お題ショートショートまとめ

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

カテゴリー
ハッシュタグ

タグ「CPなし23件]

#CPなし
【300字SS】水底まで貫く光

20230603225451-admin.png

毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「折る」です。

-------

 私が折り紙で作るものには、なぜか命が宿る。
 いつからこんな力に目覚めたのか、私も周りもわからない。

 ——おお、怖い怖い。その得体の知れぬ力を二度と見せるでないぞ。
 ——その力、ぜひ我らの元で活かしませんか? 気味悪がられるより役に立つとわかれば、あなたも本望でしょう。

 向けられる感情に疲弊して、私は人目から逃げた。
(普通の人で、いたかった)
 無心で折った鶴が羽ばたき、頭上を旋回してから飛び立っていく。
 ……普通が無理なら、翼が欲しい。空を飛びたい。

「あの、今の鶴! あなたが折ったものですよね?」
「前に似た鶴を拾ったおかげで救われたから、どうしてもお礼を言いたかったんです」

 眩しい。温かい。
 これも、人の感情なの?畳む

300字SS 編集

#CPなし
【300字SS】「いい子」はもう終わり

20230506222233-admin.png

毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「待つ」です。

-------

「大人しく待ってなさい。私がいいと言うまで来てはだめよ」
「ここは危険だから。お前を痛い目に遭わせたくないんだ」

 待ったよ。充分待ったでしょ?
 何度も寂しさで埋めつくされて、立ち上がれないほどに絶望しても、そうやって足を止めたよね。
 二人の気持ちはわかってる。もう、小さな子どもじゃないもの。
 そうよ、私、こんなにも大きくなったんだから。
 ——だけど、やっぱり耐えられない。何年経っても、他の誰と触れ合っても、胸の中に空いた暗い暗い穴は、消えない。
 ねえ。私の親なら、私の気持ち、わかってくれるでしょ?

 ——ああ。二人の顔が歪んでる。
 だけどごめんね。お願いだから、もう、そっちにいかせて。畳む

300字SS 編集

#CPなし
【300字SS】継がれゆく

20230401212334-admin.jpg

毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「靴」です。

-------

 桜を思わせる薄桃色のハイヒールは、私の憧れだった。履けたら一人前の大人になれる気がしていた。
「ふふ、有希にはまだ大きいわね」
 ぶかぶかの足を見て微笑んでいた母が、履いている姿を見たことはない。
「お母さんはもう、似合わないからね。そうね、有希が履いた方がいいわ」
 時々、母がハイヒールを寂しそうに手入れしていること。私の記憶にない、父の名前を呟いていること。
 歳を重ねて、私はその素振りの意味を知った。
「遠慮しないで。大事にしてくれたら嬉しいわ」
 笑顔と言葉に嘘はない。それでも、確かな哀感さがにじみ出ていた。

 今、私の足元をあのハイヒールが彩っている。
 二人分の思い出はちょっと重いけれど、心はあたたかい。畳む

300字SS 編集

#CPなし
苦いイチゴはもういらない

くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「苺」「運命」です。

-------

「今日こそこのイチゴでケーキを作ってくれ!」
「だから無理」
 ばたりと玄関のドアを閉めると、いつもの捨て台詞を残して彼は帰って行った。
 諦めの悪いその根性だけは評価する。するけれど、どうして私がわざわざケーキを作ってやらないといけないの。
 ため息をついて、ドアに寄りかかる。
 ケーキ作りはもう、二度としない。あの日そう決めたのに、どういう運命の悪戯だろう。
 昔、賞を取ったときの記事かなにかを見たらしいあの男は、たまたま同じマンションに引っ越してきた私の顔を見て開口一番「ようやく君の作るケーキが食べられる!」とキラキラの笑顔で告白してきた。
 理由を聞いたら、デコレーションされたイチゴケーキの写真に「一目惚れ」したらしい。写真でこれなら、絶対味も素晴らしいと思ったとかなんとか。
『今日まで全然ケーキを見つけられなかったけど、まさかこんな運命が待っているとはね!』
 こっちは最悪だ。せっかく辞めたのに、ああして求められて、たまったものじゃない。
 じわりと胸の奥から黒い染みが広がりそうになって、慌てて首を振る。あれはもう過去のことだ。あのとき、何度も何度も己に言い聞かせたじゃないか。


