🗐 ショートショートまとめ |星空と虹の橋

ワンドロやお題などで書いたSSまとめです

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お役御免はまだまだ先?

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②落ち着きを取り戻す」を使いました。
以前書いた「穏やかに、確実に、時は流れゆく」 とほぼ同様のキャラを使っていますが、これ単体でも読めると思います。
BL設定ではありますが、本文にBL的なやり取りはありません。

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 平日の午後。
 忙しくも暇でもなく、どこかのんびりとした空気が漂っている、いつもの探偵事務所のはずだった。
「ごめん、ちょっと出てくるね」
 そう言い残して足早に出て行った所長を、後輩がぽかんと見送った。さすがに違和感を覚えたらしい。まあ、確かに「あの状態」の所長を見るのは初めてだから仕方ない。というか久しぶりじゃないだろうか。少なくとも、彼がこの探偵事務所にやってきてから一度も起こっていなかった。
「あ、あの梓さん。所長、なんか悪い物でも食べてたんで?」
「……どうして?」
「いや、外出るの相当珍しいじゃないですか。でもそれだけじゃないっていうか」
 両手が空いていたら右に左に動いていそうな素振りを見せながら出入口のドアを振り返る。追いかけたいけれどどこに行くべきかわからない。心情としてはそんな感じだろう。
 ただ、私ならわかる。
 短くため息をついて、びっくりしたように名前を呼んできた背中越しの彼に答える。
「私、探してくるから。悪いけど、事務所をお願い」


 たっぷり20分はかけて、周りの雰囲気より時が巻き戻ったような佇まいの喫茶店に辿り着く。
 入口をくぐると、すっかり顔なじみになった店長がわずかに苦笑しながら頭を下げた。毎回お世話をかけますという思いと共に目線を下げ返すと、一番奥まった場所にある二人席に腰掛けた。
「久しぶりに出ましたね、この発作」
 眉根を寄せた所長がにらめっこしているターゲット――一冊の本を指差しながら、出された水を半分まで飲む。今の季節、夕方でもまだまだ暑い。
「三浦くん、びっくりしてましたよ。ほとんど外出ない所長がいきなり飛び出したから」
「……昇くん、なんか言ってた?」
「気になるなら早く戻ってあげたらどうですか?」
 大事な人の動向を探っておきながら視線も身体も石のように動かない。無駄とわかっていて敢えて告げたのは、これが唯一の対処法だから。
 しかし、三浦と深い仲になってから相当我慢でもしていたのか、眉間の皺がいつも以上に深い。長引きそうな予感に早くも投げ出したくなる。
「……ったく、相変わらずこういう本は己の目線で好き勝手書かれてて反吐が出る。盛大な自分語りすぎて金の無駄だね」
「所長にはそうってだけですし、別に絶対手に取ってって命令されているわけじゃないでしょう。いつも突っ込んでますけど」
「大体数千円払って簡単に解決できるなら誰も苦労なんかしないんだよ。あ、ここに書かれてる手法、僕ならもっとコスパよくこなせるけどね」
「それいわゆるブーメラン発言なんじゃないですかね」
 未だに不思議で仕方ないのだが、頭の中が暴発しそうなくらいに煮詰まってどうしようもなくなったとき、事務所を飛び出すと道中で購入した自己啓発系の本を片手にこの喫茶店に入り、ひたすら毒づくのがお決まりになっている。曰く、「自分ならこうだ、という論を思い浮かべまくっていくうちにすっきりしていく」らしい。敢えて掃除をしたり散歩に出かけたりするとリフレッシュするというのと同等か、いや、一緒に括るのは憚られる。
 とにかく、所長なりの落ち着きの取り戻し方なのだ。
 自分が相手役を務めているのは、偶然にも毒抜き中の所長を見かけてからだった。
『梓くんの冷静なツッコミがすっごく助かるってことがわかったから、できれば付き合ってもらえると嬉しいな』
 普段の所長に早く戻れるなら仕事も滞らずに済む。そのためだけに役目を続けているけれど、面倒なのに変わりはない。
「私、次から三浦くんにバトンタッチしようかな」
 喫茶店自慢のショートケーキをつまみながら呟くと、視線がぐいんとこちらを捕らえた。本を閉じ終えていないのに珍しすぎる。
「や、やだよ!」
「どうせいずれは二人で住んだりするつもりなんでしょう? 私のいないところでこうなってもおかしくないですし、予行演習だと思って」
「む、無理無理! こんな姿を昇くんに見られるなんて無理!」
 ……まったく、本当に無駄にプライドが高い。
 少なくとも三浦は、絶対嫌いにはならない。むしろ、しっかり支えられるようになりたいと決意するタイプだ。
(気づいたらたくましく成長してそうね……)
 その未来はちょっと楽しみかもしれない。例えば、完全に所長を尻に敷いていたりとか……
 ——パタン。
「こ、ここにいたんですね二人とも……!」
 二つの音は、ほぼ同時に聞こえた。
 所長のすっきり顔が見事に固まっている。さすがの自分も驚きを隠せないまま背後を振り向いた。
「三浦くん、どうしてここが」
「いや、やっぱり気になっておれも出てきちゃったんです。来客の予定ないしって思って……」
「私のあとを、追いかけて?」
「途中で偶然見かけたんですけどすぐ見失っちゃったんです。で、手当たり次第探してたらここに」
 一応、三浦が後をつけていることを想定して敢えて遠回りしてみたりしたのだが、偶然なら仕方がない。
「これはもう、神様のお告げなんですよきっと」
 ケーキと紅茶まできっちり平らげて、未だフリーズ中の所長に適当な理由を告げながら席を立つ。本を閉じたなら毒抜きは終わったという証だ。つまり、役目は終わった。
「あ、あの梓さんここで一体なにを? まさかサボりですか?」
「サボりじゃない」
「す、すみません……」
 口にした物はあくまで必要経費だ。何も注文せず留まるだけなんて失礼にもほどがあるじゃないか。
「それに、三浦くんが気になってることは所長が丁寧に説明してくれるから大丈夫」
 助けを求めるような視線を感じた気がするが、あくまで気のせいだろう。というか誤魔化すなんて無理。
「所長。サボりじゃないって、ちゃんと証明してくださいね」
 敢えて身体ごと向き直り、満面の笑顔を向けて、今度こそ喫茶店を後にする。
 所長の情けない悲鳴が聞こえた気もするが、これもまた、気のせいに違いない。畳む
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穏やかに、確実に、時は流れゆく
#[BL小説]

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③感無量」を使いました。
以前書いた「息抜きの場所は恋人の隣だけ」 の設定を使っていますが、雰囲気はちょっと違ってます。

