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2023年9月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「育つ…

ショートショート・その他

#[300字SS]

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【300字SS】中身は、からっぽ?


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「育つ/育てる」です。

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「ああ、少しだけど笑うようになってきたね」
 うそ。私が? ありえない。
「あれ、怒っているのかい? ごめん、そういえばまだ顔を洗っていなかったね」
 確かにあなたは毎日柔らかい布で拭いてくれる。それがないからといって別になんとも思わない。
「ただいま。ああ、寂しくさせてしまったか」
 ただの幻覚よ。あなたはその通りの表情をしているけれど。
「ごめんよ、情けない姿なんて見せてしまって……でも、君は黙って受け止めてくれるんだね」

 当たり前じゃない。
 だって、私は人形。

「君はただの人形じゃない。感情が、心が育ってきているから、いろんな顔を見せてくれるんだよ」
 ——どうして、心を読まれた、なんて。
 私、本当に、なの?

#[300字SS]

2023年8月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。使用お題は「夜景」です。-…

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#ワンライ

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恋路の始まりと信じていいの?


創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜景」です。

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 夜景がやたら綺麗に見えるのはたぶん、隣のこいつに恋しちゃっているからだと思う。浮かれパワーというやつだ。
 仕事上ではよくつるむことが多いものの、プライベートは全く干渉せずだったはずが、どんな気まぐれか、彼から夕食の誘いを受けた。てっきりどこかの居酒屋だと思っていたのだが……

(ビアガーデンとはいえ、こんな夜景が堪能できるところとはね)

 席がフェンスに近い場所だからなおさらよく見える。周りにカップルも多いし、たぶんそういう層向けなのだろう。

「どうしたどうした、飲み悪くね?」

 しかし目の前のこいつは全然気にしていないらしい。まあ、いつでも「らしさ」を崩さない性格ゆえだ。

「ガラにもなく夜景きれいなーって思ってただけ」
「あ、だろ? ここ一人でも来るんだけど、景色いいから余計開放感あってたまらんのよ」
「ひ、一人で? カップル多いのに強いな」
「今日は金曜だから仕方ないさ。それ以外ならそんなでもないぞ」
「ていうかなんで俺を誘ったんだよ? 今まで俺らそういうのなかったじゃん」

 さりげなくうまく質問できただろうか。片思い中の身としては正直、夜景よりもそっちが気になってビールもつまみの味も曖昧のままだった。

「ん? ああ、前から気になってた、ってのはあったかな。でもずっとバタバタしててなかなかチャンス掴めなかったっていうか」

 ジョッキを置いて、彼は細めの瞳をますます細めて笑う。相変わらず爽やかな雰囲気を放ってやがる。

「オレら結構いいコンビだと思うのよ。オレって抜けてるとこあるけど、お前がいつもいい感じにフォローしてくれるから感謝してるんだぜ。そのお礼も兼ねてるかな」

 その「抜けてる」ところに最初はわりとイライラしていた。何度言っても直らないし、そのうちこっちも助けてもらうことが増えたし慣れてもきたから、ある意味懐柔された気がしないでもないが。

「お、お前はプライベートは俺には見せるつもりないって思ってたよ。あくまで仕事上の付き合いっての? ほら、他のやつともあんまり飲みに行ったりしないじゃん?」
「ほー、やっぱよく見てんな」

 そりゃあ好きなやつだから、観察力も上がるってもんだ。

「基本プライベートは一人で行動するのが好きなんだけど、お前は仕事のときも気が楽だし、お前ならいいかなって思ったんだよね」

 薄暗い場所でよかった。頬が無駄に熱いから、絶対はっきりと赤くなってる。というかナチュラルに口説いてくるなんて、心の準備が全然できていない。前もってそういう雰囲気なり出しておいてくれ。

