Short Short Collections
主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。
2021年2月 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する
最後の嘘と願って
#BL小説深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③西日が差す窓」を使いました。お題要素は軽く触った程度です😅
どうしてもユーミンの曲『最後の嘘』が頭から離れなくなってしまいました……該当の歌詞は「朝日が差し込む〜」なんですけどね。。
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彼は嘘つきだった。
といっても呆れ果てるほどくだらないものや、こっちが本気で怒るほど洒落にならないものなど、無駄にバリエーション豊かだった。
いつだって振り回されてきたけれど、嘘だとわかるのは最後に白旗を揚げるのは必ず彼だったからだ。きっかけを作るのが自分にあったとしても「降参」するのは彼だった。
多分、甘えていたのだと思う。
自分が原因なこともあるけれど、回数は圧倒的に彼が多いし、そういう性格でもあるのだろうと納得していた。
朝から変わらない光景の部屋を、改めて見つめる。
昨日の夜はいつもと同じようでいて、主に自分自身の勝手が少し違っていた。
だから「きっかけ」を作ったのは間違いなく、自分。
「どうしたの、なんからしくないじゃん?」
軽口を叩き合う延長上のような口調だったのは、多分気遣ってくれていたのだと思う。それに真面目な空気にしたところで、素直に吐き出すわけもなかった。
「……うるさいな。ほっといてよ」
離れている間どういうことがあったのか察せなんて傲慢でしかないのに、そう願ってしまった。
仕事で嫌なことがあっただけ。いつもなら鼻で笑って流せるレベルが、今日はなぜか胸につかえてしまっているだけ。疲れが溜まっているせいかもしれない。
ここまでわかっていながら、彼には伝えなかった。悪い癖だ。
「あ、もしかして冷蔵庫にあったショートケーキ食べたのバレた? ごめん、どうしても食べたくって」
ショートケーキは確かに買ってあった。まだ確認していないが、たとえ嘘だとしても「甘いもの好きな自分のために、明日にでももっと美味しいケーキを買ってくる」という意味だったのだと思う。
そこまで推察できたのは、数時間後の未来でだった。
「嘘でも本当でも、ケーキくらい別にいいよ。……いいから、そういうくだらないの」
放っておいてほしかった。一晩すれば元通りになって、こんなやり取りにも苛ついたりしなくなる。
彼は何も知らないのに、あまりにも感情的になりすぎていた。
「……ごめん。何かあったんだね」
「そう思うなら、ほっといて」
それからどんなやり取りをしていたのか、細かいところは思い出せない。
ひたすらに、せっかく伸ばしてくれていた手を振り払い続けていた。ひどい態度だと頭のどこかで鳴っていた警報も無視して、気づけば部屋を包む空気はかつてないほどの重苦しさに溢れていた。
「……あのさ。俺と付き合ったこと、やっぱり後悔してるんじゃない?」
一言一句、声の調子も、表情も忘れられない。
笑っていた。雰囲気に似つかわしくないはっきりとした声だった。やせ我慢のようなものだったと今ならわかる。
反論できなかったのは、彼の問いかけが頭の中でぐるぐると回り出し、まるで必死に材料をかき集めているようだったから。
「……ごめん、嘘。だけど悪い、言い過ぎた」
ちょっと頭冷やしてくるよ。
それが、三日前に聞いた彼の最後の台詞だった。
「こんなに落ち込んでるのに、後悔なんてしてるわけないでしょ……」
今さらな返答だった。わずかでも口ごもった時点で、あの時の彼にとっては肯定されたも同然だ。
異性と付き合うのをやめて、初めてできた同性の恋人だった。好きという気持ちにあれから揺るぎはないものの、半年ほど経って同性なりの難しさや悩みが出てきていたのも事実だった。
隠していたつもりでもあんな言葉が飛び出すのだ、きっと見透かされていた。だから「頭を冷やす」と嘘をついて、出て行ってしまったのでは……。
「ほんと馬鹿だな、僕」
後になって後悔する癖は直る兆しが全くない。今日はまともに食事すら取れなかった。お出かけ日和の天気なのに身体は全く動かず、部屋の中は薄暗い。
そういえば、ベランダのカーテンを閉めたままだった。
『ここ、日当たりがすごいいいんだってさ。日当たり大事!』
その一声で借りることを決めた部屋だったのを思い出しながら、ベージュ色のカーテンを開ける。
「まぶし……」
真正面から浴びているような感覚に陥る。やたら目に沁みる気がして、ぎりぎりまで目蓋を下ろす。
窓を突き抜ける光の大元は朝も夕方も一緒なのに、どうして後者はやたらもの悲しい気分にさせられるのだろう。……違う。きっとひとりきりだからだ。二人でいる時の空気はもっと、穏やかだった。
――このまま終わりだなんて思いたくない。頭を冷やすが嘘だなんて、思いたくない。
目元を窓に押しつけた。光の強さとは裏腹にひんやりとした温度が、少しずつ熱を奪っていく。
「……まだ、決まったわけじゃない、よな」
近所を探しに行ってもいなかったのは、たまたますれ違っただけだと信じたい。
そもそも、仕事から帰ってきても部屋の様子に変化はなかった。何より、彼の荷物は全くの手つかず状態にある。スマホすら、未だテーブルに置かれたままなのだ。
今日は気力が底まで落ちてしまったけれど、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
今度は自分が「降参」する番。
そして、こんな嘘はもう最後にしてとお願いしなければ。畳む
2021年4月 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する
【300字SS】ライバルのつもりなのは?