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「所長。これ、頼まれてた資料です」
「お、ありがとー。ちょうどいいからちょっと休憩しようか。ほら、梓くんも」
「……わかりました。じゃあ、せっかくなんでお茶請け買ってきますよ」
 彼女がそう言い出すときは「自分が食べたいものがある」という証拠なのだが、突っ込む者はいない。止めても無駄というより、だいたい素晴らしいチョイスをしているからという理由が大きい。
 かすかな鼻歌をこぼしながら扉をくぐって行った梓を見送ると、牛乳だけを混ぜたコーヒーを応接に使うテーブルに置く。待ってましたとばかりに所長が隣に腰掛けた。
「……うん、おいしい~。すっかり僕好みの味になったね」
「そりゃほぼ毎日淹れてますからね」
「仕事もすっかり手慣れて」
「入社して一年経ちますからね。もちろん、まだまだ勉強不足ですけど」
 すると、なぜか微妙な顔つきになっていた。拗ねているかと思ったが、断言できる自信がない。
「……なんですか? その気持ち悪い顔」
 だから、こう言うしかできなかった。
「ひどっ! 仮にも上司に向かって!」
 しかし、なぜかにんまりとした笑顔に変わった。
「あぁ、でも生意気なところは変わらないよねぇ。ここに来たばっかりの頃を思い出すよ」
「所長だって、失礼ですよ」
 ますます笑みは深まるばかり。
「僕、昇(のぼる)くんのそういうところ結構好きなんだよね。なんか、裏表なくて微笑ましい」
「んなっ!」
 くそ、乱された。この人のぶっこみ方、いつもタイミングが読めなくて嫌いだ。
 どう返すべきかと必死に思考を回していると、肩を引き寄せられた。反射的に視線を向けた先には、やっぱり幸せそうな所長の顔が待ち構えていた。
「ちょ、ちょっと。仕事中ですし梓さん帰ったんじゃないですよ、買い出しですよ、そろそろ戻ってきますって」
「大丈夫だって。梓くんは僕たちの関係知ってるし」
 そうだとしても、実際見られたらたまったもんじゃない!
 ……訴えたところで言うことを聞いてくれないのも、悲しいかな一年の付き合いで学んだことだった。
「……だ、だったら。せめてこれ、やめてくれません?」
 頭を優しく撫で続けている手のひらを指差すも、可愛くないぶりっこ声で拒否された。
「君がここに来てからの日々を思い返してしみじみしてるんだもの、無理無理」
 声が甘くて柔らかくて、反論したいのにできない。なんだかんだで、こういう時に感情を誤魔化さないでくれるところが自分も好きだったりする。
 梓が戻らないことを祈りつつ、ぎこちない動きで身体を寄せていく。左側から伝わってくる、徐々に馴染みつつある熱が心地いい。
 始めの頃は反発ばかりして、人間としても新人としてもまるで駄目な人間だったのに、よくクビにされなかったどころか恋人関係にまでなるなんて、本当人生はどう転ぶかわからない。
 今でも単なる気まぐれなのでは、と不安になることもあるけれど……不思議と、このひとの隣にいるとネガティブな感情はたちまち消えてしまうのだ。
「あ、昇くんなんだか可愛い顔してる」
 頭を撫でていた手で顎を掬われた。訊き返す暇をもらえなかった原因は、唇を覆う柔らかい感触のせい。
「あー、そんな反応されると止まらなくなっちゃうなぁ。もっとしていい?」
「っだ、だめに決まってるでしょ! このエロ所長いいかげんに……!」

 コンコン。
 ごほんごほんっ。

 犯人、いや、救世主は誰か、言わずもがな。
 慌てて隣を突き飛ばし、平謝りしながら救世主を招き入れたのだった。畳む
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死神は気まぐれに舞い降りる

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①肌寒い夜」を使いました。

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「もしもし?」
 耳に届くすすり泣く声に、やっぱりな、と眉をひそめる。
 予感じゃない。スマホに表示された名前を見てからとうに確信していた。
『ねえ、あなたも、見たでしょ? 見てしまったんでしょ?』
「……ああ」
 溜め息だったのか、息を飲んだのか。
 どれだけの衝撃と絶望を感じているのかだけは、ただ、わかった。
『なんで……なんで、なの……!』
 俺たちには不思議なつながりがあった。
 夢――一人の人間が意識なく宙に浮いていて、少しすると頭の先から白い煙のようなものが狼煙のように立ち上り続けるという内容を、何の前触れもなしに見ることがある。
 それは、彼女も同じ夢を見たという証拠。
 どちらかの知り合いが、亡くなったという証拠。
 今日……いや、明日かその次の日か。いずれ、逃れられない事実を突きつけられる。
 俺たちに血縁関係もなければ、共通の知り合いもいない。たまたま就業先で出会っただけなのに、その瞬間から死神とも言うべき力が発現したのだ。
 まるでファンタジーな出来事を前に打つ手など思いつきやしなかった。ただただ翻弄され、神経を蝕まれていく。
『もう……もういやよ! 私もうこんなのいや……!』
 荒々しい吐息に同調しかけて、やめた。俺だけはしっかりしていなくては、お互い堕ちる事態だけは避けなければ。
「……神様でも悪魔でも気まぐれ起こして、なくしてくれるかも。いや、なくなれって祈ってないと」
『そんな気休めいらない!』
「ごめん。ただ、」
 ――そう言い聞かせでもしてないと気がおかしくなるから。
 言えなかった。俺はそうでも彼女は俺じゃない。気持ちだけは痛いほどわかるから責められない。叫び出したいのは俺だって同じだ。
 スマホを握る手が細かく震え出す。
 たったふたりで世界に閉じ込められたようだ。生き延びるすべはどこにあるのかとがむしゃらに足掻いて、無駄に終わり、絶望しながら夜明けを迎えている——そんな気分にさせられる。
『……いえ、ごめん、なさい。あなただって私と同じ、なのに』
 力なく首を振った。喉の奥からこみ上げてくるものを必死に飲み込む。

 なぜ、いきなりこんな能力に目覚めたのか。
 なぜ、俺たちなのか。
 なぜ、俺たちでなければならなかったんだ。

「……とりあえず、また大きな図書館とかネットとか、見てみる」
 検索していないワードはなんだろう。まだ行っていない図書館は?
 先が見えなくても、無駄な足掻きでも、今はとにかく動き続けるしかない。「見えない」ということは、未来が決まっていないということだから。
『……スピリチュアルなお店とか、意味、あるかな』
「そうか、そうだね。全然ありそうだから、そういうところも当たってみよう。意外にすぐ手がかりが見つかったりして」
 努めて明るめの声を出す。事実、その線は今まで考えつかなかったのだ。落ち着いてさえいれば、突破口を見つけてくれるのはいつも彼女だった。
『いつもありがとう。……頼ってばかりで、本当にごめんなさい』
 少しだけ、声色に精気が戻ったように聞こえた。
「ううん、俺もありがとう。正直、ちょっと折れかけてた」
『……絶対、こんな力、なくそう』

 電話を終えて、部屋の窓を開けた。真夏にさしかかろうという季節なのに、肌を撫でる風に思わず首をすくめる。
 身体の芯は、あの日からすっかり冷え切ってしまった。
 毎夜、こわくてたまらない。好きだった静寂の時間は、すっかり塗り替えられてしまった。
 早く、取り戻さないと。
 俺たちは、ただの人間なんだ。畳む
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回数の多いサプライズ

