Short Short Collections
主にTwitterのワンライ企画やお題で書いたショートショートをまとめています。
男女もの・BLもの・その他いろいろごちゃ混ぜです。
2023年10月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
2023年9月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#CPなし
【300字SS】中身は、からっぽ?

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「育つ/育てる」です。
続きを表示します
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「ああ、少しだけど笑うようになってきたね」
うそ。私が? ありえない。
「あれ、怒っているのかい? ごめん、そういえばまだ顔を洗っていなかったね」
確かにあなたは毎日柔らかい布で拭いてくれる。それがないからといって別になんとも思わない。
「ただいま。ああ、寂しくさせてしまったか」
ただの幻覚よ。あなたはその通りの表情をしているけれど。
「ごめんよ、情けない姿なんて見せてしまって……でも、君は黙って受け止めてくれるんだね」
当たり前じゃない。
だって、私は人形。
「君はただの人形じゃない。感情が、心が育ってきているから、いろんな顔を見せてくれるんだよ」
——どうして、心を読まれた、なんて。
私、本当に、なの?畳む
【300字SS】中身は、からっぽ?

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「育つ/育てる」です。
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「ああ、少しだけど笑うようになってきたね」
うそ。私が? ありえない。
「あれ、怒っているのかい? ごめん、そういえばまだ顔を洗っていなかったね」
確かにあなたは毎日柔らかい布で拭いてくれる。それがないからといって別になんとも思わない。
「ただいま。ああ、寂しくさせてしまったか」
ただの幻覚よ。あなたはその通りの表情をしているけれど。
「ごめんよ、情けない姿なんて見せてしまって……でも、君は黙って受け止めてくれるんだね」
当たり前じゃない。
だって、私は人形。
「君はただの人形じゃない。感情が、心が育ってきているから、いろんな顔を見せてくれるんだよ」
——どうして、心を読まれた、なんて。
私、本当に、なの?畳む
2023年8月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#BL小説
恋路の始まりと信じていいの?
創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜景」です。
続きを表示します
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夜景がやたら綺麗に見えるのはたぶん、隣のこいつに恋しちゃっているからだと思う。浮かれパワーというやつだ。
仕事上ではよくつるむことが多いものの、プライベートは全く干渉せずだったはずが、どんな気まぐれか、彼から夕食の誘いを受けた。てっきりどこかの居酒屋だと思っていたのだが……
(ビアガーデンとはいえ、こんな夜景が堪能できるところとはね)
席がフェンスに近い場所だからなおさらよく見える。周りにカップルも多いし、たぶんそういう層向けなのだろう。
「どうしたどうした、飲み悪くね?」
しかし目の前のこいつは全然気にしていないらしい。まあ、いつでも「らしさ」を崩さない性格ゆえだ。
「ガラにもなく夜景きれいなーって思ってただけ」
「あ、だろ? ここ一人でも来るんだけど、景色いいから余計開放感あってたまらんのよ」
「ひ、一人で? カップル多いのに強いな」
「今日は金曜だから仕方ないさ。それ以外ならそんなでもないぞ」
「ていうかなんで俺を誘ったんだよ? 今まで俺らそういうのなかったじゃん」
