お題ショートショートまとめ

主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。

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#CPなし
死神のようで天使

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①やらかした」を使いました。子どもの一人称って難しいです💦

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 きらきら光る、きれいな花が落ちていた。
 拾って先に進むと、また花。今度は黄色に光っている。
 赤い色、緑色、青色。
 いくつあるんだろう。もう、六つも拾った。
 両手で大事に抱えながら、すでに見えている七つ目の花に向かう。
 あれは……黒色?

「お願い……」

 伸ばしかけた手が止まる。誰の声かなんて、間違えるわけがない。

「頼む……目を……」

 目?
 不思議に思うまま、花に向けていた目を上に上げた。

 ――青い。とってもきれいな、青空がある。まるでさっきまでいたところみたい。パパとママと一緒にいた時、こんな空だった。わたしは楽しくて楽しくて、それで……どうしたんだっけ。ママが確か、大声でわたしの名前を呼んで……それから、それから。

 どうしてわたし、ひとりぼっちなの?
 パパとママは、どこ?
 帰りたい。
 パパとママのいるところに、帰りたい!


「……しろ、い」
 いつの間にか青空がなくなって、白い色だけがぼんやりと見えていた。家の天井みたいな色をしている。
 なぜか身体が動かない。それに、すごく眠い。
「目が……覚めたの……!?」
 隣で、ママが泣いていた。ちらっと見えたのはパパ? なんだかとても慌てているみたいだった。どこに行ったんだろう?
 でも、戻ってこられたんだ。
「……お花……」
 ママ、わたしがはぐれたから泣いてるのかな。いつも怒られているのに、本当に悪いことをしちゃった。
 拾った花をあげたら、ママは笑ってくれるかな?
 それなのに、眠いせいか腕が持ち上がらない。
「どうしたの? どこか痛い?」
「わたし……お花、拾ったの……ママ、お花、好きでしょ?」
 だから、泣き止んでね。笑ってね。
 ふわふわとした気分のまま、今度目に映ったのは黒い色だった。
 でもどうしてかな、怖くはなかったんだ。


「お前、どうしてあそこで帰しちまったんだよ。久々の食事にありつけそうだったのに」
 隣でじとりと睨み付けてくる相棒に苦笑を返して、白いベッドに横たわる少女を天井から見下ろす。再び意識を失ったようだが、人間にとっての最悪な事態にはもうならない。
 死を関知できる存在だからこそ、わかる。
「ああいうピュアっピュアな魂はごちそうなのになぁー。だからあの子の気を頑張って引いてやったのになぁー」
「ごめんって。……だって、あまりにも不憫すぎるから」
「スマホいじって運転してた車に撥ねられたのが、か? それはご愁傷様だけど、俺らには関係ないだろ? むしろ面倒が増えるだけっていうかさー」
 彼の言うことはもっともだし、迷惑をかけているのも自覚している。
 それでも、撥ねられる瞬間の絶望にまみれた顔がどうしても頭から離れてくれなかった。ひたすらに泣きじゃくる母親と、懸命に正気を保とうとぎりぎりの場所に立っている父親の姿を見ていられなかった。
「……ほんと、君には迷惑ばかりかけてるよ」
「全くだよ。もはややらかしちゃった、じゃ言い訳にならないくらいの常習犯だからな」
 魂を喰らう存在「らしからぬ」意味で有名人になってからずいぶんと久しい。それでも相棒として居続けてくれる彼に心の底から感謝をしているのに、全く態度に示せていないのがまた申し訳ない。
「……んな顔すんなって。ま、あんなチビッコじゃ一人で喰ってもハラいっぱいにはならねぇし、どうせ探しに行くのは変わんねえよ」
 肩をぽんと叩いて消えた背中に小さく礼を告げて、改めて少女を見やる。
 医師から説明を続けている両親の横で、とても穏やかな表情で眠っている。やっぱり、喰らわなくてよかった。
「今度は、勢い余って飛び出したらダメだよ」
 そして、相棒の後を追いかけた。畳む