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③感激」を使いました。
BL小説『ただずっと、隣で笑い合っていたいから、』 の番外編な感じで書きました。

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 ある日のこと。
「白石、ほら。このシャツ欲しがってたろ? やるよ」
「え、いいの? マジ? ってかそこそこ高いやつだけど」
「お前が絶賛してたの気になって買ってみたからついで」
 またある日のデート中。
「じゃーん。これなんだと思う?」
「……え、これアレじゃん! 限定の! な、なんで!?」
「お前がめっちゃ悔しがってたから探しまくって手に入れたんだよ。ちゃんと定価でな」
「よ、よく見つけたな……って、え? おれが、ってことは」
「そ。お前にプレゼント」
「いやいや金払わせろって! 上乗せさせろ!」
「いーのいーの。俺が勝手にやったことだから」

 大なり小なり、こんなサプライズが定期的に続いている。
 プレゼントだけではない。例えば自分が「ここ行ってみたい」と口にしたが最後、うっすら忘れかけた頃に仕掛けてくる。値段もおかまいなしに、だ。
 そりゃあ嬉しくないわけはない。西山がいつも本心からしてくれているのをわかっているから素直に受け取っている。
 しかし「なぜ」という疑問が湧いてくるのもまた自然だし、単純に西山の懐も気になってしまう。お返ししたいのにそれもさせてくれないのはもはや苦しくさえ思う。
 恋人に喜んでほしいのは、自分だって同じなのに……。
 ひとつ思い当たるのは、原因こそ不明なれどなにか悩みがあるのかもしれないこと。
 いや、こちらにその原因があると考えた方がいいだろう。
 そうとなれば早速行動に移さないと、西山が心配だ。


「ありがとう。ところで話がある」
 西山の家で、ずっと食べたかったお菓子をありがたく一つつまんだあと、そう切り出した。
「……白石?」
 満足そうな笑顔が瞬時に曇る。深刻な雰囲気を出したつもりはないのだが、気負いすぎたのだろう。軽く肩を上下させる。
「お前、なにか悩んでるんじゃないか?」
 敢えて直球勝負に出てみた。あくまで推論に過ぎないものの、こういう時のカンはわりと当たる。
「え、悩みって」
「サプライズしすぎ。そりゃ嬉しいけど、おれが仕掛ける隙もないじゃん」
 目の前の顔が明らかに強張った。
「迷惑、だったか? それか退屈か」
「どれもハズレ。だったらとっくに見破ってるだろ?」
 負のループにハマりかけている。恋人の関係も加わってから今に至るまで結構順調だと思っていたのは自分だけだったのか? 今になって不安が湧き出てきた。
「おれ、何かやらかした? ならごめん、情けないけど教えてもらえると」
「違う。……ごめん、やっぱりあからさま過ぎたな」
 誤ると、西山は両肘を立てた腕の中に頭をしまい込んで短く呻いた。
「絶対、笑うなよ」
 少しして聞こえてきた言葉は、予想外の内容だった。気が抜けた、というより先が読めなさすぎて身構え方がわからない。
「俺たち、付き合ってもうすぐ一年経つよな」
「あ、ああ……そういえば」
「お前ってほんと、そういうの気にしないね」
「ご、ごめんって。で、それが関係してるのか?」
 よほどためらっているのか、なかなか返答がない。ここは下手にフォローしない方がいいと判断して我慢して待ち続ける。
「……マンネリ、するかもって」
 ひどくか細い声だった。
「まんねり?」
 さっきのを上回る予想外っぷりだった。
「わかってる。俺がネットの記事なんか簡単に信じたのがバカだったんだ。ほんのちょっと不安だった時にそんなの読んじゃったから。そうじゃなくても一年って相手のいいとこも悪いとこも大体わかってきて落ち着いてくる頃だろ。友達でも恋人でもそう変わらないって告白した時は言ったけどちょっとは違う部分もあるからさ」
 必死に弁明を続ける西山に、だんだん約束を反故してしまいそうになってきた。単純に可笑しくて、というよりも可愛くて、だ。多分口元はもう緩んでいると思う。
「マンネリを少しでもなくしたいから、いろいろサプライズしてくれたんだ?」
 言葉が途切れたタイミングで、尋ねる。頭が小さく動いた。
「サプライズしてくれる前のおれ、そんな感じしてた?」
「……それは」
「もちろん、おれは全然そんなこと思ってなかったよ。なのに勝手に心配してたんだ〜」
 ほんのちょっぴり意地悪したくなってしまった。それだけ西山に愛されている証でもあるが、疑われてしまった証明でもある。
 ようやく頭を持ち上げた西山は、羞恥とショックを雑にかき混ぜたような表情をしていた。ドラマで恋人にしょうもない理由で捨てられた相手の姿を思い出す。
「笑わないって、言ったじゃないか」
「え、おれ、笑ってる?」
「茶化すなよ。そりゃ自分でもどうしようもないって言ったけど、本気で不安だったんだからな」
「でも、ただの取り越し苦労だったろ?」
 わかりやすく押し黙る西山がますます可愛い。普段そう言われるのは自分だから、言いたくなる気持ちが初めてわかった。
 それでもいい加減腕を引いてやらないと、デリケートな男はますます袋小路に迷い込んでしまう。この役目は出会った頃から変わらない。
 身を乗り出して、テーブル越しにそっとキスを送る。
「おれの気持ちは、恋人同士になってから確かに変わったよ」
 明らかにマイナスな捉え方をしている西山を優しく小突く。
「ばか。ますます好きになってるってこと。お前とこういう関係にもなれて、よかったって本当に思ってる」
 付き合いしだしてしばらくは、不安がなかったわけではない。
 今は違う。一日一日を過ごしていくうちに、友人だけだった関係の時とはいい意味で違う空気を得て、素直に受け入れられていた自分がいた。それが何日、何ヶ月も続いて、ようやくお互いの言葉が間違っていなかったと飲み込めるようになった。
 この関係を失うなんて、もう考えられない。
「……俺も、同じだ。同じだよ、白石」
 隣に来た西山に、固く抱きしめられる。あやすように背中をぽんぽんと叩くと、肩口に頭をすり寄せてきた。
「勝手に不安になって、本当にごめん。白石のことちゃんと見てるつもりだったのに、全然だ」
「全くだよ。普段のお前なら余裕なのに」
「やっぱり白石がいてくれないと、俺はダメだな。絶対離してやれないから、改めて覚悟してくれよ?」
「言われなくたって」
 そして向けられた笑顔は、同じ男としてちょっぴり腹立つも見惚れるいつもの格好いいものだった。

#[BL小説] 畳む
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小さな地獄と大きな宝物

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②洗い物」を使いました。
BL小説『俺はエメラルドのご主人様じゃない!』 の番外編な感じで書きました。

