Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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思いがけない小さな宝石たち

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負  のお題に挑戦しました。
使用お題は「星月夜」です。
ちょこちょこ書いている、探偵所長×部下シリーズものです。
簡単なキャラ設定は「こちら」 をどうぞ。

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「いやはや、すっかり遅くなってしまったな」
「でも、なんとか無事に報告できてよかったです。遠くまで足を運んだ甲斐がありましたね」
 外出するのが珍しい所長が隣を歩いているのは理由がある。
 今回依頼を受けた案件は(自分の目線では)結構複雑で、先輩である(あずさ)と二人での報告でも難しいこと、依頼主がそこそこ高齢で事務所まで出向いてもらうのは大変だということ。実際、所長がいなければわかりやすい報告はできなかっただろう。
 電車とバスを乗り継いで約一時間半はかかっただろうか。依頼を受けた際、とても腕のいい探偵だと知り合いに教えてもらったから、と聞いたときは、思わぬところまで名前が知れていると驚いたものだ。さすが憧れの所長の祖父なだけある。
「バスが来るまでまだ時間ありますねー……って」
 背負っていたリュックを停留所の椅子に下ろして思いきり伸びをした瞬間、思わず動きが止まってしまう。
「ん、どうした? (のぼる)くん」
「所長、見てくださいよ! 星がきれいですよ」
 都会にいると、日中でも夜でも空を見上げる、なんて動作はあまりしなくなる。
 伸びをしてよかった。
 プラネタリウム……なんてレベルまではいかないまでも、都会よりも多くの小さな煌めきが、夜空を彩っている。
「おー、本当だねぇ。この辺りは街灯が少ないから、そのおかげかな」
「さっき出発したときはまだ明るいほうかな? って思ったんですけどね。日が落ちるの早いなぁ」
「星座も見やすいね。昇くん、わかる?」
「えーと、実はさっぱりで……」
 教科書で見たことのある形はいくつか発見できたものの、名前はすっかり忘れてしまった。所長も笑っている。
「じゃあ、今度プラネタリウムデートでもしようか。今はスマホアプリで星座教えてくれるのもあるけど、実際見ながらのほうがわかりやすいと思うしね」
「えっ、しょ、所長がそんなロマンチックな……」
「君ねぇ。星座は歴史を紐解くとなかなかに面白いんだよ。一つ一つにちゃんと作られた理由がある。決してスピリチュアルな存在ではないのさ」
 そうだとしても、非科学的な存在に否定的な所長を知っていると、星座占いなどが一般的なのもあって珍しく映ってしまうのは仕方ない。
 でも、星座に少しでも詳しくなれればこういう機会があったとき、何倍も楽しめそうだ。
「そうだ、せっかくだから星空鑑賞会できるホテルとか泊まってみる? 探すとわりとあるんだよ」
 柔和な笑顔で提案してくれた案に乗っかろうとして、ふと気づく。
「……おれとただ泊まりに行きたいだけだったりして」
「そんなことないよ」
 一瞬言葉に詰まったのは見間違いじゃない。
 そして、ジト目で睨まれてしまった。
「ていうか、僕と二人で朝から晩まで過ごしたくないの?」
「そ、そういう言い方しないでくださいよ! そうじゃなくて、おれ本当に知りたいんです」
 所長と夜を過ごすとなると、ほぼ確実に……である。別に構わないが、本来の目的もちゃんと済ませたい。
「オーケー。君の知的好奇心も、恋人同士の時間もちゃーんと満たせるようにするから。いいホテル探しておくね」
 にこにことした笑顔は、信じても問題ない……はず。少なくともこういうときの所長は手を抜かない。
 密かに胸を躍らせつつスマホで時間を確認すると、バスが来るまではもう少しかかりそうだった。
 ——誰もいないし、仕事も終わったし。ちょっとくらい、デート気分を味わってもいいよね。
 所長の腕に自分のを巻き付けて、目を丸くした所長にすり寄る。
「バスが来るまで、今見えてる星座教えてください」
 改めて見上げた星たちは、先ほどよりもどこか煌びやかに映った。畳む

ワンライ 編集

恋路の始まりと信じていいの?