「……俺は、」

 さりげなくを装ってビールを一口飲む。

「俺も、お前といると楽しいよ」

 落ち着かない、心臓がうるさい、こんなこと言えるわけないのに、うっかりこぼれそうになった。酒と片思い相手の不意打ちの力は予想以上に強い。

「そう? よかった。なんて、実は結構自信はあったんだね。オレお前に好かれてるよなって」

 特別な意味ではないとわかっているのに、俺は単純だ。

「どこまでもポジティブで羨ましいね」
「もー、素直に喜んでくれよ」

 してるよ。表に出したら絶対ドン引きするくらい、心の中ではめちゃめちゃ顔緩んでるよ。

「ん、なんか言った?」

 溜め息混じりに彼がなにかを言ったように聞こえたが、ちょうど背後で「かんぱーい!」と楽しそうな声と被ってしまった。

「気のせいだろ。よし、とにかく飲んで食おう!」
「俺あんまり酒強くないんだけど……」

 とりあえず今は、この幸運に身を任せていよう。この男の笑顔をたっぷり堪能してやるんだ。

#ワンライ

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「鳥」…

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#[300字SS]

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【300字SS】この身体は自由


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「鳥」です。

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——あれ? もしかして空を飛んでる?
首をゆっくり回して、足元まで見て、夢じゃないって、やっと信じられた。
嬉しい、嬉しい! 願い事って、ずっと願っていたら本当に叶うんだね。

ずっと鳥みたく、空を自由に飛びたかったんだ。
もう、ここから見える、変わらない景色にはうんざりしていたから。
だってわかるんだよ。自分のことだもん。

腕を羽のように伸ばして、行きたい方向に自然と身体が動く。
すごい。自由ってこんなに気持ちがいいんだね。
絶対手に入らないって諦めてたから、涙が出そうだよ。

——だから、二人は泣かないで。どうか囚われないで。
ほら、顔を見てよ。全然苦しそうにしてないでしょ?
もう、二人も自由になって。

#[300字SS]

2023年7月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。使用お題は「汗」です。「そ…

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#ワンライ

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たまらない瞬間


創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「汗」です。
「そういう」行為をしていますが、直接的な描写はありません。

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 全身のあらゆる箇所から湧き出る熱と奥から絶え間なく生まれる快楽におぼれながら、ふと、頬に当たる感触にうっすらと理性が戻る。
 わずかに視線を上げれば、堪えるように眉根を寄せた彼の顔から、汗がたくさん浮かんでいる。そのうちのいくつかが、自分に垂れたのだ。
「っ、なに……?」
 顎から今まさに落下しそうになっていたひとしずくを人差し指で拭うと、訝しげな視線を投げられた。
「……いいや。相変わらずえろいなぁって」
 拭った人差し指をちろりと舌で舐める。
「相変わらずって、初めて聞いたよ? 俺」
「いつも思ってたよ? 言わなかっただけ」
 わずかに視線を外して言葉を詰まらせている。照れているときの仕草だ。
 普段どちらかというとクールな印象の彼からは想像できないくらい、最中のときはとても色っぽくて、むき出しになる素直な欲にあっけなく飲み込まれる。
 眉間に深い皺を刻んだ表情は雄っぽさが全面に出ていてたまらないが、特に、熱をぶつけられているときに顔を打ってくる彼の汗に一番興奮する。
 それだけ、自分自身に夢中になってくれているという証のようで。
 それだけ、自分も彼を「溺れされて」いる証のようで。
 好きになったのは自分からだったから、なおさら。
「ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「たまには振り回される側に回ってみたら? なんて」
 舌を這わせた顎を押さえて彼がうろたえている。今日は少しだけ意地悪したい気分らしい。
「もう、いい加減にしな、って」
 言葉が終わると同時に深く突かれて、思考が一気に塗り替えられる。
「もう一人で楽しむのはなし。こっちに集中して」
 ささやきが終わると同時に唇にも降りてきた熱を、嬉々として受け入れた。

#ワンライ

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「朝」…

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【300字SS】ここはあたたかくて、やさしくて、


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「朝」です。

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 太陽の光と熱を感じて、瞼を持ち上げ、身体を起こす。
 部屋着に着替えてリビングに向かうと、いつもの笑顔が瞳に飛び込んでくる。
「おはよう。今日も寝坊しないでちゃんと起きられたね」
 それに憎まれ口を返しながら、朝食の並ぶテーブルにつく。

 太陽の熱を感じて、瞼を持ち上げ、身体を起こす。
 部屋着に着替えてリビングに向かうと、変わらない笑顔が瞳に飛び込んでくる。
「おはよう。今日も寝坊しないでちゃんと起きられたね」
 それに憎まれ口を返して、朝食の並ぶテーブルにつく。

「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」

 いつまでも変わらない平和で穏やかな朝。
 これ以外の朝はいらない。どうか壊れないで。
 ……? どうしてそんな願いを?

