Short Short Collections

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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ここから紡がれる

#BL小説

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一次創作お題ったー  のお題に挑戦しました。『スタートライン』です。120分で完成。
前作に続いてのリハビリ仕様です。

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 付き合ってから初めてのケンカをしてしまった。
 内容は、今考えると本当にくだらない。例えるなら犬の方が可愛い、いいや猫の方がいいと決着のつきそうにない言い合いをしていたようなものだ。
 スマホを手にしてから体感で五分ぐらい経っているのに。指は全く動きそうにない。代わりに思考回路が無駄な足掻きを続けている。
 原因は間違いなく自分側にあるとわかっている。彼もさぞ驚いたことだろう。普段おとなしく言うことを聞くような人間が感情をただぶつけてきたら当たり前だ。
 無意識に我慢していたのだと、今さら気づく。初めてできた恋人だし、本当に好きだから絶対に嫌われたくなかった。不満があっても飲み込んできた。きっと「いい子」を演じすぎていたのだ。
『もうちょっとわがまま言ってもいいんだぞー? 俺はもう少し言われたいなぁ』
 以前そう言われたことを思い出す。冗談だと流してしまったけれど、本音だった?
 両手でスマホを握りしめ、深く息を吐き出す。
 悲観的になる必要なんてない。ケンカしただけで「別れよう」と切り出すような人でないのはわかっている。原因は自分にあると自覚しているのだから、早く謝るべきなんだ。
「……よし」
 無駄に力の入った指で、通話ボタンを押す。コール音の無機質さがどこか怖い。いきなり空中に放り出されたようで気持ち悪い。
『もしもし』
 意外に普通の声で驚いた。不機嫌さを隠しているだけとも取れる。
「……あ、あの。良くん。あの、さ」
 反応はない。顔が見えないだけでこんなにも不安を煽られる。
「今日のことなんだけど。……本当に、ごめんなさい」
 言いたい言葉をどうにか吐き出せた。
『うん』
 そっけない返答だった。想像以上に傷つけてしまっていたとしか思えず、全身が震えそうになる。
「つい、カッとしちゃって。おれ、すごく楽しみにしてたのに行けなくなって、ついわがまま言っちゃった」
『うん』
「り、良くんの都合も考えないでごめん。仕事なら仕方ないのに、今までだってそういうことあったのに、おかしいよね」
『我慢してたからでしょ?』
 恋人の声に咎めるような音はなかった。それでも深く、胸に突き刺さった。とっくに見抜かれていたと知ってしまった。
『新太(あらた)は言いたいことあっても言わないで、俺に合わせてくれてたから』
 いつもの自分ならとっさに反論していた。良くんに合わせてるとかそんなんじゃない。おれの意思だ。本当にそう思っているんだよ。――それが今は、出ない。
「ご、めんなさい、ごめんなさい……おれ、ほんとに、良くんが好き、で」
 涙が浮かぶなんて卑怯以外の何物でもない。目元や口元に一生懸命力を込めるが、嗚咽が強くなるばかりで無意味だった。恋人ができてから、元々弱い涙腺に拍車がかかってしまった。
『俺だって新太が好きだよ。本当に好きだ』
 声が少し柔らかくなったように聞こえたのは自分の願望のせいだろうか。
『正直さ、嬉しかった。やっと新太がわがまま言ってくれたって』
 ――幻聴かと疑ってしまった。ケンカの原因を作った相手にかける言葉じゃない。
『何て言うんだろ……信用されてないのかな、って。俺の気持ち。俺にいつも従順なのは本心なのかなって』
 電話越しに、必死に首を振る。嫌われたくない一心が、彼を傷つけていた。疑心を向けさせてしまった。
『だからほっとした。……変かもしれないけど、やっと恋人同士になれたなって思ったんだ』
 想いを伝え合ってから二ヶ月は過ぎた。その間に改めて彼の人となりを知って、やっぱり好きになってよかったと思えて、けれどその嬉しさをうまく伝えられていなかった。
「……おれ、ほんとバカだ」
『な、なんだよ急に?』
「自分に置き換えて考えればよかった。良くんにわがまま言われたくらいで、嫌いになるわけないのに」
 小さく吹き出したような音が聞こえた。
『そうだよ。ていうか、今までわがまま聞いててくれたろ?』
「そんなの、わがままに入らないよ」
『へえ。じゃあ、例えばどういうの?』
 改めて問われると難しい。たっぷり唸り声をこぼしていると、「長すぎ」と突っ込まれてしまった。
『わがまま言い慣れてないなぁ』
「し、しょうがないでしょ。元々苦手なんだから」
『じゃあ、ひとつ例を出してやるか』
 そして告げられた「わがまま」に、すぐ電話を切って身支度を整え、家を飛び出す。
 たった電車二駅ぶんの距離が、倍以上に長くてもどかしかった。畳む

