星空と虹の橋の小説を掲載しています。
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No.59
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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
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『キレイに産んであげられなくて、ごめんね』
お母さんの、少し申し訳なさそうな顔と声は、頭の片隅に残っている。
右の胸から脇にかけて残る、火傷のような跡。
生まれてからずっとある跡だ。いくら時間を重ねても、決して消えることのない、治ることもない、あたしの一部みたいなもの。
他人の前で肌を晒すたび、痛々しそうな、見てすまなそうな顔をして目を逸らす姿を見てきた。
『うわっ、それ何? やばくない? 大丈夫?』
明らかな嫌悪感をもって言われたこともあったっけ。
だから、いつしかあたしは肌を晒すのを拒むようになった。最初は気にならなかったのに、気になる存在になってしまったんだ。
「ほんと、あんたここ触るの好きだよね?」
「んー、だってオレだけの特権って気がするんだもん。いや?」
「……ううん。そんなことないよ」
あたしの部屋で、あるいは彼の部屋で、またあるいはどこかの部屋で。
飽きるほど肌を重ね合った後、彼はいつも、治ることのない傷に愛おしそうに触れる。
――マイナスな捉え方をする人ばかりじゃなかった。
この人に出会って、初めて「消えない傷でもいい」と思えるようになった。
それまで、なんとしても消し去るしかないと自分を追い詰めすぎていたあたしだったのに、この人があっさりと方向を変えてしまった。
『そんな傷、別に気にしないよ。お前は可愛いし、むしろオレだけが見れるって思うと嬉しいよ!』
あっけらかんと言い切った彼の言葉は、今やお母さんの言葉を食い尽くす寸前だ。
「……ん、どしたの?」
「ううん、なんでもないよ。なんでも」
「でも、泣きそうな顔してるし……っうわ!?」
「いいから、あたしに黙って抱っこされてなさい。胸んとこも触ってていいから」
むしろ治せない方がいい。そんなことを思える傷なんて、この世にあるんだね。
そんな考えができるようになったことがどれだけ大事かなんて、きっとこの人はわかってないんだろうな。
でも、それでいい。
そうやって、あたし以上に無邪気な顔で、声で、あたしを癒やしてね。
#ワンライ