き取る。男が目覚める気配は全くない。聞こえてくるのは規則正しい寝息と、木々のかすかなざわめきだけ。
――国の滅亡と同等の苦しみを、あの世で存分に味わうがいいわ。
首筋を掠めそうなぎりぎりの位置にナイフを構え、一息に突き刺した。
「そろそろ、やってくるんじゃねえかと思ってたよ」
皮膚を貫く感触は、味わう前になくなった。
薄い月明かりの下で、二つの鋭い光がこちらをまっすぐに捉えている。
「っと、これはさっさと片付けるかね」
目的を果たせなかったナイフはあっけなく奪われた。これ見よがしに振り子のように目の前でちらつかせた後、懐にしまう。
「……どうして……」
口の奥が痛い。どうやらかみ砕く勢いで食いしばっているようだ。そうでもしないと耐えられない。やっと、やっと数年超しの復讐が終わると思っていたのに。
「マデューラ国の第一王女。そこに攻め入ったのが、俺がとうに捨てた国。だったか」
正体はとうに見破られていたのか、つい最近なのか。男の表情からは読み取れない。
「復讐するのは結構だがな。俺にすんのはお門違いってもんだぜ」
戦争を仕掛けられた頃には、男はとうに国を捨てていた。仲間に加わる前には知っていた情報だったが、国家相手に喧嘩を仕掛けられるほどの実力も人材もない絶望的な状態だった。
自分にとっては捨てていようがいまいがどうでもいい。あの国の人間であることに、かわりはない。
「ま、俺にとってもあの国は滅んでもらいたいからちょうどいいかもな。どう?」
軽々しい態度で、こいつは一体何を言い出すつもりなのか。
「あの国、今相当フラついてるんだってさ。アンタと俺、あと何人か雇えばボコボコにできると思わない?」
「ふざけるな!」
氷の魔法を放つ。小さくとも鋭い刃は男の頬を掠め、薄闇に吸い込まれた。
「私が……私がどんな思いで、今まで生きてきたと思ってる……!」
「へえ、ほんとはそんな喋り方なんだ。『わああ、すみませんまた失敗しちゃいました~』とか、よくできてたじゃん」
「貴様ぁぁ!!」
どう行動したのか覚えていない。気づけば首元に手をかけて地面に押し倒していた。逃げられないよう、魔術で男の全身を縛り付ける。
「ずいぶんと立派な殺気じゃん。さっきとは比べものにならないね」
なぜ、平然と笑っていられる。自力で解けない拘束具をつけられているようなものなのに、どうして命乞いさえもしない。強がっているようにも見えないから、なおさら。
「ほら、早く殺しなよ。さっきみたいな力入れりゃ復讐達成できるぜ?」
そうだ。この男が何を考えているのかわからないが、隙だらけなのは確かだ。早く終わらせるんだ、両親達の仇をとって、国を復興させるんだ。
余裕だらけの顔がわずかに歪み始める。そういえば自らの手で人の命を奪うのは初めてだった。討伐依頼の最後を飾る悪党が人間の時、必ず彼がとどめを刺していた。
視界が闇に覆われていた。いつのまにか、自ら蓋をしていたらしい。
「……お前は、本当に、甘いねぇ」
不意に違和感を覚えて視界を開く。
見なくてもわかる。喉元に得物を突きつけられている。両腕を魔術の有効範囲に含め忘れるなんて、致命的ではすまないミスを犯してしまった。
だが、男は一向に得物を動かそうとしない。どこか愉快そうにも見える。
「わかってたさ。お前が途中から、俺のこと本気で殺そうとしていなかったこと」
「ふ、ざけたことを」
「さっきのナイフ。あのまま振り下ろしても急所は外れてた」
「私が、勉強不足なだけで……!」
「そんな言い訳で、本気で誤魔化せると思ってるのか?」
頭の中では否定の単語が絶え間なく流れているのに、表に吐き出すことができない。
――彼の仕事ぶりを、一番近くで見ていたのは一体、だれ?