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愛したくて愛したくて

#BL小説

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お題bot* のお題に挑戦しました。
お題は「愛されることには、まだ不慣れで、」を使いました。

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 自然を装って手を伸ばした瞬間、肩がぴくりと震えた。
「あ、ごめん……」
「わかってるよ。嫌なわけじゃないんだよな?」
 念のための質問に、彼は小さく頷いた。伏せた睫毛の震えで、内心が痛いほど表れているように見える。

 勇気を振り絞った告白に、受け入れてもらえた瞬間の自分以上に彼は驚いていたと思う。
『告白ってしてもらったことなくて……いつもこっちからしてたから』
 脈があるとわかっていても、自分から告白してOKをもらわないと気持ちを信じられないこと。
 だから多分、告白されていたとしたら、その瞬間に気持ちは冷めてしまっていたかもしれないこと。
 普通じゃないとわかっていても逃れられずにいたことを、告白したその日にカミングアウトされた。
『え、じゃあなんで俺は……』
『わかんない。わかんないけど、大丈夫だったんだ。むしろ、なんかぶわーってなったっていうか、もっと好きになったっていうか……』
 普段の付き合いで驚くほど正直者だと知っているから、ひどく戸惑っている姿を疑う気にもなれなかった。
『じゃあ、正式に付き合って、みる?』
 普通なら諸手を挙げて喜ぶ場面でお互いおそるおそるなのも変な状況だが、改めて気持ちを確かめてみると、控えめに笑いながら頷いてくれた。

