ショートショートまとめ

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2021年65件]

2021年10月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#BL小説
回数の多いサプライズ

深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③感激」を使いました。
BL小説『ただずっと、隣で笑い合っていたいから、』 の番外編な感じで書きました。

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 ある日のこと。
「白石、ほら。このシャツ欲しがってたろ? やるよ」
「え、いいの? マジ? ってかそこそこ高いやつだけど」
「お前が絶賛してたの気になって買ってみたからついで」
 またある日のデート中。
「じゃーん。これなんだと思う?」
「……え、これアレじゃん! 限定の! な、なんで!?」
「お前がめっちゃ悔しがってたから探しまくって手に入れたんだよ。ちゃんと定価でな」
「よ、よく見つけたな……って、え? おれが、ってことは」
「そ。お前にプレゼント」
「いやいや金払わせろって! 上乗せさせろ!」
「いーのいーの。俺が勝手にやったことだから」

 大なり小なり、こんなサプライズが定期的に続いている。
 プレゼントだけではない。例えば自分が「ここ行ってみたい」と口にしたが最後、うっすら忘れかけた頃に仕掛けてくる。値段もおかまいなしに、だ。
 そりゃあ嬉しくないわけはない。西山がいつも本心からしてくれているのをわかっているから素直に受け取っている。
 しかし「なぜ」という疑問が湧いてくるのもまた自然だし、単純に西山の懐も気になってしまう。お返ししたいのにそれもさせてくれないのはもはや苦しくさえ思う。
 恋人に喜んでほしいのは、自分だって同じなのに……。
 ひとつ思い当たるのは、原因こそ不明なれどなにか悩みがあるのかもしれないこと。
 いや、こちらにその原因があると考えた方がいいだろう。
 そうとなれば早速行動に移さないと、西山が心配だ。


「ありがとう。ところで話がある」
 西山の家で、ずっと食べたかったお菓子をありがたく一つつまんだあと、そう切り出した。
「……白石?」
 満足そうな笑顔が瞬時に曇る。深刻な雰囲気を出したつもりはないのだが、気負いすぎたのだろう。軽く肩を上下させる。
「お前、なにか悩んでるんじゃないか?」
 敢えて直球勝負に出てみた。あくまで推論に過ぎないものの、こういう時のカンはわりと当たる。
「え、悩みって」
「サプライズしすぎ。そりゃ嬉しいけど、おれが仕掛ける隙もないじゃん」
 目の前の顔が明らかに強張った。
「迷惑、だったか? それか退屈か」
「どれもハズレ。だったらとっくに見破ってるだろ?」
 負のループにハマりかけている。恋人の関係も加わってから今に至るまで結構順調だと思っていたのは自分だけだったのか? 今になって不安が湧き出てきた。
「おれ、何かやらかした? ならごめん、情けないけど教えてもらえると」
「違う。……ごめん、やっぱりあからさま過ぎたな」
 誤ると、西山は両肘を立てた腕の中に頭をしまい込んで短く呻いた。
「絶対、笑うなよ」
 少しして聞こえてきた言葉は、予想外の内容だった。気が抜けた、というより先が読めなさすぎて身構え方がわからない。
