星空と虹の橋の小説を掲載しています。

更新履歴

No.147

20250420005604-noveladmin.png

(画像省略)創作BL版深夜の60分一本勝負  のお題に挑戦しました。お…

ショートショート・BL

#ワンライ

ショートショート・BL

急に伸びた手は、誰も躱せない

20250420005604-noveladmin.png

創作BL版深夜の60分一本勝負  のお題に挑戦しました。お題は「終電」「泊まってく?」です。

-------

「あー終電逃しちったわー金曜だからってうっかり飲み過ぎたわー」
「あーそうですか。仕方ないですけどタクシーですね」
「って違うだろ! 泊まっていきませんかだろそこは」
「……わかってて言わなかったんですよ!」
「いいじゃん、お前と飲むの楽しいんだよほんと」
 後輩は盛大にため息をつきながらも、俺の提案をのんでくれた。
 出会ってから一年経つが、彼ほど気の合うヤツはいない。今はこんな態度だが、最初のころはそれはもう可愛くて仕方なかったものだ。
「どうぞ、散らかってますけど」
「今さらだろー。っていうか言うほど汚くないぞ、俺んちのほうがだらしないわ」
 お邪魔しまーす、と一応の断りを入れる。というのも、彼の部屋が二次会会場になるのも珍しくはなかったりする。
 本当にダメだと念押しされたら素直に引くぐらいの常識だってちゃんとあるし、彼も遠慮せずに言ってくる。それくらいの仲なのだ。
 でも、なんだろう。今日は少し、様子が違うような……。
 後輩がテレビをつけると、深夜帯にふさわしい内容のバラエティがやっていた。少しうるさいなぁと思ったら彼も同じ気持ちだったのだろう、すぐに消した。
「ビールしかないですけど、いいですよね?」
 頷くと、500ミリリットル缶を一本だけ持って、向かいに腰掛けた。
「あれ、お前は飲まないの?」
「僕は充分飲みましたんで」
 やっぱりなんか違う。はっきり断らなかったからと、無理強いさせてしまったか?
 いつもなら深い話を楽しんだりするのだが、今日は早めに帰ったほうがよさそうだ。
「……あのさ。俺の顔になんかついてる?」
「別についてないですよ」
「そ、そう? なんかこう、見つめられてるなぁって」
 こんなに読めない後輩の姿は初めてだった。なぜか怒られているような気にさえなってくる。いや、俺は俺で押しかけてしまったという負い目もあるが、それを抜きにしても変な気持ち悪さを感じる。

「いえ? ただ、ちゃんと考えてくれてるのかなって。僕があなたに告白したこと」

 酔いが一気に醒めるなんて、本当にあるんだ。
 缶、持ち上げる寸前でよかった。絶対に落としていた。
「ああ、やっぱり冗談だって思ってたんですね。センパイ」
 嫌みを存分に含んだ笑みを向けられる。こいつ、こんな顔もするんだ。
「だって全然態度変わんないんですもん。こっちは勇気出して告白したんですよ?」
 ……忘れていた。頭の隅に追いやって、彼の態度が変わらなかったからそれに全力で甘えて、いつしか、なかったことにしていた。
「っで、も」
「こっちの身にもなれ、ってやつですか? わかってます、あのときだって申し訳ないと思ってました。でも、無理だったんです。我慢できなかったんです」
 眉間に皺を寄せて、声を絞り出す。
 わかる、俺だって恋をまったく知らない人間じゃない。でも、でもなんで俺なんだ。確かに彼は好きだ、でもそういう目で見たことはない。あくまで可愛い後輩なんだ。
「だ、だって男だし年上だし! お前だって信じられないって思うだろ絶対!」
「好きになったのがあなただった、それだけです」
 泣くんじゃないかと心配になるほど、瞳が歪んでいる。正直、気にかける余裕はない。だってどうしようもない、どうにもできない。
「……だから、家にあげたくなかったんだ」
 そうつぶやいた後輩は俯いたまま、いきなりテーブルを乗り越えてきた。
「お、おいビールが」
「そんなの、どうでもいいです」
 いつもなら絶対ないのに、鼻を刺激するアルコールのにおいにくらくらする。
「いいですよ、泊まっていっても」
 強制的に視線を固定されて、どうにもできない。
「先輩を好きだって言ってる男の家に泊まるってことは、そのつもりだって受け取りますから」
 俺は全然そのつもりじゃない!
 喉の奥ではそう叫びたがっているのに、声が出ない。
 告白してきたとき以上の迫力を間近で浴びて、完全に押されていた。

「先輩はこれくらい荒療治しないと、わかってもらえないみたいですしね」

 無理やり重ねてきた唇は、震えていた。
 拒めなかったのはきっと、そのせいだ。


#ワンライ