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 おかしい。
 気づけば、翠の姿を見ていない。
「翠ー?」
 呼びかけに返る声は、部屋にも頭の中にもない。
 恋人兼、従者(と言って譲らない)のエメラルドの化身である翠(すい)は、断りなく主の前から姿を消す男では決してない。……いや、ケンカをした場合は除く、だったか。
 至って普通の、休日の朝を迎えていた。翠のキスで起こされ、のろのろと部屋着に着替え終わる頃には朝食がテーブルに並べられていた。この後はのんびり遠出しながら買い物をすませよう、なんて会話を交わしていたはず。お互い、不機嫌になるような要素はひとつもなかった。
「……藍くーん。っていないか」
 双子の弟である、アクアマリンの化身である藍(あい)の名前を呼んでみるが反応はない。主である天谷千晶(あまやちあき)のお店に出勤しているのかもしれない。
 双子が会っているという線が消えた、ということは……。
「翠、いるんだろ?」
 それでも反応はない。全く理由がわからず、次第に変な苛立ちと不安がない交ぜになっていく。
「……主人を、意味もなく放っておくのか?」
 なるべく対等の立場でいたい自分にとってあまり使いたくない手だったが、忠誠心の高い彼なら百パーセント効果があるに違いない。そう信じていたのだが……。
 ——最終手段もダメとか、よっぽどのことが起きたらしい。
 たまに翠は、「大げさすぎだ」と突っ込みたくなることでひどく思い詰める癖がある。理由を尋ねると知らぬところで自分が原因の元であるパターンが多いのだが、今回もそうなのだろうか。
 張本人から探れないのなら、自らが探っていくしかない。
 改めて、起床してからの流れを思い返してみる。朝食を終えて、翠はいつも通り洗い物に、自分はテレビを観ながら出かける準備をしていた。
 ——翠が消えたのは、洗い物が終わった後ぐらいか。
 わずかな望みをかけて台所に向かう。翠と暮らし始めてからあまり立たなくなってしまった自分でもわかるほど、いつでもゴミひとつない……
「あれ?」
 違う。今回はたったひとつだけ、違和感がある。
 その違和感に手を伸ばして、なんとはなしに観察してみる。
「……あ、欠けてる?」
 数ヶ月前、いつも頑張ってくれている翠にお礼がしたくて、透き通るエメラルド色で飾られたガラスのコップをプレゼントした。彼と一定の距離以上は離れられない生活でサプライズを仕掛けるのは至難の業だったが、通販に大いに助けられた。
『毎日水を飲ませていただきます! ……本当に、本当にありがとうございます、文秋』
 涙を浮かべるほどに喜んでいた翠。
 宣言通り、ほんの少量だとしても毎日欠かさず使っていた翠。
 そういえば朝もニコニコとコップを使っていた。
「間違いなく原因はコレだな」

「申し訳ございませえええぇぇぇん!!」

 これから切腹でもされそうなほどの悲壮感を込めた声が、部屋中に響いた。
 視線を床に移動させれば、燕尾服姿の男が綺麗な土下座を披露している。
「わた、私は大罪を、犯しました……主であり、恋人でもある文秋(ふみあき)さんからいただいたプレゼントを、こ、壊してしまうなどと……!」
「あの、翠」
「大事に大事に扱ってまいりましたのにまさか、気づかぬうちに破損していたなんて……いえ、そんな言い訳など通用しません! 傷物にしてしまったのは事実!」
「いや、あのさ」
「どうぞ罰をお与えください。今回こそ情けは不要です。恋人の感情も殺して、あくまで従者として」
「翠」
 あくまで静かに呼びかけると、縮こまっていた身体が小さく震えて、止まった。
 しゃがみ込んで肩を二、三度労るように叩く。
「俺は怒ってないよ。お前が大事に使ってくれてたの毎日見てたんだから、ちゃんとわかってる」
「……しかし、私の気が収まりません。あの時、私は本当に嬉しかったんですよ」
 声が震えている。さすがに自分も胸が痛い。
「わかってるって。俺も軽々しく『だから気にするな』なんて言わないよ」
 飲み口の一部がわずかに欠けたコップを翠の隣に、静かに置く。
「俺はさ、このコップが翠に起こりそうだった災いを肩代わりしてくれたんじゃないかなって思ってるんだよ」
 ようやく、翠が顔をこちらに向けてくれた。
 頬に、明らかな筋が描かれている。数ヶ月前とは全く違う意味合いになってしまった涙の痕を両方拭って、敢えて声のトーンを上げてみた。
「ほら、パワーストーンもそういうのあるだろ? 欠けた時は、役目を全うした証だって。あんなに大事にしてもらったから、お礼したいって思ってくれたんだよ」
 大の大人が、絵本にでも出てきそうな物語を口走っている。
 けれど買ったブレスレットに飾られたエメラルドから「化身です。よろしく」と登場した翠と恋人同士となっている現実を見れば、あながち嘘でもないと思うのだ。
「……文秋さんも、すっかり私達の世界にも馴染みましたね」
「まだまだ、藍くんに怒られてばっかりだけどね」
 翠が、わずかにだが笑ってくれた。それだけでこんなにも胸があたたかくなる。
 欠けたコップを手に取った翠は、何度か側面を優しく撫でた。愛おしくにも、今までの働きを労るようにも見える。
「このコップは、後でベランダにある鉢植えに埋めましょう」
 訊き返そうとして、つぐむ。
 役目を終えたパワーストーンは、土に還す。そういうことだ。
「重ね重ね、お騒がせして申し訳ございませんでした」
「黙って消えた時はさすがに焦ったけどね。理由知って納得したっていうか」
 変なタイミングで言葉を切ったのが気になったのだろう、どこか心配そうに翠が見下ろしてくる。
「……俺も、エメラルドが欠けた時は、この世の終わりって感じだったから」
 言い終えると同時に、全身を包まれる。
 力強くとも、ぬくもりを感じなくとも、世界一気を落ち着けてくれる場所だ。
「大丈夫です。二度と、私は文秋から離れません」
「わかってる。嫌だって言っても、絶対無理だからな」
「望むところです」
 目が合った次の瞬間には、唇が重なっていた。ただ触れ合わせているだけなのに、やけに心臓が高鳴る。
「……そうだ」
 このままベッドになだれ込んでもいいかも、と思いかけた頭にある考えが浮かんだ。
 おそらく同じ気持ちになりかけていたのだろう、翠の双眸が若干残念そうに曇っている。
「これから、新しいカップを買いに行こう」
「新しい、ですか?」
「そんで、今度は翠が気に入ったデザインのカップにしよう。どう? 妙案だと思わないか?」
 だんだんと、エメラルドの瞳がきれいな光を帯び始める。
「でしたら、ひとつだけわがままを申し上げてもよろしいでしょうか」
「おお、許す」
「文秋も同じカップを購入なさってください。いわゆる『おそろ』ってやつですね」
 頷いた瞬間、視界に映ったふたつの瞳はどんな宝石もかなわない、自分にしか見ることのできない輝きを放っていた。

#[BL小説] 畳む
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そこまで触れないで

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦したのですが、時間内に間に合わなかった代物です😅
途中まで書いていたので、もったいない精神で完成させました。
お題は「①確信 ②核心」を使いました。
だいぶむかーしに、ふと浮かんだシーンを殴り書きしたまま放置していたものだったりします。
珍しく、ファンタジーものです。