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜景」です。

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 夜景がやたら綺麗に見えるのはたぶん、隣のこいつに恋しちゃっているからだと思う。浮かれパワーというやつだ。
 仕事上ではよくつるむことが多いものの、プライベートは全く干渉せずだったはずが、どんな気まぐれか、彼から夕食の誘いを受けた。てっきりどこかの居酒屋だと思っていたのだが……

(ビアガーデンとはいえ、こんな夜景が堪能できるところとはね)

 席がフェンスに近い場所だからなおさらよく見える。周りにカップルも多いし、たぶんそういう層向けなのだろう。

「どうしたどうした、飲み悪くね?」

 しかし目の前のこいつは全然気にしていないらしい。まあ、いつでも「らしさ」を崩さない性格ゆえだ。

「ガラにもなく夜景きれいなーって思ってただけ」
「あ、だろ? ここ一人でも来るんだけど、景色いいから余計開放感あってたまらんのよ」
「ひ、一人で? カップル多いのに強いな」
「今日は金曜だから仕方ないさ。それ以外ならそんなでもないぞ」
「ていうかなんで俺を誘ったんだよ? 今まで俺らそういうのなかったじゃん」

 さりげなくうまく質問できただろうか。片思い中の身としては正直、夜景よりもそっちが気になってビールもつまみの味も曖昧のままだった。

「ん? ああ、前から気になってた、ってのはあったかな。でもずっとバタバタしててなかなかチャンス掴めなかったっていうか」

 ジョッキを置いて、彼は細めの瞳をますます細めて笑う。相変わらず爽やかな雰囲気を放ってやがる。

「オレら結構いいコンビだと思うのよ。オレって抜けてるとこあるけど、お前がいつもいい感じにフォローしてくれるから感謝してるんだぜ。そのお礼も兼ねてるかな」

 その「抜けてる」ところに最初はわりとイライラしていた。何度言っても直らないし、そのうちこっちも助けてもらうことが増えたし慣れてもきたから、ある意味懐柔された気がしないでもないが。

「お、お前はプライベートは俺には見せるつもりないって思ってたよ。あくまで仕事上の付き合いっての? ほら、他のやつともあんまり飲みに行ったりしないじゃん?」
「ほー、やっぱよく見てんな」

 そりゃあ好きなやつだから、観察力も上がるってもんだ。

「基本プライベートは一人で行動するのが好きなんだけど、お前は仕事のときも気が楽だし、お前ならいいかなって思ったんだよね」

 薄暗い場所でよかった。頬が無駄に熱いから、絶対はっきりと赤くなってる。というかナチュラルに口説いてくるなんて、心の準備が全然できていない。前もってそういう雰囲気なり出しておいてくれ。

「……俺は、」

 さりげなくを装ってビールを一口飲む。

「俺も、お前といると楽しいよ」

 落ち着かない、心臓がうるさい、こんなこと言えるわけないのに、うっかりこぼれそうになった。酒と片思い相手の不意打ちの力は予想以上に強い。

「そう? よかった。なんて、実は結構自信はあったんだね。オレお前に好かれてるよなって」

 特別な意味ではないとわかっているのに、俺は単純だ。

「どこまでもポジティブで羨ましいね」
「もー、素直に喜んでくれよ」

 してるよ。表に出したら絶対ドン引きするくらい、心の中ではめちゃめちゃ顔緩んでるよ。

「ん、なんか言った?」

 溜め息混じりに彼がなにかを言ったように聞こえたが、ちょうど背後で「かんぱーい!」と楽しそうな声と被ってしまった。

「気のせいだろ。よし、とにかく飲んで食おう!」
「俺あんまり酒強くないんだけど……」

 とりあえず今は、この幸運に身を任せていよう。この男の笑顔をたっぷり堪能してやるんだ。畳む

ワンライ 編集

たまらない瞬間

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「汗」です。
「そういう」行為をしていますが、直接的な描写はありません。