ワンライ 編集

#CPなし
結局は、自分かわいさ

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深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
②中途半端
③清濁
のお題を使用しました。ちょっとこねくり回しすぎた感があります。。

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「あなたの望みはなんだ?」

 無駄に装飾の凝った木製の椅子に座っていると気づいたのは、急に視界が明るくなったからだった。軽く辺りを見回して、どうやら私にだけスポットライトが当たっているせいらしい。
 それにしてもこの椅子、中世のヨーロッパにでも出てきそうだ。大体ここはどこなのか。

「あなたの望みはなんだ?」

 左右で別々の人に話しかけられているような心地悪い声で同じ問いを繰り返された。同時に、前方にぼんやりと何かが浮かび上がる。

「……そっか、これ、夢か」

 そう確信せざるを得なかった。今まで生きてきて、身体の半分が長い金髪の天使、もう半分がコウモリのような黒い羽根を生やした悪魔、という生き物に出会ったことがない。そもそもいるわけがない。

「望み? 働かなくてすむくらいのお金が欲しいわね」

 中途半端で気持ち悪い生き物に、鉄板の一つに含まれる回答を返す。夢なら敢えて乗ってみるのも悪くない。

「あなたは優しいのですね」

 天使の口端がゆっくり持ち上がった。声も目を閉じたくなるような清らかさだったが、片方からしか聞こえない。

「本音を言わないのは、相手を気遣ってのことでしょう?」

 言葉の意味はわからない。『相手』って、誰のこと?

「しらばっくれるな」

 今度は心臓が震える声だった。もう片方から容赦なく注がれた。

「あの女を憎らしく思っているくせに」

 頭の片隅で、一瞬鋭い光が灯った。見たくないのに主張してくるなんて、やめてほしい。というか、どうしてこの生き物がそんなことを知っているの。

(……だから、これは夢なんだって)

 もはや自身に言い聞かせるしかない。

「違いますよね。例えば今だって、彼女と距離を取っているのは余計な心配をかけさせないためでしょう? 幸せなままでいてほしいんですよね?」
「……やめて」

 なんて夢なんだ。リアリティがありすぎて息が苦しい。己を抱き込んでもさらに症状が重くなるばかり。

「笑わせる。あの女の結婚式に参加した時、素直に祝えないでいたくせに」
「やめて!」

 その日の感情が堰を切ったようにこぼれ出す。ずっと笑えていたかわからなかった私。ちゃんと彼女の顔を、隣の彼を見られなかった私。もらったブーケを帰宅してすぐに捨てた私。
 彼女が悪いわけじゃない。意中の彼とうまくいきたいと相談してはいたけれど、それが誰かを明確に告げていたわけではなかった。
 そもそも、その彼と彼女は知り合いですらなかった。どう運命が転んだのか、偶然二人が出会い、気づけば結ばれていたというだけ。

「そう思い込んでいるだけだろう」

 悪魔は容赦なく傷を抉ってくる。たまらなくなって逃げだそうとしたが、立ち上がれない。椅子に触れている箇所すべてが縫い付けられてしまったかのようだ。

「思い込みだなんて。二人にはこれからも幸せでいてほしいんですよね? だってとっても好きな二人なんですから」

 好きだ。好きなことに変わりはない。

「いいや、思い込みだ。なぜなら、お前にはまだ未練がある」

 ない、と反論できなかった。
 だって、本当に好きだった。誰からも頼りにされてしっかりしているかと思えば、少し抜けたところもある。見た目は落ち着いているのにどこか目を引く雰囲気を持っている。今まで出会ったことのないタイプだった。

 二人きりで飲みに行くまで仲を深めてきた。やっとここまで来たと嬉しくなった矢先に、彼女から彼を紹介された。
 その時の心境など言い表せるわけもない。どんな話をしたかも思い出せないくらいの衝撃だけが胸に残っていた。

