星空と虹の橋の小説を掲載しています。
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No.72
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「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」さんのお題に挑戦しました。
イメージソングを、サザンの『雨上がりにもう一度キスをして』にしたつもりが、重い話に😅
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雨が降るたび、誰よりも愛していたひとのことを思い出しながら街中を歩く。
『その傘、いつも使ってくれてるよね。そんなに気に入ったの?』
『当たり前でしょ? あなたがくれたものだもの。それに、水玉模様一番好きだしね』
『そっか。俺も贈ったかいがあるってもんだ』
薄い水色で彩られた水玉模様の傘は、三年以上経っても壊れる様子はない。私を、懸命に支えてくれているかのようだ。
生まれ育ったこの街が、私は好きだった。自然に囲まれてのんびり歩く場所も、テーブルを挟んでお喋りを楽しむ場所も、おいしいものを堪能できる場所も、なにもかもがここには揃っている。
あのひとも、同じ気持ちでいてくれた。
春には、桜のあふれる公園で花見をやったね。予想以上に人が多すぎて、次の年は早めに場所を確保しに行ったよね。
夏は、カフェにある限定のかき氷を食べに行ったっけ。サイズが大きいことを知っていて二人でひとつにしたのに、結局食べきれなかったんだよね。でもすっごくおいしかったよね。
秋には紅葉に染まった並木道をひたすら歩いたね。その頃、カメラにハマったって言って、私のこともきれいに撮ってくれたね。
冬は、お互い寒いのが苦手だから室内でばかり遊んでたよね。寒いかもしれないけどどうしてもスケートやってみたいってチャレンジしたら、二人して意外と熱中してたの、覚えてる。
……そう、覚えてるよ。私は、あなたとの思い出すべてを、覚えてる。
身体は、自然と公園内で一番見晴らしのいい場所へとたどり着いていた。
街中を一望できる、夜も人気のあるスポットだ。今日は雨のせいか、人影はない。
雨の勢いはだいぶ弱まっていた。
何度も足を運んだ。あのひととも、ひとりのときも。
一番思い出の詰まっている場所だとわかっているから、引き出しを開けて中身をすべてばらまいて、いつまでも包まれていたいと願ってしまう。単なる逃避に過ぎないとわかっていながら、真正面から向き合うだけの強さがない。
あなたからのキスが、もう一度ほしいよ。
好きだって耳元で囁かれながら、少し高めの体温に優しく包まれたいよ。
どうして、逢いに来てくれないの。「君が呼んだら、いつでも駆けつけてくるよ」って言葉は、嘘だったの?
手すりを掴んだまま、固く目を閉じる。脳裏に浮かぶあなたは、目尻を少し下げた笑顔を私に向けてくれている。私を安心させてくれるとき、愛おしそうに名前を呼ぶとき、甘えてくるとき……同い年なのに、年上にも年下にも見える、笑顔だ。
この場所と同じくらい、大好きだった。
――俺はずっと、君のことを想ってるから。
そんな言葉が聞こえた気がして、思わず目を開けた。思わず苦笑が漏れてしまう。
空耳だなんて、私も相当ね……。
弱い私を見かねて、そばに来てくれたなら嬉しいけれど。
「わ、虹かかってる!」
背中からそんな声が聞こえてきて、のろのろと顔をあげる。隣にやってきたカップルは嬉しそうに、スマホのカメラを起動していた。
雨雲の隙間を狙ったかのように、薄い光の帯が差し込んでいた。
七色というより三色くらいにしか見えないけれど、まぎれもない虹が、視界の先にあった。
『雨上がりにね、虹見えることがあるんだって。いつか見てみたいね』
『漫画とかだったら、いつか俺が見せてやるよ! って言うところかな?』
『ふふ、本当にそれができたら尊敬しちゃうなぁ』
今度こそ、あふれる涙を止められなかった。
#ワンライ