この森に入る前は肌寒ささえ感じていたほどだったのに、汗がにじんで仕方ない。気温の変化がわからない。わかるのは、劣勢に置かれていることだけ。
「まあ、俺もお前をどうこうしようとは思ってないさ」
「なに……?」
「これでも、お前のことは結構気に入ってんだよ」
理解できない。「ごっこ遊び」だったとしても、仲良く肩を並べて歩く生活はもうできない。
あるいは、奴隷にでもなれと言っているのかもしれない。
「……殺せ」
一瞬、男の双眸が揺らいだ気がした。
「お前にいいように使われるくらいなら、ここで果てた方がましよ」
今度ははっきりと目を見開くと、可笑しそうに小さく笑った。
「何がおかしい!」
「そんな未練ありありの顔で言われても、ねぇ」
そんなことはない。
まぎれもない本心をぶつける猶予は、与えられなかった。
おまけに受け入れがたい現実に襲われている。なぜ、どうしてこんなことに。抵抗らしい抵抗もできていない。
「言っただろ? 俺はわかってた、って」
唇を解放した彼は、今度は満足そうに目を細めた。
「お前も俺のこと、意外に気に入ってるんだよな?」
国を滅ぼされた後のこと。
彼の仲間に加わった後のこと。
様々な記憶が脳裏を走り抜ける。同時に説明できない感情がぐるぐるにかき回されて、胸の中を圧迫していく。
私は復讐しなければならない。でなければひとり生き延びた意味がなくなる。こんな痴れ言に構っている暇などない、ないのに。
気色悪いほどの微笑みから目が逸らせない。
頬をすべる、ありえないほどに優しい手を払い落とせない。
命を奪われるものも、奪うのを邪魔するものも、ない。そのチャンスを活かそうとする動きを、取れそうになかった。
#ワンライ
【300字SS】いつまでもそのままでいて?

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「影」です。
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「わたしとチカはいつでも一緒よ」
「双子みたいって言われたね! チカはただの友達じゃないって思ってたから嬉しい!」
「ね、服も髪型も一緒にしてみない? チカも嬉しいでしょ?」
わたしに憧れているチカは、わたしを決して否定しない。『私も同じこと考えてた』がいつからか口癖になっていた。
「チカちゃん……私また、告白された」
「チカちゃんと間違ってるんじゃないって言ったんだけど、違うって」
精一杯持ち上げた唇が震えてた。
……理由はわかってる。言葉にはできない。
「しかもチカちゃんと一緒にいるのやめろってまで言われたんだよ。ひどいよ。私、すごく幸せなのに」
……大丈夫。
チカはわたしの「影」でいることに、喜んでる。
#[300字SS]
【300字SS】ライバルのつもりなのは?

300字SS のお題に挑戦しました。お題は「道/路」です。
勢いで突っ走っただけの作品ですw
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「またお前ら揃って一位かよ! もはや化け物じゃね?」
あいつの進む道と交差してしまったのは、俺の人生で唯一の失敗だ。
すべてが順調だった。勉強も運動も人望もモテ度も首位の地位が揺らぐことはなかった。
視線の先に他人が映るなんて、絶対に許されないのに!
「僕はいつも必死だよ。間宮とは真逆だから」
無駄に自信なさげな態度も腹が立つ……!
「俺だって頑張ってるって。水瀬の方が余裕に見えるよ」
「じゃあ、お互いいい刺激になってるってことだね」
これからも頑張ろう。
笑顔で差し出された手をいっそ払いのけてしまえたら。
「ありがとう。間宮」
細められた双眸の隙間から、うっすらと視線を感じた。
……謎の寒気を感じたのは、なぜ。
#[300字SS]
死神のようで天使

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①やらかした」を使いました。子どもの一人称って難しいです💦
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きらきら光る、きれいな花が落ちていた。
拾って先に進むと、また花。今度は黄色に光っている。
赤い色、緑色、青色。
いくつあるんだろう。もう、六つも拾った。
両手で大事に抱えながら、すでに見えている七つ目の花に向かう。
あれは……黒色?
「お願い……」
伸ばしかけた手が止まる。誰の声かなんて、間違えるわけがない。
「頼む……目を……」
目?