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 ――ようやく、ここまで来たのよ。
 懸命に息を殺して、視線の少し先で俯いたまま座る男を見やる。以前は少しでも動いたら目を覚ましていたのに、最近はよほどのことがない限りなくなった。
 回復術兼攻撃魔術も少し操れる術士を探しているという噂を聞きつけた時は、幼い頃から身につけていた教養と元々の素質に感謝した。
 偶然を装い、男の仲間に加われたのは我ながらうまく演じられたと思う。
 警戒心が強い性格ゆえに、仲間を増やしたがらないということはわかっていた。敢えて「そこそこ使える術士」を演じていたのも、無駄に警戒させないため。意外に面倒見のいいところがあったおかげで解雇されずに済んだのは幸運だと言えよう。
 そう、幸運ばかりだった。きっと神は、何もかも失った私を哀れんでくださったに違いない。
 髪留めに偽装した、針のように細いナイフをそっと抜き取る。男が目覚める気配は全くない。聞こえてくるのは規則正しい寝息と、木々のかすかなざわめきだけ。
 ――国の滅亡と同等の苦しみを、あの世で存分に味わうがいいわ。
 首筋を掠めそうなぎりぎりの位置にナイフを構え、一息に突き刺した。

「そろそろ、やってくるんじゃねえかと思ってたよ」

 皮膚を貫く感触は、味わう前になくなった。
 薄い月明かりの下で、二つの鋭い光がこちらをまっすぐに捉えている。
「っと、これはさっさと片付けるかね」
 目的を果たせなかったナイフはあっけなく奪われた。これ見よがしに振り子のように目の前でちらつかせた後、懐にしまう。
「……どうして……」
 口の奥が痛い。どうやらかみ砕く勢いで食いしばっているようだ。そうでもしないと耐えられない。やっと、やっと数年超しの復讐が終わると思っていたのに。
「マデューラ国の第一王女。そこに攻め入ったのが、俺がとうに捨てた国。だったか」
 正体はとうに見破られていたのか、つい最近なのか。男の表情からは読み取れない。
「復讐するのは結構だがな。俺にすんのはお門違いってもんだぜ」
 戦争を仕掛けられた頃には、男はとうに国を捨てていた。仲間に加わる前には知っていた情報だったが、国家相手に喧嘩を仕掛けられるほどの実力も人材もない絶望的な状態だった。
 自分にとっては捨てていようがいまいがどうでもいい。あの国の人間であることに、かわりはない。
「ま、俺にとってもあの国は滅んでもらいたいからちょうどいいかもな。どう?」
 軽々しい態度で、こいつは一体何を言い出すつもりなのか。
「あの国、今相当フラついてるんだってさ。アンタと俺、あと何人か雇えばボコボコにできると思わない?」
「ふざけるな!」
 氷の魔法を放つ。小さくとも鋭い刃は男の頬を掠め、薄闇に吸い込まれた。
「私が……私がどんな思いで、今まで生きてきたと思ってる……!」
「へえ、ほんとはそんな喋り方なんだ。『わああ、すみませんまた失敗しちゃいました~』とか、よくできてたじゃん」
「貴様ぁぁ!!」
 どう行動したのか覚えていない。気づけば首元に手をかけて地面に押し倒していた。逃げられないよう、魔術で男の全身を縛り付ける。
「ずいぶんと立派な殺気じゃん。さっきとは比べものにならないね」
 なぜ、平然と笑っていられる。自力で解けない拘束具をつけられているようなものなのに、どうして命乞いさえもしない。強がっているようにも見えないから、なおさら。
「ほら、早く殺しなよ。さっきみたいな力入れりゃ復讐達成できるぜ?」
 そうだ。この男が何を考えているのかわからないが、隙だらけなのは確かだ。早く終わらせるんだ、両親達の仇をとって、国を復興させるんだ。
 余裕だらけの顔がわずかに歪み始める。そういえば自らの手で人の命を奪うのは初めてだった。討伐依頼の最後を飾る悪党が人間の時、必ず彼がとどめを刺していた。
 視界が闇に覆われていた。いつのまにか、自ら蓋をしていたらしい。
「……お前は、本当に、甘いねぇ」
 不意に違和感を覚えて視界を開く。
 見なくてもわかる。喉元に得物を突きつけられている。両腕を魔術の有効範囲に含め忘れるなんて、致命的ではすまないミスを犯してしまった。
 だが、男は一向に得物を動かそうとしない。どこか愉快そうにも見える。
「わかってたさ。お前が途中から、俺のこと本気で殺そうとしていなかったこと」
「ふ、ざけたことを」
「さっきのナイフ。あのまま振り下ろしても急所は外れてた」
「私が、勉強不足なだけで……!」
「そんな言い訳で、本気で誤魔化せると思ってるのか?」
 頭の中では否定の単語が絶え間なく流れているのに、表に吐き出すことができない。
 ――彼の仕事ぶりを、一番近くで見ていたのは一体、だれ?
 この森に入る前は肌寒ささえ感じていたほどだったのに、汗がにじんで仕方ない。気温の変化がわからない。わかるのは、劣勢に置かれていることだけ。
「まあ、俺もお前をどうこうしようとは思ってないさ」
「なに……?」
「これでも、お前のことは結構気に入ってんだよ」
 理解できない。「ごっこ遊び」だったとしても、仲良く肩を並べて歩く生活はもうできない。
 あるいは、奴隷にでもなれと言っているのかもしれない。
「……殺せ」
 一瞬、男の双眸が揺らいだ気がした。
「お前にいいように使われるくらいなら、ここで果てた方がましよ」
 今度ははっきりと目を見開くと、可笑しそうに小さく笑った。
「何がおかしい!」
「そんな未練ありありの顔で言われても、ねぇ」
 そんなことはない。
 まぎれもない本心をぶつける猶予は、与えられなかった。
 おまけに受け入れがたい現実に襲われている。なぜ、どうしてこんなことに。抵抗らしい抵抗もできていない。
「言っただろ? 俺はわかってた、って」
 唇を解放した彼は、今度は満足そうに目を細めた。
「お前も俺のこと、意外に気に入ってるんだよな?」
 国を滅ぼされた後のこと。
 彼の仲間に加わった後のこと。
 様々な記憶が脳裏を走り抜ける。同時に説明できない感情がぐるぐるにかき回されて、胸の中を圧迫していく。
 私は復讐しなければならない。でなければひとり生き延びた意味がなくなる。こんな痴れ言に構っている暇などない、ないのに。

 気色悪いほどの微笑みから目が逸らせない。
 頬をすべる、ありえないほどに優しい手を払い落とせない。
 命を奪われるものも、奪うのを邪魔するものも、ない。そのチャンスを活かそうとする動きを、取れそうになかった。畳む
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営業時間は「いつまでも」希望

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③利用可能時間」を使いました。
本の読めるカフェ店長と常連客の話です。

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 喫茶店に置かれた本の数々は、店長自ら選定したものらしい。まるで小さな図書館のようだ。
 私の嗜好とぴったり合致すると、抱いていた予想が確信に変わったのは、ある日閉店時間間近で交わした会話からだった。

