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No.145

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創作BL版深夜の60分一本勝負  のお題に挑戦しました。お題は「魅力」…

ショートショート・BL

#ワンライ

ショートショート・BL

お互いがお互いに

創作BL版深夜の60分一本勝負  のお題に挑戦しました。お題は「魅力」です。

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 あいつ、絶対気づいてないんだろうなぁ。だから能天気な顔してあっちにもこっちにもふらふらしやがるんだ。
「あれ、眉間にシワ寄せてどったの? おれがいない間になにかあった?」
 能天気が隣に腰掛け、眉尻を下げて能天気に問いかけてくる。
「別に。誰に絡まれたとかそういうんじゃねえよ」
「そう? ならよかったけど」
 どうも人受けの良くない人相をしているようで、特に中高生時代は陰であれこれ言われたり、酔っ払ったお行儀のよくない輩に絡まれたりした。彼と出会ってから不思議と頻度はだいぶ減ったが、ゼロまではなかなかいかない。俺は彼の能天気さのおかげだと思っている。……口に出したことはないけど。
 でも、こいつがあまりに自覚ないから、ちょっとからかってやろうかな。
「お前の無自覚さに呆れてたんだよ」
「え、なになに? 無自覚ってなに?」
 そこそこ丸い目をさらに丸くする。こういうとこも魅力……じゃなくて。
「べつに。人気者は大変ですねえってだけ」
 二、三度瞬きを繰り返して、ようやく合点がいったらしい。丸すぎる目がわざとらしく細められた。
「寂しかった?」
「そんなんじゃねーよ」
 デート中とはいえ、友達に遭遇したらそりゃあ挨拶もすれば軽い会話もするだろう。加えて「まあ人気者なんだろうなあ」というなんとなくの予想も当たりとわかるくらい、みんなまぶしい笑顔だった。
「こいつは俺のだ」と嫉妬するより、みっともない臆病さが頭をもたげている。仮に俺を知り合いだと紹介したら、絶対ふさわしくないと笑われるに違いない。
 それくらい、彼は無自覚に、周りを明るく照らしまくっているんだ。
 ……あの友達のなかに、彼に惹かれている奴がいても、おかしくないんだ。
「確かに寂しそうっていうより、無駄にいらないこと考えてる感じだね」
 反論しようとした口は、両方の頬を若干強めに包まれて失敗に終わった。
「はっきり言うよ。それは単なる考えすぎだから全部忘れていいよ」
 ため息をついて両手を軽く払う。
「話も聞かないでよく言うぜ」
「聞かなくたって大体わかるよ。おれたち何年の付き合いだと思ってんの」
「せいぜい三年くらいだろ」
「それでも君のことはだいぶ理解してるよ。だからこそ考えすぎだって言ってるの。君はネガティブなところがあるから」
 ……見抜かれている。嬉しいような、悔しいような。
 彼は再び、頬に手を添えてきた。今度は労るような、優しい手つき。
「何回だって言うけど、おれは君が一番好きだよ」
 俺を見つめるふたつの瞳は純粋な想いが伝わってくるほどにきれいで、つい手を伸ばして触れてみたくなる。けれど実行はしない。手に入れられるけれど、そのまま眺めていたいから。
「君に一番ふさわしいのはおれだし、おれに一番ふさわしいのは君だけ。これからも変わらない」
「すごい自信だな」
 声を詰まらせて、なんとか返せたのがこれだった。ああもう、さっきからカッコ悪いところばかり見せている。
 目の前の笑顔がいっそう深まった。こいつ、絶対いろいろ見抜いてやがる。
「君だってそう思ってくれてるって、わかってるからね」

 人目につかないところとはいえ、誰が通るともわからない場所でなにをやってるんだ俺たちは。
 そう呆れても、彼の与えてくれるぬくもりにもはや抗えなかった。
 ――くそ、やっぱりこいつの人たらしぶりは危険だ。
 こうして、ずっと離れたくないという気持ちにさせられてしまうのだから。

#ワンライ