不思議に思うまま、花に向けていた目を上に上げた。
――青い。とってもきれいな、青空がある。まるでさっきまでいたところみたい。パパとママと一緒にいた時、こんな空だった。わたしは楽しくて楽しくて、それで……どうしたんだっけ。ママが確か、大声でわたしの名前を呼んで……それから、それから。
どうしてわたし、ひとりぼっちなの?
パパとママは、どこ?
帰りたい。
パパとママのいるところに、帰りたい!
「……しろ、い」
いつの間にか青空がなくなって、白い色だけがぼんやりと見えていた。家の天井みたいな色をしている。
なぜか身体が動かない。それに、すごく眠い。
「目が……覚めたの……!?」
隣で、ママが泣いていた。ちらっと見えたのはパパ? なんだかとても慌てているみたいだった。どこに行ったんだろう?
でも、戻ってこられたんだ。
「……お花……」
ママ、わたしがはぐれたから泣いてるのかな。いつも怒られているのに、本当に悪いことをしちゃった。
拾った花をあげたら、ママは笑ってくれるかな?
それなのに、眠いせいか腕が持ち上がらない。
「どうしたの? どこか痛い?」
「わたし……お花、拾ったの……ママ、お花、好きでしょ?」
だから、泣き止んでね。笑ってね。
ふわふわとした気分のまま、今度目に映ったのは黒い色だった。
でもどうしてかな、怖くはなかったんだ。
「お前、どうしてあそこで帰しちまったんだよ。久々の食事にありつけそうだったのに」
隣でじとりと睨み付けてくる相棒に苦笑を返して、白いベッドに横たわる少女を天井から見下ろす。再び意識を失ったようだが、人間にとっての最悪な事態にはもうならない。
死を関知できる存在だからこそ、わかる。
「ああいうピュアっピュアな魂はごちそうなのになぁー。だからあの子の気を頑張って引いてやったのになぁー」
「ごめんって。……だって、あまりにも不憫すぎるから」
「スマホいじって運転してた車に撥ねられたのが、か? それはご愁傷様だけど、俺らには関係ないだろ? むしろ面倒が増えるだけっていうかさー」
彼の言うことはもっともだし、迷惑をかけているのも自覚している。
それでも、撥ねられる瞬間の絶望にまみれた顔がどうしても頭から離れてくれなかった。ひたすらに泣きじゃくる母親と、懸命に正気を保とうとぎりぎりの場所に立っている父親の姿を見ていられなかった。
「……ほんと、君には迷惑ばかりかけてるよ」
「全くだよ。もはややらかしちゃった、じゃ言い訳にならないくらいの常習犯だからな」
魂を喰らう存在「らしからぬ」意味で有名人になってからずいぶんと久しい。それでも相棒として居続けてくれる彼に心の底から感謝をしているのに、全く態度に示せていないのがまた申し訳ない。
「……んな顔すんなって。ま、あんなチビッコじゃ一人で喰ってもハラいっぱいにはならねぇし、どうせ探しに行くのは変わんねえよ」
肩をぽんと叩いて消えた背中に小さく礼を告げて、改めて少女を見やる。
医師から説明を続けている両親の横で、とても穏やかな表情で眠っている。やっぱり、喰らわなくてよかった。
「今度は、勢い余って飛び出したらダメだよ」
そして、相棒の後を追いかけた。
#ワンライ
結局は、自分かわいさ
深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
②中途半端
③清濁
のお題を使用しました。ちょっとこねくり回しすぎた感があります。。
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「あなたの望みはなんだ?」
無駄に装飾の凝った木製の椅子に座っていると気づいたのは、急に視界が明るくなったからだった。軽く辺りを見回して、どうやら私にだけスポットライトが当たっているせいらしい。
それにしてもこの椅子、中世のヨーロッパにでも出てきそうだ。大体ここはどこなのか。
「あなたの望みはなんだ?」
左右で別々の人に話しかけられているような心地悪い声で同じ問いを繰り返された。同時に、前方にぼんやりと何かが浮かび上がる。
「……そっか、これ、夢か」
そう確信せざるを得なかった。今まで生きてきて、身体の半分が長い金髪の天使、もう半分がコウモリのような黒い羽根を生やした悪魔、という生き物に出会ったことがない。そもそもいるわけがない。
「望み? 働かなくてすむくらいのお金が欲しいわね」
中途半端で気持ち悪い生き物に、鉄板の一つに含まれる回答を返す。夢なら敢えて乗ってみるのも悪くない。
「あなたは優しいのですね」
天使の口端がゆっくり持ち上がった。声も目を閉じたくなるような清らかさだったが、片方からしか聞こえない。
「本音を言わないのは、相手を気遣ってのことでしょう?」
言葉の意味はわからない。『相手』って、誰のこと?