「やっとこの新作読み終えたんですけど、やっぱり感情が忙しくなる作家ですよね。すごく悲しくなったりほんわかしたり……すごいなぁ」
「おや、作家の卵としてはやっぱり気になりますか」
「だから違いますって。私のはあくまで趣味ですよ」
 店長は、ふと何かを思いついたようにカップを磨く手を止めた。「スタッフオンリー」と英語で書かれた扉をくぐり、少しして戻ってくる。
「この本、ご存じですか?」
 一般的な文庫本よりも厚みがある。
「うー、ん? 知らない、かも。作者もちょっと」
「推理ものなんですけど、登場人物がみんな濃くて、関係性も面白いんです。ちょっとこの作者を彷彿とさせるんですよ」
「へえ……推理小説は苦手な方なんですけど、大丈夫かな」
「そこまで複雑なトリックはないので大丈夫かと。よかったらお貸ししますよ」
「嬉しい! ありがとうございます」
 今では、閉店時間後もこうしてお喋りする仲にまでなった。ちなみに、私がわがままを言ったわけじゃない。
『他のお客様がいるとゆっくりお話できませんし、僕がお願いしたいんです』
 私も同じ気持ちだったし、そう頭を下げられたら頷くしかできない。
 最初こそ遠慮がちだったものの、楽しくも穏やかな空気に負けて、ずるずると居着いてしまっている。
 今更ながら、いくら何でも図々しすぎじゃないかしら、私。
「どうされました?」
 私とあまり歳が変わらないとこの間知った店長は、柔らかい印象の瞳をわずかに細めた。
「あ、いえ。私、店長のお言葉に甘えて長居しすぎだよなって。今更ですよね」
「そうですよ。そのまま気にされないでよかったのに」
 心外だとでも言いたげな口調だった。いや、さすがに心が広すぎやしないか?
 スマホの画面を点けて、思わず短い悲鳴が漏れた。最長記録を更新してしまうとは!
「いやいや、もうすぐ三時間経とうとしてますし! 店長、お店の片付けもあるのに」
「片付けならほら、してますよ。キッチンの方は料理長がしてくれてますし」
 たった一人の店員は店長の古い友人らしい。コーヒーなどの飲み物を入れるのは得意だけど料理の腕はからっきしだから頼み込んだと、恥ずかしそうに教えてくれた。
「じゃ、じゃあ……せめて、手伝わせてください」
「そんなに広い店ではありませんし、大丈夫ですから」
 暖簾に腕押し状態に近い。「いただいてばかりじゃ申し訳が立たないんです」的なことを告げたら、多分困らせてしまうだろう。それも本意じゃない。
「あなたがいたいだけ、いてくれていいんです」
 まっすぐに見つめられて、ぐるぐるしていた思考が止まる。
 気のせいだろうか、「店長」という仮面が少しずれたような印象を受ける。
「僕は、それが一番嬉しい」
 カウンターが間にあるのに、ものすごく近くに感じる。目がそらせない。心臓が大げさにどきどきしてきた。
 胸中でかたちになりつつあるものに、明確な名前を付けていいのか迷う。
 単なる自惚れかもしれない。けれど、そう言い切れない空気を、店長は醸し出している。
 例えばこれが恋愛小説なら、受け身側は鈍い場合が多いのに。
「……ごめんなさい。変なことを口走ってしまいましたね」
 本当にそう思ったのか、あるいは私の反応を不安に感じたのか、店長は本棚と飲食席が並ぶ空間へ足早に向かった。片付けに戻ろうという誤魔化しなのだろう。
「変なことじゃないです」
 椅子から立ち上がって、借りた本を胸元に抱き込む。
 こちらを振り返った店長が、わずかに目を見開いた。
「ありがとうございます」
 賭けてみることにした。……いいや。きっと、勝ちは「見えている」。
「……前から、気になっていたんです。お仕事帰りだけじゃなくて、休日にも定期的に立ち寄ってくれて、持参した本だけでなく、僕が選んだ本も読んでくださるようになって」
 最初は、手持ちのストックがなくなってしまったから試しに読んでみようというだけだった。
 読んだことのない本はどれも、その日中に読み終えてしまうくらい面白くて、こんなに私のツボを刺激する選書をしているのは誰なんだろうと気になったのが、すべての始まりだったのかもしれない。
「あなたから話しかけてくださった時は、お恥ずかしながら舞い上がってました。それが本選びにも影響していたんでしょうね、常連さんに『本棚の雰囲気変わったね』と突っ込まれてしまいました」
 つられて、頬が熱くなる。こんなにストレートな人だとは思わなかった。
 店長が歩み寄ってきた。半分でも腕を伸ばせば触れられるほどの距離を残して、意を決したように眉間に軽く皺を作る。
「あなたと読んだ本の感想を言い合いたいし、おすすめも教え合いたいし、あなたが書いた小説も読みたい。……あなたに叶えてほしいことがたくさん、あるんです。ですから、これからもお店にいらしてください。何時間でも構いませんから」
「……会うのは、お店だけでいいんですか?」
 全くつまらない返しだとわかっていても、ほんの少しだけ悪戯心が芽生えてしまった。
「……意外と、意地悪な方なんですね」
 言葉とは裏腹に若干うわずった声に、内心が手に取るようにわかってしまって口元がな緩みそうになる。ほぼ同い年だとようやく実感できて何だか嬉しい。
 答える代わりに、腕を伸ばして店長に触れる。
「小説はまだお約束できませんけど……喜んで、お付き合いさせてください。よろしくお願いします」

 時間が許すのなら、ずっと一緒にいたって構わない。
 店長だけじゃないのだと告げたら、どういう風に喜んでくれるだろう?

#男女もの畳む
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最後の嘘と願って

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③西日が差す窓」を使いました。お題要素は軽く触った程度です😅
どうしてもユーミンの曲『最後の嘘』が頭から離れなくなってしまいました……該当の歌詞は「朝日が差し込む〜」なんですけどね。。

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 彼は嘘つきだった。
 といっても呆れ果てるほどくだらないものや、こっちが本気で怒るほど洒落にならないものなど、無駄にバリエーション豊かだった。
 いつだって振り回されてきたけれど、嘘だとわかるのは最後に白旗を揚げるのは必ず彼だったからだ。きっかけを作るのが自分にあったとしても「降参」するのは彼だった。
 多分、甘えていたのだと思う。
 自分が原因なこともあるけれど、回数は圧倒的に彼が多いし、そういう性格でもあるのだろうと納得していた。