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 全身のあらゆる箇所から湧き出る熱と奥から絶え間なく生まれる快楽におぼれながら、ふと、頬に当たる感触にうっすらと理性が戻る。
 わずかに視線を上げれば、堪えるように眉根を寄せた彼の顔から、汗がたくさん浮かんでいる。そのうちのいくつかが、自分に垂れたのだ。
「っ、なに……?」
 顎から今まさに落下しそうになっていたひとしずくを人差し指で拭うと、訝しげな視線を投げられた。
「……いいや。相変わらずえろいなぁって」
 拭った人差し指をちろりと舌で舐める。
「相変わらずって、初めて聞いたよ? 俺」
「いつも思ってたよ? 言わなかっただけ」
 わずかに視線を外して言葉を詰まらせている。照れているときの仕草だ。
 普段どちらかというとクールな印象の彼からは想像できないくらい、最中のときはとても色っぽくて、むき出しになる素直な欲にあっけなく飲み込まれる。
 眉間に深い皺を刻んだ表情は雄っぽさが全面に出ていてたまらないが、特に、熱をぶつけられているときに顔を打ってくる彼の汗に一番興奮する。
 それだけ、自分自身に夢中になってくれているという証のようで。
 それだけ、自分も彼を「溺れされて」いる証のようで。
 好きになったのは自分からだったから、なおさら。
「ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「たまには振り回される側に回ってみたら? なんて」
 舌を這わせた顎を押さえて彼がうろたえている。今日は少しだけ意地悪したい気分らしい。
「もう、いい加減にしな、って」
 言葉が終わると同時に深く突かれて、思考が一気に塗り替えられる。
「もう一人で楽しむのはなし。こっちに集中して」
 ささやきが終わると同時に唇にも降りてきた熱を、嬉々として受け入れた。畳む

ワンライ 編集

雨降って幸運舞い込む

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「桜流しの雨」「新生活」です。
BL要素はほとんどないです、すみません。。