「逆に見てみたいかもな、お前の『愛し過ぎちゃう』姿」
 微妙に伝わってくる緊張感をほぐすように肩を軽く撫でながら言うと、びっくりしたようにこちらを見つめてきた。
「トレーニング中なのはわかってるけど、愛されるのも好きだからさ。たまには受けたい」
『恋人に愛される喜び、っていうのを確かめてみたいんだ。あと、勉強もしてみたいし……だからしばらくは、受け身でいさせてくれる?』
 冗談を言っているようにはもちろん見えなかったし、それだけ自分との関係を本気で考えてくれているのだと嬉しくなった。
 今も不満らしい不満は特にないものの、欲が頭をもたげ始めたのもまた、事実で。
「……説明したこと、あったよね?」
 いつでも「100%」を出し切って接していた結果、ある人は重すぎると苦し紛れに呟かれ、ある人は束縛されているみたいで嫌だと泣かれ……反省して言動を改めてみたつもりでも、ゴールは「離別」一本だったという。
 興味本位もあるが、そこまでの愛情を浴びてみたいという純粋な願いもあった。
 たとえどんな姿であっても、彼への想いは絶対に揺るがない。
「わがまま言ってるのは自覚してる。強制もしない。……でも、味わってみたいなぁ」
 敢えて砕けた言い方をしてみた。
「完全再現じゃなくていいから! こんな感じだったかも、ぐらいで全然」
「余計に難しいよ……でも、僕のわがままに付き合ってもらってるもんね」
 気合いでも入れるためか一度頷くと、肩に伸ばしていた手をそっと外し、緩く握り込んできた。
 思わず息をのむ。
 覗き込むように見つめてきた瞳の輝きが、いつもと違う。不快にならないぎりぎりのところで捕らわれているような、どっちつかずの気分になる。
「いつも、本当にありがとう。君には負担ばっかりかけてるよね」
 まとわりつくような甘い声だった。普段は緊張の方が目立つのに。
「僕が君を好きな気持ち、ちゃんと伝わってるかな。いつ愛想尽かされるかわかんないって、毎日不安なんだよ?」
 握ったままの手の甲を、自らの頬に擦りつける。昔漫画でよく見た、段ボールに入れられた子犬のような上目遣い付きだ。
 すでになかなかの破壊力を発揮している。これで全力なのか、まだまだなのか。
「そんなことあるわけないだろ? 本気で好きだから告白だってしたんだし」
 それでも、あくまで日常生活の延長のつもりでいきたい。自ら望んだのは確かだが、ただ享受するばかりでは対等じゃない。
「……ほんと、君の言葉って不思議。すごく信じられるんだ。すごく、安心する」
 自然に距離を詰められ、抱き込まれた。わずかに速い心音に口元が思わず緩む。
「だからかな、僕にできることなら何でもしたい。君の願いを全部叶えてあげたい」
 背中にあった両手が顎を掬い上げる。まっすぐに与えられる視線から摂取できる糖分の限界値は、とうに超えている。めまいでも起こしてしまいそうだ。
「ねえ、僕にしてほしいこと、ない?」
「わざわざ言わなくたって、充分してもらってるよ」
「僕は足りない」
 とん、と肩を押されて、気づけば彼を見上げる体勢になっていた。いつも使っているソファは意外に固いんだなと、どうでもいい感想を内心呟いてしまう。無理やり意識を逸らしていないと今すぐ抱き潰してしまいそうで、安易にその選択肢をとるのは嫌だった。
「僕がどれだけ、君に夢中なのか……知らないでしょ?」
「わかってるけどな」
 触れるだけのキスを終えた瞬間、彼の瞳が頼りなげに揺れた。どうやら心の奥に巣くった不安は、相当しつこく根付いているらしい。
「俺も夢中じゃなかったら『お願い』聞こうなんて思わないし、『わかってる』なんて言えないだろ?」
「でも……」
 キスを返して、頭を包むように胸元へ引き寄せた。くせの弱い髪は相変わらず、指に簡単に絡まる。
「告白した時以上に好きになってる。できるんなら四六時中こうやって一緒にくっついてたいし、いっぱい愛したいって思ってるんだからな」
 シャツを掴む手にぎゅっと力が込められた。触れ合っている箇所すべてが妙に熱く感じるのはきっと、気のせいじゃない。
 彼に感化されて、自分も相当恥ずかしい台詞を口にしている自覚はある。あくまで彼のためだ、悶えるのは一人きりになった時でいい。
「……ずるい」
 くぐもった声は震えていた。
「僕より、君の方がトレーニングになってるんじゃない」
「はは、そうかな」
「本気で、君なしじゃ生きていけなくなっちゃうかも」
「そりゃ光栄なことで」
 もっと愛されるよろこびを味わって、二度と離れられないところまでいけばいい。
 少なくとも、自分はとっくにそうなっているのだから。畳む

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【お題SS】心臓、高温、雨宿り

#CPなし

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お題bot*  のお題に挑戦しました。お題は「心臓、高温、雨宿り」です。

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 帰路に急ぐ足がふいに止まる。
 いつも私をからかう彼が、おそらく野良だろう猫を傘の下に入れてあげていた。
 すぐ逃げようと思ったのに、まだ足は止まったまま。
 そんな顔、私に一度も見せたことないじゃない。
 足に頭をすり寄せちゃって、猫ちゃん騙されてるよ。そいつはうんざりするくらい私をおもちゃみたいに扱うんだから。
「お前人慣れしてんなぁ。エサ持ってねーぞ俺」
 動物相手だから声も表情も柔らかいんだ。漫画とかでよく見る悪党そのものじゃない。
「お前みたいに素直になれたら、あそこまで嫌われないんだろうな……」

 心臓がどくどくと高鳴り出す。みっともなく叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
 私のことを言っているのだとすぐにわかった。
 人が見てないと思って、本気で後悔しているみたいな態度を取って、卑怯以外になにがある?
 今の光景を見なかったことにして、ゆっくり踵を返す。
 野良猫に情けない姿を晒す暇があるなら、さっさと謝ってきてもらいたい。
 行き場のない怒りを、私はひとり耐えるしかできなかった。畳む

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夢から少しずつ、現へ

#BL小説

スマホアプリ「書く習慣」のお題:桜散る で書きました。
以前書いた『現実を忘れられるなら、今は』の続きみたいなものです。

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 覚悟を決めていつもの桜の木を訪れる。
 遠目からでも薄桃色の花たちはすっかり跡形もなくなり、代わりに葉が若々しい緑色をまとっているのがわかる。
 だが、恐れていた光景はなかった。
「こんにちは。私の言った通り、消えなかったでしょう?」
「あれ、君……いつもの、君?」
「はい。ただ、歳を少し遡っておりますが」
 つまり若返ったということらしい。