「それでも友達に本当のことを言わなかったのは、友達が大切だったからですよね?」

 本音は、違う。
 お似合いすぎて、言えなかった。あるいは「友達の幸せを願ういいおともだち」でいたかった。表面上でも、二人の悪者にはなりたくなかった。
 結局はこのざまだ。正直に行動できなかったことを悔いて、想いをこじらせたままでいる。彼を奪われたわけでもないのに彼女に当たり散らしてしまいたくなっている。

 二人が出会う前に告白だけでもしていれば、こんな現実にならずにすんだかもしれない。
 私と彼が結ばれる可能性だって少しはあったかもしれない。
 押し込めた後悔が怒濤の勢いでやってくる。
 いやだ、こんなの空しくなるだけなのに。どんなに頑張っても時間は戻せないのに。

「そうやって、どっちつかずの態度でいたツケが回ってきたってだけだ。自業自得じゃないか」

 もはや反論する気力もない。

「だから、もう本音をぶちまけちまえよ。その方が楽になるだろ?」

 まさに、悪魔のささやきだ。

「そうですね。優しいあなたが壊れてしまう前に、大本の原因を取り去ってしまいましょう」

 頭が変にふわふわしてきた。ゆっくり顔を持ち上げると、霞のかかった視界にあの生き物が映っている。最初と変わらないはずなのに、どこか違って見える。

「あなたの望みはなんだ?」

 私は。
 その先を告げたつもりが、アラームの音に上乗せされた。
 恐怖と安堵両方に、心臓が押しつぶされそうだった。
 私は、どっちにもなれない。畳む

ワンライ 編集

#CPなし
螺旋を描く悩み

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 一息つくために淹れた紅茶のカップを片手に、仕事場兼自室へと戻る。先ほど電話越しに頼まれた作業はもう終えたから、再び待機の状態だ。

 数年前からこうして、家族の自営業を手伝っている。一応正社員という扱いだが、感覚はアルバイトに近い。外勤が主なこの仕事の内勤は、待機が基本なのだ。
 やることがないわけではない。仕事に必要な荷物を受け取ったり、ほぼ毎日届くFAXやメールをチェックしたりと、一日のうちに不定期に発生する作業はある。
 ただ、待機が長いだけ。

 こう長いと、どうしてもいろいろ考えてしまう。
 例えば売り上げが落ちて食い扶持がなくなったら、他の仕事を探さないといけない。そうなったら正社員はまず無理だろうから、派遣社員かアルバイトになる。それで自分一人でも食べていけるのだろうか。

 今のうちに副業でも始めておくのが一番実行しやすい対処だと思う。副業といえば自分の好きなことや特技を活かすイメージが強い。
 なら、自分の強みは何だろう?

 メモ用紙とシャープペンをとりあえず置くも、ついため息がこぼれた。
 大学生の時にもやった「自己分析」。これが本当に苦手だった。自分を客観的に見るのは難しいし、両親に「私の強みってなんだろう?」と問いかけても明確な答えは返ってこなかった。つまり、そういうことだ。

 苦手なまま突き進んできたツケがこうして回ってきたのだと、無地な紙が叱咤する。半ば意地になって、とりあえず好きなことを抜き出してみた。
 写真を撮る。漫画を読む。旅行。カラオケ。スマホゲーム。料理……は料理教室まで通ってみたけど一向に楽しいと思えなかったから違う。

 ……これぐらいしかない。しかも、どうしようもないものばかり。
 写真はインスタに載せていたらバズった、なんてシナリオはありそうだが夢物語過ぎる。大体人目を引くような写真は撮れたためしがない。
 他にいけそうなのは旅行だが、例えば道中のレポをブログなどにまとめられるだけの文才はない。日記も三日坊主で終わることがほとんどだった。

 シャープペンを置いて椅子にもたれる。気持ちだけが焦るばかりで、全く行動が伴わない。伴えるだけの力がない。
 今から文章の勉強でもするべきか? それよりも「インスタ映え」しそうな写真を学ぶべきか? あるいはその両方か?