 朝から変わらない光景の部屋を、改めて見つめる。


 昨日の夜はいつもと同じようでいて、主に自分自身の勝手が少し違っていた。
 だから「きっかけ」を作ったのは間違いなく、自分。
「どうしたの、なんからしくないじゃん?」
 軽口を叩き合う延長上のような口調だったのは、多分気遣ってくれていたのだと思う。それに真面目な空気にしたところで、素直に吐き出すわけもなかった。
「……うるさいな。ほっといてよ」
 離れている間どういうことがあったのか察せなんて傲慢でしかないのに、そう願ってしまった。
 仕事で嫌なことがあっただけ。いつもなら鼻で笑って流せるレベルが、今日はなぜか胸につかえてしまっているだけ。疲れが溜まっているせいかもしれない。
 ここまでわかっていながら、彼には伝えなかった。悪い癖だ。
「あ、もしかして冷蔵庫にあったショートケーキ食べたのバレた? ごめん、どうしても食べたくって」
 ショートケーキは確かに買ってあった。まだ確認していないが、たとえ嘘だとしても「甘いもの好きな自分のために、明日にでももっと美味しいケーキを買ってくる」という意味だったのだと思う。
 そこまで推察できたのは、数時間後の未来でだった。
「嘘でも本当でも、ケーキくらい別にいいよ。……いいから、そういうくだらないの」
 放っておいてほしかった。一晩すれば元通りになって、こんなやり取りにも苛ついたりしなくなる。
 彼は何も知らないのに、あまりにも感情的になりすぎていた。
「……ごめん。何かあったんだね」
「そう思うなら、ほっといて」
 それからどんなやり取りをしていたのか、細かいところは思い出せない。
 ひたすらに、せっかく伸ばしてくれていた手を振り払い続けていた。ひどい態度だと頭のどこかで鳴っていた警報も無視して、気づけば部屋を包む空気はかつてないほどの重苦しさに溢れていた。

「……あのさ。俺と付き合ったこと、やっぱり後悔してるんじゃない?」

 一言一句、声の調子も、表情も忘れられない。
 笑っていた。雰囲気に似つかわしくないはっきりとした声だった。やせ我慢のようなものだったと今ならわかる。
 反論できなかったのは、彼の問いかけが頭の中でぐるぐると回り出し、まるで必死に材料をかき集めているようだったから。
「……ごめん、嘘。だけど悪い、言い過ぎた」
 ちょっと頭冷やしてくるよ。
 それが、三日前に聞いた彼の最後の台詞だった。


「こんなに落ち込んでるのに、後悔なんてしてるわけないでしょ……」
 今さらな返答だった。わずかでも口ごもった時点で、あの時の彼にとっては肯定されたも同然だ。
 異性と付き合うのをやめて、初めてできた同性の恋人だった。好きという気持ちにあれから揺るぎはないものの、半年ほど経って同性なりの難しさや悩みが出てきていたのも事実だった。
 隠していたつもりでもあんな言葉が飛び出すのだ、きっと見透かされていた。だから「頭を冷やす」と嘘をついて、出て行ってしまったのでは……。
「ほんと馬鹿だな、僕」
 後になって後悔する癖は直る兆しが全くない。今日はまともに食事すら取れなかった。お出かけ日和の天気なのに身体は全く動かず、部屋の中は薄暗い。
 そういえば、ベランダのカーテンを閉めたままだった。
『ここ、日当たりがすごいいいんだってさ。日当たり大事!』
 その一声で借りることを決めた部屋だったのを思い出しながら、ベージュ色のカーテンを開ける。
「まぶし……」
 真正面から浴びているような感覚に陥る。やたら目に沁みる気がして、ぎりぎりまで目蓋を下ろす。
 窓を突き抜ける光の大元は朝も夕方も一緒なのに、どうして後者はやたらもの悲しい気分にさせられるのだろう。……違う。きっとひとりきりだからだ。二人でいる時の空気はもっと、穏やかだった。
 ――このまま終わりだなんて思いたくない。頭を冷やすが嘘だなんて、思いたくない。
 目元を窓に押しつけた。光の強さとは裏腹にひんやりとした温度が、少しずつ熱を奪っていく。
「……まだ、決まったわけじゃない、よな」
 近所を探しに行ってもいなかったのは、たまたますれ違っただけだと信じたい。
 そもそも、仕事から帰ってきても部屋の様子に変化はなかった。何より、彼の荷物は全くの手つかず状態にある。スマホすら、未だテーブルに置かれたままなのだ。
 今日は気力が底まで落ちてしまったけれど、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
 今度は自分が「降参」する番。
 そして、こんな嘘はもう最後にしてとお願いしなければ。

#[BL小説] 畳む
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死神のようで天使

20210130230955-admin.png

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①やらかした」を使いました。子どもの一人称って難しいです💦

-------

 きらきら光る、きれいな花が落ちていた。
 拾って先に進むと、また花。今度は黄色に光っている。
 赤い色、緑色、青色。
 いくつあるんだろう。もう、六つも拾った。
 両手で大事に抱えながら、すでに見えている七つ目の花に向かう。
 あれは……黒色?

「お願い……」

 伸ばしかけた手が止まる。誰の声かなんて、間違えるわけがない。

「頼む……目を……」

 目?
 不思議に思うまま、花に向けていた目を上に上げた。

 ――青い。とってもきれいな、青空がある。まるでさっきまでいたところみたい。パパとママと一緒にいた時、こんな空だった。わたしは楽しくて楽しくて、それで……どうしたんだっけ。ママが確か、大声でわたしの名前を呼んで……それから、それから。

 どうしてわたし、ひとりぼっちなの?
 パパとママは、どこ?
 帰りたい。
 パパとママのいるところに、帰りたい!


「……しろ、い」
 いつの間にか青空がなくなって、白い色だけがぼんやりと見えていた。家の天井みたいな色をしている。
 なぜか身体が動かない。それに、すごく眠い。
「目が……覚めたの……!?」
 隣で、ママが泣いていた。ちらっと見えたのはパパ? なんだかとても慌てているみたいだった。どこに行ったんだろう?
 でも、戻ってこられたんだ。
「……お花……」
 ママ、わたしがはぐれたから泣いてるのかな。いつも怒られているのに、本当に悪いことをしちゃった。
 拾った花をあげたら、ママは笑ってくれるかな?
 それなのに、眠いせいか腕が持ち上がらない。
「どうしたの? どこか痛い?」
「わたし……お花、拾ったの……ママ、お花、好きでしょ?」
 だから、泣き止んでね。笑ってね。
 ふわふわとした気分のまま、今度目に映ったのは黒い色だった。
 でもどうしてかな、怖くはなかったんだ。