さりげなくうまく質問できただろうか。片思い中の身としては正直、夜景よりもそっちが気になってビールもつまみの味も曖昧のままだった。
「ん? ああ、前から気になってた、ってのはあったかな。でもずっとバタバタしててなかなかチャンス掴めなかったっていうか」
ジョッキを置いて、彼は細めの瞳をますます細めて笑う。相変わらず爽やかな雰囲気を放ってやがる。
「オレら結構いいコンビだと思うのよ。オレって抜けてるとこあるけど、お前がいつもいい感じにフォローしてくれるから感謝してるんだぜ。そのお礼も兼ねてるかな」
その「抜けてる」ところに最初はわりとイライラしていた。何度言っても直らないし、そのうちこっちも助けてもらうことが増えたし慣れてもきたから、ある意味懐柔された気がしないでもないが。
「お、お前はプライベートは俺には見せるつもりないって思ってたよ。あくまで仕事上の付き合いっての? ほら、他のやつともあんまり飲みに行ったりしないじゃん?」
「ほー、やっぱよく見てんな」
そりゃあ好きなやつだから、観察力も上がるってもんだ。
「基本プライベートは一人で行動するのが好きなんだけど、お前は仕事のときも気が楽だし、お前ならいいかなって思ったんだよね」
薄暗い場所でよかった。頬が無駄に熱いから、絶対はっきりと赤くなってる。というかナチュラルに口説いてくるなんて、心の準備が全然できていない。前もってそういう雰囲気なり出しておいてくれ。
「……俺は、」
さりげなくを装ってビールを一口飲む。
「俺も、お前といると楽しいよ」
落ち着かない、心臓がうるさい、こんなこと言えるわけないのに、うっかりこぼれそうになった。酒と片思い相手の不意打ちの力は予想以上に強い。
「そう? よかった。なんて、実は結構自信はあったんだね。オレお前に好かれてるよなって」
特別な意味ではないとわかっているのに、俺は単純だ。
「どこまでもポジティブで羨ましいね」
「もー、素直に喜んでくれよ」
してるよ。表に出したら絶対ドン引きするくらい、心の中ではめちゃめちゃ顔緩んでるよ。
「ん、なんか言った?」
溜め息混じりに彼がなにかを言ったように聞こえたが、ちょうど背後で「かんぱーい!」と楽しそうな声と被ってしまった。
「気のせいだろ。よし、とにかく飲んで食おう!」
「俺あんまり酒強くないんだけど……」
とりあえず今は、この幸運に身を任せていよう。この男の笑顔をたっぷり堪能してやるんだ。畳む
恋路の始まりと信じていいの?
創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜景」です。
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夜景がやたら綺麗に見えるのはたぶん、隣のこいつに恋しちゃっているからだと思う。浮かれパワーというやつだ。
仕事上ではよくつるむことが多いものの、プライベートは全く干渉せずだったはずが、どんな気まぐれか、彼から夕食の誘いを受けた。てっきりどこかの居酒屋だと思っていたのだが……
(ビアガーデンとはいえ、こんな夜景が堪能できるところとはね)
席がフェンスに近い場所だからなおさらよく見える。周りにカップルも多いし、たぶんそういう層向けなのだろう。
「どうしたどうした、飲み悪くね?」
しかし目の前のこいつは全然気にしていないらしい。まあ、いつでも「らしさ」を崩さない性格ゆえだ。
「ガラにもなく夜景きれいなーって思ってただけ」
「あ、だろ? ここ一人でも来るんだけど、景色いいから余計開放感あってたまらんのよ」
「ひ、一人で? カップル多いのに強いな」
「今日は金曜だから仕方ないさ。それ以外ならそんなでもないぞ」
「ていうかなんで俺を誘ったんだよ? 今まで俺らそういうのなかったじゃん」
さりげなくうまく質問できただろうか。片思い中の身としては正直、夜景よりもそっちが気になってビールもつまみの味も曖昧のままだった。
「ん? ああ、前から気になってた、ってのはあったかな。でもずっとバタバタしててなかなかチャンス掴めなかったっていうか」