「俺たち、付き合ってもうすぐ一年経つよな」
「あ、ああ……そういえば」
「お前ってほんと、そういうの気にしないね」
「ご、ごめんって。で、それが関係してるのか?」
 よほどためらっているのか、なかなか返答がない。ここは下手にフォローしない方がいいと判断して我慢して待ち続ける。
「……マンネリ、するかもって」
 ひどくか細い声だった。
「まんねり?」
 さっきのを上回る予想外っぷりだった。
「わかってる。俺がネットの記事なんか簡単に信じたのがバカだったんだ。ほんのちょっと不安だった時にそんなの読んじゃったから。そうじゃなくても一年って相手のいいとこも悪いとこも大体わかってきて落ち着いてくる頃だろ。友達でも恋人でもそう変わらないって告白した時は言ったけどちょっとは違う部分もあるからさ」
 必死に弁明を続ける西山に、だんだん約束を反故してしまいそうになってきた。単純に可笑しくて、というよりも可愛くて、だ。多分口元はもう緩んでいると思う。
「マンネリを少しでもなくしたいから、いろいろサプライズしてくれたんだ?」
 言葉が途切れたタイミングで、尋ねる。頭が小さく動いた。
「サプライズしてくれる前のおれ、そんな感じしてた?」
「……それは」
「もちろん、おれは全然そんなこと思ってなかったよ。なのに勝手に心配してたんだ〜」
 ほんのちょっぴり意地悪したくなってしまった。それだけ西山に愛されている証でもあるが、疑われてしまった証明でもある。
 ようやく頭を持ち上げた西山は、羞恥とショックを雑にかき混ぜたような表情をしていた。ドラマで恋人にしょうもない理由で捨てられた相手の姿を思い出す。
「笑わないって、言ったじゃないか」
「え、おれ、笑ってる?」
「茶化すなよ。そりゃ自分でもどうしようもないって言ったけど、本気で不安だったんだからな」
「でも、ただの取り越し苦労だったろ?」
 わかりやすく押し黙る西山がますます可愛い。普段そう言われるのは自分だから、言いたくなる気持ちが初めてわかった。
 それでもいい加減腕を引いてやらないと、デリケートな男はますます袋小路に迷い込んでしまう。この役目は出会った頃から変わらない。
 身を乗り出して、テーブル越しにそっとキスを送る。
「おれの気持ちは、恋人同士になってから確かに変わったよ」
 明らかにマイナスな捉え方をしている西山を優しく小突く。
「ばか。ますます好きになってるってこと。お前とこういう関係にもなれて、よかったって本当に思ってる」
 付き合いしだしてしばらくは、不安がなかったわけではない。
 今は違う。一日一日を過ごしていくうちに、友人だけだった関係の時とはいい意味で違う空気を得て、素直に受け入れられていた自分がいた。それが何日、何ヶ月も続いて、ようやくお互いの言葉が間違っていなかったと飲み込めるようになった。
 この関係を失うなんて、もう考えられない。
「……俺も、同じだ。同じだよ、白石」
 隣に来た西山に、固く抱きしめられる。あやすように背中をぽんぽんと叩くと、肩口に頭をすり寄せてきた。
「勝手に不安になって、本当にごめん。白石のことちゃんと見てるつもりだったのに、全然だ」
「全くだよ。普段のお前なら余裕なのに」
「やっぱり白石がいてくれないと、俺はダメだな。絶対離してやれないから、改めて覚悟してくれよ?」
「言われなくたって」
 そして向けられた笑顔は、同じ男としてちょっぴり腹立つも見惚れるいつもの格好いいものだった。畳む