「しらばっくれるな」
今度は心臓が震える声だった。もう片方から容赦なく注がれた。
「あの女を憎らしく思っているくせに」
頭の片隅で、一瞬鋭い光が灯った。見たくないのに主張してくるなんて、やめてほしい。というか、どうしてこの生き物がそんなことを知っているの。
(……だから、これは夢なんだって)
もはや自身に言い聞かせるしかない。
「違いますよね。例えば今だって、彼女と距離を取っているのは余計な心配をかけさせないためでしょう? 幸せなままでいてほしいんですよね?」
「……やめて」
なんて夢なんだ。リアリティがありすぎて息が苦しい。己を抱き込んでもさらに症状が重くなるばかり。
「笑わせる。あの女の結婚式に参加した時、素直に祝えないでいたくせに」
「やめて!」
その日の感情が堰を切ったようにこぼれ出す。ずっと笑えていたかわからなかった私。ちゃんと彼女の顔を、隣の彼を見られなかった私。もらったブーケを帰宅してすぐに捨てた私。
彼女が悪いわけじゃない。意中の彼とうまくいきたいと相談してはいたけれど、それが誰かを明確に告げていたわけではなかった。
そもそも、その彼と彼女は知り合いですらなかった。どう運命が転んだのか、偶然二人が出会い、気づけば結ばれていたというだけ。
「そう思い込んでいるだけだろう」
悪魔は容赦なく傷を抉ってくる。たまらなくなって逃げだそうとしたが、立ち上がれない。椅子に触れている箇所すべてが縫い付けられてしまったかのようだ。
「思い込みだなんて。二人にはこれからも幸せでいてほしいんですよね? だってとっても好きな二人なんですから」
好きだ。好きなことに変わりはない。
「いいや、思い込みだ。なぜなら、お前にはまだ未練がある」
ない、と反論できなかった。
だって、本当に好きだった。誰からも頼りにされてしっかりしているかと思えば、少し抜けたところもある。見た目は落ち着いているのにどこか目を引く雰囲気を持っている。今まで出会ったことのないタイプだった。
二人きりで飲みに行くまで仲を深めてきた。やっとここまで来たと嬉しくなった矢先に、彼女から彼を紹介された。
その時の心境など言い表せるわけもない。どんな話をしたかも思い出せないくらいの衝撃だけが胸に残っていた。
「それでも友達に本当のことを言わなかったのは、友達が大切だったからですよね?」
本音は、違う。
お似合いすぎて、言えなかった。あるいは「友達の幸せを願ういいおともだち」でいたかった。表面上でも、二人の悪者にはなりたくなかった。
結局はこのざまだ。正直に行動できなかったことを悔いて、想いをこじらせたままでいる。彼を奪われたわけでもないのに彼女に当たり散らしてしまいたくなっている。
二人が出会う前に告白だけでもしていれば、こんな現実にならずにすんだかもしれない。
私と彼が結ばれる可能性だって少しはあったかもしれない。
押し込めた後悔が怒濤の勢いでやってくる。
いやだ、こんなの空しくなるだけなのに。どんなに頑張っても時間は戻せないのに。
「そうやって、どっちつかずの態度でいたツケが回ってきたってだけだ。自業自得じゃないか」
もはや反論する気力もない。
「だから、もう本音をぶちまけちまえよ。その方が楽になるだろ?」
まさに、悪魔のささやきだ。
「そうですね。優しいあなたが壊れてしまう前に、大本の原因を取り去ってしまいましょう」
頭が変にふわふわしてきた。ゆっくり顔を持ち上げると、霞のかかった視界にあの生き物が映っている。最初と変わらないはずなのに、どこか違って見える。
「あなたの望みはなんだ?」
私は。
その先を告げたつもりが、アラームの音に上乗せされた。
恐怖と安堵両方に、心臓が押しつぶされそうだった。
私は、どっちにもなれない。
#ワンライ
螺旋を描く悩み