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 頭に濡れた感触を覚えて空を見上げると、いつの間にか青空は鉛色へと変わっていた。
 時間がたっぷりあるのをいいことに飲みまくっていたら、また不幸に見舞われた。
「自覚なかっただけでそういう星の下に生まれたんだな、俺」
 急に勤めていた会社をクビになったのもそのせいだし、その足で酔いたくて酒を飲みに行ったのに酔えなかったのも酒が強いという不幸体質のせい。
 不幸のせいにしてしまえば、くっきり刻まれた傷の痛みも少しは紛れる気がした。
 どんどん雨脚が強くなってきた。思い出したが、朝の天気予報で「昼過ぎから強い雨が降り始めて、風も吹き始めるでしょう」なんて言っていた。遅刻しそうだったから折りたたみ傘なんてまったく頭になかった。とことんまでついていない。
 わざわざ傘を買うなんて馬鹿らしいし、どうせなら濡れて帰ってやる。
 とはいえ、まっすぐ帰る気にもなれなくて、駅までの道を遠回りで進むことにする。どうせこの街にはもう来ないから、最後にどういうものがあるかぐらいは確認してみてもいいだろう。
「……こんな街中に、公園なんてあったんだ」
 駅から少し離れた距離にあるからか、普通に散歩も楽しめそうな、そこそこの規模の公園だ。
 この街の雰囲気は繁華街寄りだと思っているが、ゆえに憩いの場なるものがあるイメージがなかった。
「そうか、桜、満開だったっけ」
 ざっと確認できただけで十本近くはあるだろうか、散策路を挟むように立っている。吸い込まれるように近づくと、地面に薄桃色の絨毯ができつつあることに気づいた。ついこの間満開を迎えたとネットニュースでも言っていた気がするが、もうこんなに散ってしまっている。
「これから雨風強まるみたいだし……お前たちも、不幸だな」
 なぜか涙がこみ上げそうになる。人外でも仲間が見つかったことに孤独感を拭えたからなのか、よく、わからない。
「あの、大丈夫ですか?」
 急に話しかけられて、思わず背筋が伸びた。
 振り返った先には、作業着とわかる格好をした若い男性が怪訝そうにこちらを見つめている。
「雨強くなってきてますし、雨宿りするならすぐそこに屋根付きのベンチありますよ」
「……君、ここで働いてる人?」
「え、はい」
 公園で働いている人というと、個人的に年齢層が高いイメージだった。アルバイトかもしれなくても、珍しい。
「ああ、気を悪くしたらごめん。公園で働く若者ってイメージがなかったからさ」
「あなたも若者なんじゃないですか?」
「若く見える? 一応三十近いんだけどね」
 明らかに彼の目が見開かれた。昔から年相応に見られないことは慣れている。
「あの、なにかあったんですか?」
「え?」
「すみません、なんかすごく悲しそうに見えたんで」
 そんなに顔に出ていたのか。急に恥ずかしくなってきたが、うまく誤魔化すすべも見つからない。
「っと、ほんとに雨強くなってきましたね。変なこと言ってすみません、早く雨宿りを」
「会社、急にクビになっちゃったんだよね」
 笑ったつもりだったが、情けなく息が漏れただけだった。
「覚えがないことで犯人扱いされてね。反論したんだけど無駄で、事が大きいからもう会社に来るなって言われちゃって」
 もう怒りも混乱もしない。ただ無気力だった。この先のことも考えられないし、たぶん、しばらく休みたいと全身が主張しているのかもしれない。
 黙って聞いていた彼が、無言で腕を引っ張った。連れて行かれるまま従うと、屋根付きのベンチに辿り着く。
「いきなりすみません。このままじゃお互い風邪引くんで」
「いいよ、ありがとう。ごめんね、いきなり愚痴っちゃって」
「いえ、今でもそういうとんでもない会社ってあるんですね。びっくりしました」
 彼は会ったばかりの他人に、本気で同情しているようだった。
「でも、無責任な言い方かもですけど、そういう会社ならどんな形でも辞められてよかったんじゃないですか」
 正直、本気で驚いた。胸の中心を一陣の風が通り抜けたような、不思議な爽快感が残っている。
「そんなクソみたいな会社のことをずっと引きずってたらもったいないですよ。さっさと忘れて、いいところ見つけましょう」
 一生懸命、彼が励ましてくれているのがわかる。その姿がとても可愛らしくて、嬉しくて……気づけば、口端が持ち上がっていた。
「え、な、なんですか?」
「あ、ご、ごめん。その……すごく、ありがとうって思って」
 少し低い位置にある彼の頭を、子どもにするように撫でていた。バツが悪そうに視線を逸らした彼の頬がはっきりと赤く染まっている。
「そうだよね。いつまでも恨みつらみを向けてたって仕方ないよね。鬱にでもなりそうだ」
「ですよ。でも、ちょっとは休んだ方がいいと思います」
「確かに。ってことで、またこの公園に遊びに来てもいい?」
 再び向けられた瞳が、丸い。
「そりゃ、もちろん構いませんけど」
「正確には、君に会いに来てもいい?」
「お、おれ?」
「君と話してると落ち着くんだよね。励みになるんだ」
 今度は、頬が桜のようにほのかに染まる。
「仕事の邪魔にならないなら、まあ」
 お礼を言ってまた頭を撫でると、今度は軽く怒られてしまった。なお、迫力は全然なかった。

 最後の最後で、思わぬ幸運が舞い込んだ。
 我ながら現金だと呆れながらも、彼との出会いは運命のように感じていた。畳む

ワンライ 編集

現実を忘れられるなら、今は

#BL小説

創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜桜」です。

続きを書きました→『夢から少しずつ、現へ』

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 夜風が頬を優しくくすぐり、淡いピンクの花びらを少しずつ散らす。
 また、「ここ」に来てしまった。
 かすかに聞こえてくる、浮かれた声が耳障りで仕方ない。こっちの気も知らずに、なんて無駄な八つ当たりを繰り広げてしまう。
 意味なんてない。何度「ここ」に来ても、失ったものはもどらない。時は巻き戻らない。
 残された側がただ、現実を受け止めきれていないだけで。