#[300字SS]

2023年6月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「折る…

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#[300字SS]

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【300字SS】水底まで貫く光


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「折る」です。

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 私が折り紙で作るものには、なぜか命が宿る。
 いつからこんな力に目覚めたのか、私も周りもわからない。

 ——おお、怖い怖い。その得体の知れぬ力を二度と見せるでないぞ。
 ——その力、ぜひ我らの元で活かしませんか? 気味悪がられるより役に立つとわかれば、あなたも本望でしょう。

 向けられる感情に疲弊して、私は人目から逃げた。
(普通の人で、いたかった)
 無心で折った鶴が羽ばたき、頭上を旋回してから飛び立っていく。
 ……普通が無理なら、翼が欲しい。空を飛びたい。

「あの、今の鶴! あなたが折ったものですよね?」
「前に似た鶴を拾ったおかげで救われたから、どうしてもお礼を言いたかったんです」

 眩しい。温かい。
 これも、人の感情なの?

#[300字SS]

2023年5月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「待つ…

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【300字SS】「いい子」はもう終わり


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「待つ」です。

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「大人しく待ってなさい。私がいいと言うまで来てはだめよ」
「ここは危険だから。お前を痛い目に遭わせたくないんだ」

 待ったよ。充分待ったでしょ?
 何度も寂しさで埋めつくされて、立ち上がれないほどに絶望しても、そうやって足を止めたよね。
 二人の気持ちはわかってる。もう、小さな子どもじゃないもの。
 そうよ、私、こんなにも大きくなったんだから。
 ——だけど、やっぱり耐えられない。何年経っても、他の誰と触れ合っても、胸の中に空いた暗い暗い穴は、消えない。
 ねえ。私の親なら、私の気持ち、わかってくれるでしょ?

 ——ああ。二人の顔が歪んでる。
 だけどごめんね。お願いだから、もう、そっちにいかせて。

#[300字SS]

2023年4月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。使用お題は「桜流しの雨」「…

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#ワンライ

ショートショート・BL

雨降って幸運舞い込む


創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「桜流しの雨」「新生活」です。
BL要素はほとんどないです、すみません。。