「やあ、今日のイチゴはとっておきだぞ。前から食べてみたかった高級イチゴなんだ。君も作ってみたいって思うんじゃないかい?」
 今日も彼は諦めず、眩しい笑顔で玄関先に立っている。
 余計なトラブルにしたくなくてきつい言葉を使うのは避けていたけれど……もう、いい加減我慢するのはやめよう。
「だから、作らないって言ってるでしょう。何度断ればわかってくれるの。あなた、相当鈍いみたいね」
 精一杯睨み付ける。初めて笑顔以外の表情を向けられて、なぜか視線を外してしまった。
「私は作りたくないの。いくら持ってこられても無理。こんなこと、今日で最後にして!」
 さすがにわかってくれるだろう。一息ついてから、目線を持ち上げる。
「わかった。今は、作りたくないんだね」
 また、彼は笑っていた。本気で理解できなくて頭が混乱する。
「でも、僕は本心じゃないと思ってるんだ。なんというか……君が抱えてる何かをなくせれば、解決するんじゃないかって」
 鼓動が一瞬うるさく胸を叩いた。事情は一切話していないのに、なぜ。
「僕が助けになるよ」
「簡単に言わないで!」
 反射的に叫んでいた。赤の他人がどうにかできるならとっくに解決している。
「一人で抱えているとどんどん辛くなるから。味方なんて誰もいない、自分のことは自分でしか面倒見れない、そうやって閉じこもっていってしまうんだ」
 まるで彼自身に言い聞かせているように聞こえる。雰囲気もまるで変わったように感じたが、すぐにその違和感は消えた。
「だから、ね? ちょっとだけでも、試しになにも知らない僕に寄りかかってみるっていうのはどう?」
「……いいから、帰って」
 力なく彼の身体を押して、ドアを閉める。
 あんなに固かった決意が、ほんの少しでも揺らいでいるのを感じる。
 情けない。一人で消化しようと決めたのに、絆されるつもり?
 ……あんな思い、もうしたくないでしょう?
 いつもはうっとうしいだけのあの笑顔が、こびりついて離れなかった。畳む

ワンライ 編集

#CPなし
偶然か運命だったのか

深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
お題は「①只者ではない」を使いました。

-------

「あたし、実は女優やってるのよね〜」
 目深にかぶった帽子、首元で雑にくくられた髪型、体型にまったく合っていないぶかぶかトレーナーにジーンズ。
 漫画に出てきそうな黒い太フレームのレンズなし眼鏡を外して笑いかけてきた瞬間、変な声が出た。
 本物だ。芸能に疎い自分でも知っているくらい、知名度は抜群に高い。
 眼鏡が制御装置にでもなっているんじゃないか? はんぱないオーラをびしばし感じる。メディア越しより何倍も可愛い。いい加減な服装も不思議と似合っているようにすら見えてしまう。
 まさか、困っているところを助けただけでこんな奇跡が起ころうとは。なけなしの勇気をたまには振り絞ってみるものだ。
「その反応見る限りだと、あたしのこと知ってくれてるんだね。ありがとう! 嬉しい」
「い、いえそんな、恐縮っす」
「さっきの男気どこいったの〜? そんな緊張しないで、ね?」
「い、いや、芸能人と会ったの初めてだし、ほんと可愛いし、むりっすよ」
 無邪気な笑顔が心臓に悪い。自分が今どんなみっともない表情をしているのか、想像もしたくない。
「そう? これでも昔はめちゃめちゃ地味だったんだけどね。いじめられたりもしたし」
 本気でびっくりしてしまった。彼女の表情を見る限り嘘とは思えないし、一体どんなやつがそんなひどいことをしていたんだろう。
 ふと、俯いた彼女がなにかを呟いたような気がした。あくまで気がしただけで、内容はもちろん聞き取れなかった。
「あ、そうだ。ねえ、これもなにかの縁だし……ひとつ、お願いしてもいいかな?」
 小さい顔の前で両手を合わせて、覗き込むように見つめてくる。あざといのにやっぱりかわいい。
「さっきのヤツが諦めるまで、あたしの彼氏になってくれない?」
 すんでで口元を押さえた。な、なにを言い出すのかこのひとは。出会ったばかりの赤の他人になんてことを言い出すんだ!
「君は信用できる人だってあたしのカンが言ってるのよ。あの男気にもほんと感動したし」
 このまま黙っていたら勢いのまま決定されてしまう。確かに芸能人とお近づきになれる夢のような展開ではあるけれども、だ。
「ま、待ってくださいって! ほら、今ってSNSとかで簡単に炎上する時代でしょ? 万が一隠し撮りでもされたら俺、たまったもんじゃないっすよ」
 困っているのに申し訳ないが、リスクはなるべく避けたい。というか警察なりに相談すべきでは……。
「今、警察に行けばって思ったでしょ。なるべく大事にはしたくないのよ」
 ストーカーに命を狙われた、なんて事件もちょいちょい聞くのに、危機感がなさすぎる。
「恋人がいるってわかったら諦めると思うの。ムリなら大人しく警察に行くよ。だから、ね? お願い」
 さらに距離を詰められた。
 卑怯、あざとすぎる、絶対頑固な性格してる。
 昔から押されると押しきられてしまう性格だった。大抵よろしくない方に作用するが、今回もやっぱりそうなりかけている。
「…………俺、で、よければ」
 たっぷり五秒くらいはかけて、承諾してしまった。芸能人じゃないのに芸能人の気持ちをほんの少し堪能できた気がした。すでに胃が痛い。
「ありがとう~! 本当に嬉しい!」
 抱きつかれて少し嬉しくなったものの、ネガティブな未来の数々には太刀打ちできそうもない。
「あの、俺、一般人ですからね。よろしく頼みますよ」
 だからつい弱々しく呟いてしまったのだが、彼女は明るく笑い飛ばした。
「大丈夫! 君には迷惑かからないようにするから。……なるべく、ね」
 なるべく、と聞こえたような気がしたが、これも気のせいだろう。畳む

ワンライ 編集