ワンライ 編集

#BL小説
ひっつき虫が可愛く見えるまで

20211021210738-admin.png

ふらっと思いついたまま書いてみたものです。
主人公:無自覚な友達以上恋人未満
お相手:片思い
な雰囲気です。

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 コイツは風邪を引いたりすると、必ず自分に泣きついてくる。
 ……それまでは少しでも困ったことがあると、だったが「本当にピンチな時だけにしろ」と交渉しまくった結果が、今だったりする。コイツにとってのピンチは風邪らしい。
『病気になると寂しくなったり人恋しくなったりするじゃん!』
 とは、本人の心からの弁である。
 幸い、高校時代までスポーツをやっていたおかげか頻繁に起きはしないものの、非常にうっとうしいのにかわりはない。


「安藤~どこ行くんだよ~オレを一人にしないで~」
「だー! 買い出しだってんだろが!」
「そんなの宅配とか通販でいいじゃんか~」
「今すぐ持ってきてもらえるわけないし配達の方に申し訳なさすぎるわ! てか徒歩5分もかからないコンビニなんだから我慢しろっての!」
 これである。毎回、これである。
 とにかくべったりひっついてくるのだ。いくら友人とはいえ同性に隙間なくくっついて気持ち悪くないのだろうか?
「ったく、お前は毎回毎回しょーもないな……」
 やはり寝入った隙に行くしかない。一応病人だから気を遣う心はあるものの、精神力が異常にがりがり削られて、気を抜いたら共倒れしてしまうんじゃないかと思うこともある。
「へへ、安藤が優しいとこも毎回変わらないよ」
「へいへい、嬉しいお言葉をどうも」
 ベッドに大人しく横になった石川はふにゃりと口元を緩めた。身長が180以上ある、精悍な男の笑顔にはつくづく見えない。
「つーか、いい加減彼女とか作れよ。よっぽど甲斐甲斐しく世話してもらえんぜ?」
 余計なお世話だろうが、言わずにはいられなかった。自分だって、いつまでも「お世話係」をやらされたらたまったもんじゃない。
「……え?」
 さっきまでの笑顔はどこへやら、見事に固まってしまった石川にこちらも面食らう。
「な、なんだよ。俺ヘンなこと言ったかよ。そりゃ余計なお世話だと思ったけどよ」
 その気になれば、恋人という関係を手に入れられる容姿も性格も備わっている。他の友人もきっと同じ評価をするだろう。
「……オレを捨てるんだ」
 全く予想外の言葉に勢いよく殴られた。恋人に縋り付くダメ男そのものじゃないか。
「オレが頼れるのは安藤しかいないのに……」
「いやいや、他にもいるだろ。お前が俺にばっか言ってくるだけで」
「オレは安藤がいいの!」
 本当に、物理的に縋り付いてきた。振りほどきたくとも病人相手に本気は出せないのに、ものすごい力が腕にかかっていて痛い。
「おま、ちょっと力ゆる」
「安藤じゃなきゃイヤなんだ。いつだって、安藤にそばにいて欲しいんだよ」
 似たようなことは高校生の頃から言われてきた。まるでお熱い告白のようにも聞こえると冗談まみれで返しては石川がただ笑って、気づけばやり取りの頻度は減った。
 どういうつもりで言葉にしているのか、深くは考えていなかった。ただ、石川がどこか寂しそうな雰囲気を漂わせていたような気はする。
「そ、そばにって、なんか、意味合い違うように聞こえるんだけど」
 今日はいつもと違う。風邪を引いているせい? だとしてもこんなに戸惑うだろうか。らしくない返答をしてしまうだろうか。
「ちがくないよ。オレにとっては一緒だから」
 見上げてくる石川の瞳は完全に高熱で揺れていた。触れたら崩れてしまうんじゃないかとつい思ってしまうほど、頬も熟れすぎている。
「オレには安藤だけだもん。知らないでしょ、オレがどんだけ安藤を」
「ま、待て待て。お前風邪引いた勢いで変なこと言うんじゃねえって」
 この流れはお互いにとって不幸しか生まない気がする。もし危惧している通りの流れになったら正直受け止め切れない。
「変なことじゃないよ。オレ、前から言ってるじゃん」
 触れられた腕から伝わる熱さで、自分まで眩暈でも起こしそうだ。こんな展開になるなんて誰が想像しただろう。
「安藤……本当に、だめ? オレ、一ミリも望みなし?」
 これでもかというくらいに眉尻を下げて、図体とは正反対の空気を一気に纏いだした。
 正直、ずるい。こんなの、駄目だと一刀両断しづらいじゃないか。いや、ここで中途半端な態度を晒してしまうのがいけないんだと思う、思うが。
「……なんだかんだで、大事な奴だとは思ってるよ。じゃなかったら、クソ面倒なお世話なんてしねえし」
 石川が求める意味とは違うだろうが、嘘ではない。一番つるんでいる友人だし、一緒にいると気が楽というか、自然体でいられる存在だったりする。
「……安藤がそんなこと言ってくれるの、はじめてだね」
 本当に驚いたようで、小さい双眸がかなり見開かれている。
「ありがとう、納得したよ。今はね」
「今は、ってなんだよ」
「うーん……そうだなぁ」
 頬をそろりとひと撫でした石川は、唇の端をわずかに持ち上げた。
「覚悟しといてね、ってことかな」
 小悪魔のような笑みとは、今のような表情を言うのだろうか。
 初めて、心臓が無駄に高鳴ってしまった。
「へいへい。心からお待ちしておりますからいい加減寝ろ」
 悟られないよう、石川の頭を枕に押しつけて布団をかぶせる。
 きっと自分も見えない熱に浮かされているに違いない。そう思い込まないと、動揺を抑えられそうにはなかった。畳む

その他SS 編集

#男女もの
【300字SS】宝物=言葉か行動か

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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「宝」です。
ベッタベタなネタになりましたw

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大好きだよ。
めんどくせーな。
だって伝えたいんだもの。ね、私のこと大好き?
っせーな、言わなくてもわかるだろ。
そうやっていつも誤魔化してばっかで言ってくれないじゃない!
俺がそういうの苦手だってわかってんだろ?
苦手で押し通すのズルい……。
お前以外とじゃ、こうやって一緒にいたいって思わないけど?