「どうも、こんばんは」


 桜の花びらが、ひときわ多く舞い散る。
 その散った先、木の幹に着物姿の男が立っていた。

「こん、ばんは」

 いつの間に? 少なくとも来たときは誰もいなかった。

「今宵も来てくださいましたね。ただ、とても花見を楽しむようなお顔ではありませんが」

 薄桃色の長い髪を揺らして近づいてきたその男は、慈しむような表情をしていた。改めて見ると、とても人間とは思えない容貌をしている。

「あの、今夜も、って」
「私は知っています。あなたも、かつて隣にいた方のことも」

 喉を絞められたような感覚が襲う。足元がふらついて、尻餅をついてしまった。

「……あなた、誰なんですか。なんで、そんなこと」
「信じてもらえないのを承知で告げますが、私はこの桜の木の精です。ですので、あなた方がこの時季を迎えるたび足を運んでくれていたのを知っていました」

 このあたりで一番大きいというわけでもなかった。それでもあの人と見つけたとき、お互いに特別目を奪われた。他に客がいないのを不思議に思ったものだ。
 何年も通ううちに、すっかり二人だけの特別な場所となっていた。
 その桜の、精だって?

「ちょ、っと待って。ほんと、意味が」
「あなた方は毎年、私を愛おしく見守って、時には優しく触れてくださいましたね。そのおかげで私も立派に咲き誇れていたのです」

 記憶がよみがえっていく。必死に蓋をした想いが、にじみ出していく。

「特にあなたは、ただまっすぐに毎年私に会いたいと願ってくれていました。本当に、嬉しかった」

 肩に触れる感触は、あの人よりも、柔らかい。

「このようにお会いするつもりはありませんでした。ですが、心配で。あなたまで、そのお命を失ってしまいそうで、黙って見ていられなくなりました」

 目の裏が熱を帯びていく。あの日、とっくに涙など涸れ果てたと思っていたのに、まだ出し足りないのか。

「……俺なんかがいなくなったって、君には関係ないだろ」
「いいえ、関係ありますとも」

 意外に近くから聞こえた声にゆっくり顔を上げる。
 年齢不詳、皺一つない顔、中性的過ぎて二次元の世界でないと浮いてしまう容姿。
 ああ、確かに彼は人間ではない。

「あなたがいなくなったら、きっと私はすぐさまこの身を枯らしてしまう。会えなくなるなんて、耐えられません」

 肩から細かい震えが伝わってくる。茶色と緑のオッドアイが、今にも涙をこぼしそうに不安定に揺れている。

「……俺がいなくなっても、悲しんでくれる人なんていないって思ってた」

 両親はとうに他界した。特別仲のいい友人はいない。
 あの人が、すべてだった。
 彼が緩く首を振る。

「少なくとも私にとっては、あなたは命の恩人みたいなものです。これからもいてくださらないと、困ります」


『そばにいてくれよ! お前がそばにいてくれないと……俺は、もう、生きていけない』
『お前が俺をこんなにしたんだぞ! 責任、とれよな……!』


 やけくそ気味に、あの人に投げつけた告白とは呼べない言葉の数々を思い出す。
 受け入れてくれたときの、豪快で気持ちのいい笑顔を思い出す。
 まさか立場が入れ替わるとは、人生は本当にわからない。

「今度は私が、あなたを護る番です。護らせてください」

 両手を包み込むように握りながら、まるでプロポーズのように彼は告げる。

「……護るって、君、ここから離れられないんじゃないか」

 変なところで現実的になる癖がここでも出てしまった。

「それは今から考えます。どうにかしますのでご心配なく」
「わ、わかったよ。でも今は大丈夫だから」

 本当に思考を煮詰めそうになっていたので慌てて止める。

「また、会いに来るよ。約束する」

 彼のせっかくの厚意を無駄にするのは気が引けるし、どうせなら非現実に身を置くのも悪くないと思い始めていた。
 現実を普通に生きるのは、まだ、つらい。

「……はい。願わくば、あなたの一時の、拠り所となれますよう」

 向けられた笑みは、どこか寂しそうに見えた。畳む

ワンライ 編集

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