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 頭に濡れた感触を覚えて空を見上げると、いつの間にか青空は鉛色へと変わっていた。
 時間がたっぷりあるのをいいことに飲みまくっていたら、また不幸に見舞われた。
「自覚なかっただけでそういう星の下に生まれたんだな、俺」
 急に勤めていた会社をクビになったのもそのせいだし、その足で酔いたくて酒を飲みに行ったのに酔えなかったのも酒が強いという不幸体質のせい。
 不幸のせいにしてしまえば、くっきり刻まれた傷の痛みも少しは紛れる気がした。
 どんどん雨脚が強くなってきた。思い出したが、朝の天気予報で「昼過ぎから強い雨が降り始めて、風も吹き始めるでしょう」なんて言っていた。遅刻しそうだったから折りたたみ傘なんてまったく頭になかった。とことんまでついていない。
 わざわざ傘を買うなんて馬鹿らしいし、どうせなら濡れて帰ってやる。
 とはいえ、まっすぐ帰る気にもなれなくて、駅までの道を遠回りで進むことにする。どうせこの街にはもう来ないから、最後にどういうものがあるかぐらいは確認してみてもいいだろう。
「……こんな街中に、公園なんてあったんだ」
 駅から少し離れた距離にあるからか、普通に散歩も楽しめそうな、そこそこの規模の公園だ。
 この街の雰囲気は繁華街寄りだと思っているが、ゆえに憩いの場なるものがあるイメージがなかった。
「そうか、桜、満開だったっけ」
 ざっと確認できただけで十本近くはあるだろうか、散策路を挟むように立っている。吸い込まれるように近づくと、地面に薄桃色の絨毯ができつつあることに気づいた。ついこの間満開を迎えたとネットニュースでも言っていた気がするが、もうこんなに散ってしまっている。
「これから雨風強まるみたいだし……お前たちも、不幸だな」
 なぜか涙がこみ上げそうになる。人外でも仲間が見つかったことに孤独感を拭えたからなのか、よく、わからない。
「あの、大丈夫ですか?」
 急に話しかけられて、思わず背筋が伸びた。
 振り返った先には、作業着とわかる格好をした若い男性が怪訝そうにこちらを見つめている。
「雨強くなってきてますし、雨宿りするならすぐそこに屋根付きのベンチありますよ」
「……君、ここで働いてる人?」
「え、はい」
 公園で働いている人というと、個人的に年齢層が高いイメージだった。アルバイトかもしれなくても、珍しい。
「ああ、気を悪くしたらごめん。公園で働く若者ってイメージがなかったからさ」
「あなたも若者なんじゃないですか?」
「若く見える? 一応三十近いんだけどね」
 明らかに彼の目が見開かれた。昔から年相応に見られないことは慣れている。
「あの、なにかあったんですか?」
「え?」
「すみません、なんかすごく悲しそうに見えたんで」
 そんなに顔に出ていたのか。急に恥ずかしくなってきたが、うまく誤魔化すすべも見つからない。
「っと、ほんとに雨強くなってきましたね。変なこと言ってすみません、早く雨宿りを」
「会社、急にクビになっちゃったんだよね」
 笑ったつもりだったが、情けなく息が漏れただけだった。
「覚えがないことで犯人扱いされてね。反論したんだけど無駄で、事が大きいからもう会社に来るなって言われちゃって」
 もう怒りも混乱もしない。ただ無気力だった。この先のことも考えられないし、たぶん、しばらく休みたいと全身が主張しているのかもしれない。
 黙って聞いていた彼が、無言で腕を引っ張った。連れて行かれるまま従うと、屋根付きのベンチに辿り着く。
「いきなりすみません。このままじゃお互い風邪引くんで」
「いいよ、ありがとう。ごめんね、いきなり愚痴っちゃって」
「いえ、今でもそういうとんでもない会社ってあるんですね。びっくりしました」
 彼は会ったばかりの他人に、本気で同情しているようだった。
「でも、無責任な言い方かもですけど、そういう会社ならどんな形でも辞められてよかったんじゃないですか」
 正直、本気で驚いた。胸の中心を一陣の風が通り抜けたような、不思議な爽快感が残っている。
「そんなクソみたいな会社のことをずっと引きずってたらもったいないですよ。さっさと忘れて、いいところ見つけましょう」
 一生懸命、彼が励ましてくれているのがわかる。その姿がとても可愛らしくて、嬉しくて……気づけば、口端が持ち上がっていた。
「え、な、なんですか?」
「あ、ご、ごめん。その……すごく、ありがとうって思って」
 少し低い位置にある彼の頭を、子どもにするように撫でていた。バツが悪そうに視線を逸らした彼の頬がはっきりと赤く染まっている。
「そうだよね。いつまでも恨みつらみを向けてたって仕方ないよね。鬱にでもなりそうだ」
「ですよ。でも、ちょっとは休んだ方がいいと思います」
「確かに。ってことで、またこの公園に遊びに来てもいい?」
 再び向けられた瞳が、丸い。
「そりゃ、もちろん構いませんけど」
「正確には、君に会いに来てもいい?」
「お、おれ?」
「君と話してると落ち着くんだよね。励みになるんだ」
 今度は、頬が桜のようにほのかに染まる。
「仕事の邪魔にならないなら、まあ」
 お礼を言ってまた頭を撫でると、今度は軽く怒られてしまった。なお、迫力は全然なかった。

 最後の最後で、思わぬ幸運が舞い込んだ。
 我ながら現金だと呆れながらも、彼との出会いは運命のように感じていた。

#ワンライ

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【300字SS】継がれゆく


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「靴」です。

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 桜を思わせる薄桃色のハイヒールは、私の憧れだった。履けたら一人前の大人になれる気がしていた。
「ふふ、有希にはまだ大きいわね」
 ぶかぶかの足を見て微笑んでいた母が、履いている姿を見たことはない。
「お母さんはもう、似合わないからね。そうね、有希が履いた方がいいわ」
 時々、母がハイヒールを寂しそうに手入れしていること。私の記憶にない、父の名前を呟いていること。
 歳を重ねて、私はその素振りの意味を知った。
「遠慮しないで。大事にしてくれたら嬉しいわ」
 笑顔と言葉に嘘はない。それでも、確かな哀感さがにじみ出ていた。