 頭を乱暴に掻いたその時、目の前のパソコンから通知音が鳴った。身体を起こして確認すると、取引先から添付ファイル付きのメールが来ている。圧縮されたファイルを開いて、中にある十枚以上の写真と共に、メール達を印刷した。

 世の中の事務仕事もこれくらい緩かったら、すぐ就職できそうなのにな。

Photo by Florian  Pircher(Pixabay畳む

その他SS 編集

#CPなし
彼女は可愛い王子様

「深夜の真剣物書き120分一本勝負」 さんのお題に挑戦しました。
使用お題は①宴席 です。
飲み会に勝手に参加した彼を怒る彼女。

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 帰り道、すれ違う他人がいちいちこちらを振り返るたび、恥ずかしくてなんでもないと言い訳したくなる。
 それでも、一度こうなってしまった彼女を止める手立ては、自然と熱を覚まさせる以外になかった。
「もうさ! どうしてわたしに黙って飲み会なんかに参加するのよ?」
「こうなるってわかってたし、俺がお前をああいう場に参加させたくないってのもわかってるだろ?」
 彼女の勢いは、わかりやすくほんの少しだけ弱まった。


 断ることが多いゼミの飲み会にこの日参加したのは、たまには顔を出せと友人にせっつかれたからだった。
 確かに、いつも世話になっている仲間たちとの付き合いは大事だと思って承諾したものの……驚いた。
 待ち合わせ場所に着くと、まるで「わたしも呼ばれていました」と言わんばかりに、ゼミのメンバーでない彼女もその場にいたのだから。にこやかに近寄ってきたときは正直背筋がかゆくなった。
「お前に声かけたあと知ったんだけど、いつの間にかメンバーに入ってたんだよ。黙ってたのは悪かったけど、まあ、仲良くさせてもらってるからいいかなって。華やかにもなるしさ」
 それが表面だけの謝罪だと知っている。
 俺が言うのもなんだが、彼女はモテる。瞳は感情をはっきり伝えるように大きく、目蓋も羨ましがられる二重。活発な性格らしく肩まで伸ばした髪は生まれながらの栗色で、男女分け隔てなく接するからか基本的に嫌味がない。
 だからこういう異性が大勢いるような場所にはなるべく参加させない、仕方なく参加した場合は俺がさりげない盾役となって守ると決めていた。
 この「さりげない」は結構大変だからこそ――なにせ敵をなるべく作らないようにしながら任務を遂行するのだ――内緒にしていたのに、一体どこから嗅ぎつけたのか。

「わかってないのはそっちもだからね」
 弱まったといっても他人に興味を持たれるほどの勢いには変わりないので、偶然見つけた公園に連れて行くことにした。ここで互いに頭を冷やしたほうがいいだろう。
「そっちも大概モテるの知ってるよね? わたしが言い寄ってくる女たちをブロックしまくってるの知らないの?」
 人差し指を額にぐいぐい押し付けて、間近で睨みつけてくる。そんな顔も可愛いから本気で怒れない、と素直に告げたら調子に乗りそうなので当然飲み込む。
「知ってるよ。感謝してる」
 そっとおろした人差し指を、手ごと包み込んで告げる。照れを隠すためか、彼女は思いきりそっぽを向いた。
 俺の隣をキープし続けて、友人たちとの会話が途切れた、あるいは混ざれそうな瞬間を狙って来ようものならすぐさま彼女が横槍にはいる。横槍、というとあからさまな印象を受けるが、俺もそうと自信が持てないくらい自然に意識を逸らしていた。