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一息つくために淹れた紅茶のカップを片手に、仕事場兼自室へと戻る。先ほど電話越しに頼まれた作業はもう終えたから、再び待機の状態だ。
数年前からこうして、家族の自営業を手伝っている。一応正社員という扱いだが、感覚はアルバイトに近い。外勤が主なこの仕事の内勤は、待機が基本なのだ。
やることがないわけではない。仕事に必要な荷物を受け取ったり、ほぼ毎日届くFAXやメールをチェックしたりと、一日のうちに不定期に発生する作業はある。
ただ、待機が長いだけ。
こう長いと、どうしてもいろいろ考えてしまう。
例えば売り上げが落ちて食い扶持がなくなったら、他の仕事を探さないといけない。そうなったら正社員はまず無理だろうから、派遣社員かアルバイトになる。それで自分一人でも食べていけるのだろうか。
今のうちに副業でも始めておくのが一番実行しやすい対処だと思う。副業といえば自分の好きなことや特技を活かすイメージが強い。
なら、自分の強みは何だろう?
メモ用紙とシャープペンをとりあえず置くも、ついため息がこぼれた。
大学生の時にもやった「自己分析」。これが本当に苦手だった。自分を客観的に見るのは難しいし、両親に「私の強みってなんだろう?」と問いかけても明確な答えは返ってこなかった。つまり、そういうことだ。
苦手なまま突き進んできたツケがこうして回ってきたのだと、無地な紙が叱咤する。半ば意地になって、とりあえず好きなことを抜き出してみた。
写真を撮る。漫画を読む。旅行。カラオケ。スマホゲーム。料理……は料理教室まで通ってみたけど一向に楽しいと思えなかったから違う。
……これぐらいしかない。しかも、どうしようもないものばかり。
写真はインスタに載せていたらバズった、なんてシナリオはありそうだが夢物語過ぎる。大体人目を引くような写真は撮れたためしがない。
他にいけそうなのは旅行だが、例えば道中のレポをブログなどにまとめられるだけの文才はない。日記も三日坊主で終わることがほとんどだった。
シャープペンを置いて椅子にもたれる。気持ちだけが焦るばかりで、全く行動が伴わない。伴えるだけの力がない。
今から文章の勉強でもするべきか? それよりも「インスタ映え」しそうな写真を学ぶべきか? あるいはその両方か?
頭を乱暴に掻いたその時、目の前のパソコンから通知音が鳴った。身体を起こして確認すると、取引先から添付ファイル付きのメールが来ている。圧縮されたファイルを開いて、中にある十枚以上の写真と共に、メール達を印刷した。
世の中の事務仕事もこれくらい緩かったら、すぐ就職できそうなのにな。
Photo by Florian Pircher(Pixabay )

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「疑う」です。
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「ごめん」
「え、いきなりどうしたんですか?」
「ずっと謝りたくて。……個人的なことだけど、君のことをずっと信用できなかったから」
合点がいった。私を見ているようで見ていない、あの奇妙な違和感の正体。
彼は無実の罪を被せられ、国から追われる身。
私は大切な人を奪われ、復讐のために旅立った身。
狙うべき敵が偶然同じかもしれないとわかり、共に行くことを決めた。
「お互い様ですよ」
「うん。でも今は君のこと、大事な仲間だと思ってる」
何も返せなかった。
私達の出会いは、悪い意味で必然だったんじゃ?
私の見えないところで敵と繋がっているんじゃ?
私はまだ、信じきれていない。
「君は、そのままでいいよ」
私は、何も言えなかった。
#[300字SS]