 最愛の恋人を、春を迎えたと同時に失った。
 胸に深く暗い穴をつくったまま、俺はいつも恋人と訪れていた一本の桜の木に、縋るように毎日足を運んだ。
 人目を避けるようにひっそりと、けれど確かな存在感で生えているこの木を、俺たちは毎年見守っていた。
 その想いがきっかけだと、「彼」は言った。
 桜の木の精だと名乗り、突然目の前に現れた「彼」。

『このようにお会いするつもりはありませんでした。ですが、心配で。あなたまで、そのお命を失ってしまいそうで、黙って見ていられなくなりました』

 夢としか思えなかったが、このときはそれでもかまわないと、彼の存在をとりあえず受け入れた。
 そうでもしないと――恋人がいないという現実に、耐えられなかったから。
 今は、違う。
 彼の包み込むような優しさと雰囲気に、空いたままの穴が少しずつ小さくなっていくのを、確かに感じていた。
 だから、怖かった。
 桜が散ってしまったら、彼の姿は消えてしまうのではないかと。
 二度と、会えなくなってしまうのではないかと。

「先日も申しました通り、私たちは新緑の時季を迎えるとこのように若い姿となります」
「じゃあ、あの薄ピンクで長い髪の状態は二週間くらいしか続かないんだ?」
 彼はひとつ頷く。耳のあたりまで短くなった、絹を思わせるような白髪がさらりと頬を滑る。
「そうか、って納得するしかできないけど」
 俺と同じ人間ではないから、疑う余地も当然ない。面白いなと感じるほどには余裕はできた。
「姿は見えなくとも、毎年あなた方にお会いしていましたから消えることはありませんよ」
 少し笑って彼は告げる。そうだとしてもやっぱり、この目で確認するまでは心配で仕方なかったのだ。

「……でも、完全に枯れたら、会えなくなるよね?」

 木に触れながら、気になっていた疑問を口にする。
 この桜の木は彼そのもの。
 今はまだ、大丈夫だと信じられる。太陽の光を存分に浴びている葉はどれも生き生きとして、生命力に満ちているのが素人目でもわかる。
 それでも、いつまで無事かはわからない。
 ――突然この世を去った、恋人のように。
「ご心配なく。あなたがこうして足を運んでくださる限り、私は生き続けておりますとも」
 隣に立った彼は、優しく頭を撫でてくれた。まるで子どもにするような手つきなのに、反抗する気になれない。
「私に会えなくなると、そんなに寂しいですか?」
「そ、それは……まあ」
「そうですか。……ありがとうございます。私もあなたに会えなくなるのは、たまらなく苦しく、悲痛で、耐えられないでしょう」
 ほとんど変わらない位置にある茶と緑のオッドアイが、長い睫毛の裏に隠れた。
 どくりと、覚えのある高鳴りが身体を震わせる。
 いや、これは彼があまりにも美しすぎるゆえだ。人ならざる者の優美さにまだ慣れていないせいだ。
「俺も、大丈夫だよ。簡単に死んだりしたら、あの世であいつに怒られそうだし。今はそう思うよ」
 視線を持ち上げた彼は、心から嬉しそうに微笑んだ。
 喉の奥が、変に苦しい。
 ふと、足元に影ができた。疑問に思うと同時に、全身を優しい感触で包まれる。
「本当に大丈夫ですか? お辛そうですが」
 どうやら彼に抱きしめられているらしい。誰かに見られたらという焦燥感は確かにあるのに、ほのかに伝わってくる熱が不思議と上書きしてしまう。
「ご、ごめん気を遣わせたね。本当に大丈夫だから」
 落ち着いたら落ち着いたで、心音が思い出したように早鐘を刻み始める。彼に知られたくなくて、なるべくゆっくりと身体を離した。
「なら、よろしいのですが……。遠慮なさらず、私に寄りかかってくださいね。あなたの苦しみは、私の苦しみですから」
 向けられた微笑みがどこか眩しいのは、若返った容姿のせいだろうか。
 頬を撫でる風がやけに涼しく感じるのは、全身がほんのり熱いからだろうか。
「……あんまり献身的すぎるのも、困りものだな」
 思った以上に小さい声だったようで、彼の耳には届いていなかった。
 よかった。きっと、彼をただ困惑させてしまうだけだから。畳む

お題SS 編集

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