 今、私の足元をあのハイヒールが彩っている。
 二人分の思い出はちょっと重いけれど、心はあたたかい。

#[300字SS]

2023年3月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。使用お題は「夜桜」です。続…

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ショートショート・BL

現実を忘れられるなら、今は


創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「夜桜」です。

続きを書きました→『夢から少しずつ、現へ』

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 夜風が頬を優しくくすぐり、淡いピンクの花びらを少しずつ散らす。
 また、「ここ」に来てしまった。
 かすかに聞こえてくる、浮かれた声が耳障りで仕方ない。こっちの気も知らずに、なんて無駄な八つ当たりを繰り広げてしまう。
 意味なんてない。何度「ここ」に来ても、失ったものはもどらない。時は巻き戻らない。
 残された側がただ、現実を受け止めきれていないだけで。


「どうも、こんばんは」


 桜の花びらが、ひときわ多く舞い散る。
 その散った先、木の幹に着物姿の男が立っていた。

「こん、ばんは」

 いつの間に? 少なくとも来たときは誰もいなかった。

「今宵も来てくださいましたね。ただ、とても花見を楽しむようなお顔ではありませんが」

 薄桃色の長い髪を揺らして近づいてきたその男は、慈しむような表情をしていた。改めて見ると、とても人間とは思えない容貌をしている。

「あの、今夜も、って」
「私は知っています。あなたも、かつて隣にいた方のことも」

 喉を絞められたような感覚が襲う。足元がふらついて、尻餅をついてしまった。

「……あなた、誰なんですか。なんで、そんなこと」
「信じてもらえないのを承知で告げますが、私はこの桜の木の精です。ですので、あなた方がこの時季を迎えるたび足を運んでくれていたのを知っていました」

 このあたりで一番大きいというわけでもなかった。それでもあの人と見つけたとき、お互いに特別目を奪われた。他に客がいないのを不思議に思ったものだ。
 何年も通ううちに、すっかり二人だけの特別な場所となっていた。
 その桜の、精だって?

「ちょ、っと待って。ほんと、意味が」
「あなた方は毎年、私を愛おしく見守って、時には優しく触れてくださいましたね。そのおかげで私も立派に咲き誇れていたのです」

 記憶がよみがえっていく。必死に蓋をした想いが、にじみ出していく。

「特にあなたは、ただまっすぐに毎年私に会いたいと願ってくれていました。本当に、嬉しかった」

 肩に触れる感触は、あの人よりも、柔らかい。

「このようにお会いするつもりはありませんでした。ですが、心配で。あなたまで、そのお命を失ってしまいそうで、黙って見ていられなくなりました」

 目の裏が熱を帯びていく。あの日、とっくに涙など涸れ果てたと思っていたのに、まだ出し足りないのか。

「……俺なんかがいなくなったって、君には関係ないだろ」
「いいえ、関係ありますとも」

 意外に近くから聞こえた声にゆっくり顔を上げる。
 年齢不詳、皺一つない顔、中性的過ぎて二次元の世界でないと浮いてしまう容姿。
 ああ、確かに彼は人間ではない。

「あなたがいなくなったら、きっと私はすぐさまこの身を枯らしてしまう。会えなくなるなんて、耐えられません」

 肩から細かい震えが伝わってくる。茶色と緑のオッドアイが、今にも涙をこぼしそうに不安定に揺れている。

「……俺がいなくなっても、悲しんでくれる人なんていないって思ってた」

 両親はとうに他界した。特別仲のいい友人はいない。
 あの人が、すべてだった。
 彼が緩く首を振る。

「少なくとも私にとっては、あなたは命の恩人みたいなものです。これからもいてくださらないと、困ります」


『そばにいてくれよ! お前がそばにいてくれないと……俺は、もう、生きていけない』
『お前が俺をこんなにしたんだぞ! 責任、とれよな……!』


 やけくそ気味に、あの人に投げつけた告白とは呼べない言葉の数々を思い出す。
 受け入れてくれたときの、豪快で気持ちのいい笑顔を思い出す。
 まさか立場が入れ替わるとは、人生は本当にわからない。