 自分で言うのはもっとどうかと思うが、俺もなかなかにモテる。彼女が言うには、女子ウケしそうな甘めのマスクで、腹が立つくらい文武両道、なのに驕る部分がないから同性からも嫌われにくくて、それがさらにモテる要因となっているらしい。
「久しぶりの王子様登場だったから、今日は一段とすごかったわよ。さすがにわたしのことマジウザって思われてもおかしくないかもね」
 そのわりには全く意に介していない。さすが、鋼の精神をもつだけある。
「俺も、久々のお姫様登場って感じだったから紹介してくれだのID渡してくれだのアピールがすごかったぞ。受け流すの大変だった」
 悪く言えば八方美人だから、「俺にも脈があるかも」と勘違いするのだろう。今まで一度も誰それが気になる、といった類の話を聞いたことのない身としては、ただただご愁傷様と拝むしかできない。
 まあ、仮にそんな話をしたものなら、相手が待っているのは破滅だけかもしれないが。

「お姫様とか……やめてよ。そういう柄じゃないわ」
 外灯に照らされた彼女の頬は、わずかに赤く染まっていた。伏せた目線も、普段とのギャップを考えると実に可愛らしい。
 実に女らしい反応に微笑ましくなる。目にした誰もがきっと、一発で恋に落ちるだろう。
 だから俺がいる。
「俺だって王子様なんて肩書、全然ふさわしくないね」
 俺を見上げた彼女は、悪戯をしかける子供のような笑みで頬をつついてきた。
「確かに、腹の中はいろいろ渦巻いてるものね~。わたし以上にエグい守り方するときもあるぐらいだし?」
「人聞きが悪いな。今日は一緒に頑張ってる仲間たちだったから、優しく丁重にお断りしたさ」
「エグい」方法を取るときは、彼女を好きな気持ちが暴走しているヤツを相手にするとき限定だ。例を挙げたら信用を失いそうだから心の中にしまっておく。

「とにかく。こういう飲み会にどうしても参加するときは、絶対わたしにも声かけて」
 目をそらすことを許さないとばかりに、頬を包み込まれてしまう。
「下手な虫がついてきたら困るでしょ。信じてるけど、やっぱり不安なの。わたしの目の届くところで守りたいの」
 大きな双眸がまっすぐに俺を射抜く。ある意味、王子様という称号は彼女にこそふさわしいとこういうときは特に思う。
「わかったよ。下手な誤魔化しはやっぱり通用しないみたいだし?」
「当たり前じゃない。何年同じ屋根の下で暮らしてると思ってんのよ」
「生まれたときから一緒だもんな」
 頭を撫でると、頬を小さく膨らませて振り払う。歳が同じなのに妹扱いをするなと言いたいらしい。
 そういう反応も可愛いからついやりたくなるのだが……これも言わないほうが身のためだ。
「そういうお前こそ、うかつに飲み会に参加するなよ。参加するなら俺にちゃんと言えよ」
 先に歩き出した彼女の背中に告げると、ひらひらと手を振っただけの返事をされた。
 本当にわかっているんだろうか? つい不安になるけれど、物心ついたときから彼女の一番が俺であると知っているから、きっと疑うだけ無駄なんだろう。畳む

ワンライ 編集

#CPなし
遅咲きない青春

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こちらのお題 に沿って書かせていただきました。

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「青春はいいものだからって、自分の欲に身を任せすぎるのはよくないって私は思ってたのよ」
「言ってた言ってた。だからあの頃の宮本さんはすごーく努力してたよね」
「そうよ。人生設計をしっかり立ててたわ。後悔したくなかったのよ」

 学生といえば青春。
 青春はいい。その時にしかできないことがたくさんあるから後悔しないよう、感情のまま好きに行動した方が絶対にいい。

 くだらないと思ってきた。
 所詮、その場限りの甘い誘惑。悪魔のささやき。それに身を任せすぎて、先に待つ未来は失敗したと嘆く我が身に決まっている。
 だから周りが恋に遊びに浮かれる中、私は人生の設計図を蜜に作り上げていた。
 こんな世の中だからこそ絶対に後悔したくない。安泰な人生を生きたい。
 目の前でニコニコと笑みを刻んでいる、数年ぶりに再会した元同級生のように、呑気に過ごしている暇はなかった。