#CPなし300字SS のお題に挑戦しました。お題は「道/路」です。
勢いで突っ走っただけの作品ですw
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「またお前ら揃って一位かよ! もはや化け物じゃね?」
あいつの進む道と交差してしまったのは、俺の人生で唯一の失敗だ。
すべてが順調だった。勉強も運動も人望もモテ度も首位の地位が揺らぐことはなかった。
視線の先に他人が映るなんて、絶対に許されないのに!
「僕はいつも必死だよ。間宮とは真逆だから」
無駄に自信なさげな態度も腹が立つ……!
「俺だって頑張ってるって。水瀬の方が余裕に見えるよ」
「じゃあ、お互いいい刺激になってるってことだね」
これからも頑張ろう。
笑顔で差し出された手をいっそ払いのけてしまえたら。
「ありがとう。間宮」
細められた双眸の隙間から、うっすらと視線を感じた。
……謎の寒気を感じたのは、なぜ。畳む
営業時間は「いつまでも」希望
#男女もの深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「③利用可能時間」を使いました。
本の読めるカフェ店長と常連客の話です。
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喫茶店に置かれた本の数々は、店長自ら選定したものらしい。まるで小さな図書館のようだ。
私の嗜好とぴったり合致すると、抱いていた予想が確信に変わったのは、ある日閉店時間間近で交わした会話からだった。
「やっとこの新作読み終えたんですけど、やっぱり感情が忙しくなる作家ですよね。すごく悲しくなったりほんわかしたり……すごいなぁ」
「おや、作家の卵としてはやっぱり気になりますか」
「だから違いますって。私のはあくまで趣味ですよ」
店長は、ふと何かを思いついたようにカップを磨く手を止めた。「スタッフオンリー」と英語で書かれた扉をくぐり、少しして戻ってくる。
「この本、ご存じですか?」
一般的な文庫本よりも厚みがある。
「うー、ん? 知らない、かも。作者もちょっと」
「推理ものなんですけど、登場人物がみんな濃くて、関係性も面白いんです。ちょっとこの作者を彷彿とさせるんですよ」
「へえ……推理小説は苦手な方なんですけど、大丈夫かな」
「そこまで複雑なトリックはないので大丈夫かと。よかったらお貸ししますよ」
「嬉しい! ありがとうございます」
今では、閉店時間後もこうしてお喋りする仲にまでなった。ちなみに、私がわがままを言ったわけじゃない。
『他のお客様がいるとゆっくりお話できませんし、僕がお願いしたいんです』
私も同じ気持ちだったし、そう頭を下げられたら頷くしかできない。
最初こそ遠慮がちだったものの、楽しくも穏やかな空気に負けて、ずるずると居着いてしまっている。
今更ながら、いくら何でも図々しすぎじゃないかしら、私。
「どうされました?」
私とあまり歳が変わらないとこの間知った店長は、柔らかい印象の瞳をわずかに細めた。
「あ、いえ。私、店長のお言葉に甘えて長居しすぎだよなって。今更ですよね」
「そうですよ。そのまま気にされないでよかったのに」
心外だとでも言いたげな口調だった。いや、さすがに心が広すぎやしないか?
スマホの画面を点けて、思わず短い悲鳴が漏れた。最長記録を更新してしまうとは!