たった二言でいいのに。
ぷかりと浮かんだ不満は、瞬間はじけた。
ぶっきらぼうな話し方からは想像できない力で抱きしめられて、顎を掬われて、何度もキスをされた。頭を撫でる手がとても心地いい。

こっちの方がよっぽど説得力あるだろ?
た、ただ好きなだけのくせに!
そりゃお互い様だ。
……素直じゃ、ないんだから。畳む

300字SS 編集

2021年9月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#BL小説
小さな地獄と大きな宝物

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②洗い物」を使いました。
BL小説『俺はエメラルドのご主人様じゃない!』 の番外編な感じで書きました。

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 おかしい。
 気づけば、翠の姿を見ていない。
「翠ー?」
 呼びかけに返る声は、部屋にも頭の中にもない。
 恋人兼、従者(と言って譲らない)のエメラルドの化身である翠(すい)は、断りなく主の前から姿を消す男では決してない。……いや、ケンカをした場合は除く、だったか。
 至って普通の、休日の朝を迎えていた。翠のキスで起こされ、のろのろと部屋着に着替え終わる頃には朝食がテーブルに並べられていた。この後はのんびり遠出しながら買い物をすませよう、なんて会話を交わしていたはず。お互い、不機嫌になるような要素はひとつもなかった。
「……藍くーん。っていないか」
 双子の弟である、アクアマリンの化身である藍(あい)の名前を呼んでみるが反応はない。主である天谷千晶(あまやちあき)のお店に出勤しているのかもしれない。
 双子が会っているという線が消えた、ということは……。
「翠、いるんだろ?」
 それでも反応はない。全く理由がわからず、次第に変な苛立ちと不安がない交ぜになっていく。
「……主人を、意味もなく放っておくのか?」
 なるべく対等の立場でいたい自分にとってあまり使いたくない手だったが、忠誠心の高い彼なら百パーセント効果があるに違いない。そう信じていたのだが……。
 ——最終手段もダメとか、よっぽどのことが起きたらしい。
 たまに翠は、「大げさすぎだ」と突っ込みたくなることでひどく思い詰める癖がある。理由を尋ねると知らぬところで自分が原因の元であるパターンが多いのだが、今回もそうなのだろうか。
 張本人から探れないのなら、自らが探っていくしかない。
 改めて、起床してからの流れを思い返してみる。朝食を終えて、翠はいつも通り洗い物に、自分はテレビを観ながら出かける準備をしていた。
 ——翠が消えたのは、洗い物が終わった後ぐらいか。
 わずかな望みをかけて台所に向かう。翠と暮らし始めてからあまり立たなくなってしまった自分でもわかるほど、いつでもゴミひとつない……
「あれ?」
 違う。今回はたったひとつだけ、違和感がある。
 その違和感に手を伸ばして、なんとはなしに観察してみる。
「……あ、欠けてる?」
 数ヶ月前、いつも頑張ってくれている翠にお礼がしたくて、透き通るエメラルド色で飾られたガラスのコップをプレゼントした。彼と一定の距離以上は離れられない生活でサプライズを仕掛けるのは至難の業だったが、通販に大いに助けられた。
『毎日水を飲ませていただきます! ……本当に、本当にありがとうございます、文秋』
 涙を浮かべるほどに喜んでいた翠。
 宣言通り、ほんの少量だとしても毎日欠かさず使っていた翠。
 そういえば朝もニコニコとコップを使っていた。
「間違いなく原因はコレだな」