「高三だったから当たり前かもだけど、それにしたってきっちりしすぎっていうか」
 彼の性格を考えれば、その返答はある意味妥当だった。私にはある意味でもなく妥当で必要な行動だった。
「皆川くんは遊び人だったものね。むしろ緩すぎよ」
 ビールの注がれたグラスを握る手に、自然に力が入る。
 目に留まった時は、友達と大きな声で笑い合ったり廊下でふざけ合ったり、ときには女子と楽しそうにお喋りしていたり、まさに青春の一ページみたいな光景を繰り広げていた。
「そう? むしろ年相応じゃない? ってかその言い方だといやらしーい響きに聞こえるんだけど~」
「そ、そんなわけないでしょ!」
 アハハ、と軽快に笑う彼に浮かぶのは苛立ちばかり。
 無駄に爽やか系な顔立ちなのが、また増長してくれる。
「私にも遠慮なく声かけてきて……近寄り難いって噂になってたの知ってたでしょ?」
「うーん、まあ知ってはいたけど特に気にならなかったよ。だって宮本さん優しい人だったし」

 思わず変な声が出た。私に対して優しいなんて形容使う人、初めてだ。もしかしなくてもからかわれてる?
 顔にも出ていたのか、皆川くんは目元を和らげて小さく笑った。
「優しいよ。まあ、厳しいとこもあったけど周りをすごくよく見てるし、困ってる人がいたらフォローしてたじゃん」
 そんなに彼に観察されていたのかと思うと、今度は恥ずかしさがこみ上げてくる。酒が入っていてよかった。
「だから、宮本さんのことスカウトしに来たんだもの」

 呆然と、彼を見つめた。
 何を、言っているの。
 そういえば、しつこく呼び出しを受けたからわざわざ来たのに、まだ具体的な理由を聞いていない。いきなり昔話から始めるから、つい乗ってしまった私も悪いのだけれど。

「俺の会社に入ってくれない?」
 テーブルに両肘をつき、その手のひらに顎を預けたポーズをしながら、さらりと彼は告げてきた。
 意味が、よくわからない。
 大体、「俺の」会社ってどういうこと。
 いきなり皆川くんが吹き出した。雰囲気をあっという間に台無しにされて、このまま帰ってやろうかと本気で考えてしまう。
「あ、ごめん、ごめんなさい。ただ、宮本さんが間抜けな顔してるの初めて見たから、つい」
「っ、ふざけてないで……!」
「実は、会社作ろうと思ってるんだ」

 耳を疑ってしまった。
 皆川くんが、学生の頃に遊びまくってた皆川くんが、起業だって?
「俺、事務とか細かい仕事がてんで苦手でさ。そんで、ぜひ宮本さんに……と思って。さっき会社辞めたって言ってただろ? 宮本さん的にはイラつくかもだけど、俺的にはすごいチャンスだと思ってるんだ」
 二年勤めた会社は、時間を重ねれば重ねるほど私の描いていた理想とずれた事実を突きつけてくる場所だった。転職先の目処もたてないまま辞めたのは、今考えると本当に私らしくなかったと思う。
 後悔はしていなかったけど、皆川くんに愚痴同然の告白をしていたのは完全に八つ当たりだった。順風満帆そう見えていたから、なんてひどい思い込み……だと今さら申し訳なく思っていたら、まさかそんな話を隠し持っていたなんて。

「……他に、人いないの」
「え、あ、俺入れたら三人いるよ。でもみんな、外回りタイプばっかでさ。実力も人脈も言うことなしなんだけどね」
 皆川くんもどちらかといえば同じタイプだと思う。起業にあたって人脈はとても大事だと聞いたことがあるから、少なくとも彼が勢いだけで始めたわけではないと理解はできる。
 わからないのは、たったひとつ。