ジョッキを置いて、彼は細めの瞳をますます細めて笑う。相変わらず爽やかな雰囲気を放ってやがる。
「オレら結構いいコンビだと思うのよ。オレって抜けてるとこあるけど、お前がいつもいい感じにフォローしてくれるから感謝してるんだぜ。そのお礼も兼ねてるかな」
その「抜けてる」ところに最初はわりとイライラしていた。何度言っても直らないし、そのうちこっちも助けてもらうことが増えたし慣れてもきたから、ある意味懐柔された気がしないでもないが。
「お、お前はプライベートは俺には見せるつもりないって思ってたよ。あくまで仕事上の付き合いっての? ほら、他のやつともあんまり飲みに行ったりしないじゃん?」
「ほー、やっぱよく見てんな」
そりゃあ好きなやつだから、観察力も上がるってもんだ。
「基本プライベートは一人で行動するのが好きなんだけど、お前は仕事のときも気が楽だし、お前ならいいかなって思ったんだよね」
薄暗い場所でよかった。頬が無駄に熱いから、絶対はっきりと赤くなってる。というかナチュラルに口説いてくるなんて、心の準備が全然できていない。前もってそういう雰囲気なり出しておいてくれ。
「……俺は、」
さりげなくを装ってビールを一口飲む。
「俺も、お前といると楽しいよ」
落ち着かない、心臓がうるさい、こんなこと言えるわけないのに、うっかりこぼれそうになった。酒と片思い相手の不意打ちの力は予想以上に強い。
「そう? よかった。なんて、実は結構自信はあったんだね。オレお前に好かれてるよなって」
特別な意味ではないとわかっているのに、俺は単純だ。
「どこまでもポジティブで羨ましいね」
「もー、素直に喜んでくれよ」
してるよ。表に出したら絶対ドン引きするくらい、心の中ではめちゃめちゃ顔緩んでるよ。
「ん、なんか言った?」
溜め息混じりに彼がなにかを言ったように聞こえたが、ちょうど背後で「かんぱーい!」と楽しそうな声と被ってしまった。
「気のせいだろ。よし、とにかく飲んで食おう!」
「俺あんまり酒強くないんだけど……」
とりあえず今は、この幸運に身を任せていよう。この男の笑顔をたっぷり堪能してやるんだ。畳む
#CPなし
【300字SS】この身体は自由

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「鳥」です。
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——あれ? もしかして空を飛んでる?
首をゆっくり回して、足元まで見て、夢じゃないって、やっと信じられた。
嬉しい、嬉しい! 願い事って、ずっと願っていたら本当に叶うんだね。
ずっと鳥みたく、空を自由に飛びたかったんだ。
もう、ここから見える、変わらない景色にはうんざりしていたから。
だってわかるんだよ。自分のことだもん。
腕を羽のように伸ばして、行きたい方向に自然と身体が動く。
すごい。自由ってこんなに気持ちがいいんだね。
絶対手に入らないって諦めてたから、涙が出そうだよ。
——だから、二人は泣かないで。どうか囚われないで。
ほら、顔を見てよ。全然苦しそうにしてないでしょ?
もう、二人も自由になって。畳む
【300字SS】この身体は自由

毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「鳥」です。
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——あれ? もしかして空を飛んでる?
首をゆっくり回して、足元まで見て、夢じゃないって、やっと信じられた。
嬉しい、嬉しい! 願い事って、ずっと願っていたら本当に叶うんだね。
ずっと鳥みたく、空を自由に飛びたかったんだ。
もう、ここから見える、変わらない景色にはうんざりしていたから。
だってわかるんだよ。自分のことだもん。
腕を羽のように伸ばして、行きたい方向に自然と身体が動く。
すごい。自由ってこんなに気持ちがいいんだね。
絶対手に入らないって諦めてたから、涙が出そうだよ。
——だから、二人は泣かないで。どうか囚われないで。
ほら、顔を見てよ。全然苦しそうにしてないでしょ?