「申し訳ございませえええぇぇぇん!!」

 これから切腹でもされそうなほどの悲壮感を込めた声が、部屋中に響いた。
 視線を床に移動させれば、燕尾服姿の男が綺麗な土下座を披露している。
「わた、私は大罪を、犯しました……主であり、恋人でもある文秋(ふみあき)さんからいただいたプレゼントを、こ、壊してしまうなどと……!」
「あの、翠」
「大事に大事に扱ってまいりましたのにまさか、気づかぬうちに破損していたなんて……いえ、そんな言い訳など通用しません! 傷物にしてしまったのは事実!」
「いや、あのさ」
「どうぞ罰をお与えください。今回こそ情けは不要です。恋人の感情も殺して、あくまで従者として」
「翠」
 あくまで静かに呼びかけると、縮こまっていた身体が小さく震えて、止まった。
 しゃがみ込んで肩を二、三度労るように叩く。
「俺は怒ってないよ。お前が大事に使ってくれてたの毎日見てたんだから、ちゃんとわかってる」
「……しかし、私の気が収まりません。あの時、私は本当に嬉しかったんですよ」
 声が震えている。さすがに自分も胸が痛い。
「わかってるって。俺も軽々しく『だから気にするな』なんて言わないよ」
 飲み口の一部がわずかに欠けたコップを翠の隣に、静かに置く。
「俺はさ、このコップが翠に起こりそうだった災いを肩代わりしてくれたんじゃないかなって思ってるんだよ」
 ようやく、翠が顔をこちらに向けてくれた。
 頬に、明らかな筋が描かれている。数ヶ月前とは全く違う意味合いになってしまった涙の痕を両方拭って、敢えて声のトーンを上げてみた。
「ほら、パワーストーンもそういうのあるだろ? 欠けた時は、役目を全うした証だって。あんなに大事にしてもらったから、お礼したいって思ってくれたんだよ」
 大の大人が、絵本にでも出てきそうな物語を口走っている。
 けれど買ったブレスレットに飾られたエメラルドから「化身です。よろしく」と登場した翠と恋人同士となっている現実を見れば、あながち嘘でもないと思うのだ。
「……文秋さんも、すっかり私達の世界にも馴染みましたね」
「まだまだ、藍くんに怒られてばっかりだけどね」
 翠が、わずかにだが笑ってくれた。それだけでこんなにも胸があたたかくなる。
 欠けたコップを手に取った翠は、何度か側面を優しく撫でた。愛おしくにも、今までの働きを労るようにも見える。
「このコップは、後でベランダにある鉢植えに埋めましょう」
 訊き返そうとして、つぐむ。
 役目を終えたパワーストーンは、土に還す。そういうことだ。
「重ね重ね、お騒がせして申し訳ございませんでした」
「黙って消えた時はさすがに焦ったけどね。理由知って納得したっていうか」
 変なタイミングで言葉を切ったのが気になったのだろう、どこか心配そうに翠が見下ろしてくる。
「……俺も、エメラルドが欠けた時は、この世の終わりって感じだったから」
 言い終えると同時に、全身を包まれる。
 力強くとも、ぬくもりを感じなくとも、世界一気を落ち着けてくれる場所だ。
「大丈夫です。二度と、私は文秋から離れません」
「わかってる。嫌だって言っても、絶対無理だからな」
「望むところです」
 目が合った次の瞬間には、唇が重なっていた。ただ触れ合わせているだけなのに、やけに心臓が高鳴る。
「……そうだ」
 このままベッドになだれ込んでもいいかも、と思いかけた頭にある考えが浮かんだ。
 おそらく同じ気持ちになりかけていたのだろう、翠の双眸が若干残念そうに曇っている。
「これから、新しいカップを買いに行こう」
「新しい、ですか?」
「そんで、今度は翠が気に入ったデザインのカップにしよう。どう? 妙案だと思わないか?」
 だんだんと、エメラルドの瞳がきれいな光を帯び始める。
「でしたら、ひとつだけわがままを申し上げてもよろしいでしょうか」
「おお、許す」
「文秋も同じカップを購入なさってください。いわゆる『おそろ』ってやつですね」
 頷いた瞬間、視界に映ったふたつの瞳はどんな宝石もかなわない、自分にしか見ることのできない輝きを放っていた。畳む

ワンライ 編集

#CPなし
【300字SS】つかまってしまった。

20210904211828-admin.png

300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「残る」です。
物語の序章みたいな展開になりました。


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理解できない。
どうして彼が我が物顔で隣に座ってるんだろう。
「ねえ、あんたは居残り勉強する必要ないでしょ」
先生が戻ってこないうちに帰らせたい。本当はこんな変わり者の相手なんてしたくないのに。
「ほう、君も必要ないのに?」
彼はにやりと笑った。
「君の成績は確か、僕の三つ下だったはずだが」
「頭のいいあんたにはわかんないでしょう」
余計なことを言う気がして怖い。早く出て行って!
「矛盾した行動を取る理由は推察できる。が、君は彼にとって生徒でしかない」
「目的は、何」
唇を噛みしめる私に、彼は変わらない表情で対峙する。
「興味があるんだ。無駄とわかっていながら行動する感情源に」
観察させろ。
私に、拒否権はなかった。畳む

300字SS 編集

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