「お前、どうしてあそこで帰しちまったんだよ。久々の食事にありつけそうだったのに」
 隣でじとりと睨み付けてくる相棒に苦笑を返して、白いベッドに横たわる少女を天井から見下ろす。再び意識を失ったようだが、人間にとっての最悪な事態にはもうならない。
 死を関知できる存在だからこそ、わかる。
「ああいうピュアっピュアな魂はごちそうなのになぁー。だからあの子の気を頑張って引いてやったのになぁー」
「ごめんって。……だって、あまりにも不憫すぎるから」
「スマホいじって運転してた車に撥ねられたのが、か? それはご愁傷様だけど、俺らには関係ないだろ? むしろ面倒が増えるだけっていうかさー」
 彼の言うことはもっともだし、迷惑をかけているのも自覚している。
 それでも、撥ねられる瞬間の絶望にまみれた顔がどうしても頭から離れてくれなかった。ひたすらに泣きじゃくる母親と、懸命に正気を保とうとぎりぎりの場所に立っている父親の姿を見ていられなかった。
「……ほんと、君には迷惑ばかりかけてるよ」
「全くだよ。もはややらかしちゃった、じゃ言い訳にならないくらいの常習犯だからな」
 魂を喰らう存在「らしからぬ」意味で有名人になってからずいぶんと久しい。それでも相棒として居続けてくれる彼に心の底から感謝をしているのに、全く態度に示せていないのがまた申し訳ない。
「……んな顔すんなって。ま、あんなチビッコじゃ一人で喰ってもハラいっぱいにはならねぇし、どうせ探しに行くのは変わんねえよ」
 肩をぽんと叩いて消えた背中に小さく礼を告げて、改めて少女を見やる。
 医師から説明を続けている両親の横で、とても穏やかな表情で眠っている。やっぱり、喰らわなくてよかった。
「今度は、勢い余って飛び出したらダメだよ」
 そして、相棒の後を追いかけた。畳む
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それぞれの不機嫌の理由

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深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
お題は「②不機嫌」を使いました。こういう少女マンガ的展開が大好きですw

-------

「そのマンガ面白いの?」

 急に物語の世界から追い出されて、変にうわずった声が出てしまった。
「びっくりしたー。すごい集中力だね」
 どうやら声の主は正面にいるらしい。慌てて視線を直すと、一方的にだが見慣れた顔があった。
「じ、神宮寺、くん?」
「うん。佐原さん」
 相変わらず人当たりのいい笑顔をしている。ふいに目に留まる時はいつもこの表情だ……って、そんな感想はどうでもいい。
 なんで接点のまるでない神宮司くんが目の前にいるの?
「な、なんで? ここに?」
「なんでって、ここ俺らの教室じゃん」
 きょうしつ?
「ど、どしたん?」
 非常に覚えのある状況だ。つまりちょっとパラ読みするだけのつもりが、あっという間に漫画の世界に取り込まれてしまったという……
「ま、またやったよもう……!」
 漫画の厚さは一般的な単行本より多分二倍はある。しかも腰を据えて読まないといけないタイプだったりするから、短時間でも読みたい誘惑に駆られるのは御法度なのだ、たとえ通学時間が一時間近くあろうとも駄目なのだ、そうとわかっていたつもりなのに!
「やっぱり持ってこなきゃよかった……」
「え、面白いから夢中で読んでたんじゃないの?」
「だからこそなの……やっぱり家で集中して一気に読むべきだったの! 隙間時間で読むべき本じゃないってわかってたのに私のバカ!」
 って、ちょっと待って。
 私は今、誰と会話してるんだっけ?
「あはは、佐原さんって面白いなー! 相当面白いんだね、それ」
 逃げたい。
 黙ったまま背中を向けて、一気に走り去りたい。
 全然話したこともない、しかも人気のある男子相手にあんな醜態をさらすなんて、ますます気味悪いって思われる。
 というか神宮司くんはどうして普通に笑っていられるの? そもそもどうして声なんてかけたの? まあ、ある意味ありがたいと思ってはいるけれど……。
「ねえ、それなんて本なの? こーんな顔して読んでたから気になっちゃってさ」
 世間話のノリで、神宮司くんは胸元を指差した。視線を落としてようやく、楽しみにしていた新刊をがっちり抱き込んでいたことを知る。
 落ち着きはまだ戻りそうにないものの、とりあえず本のタイトルを告げようとして、気づく。
「こんな顔、って……それでよく声、かけたね」
 神宮司くんは眉間に皺を寄せた顔を作っていた。
 面白いと感じれば感じるほど、まるで不機嫌そのものな表情ができあがってしまう。
 ほんの少しの面白さなら笑えるのに。
「ごめん、からかったりとかするつもりじゃなくて……前から気になってたんだ。佐原さん、本読んでる時だいたいさっきみたいな顔してるから」
 誰も気にしていないと思っていた。端から見れば近寄りがたい女子そのものだからか、入学してからだいぶ経った今でも友達は全然いない。
 そんな私とは真逆にいるタイプの神宮司くんが、私を気にしていた?
「佐原さんって、好きなものの前だとああいう顔になる性格なんでしょ? なんつーか、我慢しちゃうような感じになるっていうか」
 素直に驚いた。
 その結論に辿り着くなんて、奇跡としか言えない。
「なんで、わかって……」
「……俺もそうなんだよ。俺の場合は無表情に近い感じになるらしいんだけど、とにかく似てるでしょ?」
 全く想像できない。それが顔に出ていたのか、神宮司くんは苦笑いを浮かべた。
「学校とかだと無理やり笑うようにしてるだけだよ。正直、かっこ悪いなぁって思ってる」
「そんなこと……ないよ。すごいと思う。私はどうしても、無理だから」
「別にすごくないって。だって顔に出さないようにしてるの、自分の中でじっくり味わいたいからってだけだし。あと素直になりすぎるのもなんか悔しいなって。ほんと、しょうがない理由だよね」
 ちょっと可愛いと思ったが、どんな理由であれあまのじゃくみたいな行動を取ってしまう人が近くにいたとわかっただけで、心がすっと軽くなる。
「佐原さんもじっくり味わいたいからだったりする?」
 仲間ができた嬉しさが伝わってくる。その喜びに水を差したくなくて、私だけがわかる嘘をついた。
「私も、そうかな。読んでる本が本だし」
 タイトルを見せると、神宮司くんの眉がぴくりと揺れた。
「なに、『諸葛亮のすべて』? えっと……確か、三国志だっけ」
「うん。私、偉人のマンガが大好きなの。作者によって解釈も違うから、読み比べてみると面白いよ」
「へー。じゃあ織田信長もそうなんだ?」
「探してみるとわかるよ。いっぱいタイトル出てくるから」
「そう聞くと確かに面白いかもなー。しっかし、こんなしっぶいの読んでたとは……いや、ある意味イメージ通りかも?」
 小さく笑い合う。これでも引かないなんて、神宮司くんが人気者の理由がわかる。
 ……仲間ができて嬉しいのは、私も同じ。たとえ理由は違っても、その気持ちだけは嘘じゃない。嘘じゃないから。
 その時、教室を見回りに来た先生に軽く叱られてしまった。慌てて帰り支度を整える。
「じゃあ、神宮司くん、またね。話かけてくれて、ありがとう」
 今日はとても素晴らしい日になった。「ありがとう」にたっぷりの感謝を込めて、頭も下げる。
「え、待ってよ。俺、一緒に帰ろうと思ってたんだけど」
「……いいの?」
 せっかくの縁を、この場限りにしたくないとは思っていた。でも、元来のネガティブさが顔を覗かせたばかりに、避けようとしてしまっていた。
「もちろん! だって『仲間』でしょ? 俺たち」

 いつか、神宮司くんに本当の理由を告げられるだろうか。
 それだけの勇気を、私は持てているのだろうか。
 でも今は、この喜びに浸っていたい。

#男女もの 畳む

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2022年10月01日(土) 22時20分50秒