「いやいや、もうすぐ三時間経とうとしてますし! 店長、お店の片付けもあるのに」
「片付けならほら、してますよ。キッチンの方は料理長がしてくれてますし」
たった一人の店員は店長の古い友人らしい。コーヒーなどの飲み物を入れるのは得意だけど料理の腕はからっきしだから頼み込んだと、恥ずかしそうに教えてくれた。
「じゃ、じゃあ……せめて、手伝わせてください」
「そんなに広い店ではありませんし、大丈夫ですから」
暖簾に腕押し状態に近い。「いただいてばかりじゃ申し訳が立たないんです」的なことを告げたら、多分困らせてしまうだろう。それも本意じゃない。
「あなたがいたいだけ、いてくれていいんです」
まっすぐに見つめられて、ぐるぐるしていた思考が止まる。
気のせいだろうか、「店長」という仮面が少しずれたような印象を受ける。
「僕は、それが一番嬉しい」
カウンターが間にあるのに、ものすごく近くに感じる。目がそらせない。心臓が大げさにどきどきしてきた。
胸中でかたちになりつつあるものに、明確な名前を付けていいのか迷う。
単なる自惚れかもしれない。けれど、そう言い切れない空気を、店長は醸し出している。
例えばこれが恋愛小説なら、受け身側は鈍い場合が多いのに。
「……ごめんなさい。変なことを口走ってしまいましたね」
本当にそう思ったのか、あるいは私の反応を不安に感じたのか、店長は本棚と飲食席が並ぶ空間へ足早に向かった。片付けに戻ろうという誤魔化しなのだろう。
「変なことじゃないです」
椅子から立ち上がって、借りた本を胸元に抱き込む。
こちらを振り返った店長が、わずかに目を見開いた。
「ありがとうございます」
賭けてみることにした。……いいや。きっと、勝ちは「見えている」。
「……前から、気になっていたんです。お仕事帰りだけじゃなくて、休日にも定期的に立ち寄ってくれて、持参した本だけでなく、僕が選んだ本も読んでくださるようになって」
最初は、手持ちのストックがなくなってしまったから試しに読んでみようというだけだった。
読んだことのない本はどれも、その日中に読み終えてしまうくらい面白くて、こんなに私のツボを刺激する選書をしているのは誰なんだろうと気になったのが、すべての始まりだったのかもしれない。
「あなたから話しかけてくださった時は、お恥ずかしながら舞い上がってました。それが本選びにも影響していたんでしょうね、常連さんに『本棚の雰囲気変わったね』と突っ込まれてしまいました」
つられて、頬が熱くなる。こんなにストレートな人だとは思わなかった。
店長が歩み寄ってきた。半分でも腕を伸ばせば触れられるほどの距離を残して、意を決したように眉間に軽く皺を作る。
「あなたと読んだ本の感想を言い合いたいし、おすすめも教え合いたいし、あなたが書いた小説も読みたい。……あなたに叶えてほしいことがたくさん、あるんです。ですから、これからもお店にいらしてください。何時間でも構いませんから」
「……会うのは、お店だけでいいんですか?」
全くつまらない返しだとわかっていても、ほんの少しだけ悪戯心が芽生えてしまった。
「……意外と、意地悪な方なんですね」
言葉とは裏腹に若干うわずった声に、内心が手に取るようにわかってしまって口元がな緩みそうになる。ほぼ同い年だとようやく実感できて何だか嬉しい。
答える代わりに、腕を伸ばして店長に触れる。
「小説はまだお約束できませんけど……喜んで、お付き合いさせてください。よろしくお願いします」
時間が許すのなら、ずっと一緒にいたって構わない。
店長だけじゃないのだと告げたら、どういう風に喜んでくれるだろう?畳む
2021年5月 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する
【300字SS】荒療治でなければ
#男女もの300字SS のお題に挑戦しました。お題は「届く」です。
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瞬時に開かれた視界の先には薄い闇が広がっていた。
呼吸が浅くなる。心臓がうるさい。
全身汗だくなのに、背筋が震えた。
『もう十分、待ったよ。とうとう何も返してくれなかったね』
そして彼は消えていった。追いかけようとした足は動かなかった。何を叫んでも聞いてくれなかった。
――告白されて、どっちつかずの態度を続けている私のせいだ。
近すぎる距離感が、先に見える道に靄をかけていた。
「ちゃんと返事をしたい」と告げたまま、彼の優しさに甘えていた。
いつでも言葉を届けられる場所にずっといてくれる。
そんなの、誰が決めたのだろう。
スマホに手を伸ばす。
おかげで、臆病の奥に隠れていた感情に気づけたのだ。畳む
2021年(時系列順)[62件](11ページ目)
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【300字SS】曲がらない想い
#男女もの300字SS のお題に挑戦しました。お題は『運/うん』です。
何となく最初から最後までせわしない感じ(?)です。
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何かを選ぶ時、「ピン」と来た方とは別のものを選択する。
根拠のない理由に委ねるなんて、まるで誰かに運命を決められているみたいじゃない?
私は私の力で道を歩む。これからも、これまでも。
それが私の信条。
「君と付き合えるなんて思わなかった……本当にありがとう」
「大げさですよ。私もずっと好きだったんですから」
さりげないフォローが素敵で笑顔が可愛くてオンとオフの線引きがはっきりしていて……
「君は僕の運命の人なんだ。君しかいないって思ってた」
「君もそうだったら嬉しいな……なんて。ごめん、浮かれすぎだね」
貴方は……運命が示すままに、私を選んだと言うの?
百年の恋も冷めるって、こういう時も使っていいのかしら。畳む