「なんで、わざわざ私なんかを……」
 特別、仲がよかったわけじゃない。
 ただ、物珍しさでなのか皆川くんから話しかけてきたり、文化祭のような行事があった時は一緒に実行委員をやることがあったり、それくらいの付き合いしかなかった。
「いや、まあ……宮本さんしか思い浮かばなかったというか、宮本さんが、よかったというか」
 なぜか視線を逸らしながら言われた内容はとてもむず痒くて、でも不快じゃない、じんわりとした感触を胸の中に生んだ。
 とにかく変に落ち着かない。どうにかしたくて、無駄にビールを呷ってしまう。
「……どうせ、その三人も皆川くんみたいな雰囲気なんでしょう」
「そ、その通り。鋭いね」
 とりあえずというように呟いた言葉に、皆川くんも乗ってきてくれた。
 彼と似た者同士の集まりなら、会社も「そう」なるのは目に見えている。
「皆川くん昔とあんまりノリ変わってないし、作ろうとしてる会社もきっと、大人になっても子供の心を忘れないように! みたいな雰囲気になるんでしょうね」
「さすがの、分析力」
「私、そういうノリが苦手だってさっき言ったわよね」
 だんだん皆川くんが小さくなっていくように見える。
 変なの。あの頃はどっちかというと私が振り回されていた方なのに、今は逆だ。

「……宮本さん。苦手って言ってるわりに、顔、笑ってますけど」
 思わず言葉を詰まらせてしまった。
 そう、私は少しだけ、楽しいと感じている。皆川くんのにやにや顔を見ればからかわれてもおかしくないから、素直に認めたくなくてうまくごまかそうと思った、のに。
「私も今から遅い青春でもしてみようかなって思っただ、け……」
 何を、口走った? 思わず口元を押さえてももちろん効果はなく、皆川くんも固まっている。
「それ、ってもしかして」
「ちが、違うの。私は別に」

 それ以上、反論を続けられなかった。
 ……もしかして、心のどこかで羨んでいた?
 私は自分で納得したつもりであの学生生活を送っていたけど、その時は気づかなかっただけか、見て見ぬ振りをしていたのか。「くだらないことをやって笑い合いたい」という気持ちが少しあったのかも知れない。
 その時に気づいていれば……いや、それまでの私を考えたらきっと素直に認められなかった。
 私も、しょせんは子供だったんだ。

「ありがとう!」
 いきなり手を握られて、反射的に振りほどこうとしたけどさすが男、全然びくともしない。
「話、受けてくれるってことだろ?」
「ちょ、ちょっと」
「ほんとありがとう! すっげー嬉しい!」
 大げさじゃないだろうかと思いつつも、あの頃を思い出すような満面の笑顔に私も不思議とつられてしまう。
「ほんと、変わらないわね。まだ学生やってるみたいな気持ちになるわ」
 思わず呟いた言葉に、皆川くんはきょとんと私を見つめていたけど……

「宮本さんも変わらないよ。……ああでも、大人っぽくなったというか、きれいになったかな」

 心持ち、距離を詰められた気がする。
 今まで見たことのない、女の子なら誰でも喜びそうな笑みに変えて。
 今まで言われたことのない言葉を、向けられた。
「はは、顔真っ赤だ」
「っば、ばかなこと言ってないで! いい加減この手も放してっ」
 あっさり解放された手を固く握りしめる。
 心臓がやけにうるさいのは、珍しい一面を見せられたせいだ。物珍しくてびっくりしただけ。ほら、今はもうあの頃の皆川くんになってる。私みたいな人間にも話しかけてくるくらい人見知りしなくて、ちょっと人を小馬鹿にしたような、からかい混じりの笑みが似合う顔をしていて……。
「……もう、ほんと宮本さんさぁ……」
 溜め息とともに吐き出された声には、なぜか苛立ちが含まれているように聞こえた。
「な、なに?」
「いや? なんでもないよ。ごめんね」
 また、戻った。いや、かわされた?
 意味がわからない。相変わらず忙しい人だと思う。

「それじゃ、改めまして。宮本さん、よろしくお願いします」

 また、違う笑顔を向けられた。
 経営者としての覚悟を背負った、同い年なのにずっと大人に感じるものだった。

「……よろしく、お願いします」
 またうるさくなった心臓の上を、そっと握りしめた。畳む

お題SS 編集