もう、二人も自由になって。畳む
2023年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#BL小説
たまらない瞬間
創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「汗」です。
「そういう」行為をしていますが、直接的な描写はありません。
続きを表示します
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全身のあらゆる箇所から湧き出る熱と奥から絶え間なく生まれる快楽におぼれながら、ふと、頬に当たる感触にうっすらと理性が戻る。
わずかに視線を上げれば、堪えるように眉根を寄せた彼の顔から、汗がたくさん浮かんでいる。そのうちのいくつかが、自分に垂れたのだ。
「っ、なに……?」
顎から今まさに落下しそうになっていたひとしずくを人差し指で拭うと、訝しげな視線を投げられた。
「……いいや。相変わらずえろいなぁって」
拭った人差し指をちろりと舌で舐める。
「相変わらずって、初めて聞いたよ? 俺」
「いつも思ってたよ? 言わなかっただけ」
わずかに視線を外して言葉を詰まらせている。照れているときの仕草だ。
普段どちらかというとクールな印象の彼からは想像できないくらい、最中のときはとても色っぽくて、むき出しになる素直な欲にあっけなく飲み込まれる。
眉間に深い皺を刻んだ表情は雄っぽさが全面に出ていてたまらないが、特に、熱をぶつけられているときに顔を打ってくる彼の汗に一番興奮する。
それだけ、自分自身に夢中になってくれているという証のようで。
それだけ、自分も彼を「溺れされて」いる証のようで。
好きになったのは自分からだったから、なおさら。
「ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「たまには振り回される側に回ってみたら? なんて」
舌を這わせた顎を押さえて彼がうろたえている。今日は少しだけ意地悪したい気分らしい。
「もう、いい加減にしな、って」
言葉が終わると同時に深く突かれて、思考が一気に塗り替えられる。
「もう一人で楽しむのはなし。こっちに集中して」
ささやきが終わると同時に唇にも降りてきた熱を、嬉々として受け入れた。畳む
たまらない瞬間
創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「汗」です。
「そういう」行為をしていますが、直接的な描写はありません。
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全身のあらゆる箇所から湧き出る熱と奥から絶え間なく生まれる快楽におぼれながら、ふと、頬に当たる感触にうっすらと理性が戻る。
わずかに視線を上げれば、堪えるように眉根を寄せた彼の顔から、汗がたくさん浮かんでいる。そのうちのいくつかが、自分に垂れたのだ。
「っ、なに……?」
顎から今まさに落下しそうになっていたひとしずくを人差し指で拭うと、訝しげな視線を投げられた。
「……いいや。相変わらずえろいなぁって」
拭った人差し指をちろりと舌で舐める。
「相変わらずって、初めて聞いたよ? 俺」
「いつも思ってたよ? 言わなかっただけ」
わずかに視線を外して言葉を詰まらせている。照れているときの仕草だ。
普段どちらかというとクールな印象の彼からは想像できないくらい、最中のときはとても色っぽくて、むき出しになる素直な欲にあっけなく飲み込まれる。
眉間に深い皺を刻んだ表情は雄っぽさが全面に出ていてたまらないが、特に、熱をぶつけられているときに顔を打ってくる彼の汗に一番興奮する。
それだけ、自分自身に夢中になってくれているという証のようで。
それだけ、自分も彼を「溺れされて」いる証のようで。
好きになったのは自分からだったから、なおさら。
「ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「たまには振り回される側に回ってみたら? なんて」
舌を這わせた顎を押さえて彼がうろたえている。今日は少しだけ意地悪したい気分らしい。
「もう、いい加減にしな、って」
言葉が終わると同時に深く突かれて、思考が一気に塗り替えられる。
「もう一人で楽しむのはなし。こっちに集中して」
ささやきが終わると同時に唇にも降りてきた熱を、嬉々として受け入れた。畳む
Powered by てがろぐ Ver 4.1.0.
template by do.
【300字SS】希望の防波堤
毎月300字小説企画 のお題に挑戦しました。お題は「つなぐ」です。
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「散々にやられたようだな」
宿屋に併設の酒場までようやく辿り着くと、出入口近くの二人席で一人飲んでいた男に声をかけられた。
「一人、か。仲間を失ったか」
物理的にも精神的にも、支柱だったものが消えた。つながりが、跡形もなくなった。
「……おっさん、何者?」
震えそうな全身を誤魔化すためでも、不信感ゆえでもあった。
男は無言で、グラスを傾けた。
ため息をついて、足を進める。ヤケ酒は止めだ。
「まだ、使命を果たすつもりか」
初めて、男の顔をまじまじと見つめた。
記憶の隅に引っかかる、印象的な緑の双眸は薄く濁っている。
まさか、この人は。
「歴代の勇者の悲願もある。諦めるわけにはいかない」
返ってくるものは、何もなかった。畳む