「今度は私が、あなたを護る番です。護らせてください」

 両手を包み込むように握りながら、まるでプロポーズのように彼は告げる。

「……護るって、君、ここから離れられないんじゃないか」

 変なところで現実的になる癖がここでも出てしまった。

「それは今から考えます。どうにかしますのでご心配なく」
「わ、わかったよ。でも今は大丈夫だから」

 本当に思考を煮詰めそうになっていたので慌てて止める。

「また、会いに来るよ。約束する」

 彼のせっかくの厚意を無駄にするのは気が引けるし、どうせなら非現実に身を置くのも悪くないと思い始めていた。
 現実を普通に生きるのは、まだ、つらい。

「……はい。願わくば、あなたの一時の、拠り所となれますよう」

 向けられた笑みは、どこか寂しそうに見えた。

#ワンライ

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くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。使用お題:「阿…

ショートショート・BL

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片翼で鳥は飛べない


くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「阿吽の呼吸」「雛」です。

お題に触れているのは最初だけで、後半はお題とあまり関係なくなってしまいました😅

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「西島、そこを曲がった先だ!」
 頷いた彼は走るスピードを一層上げる。見失わないよう懸命に足を動かした。
 予想通り道を塞ぐように立ち塞がっている数人の敵に、早くも西島は踏み込んでいた。相変わらず鮮やかな体術を駆使して、果敢に攻めてくる者たちを次々なぎ倒している。
 ふと気配を感じてさりげなく視線を配ると、彼の死角になる位置から銃を構えている仲間がいた。素早く懐にあるナイフを投げつけて距離を詰め、押さえつける。
「死ぬのはお前のようだな」
 後頭部に突きつけられたのが何か、説明されるまでもない。
 ——落ち着け。焦る必要は全然ない。
「馬鹿だな。気づいてないとでも思ったか?」
 身震いしたくなる気配が近づいているが、相当鈍いのか察知している様子はない。
 のんきに訊き返してくる声は、途中で汚い悲鳴に変わった。
「大丈夫? 篠崎」
「ふん、間に合ったか」
「ひどい、せっかく助けてあげたのに」
「ばーか。お前なら余裕で間に合うって信じてたからだよ」
 先ほどまでの奮闘が嘘のような、どこかのんびりとした口調と雰囲気につられそうになりつつも報告を入れて、待機している仲間が来るのを待った。


「まったく、仕事のときは無駄に活躍するのにプライベートではこれだもんな」
「しょうがないじゃん。おれ、ほんと生活能力なさすぎるんだもん」
 仕事のときはどちらかというと西島主体で動くことが多いが、その舞台から降りた瞬間、完全に役立たずと化す。もはや雛のように後をついて回るだけと言っても過言ではない。
 片づけできない、料理できない、時間通りに起きられない、とにかくないない尽くし。
 初めて会ったときは、こんな人間が世の中にいるのかと衝撃を受けたものだ。
「篠崎のおかげで毎日生きていられるから、ほんと感謝してるんだよ」
「どうせなら仕事でそれくらい評価されたいね。どうしたって目立つのはお前だから」
「大丈夫だってー。おれだって篠崎のいないとこですごく言われるよ。お前は篠崎がいないと輝かないとかお前を完璧にフォローできるのは篠崎しかない感謝しろとか」
「せめて僕の前で言ってくれ……」
 文句を言いつつも、内心にやにやしていた。こういうのは自分のいないところで褒めてもらうほうが嬉しさ倍増だったりする。……まさか、それを見越して? なんたって仲間は彼に負けず劣らず個性派が揃っているから。
 作った夕飯をテーブルに並べていると、西島がにこにことこちらを無駄に見つめていた。はっきり眉根を寄せる。
「また余計なこと考えてるなお前」
「そう? おれは嬉しいなーってしみじみ実感してるだけだよ」
「嬉しい?」
「だって職場だと完璧人間みたいに思われてる篠崎がおれの前だと遠慮なく愚痴るから」
 変な声が漏れた。くそ、やっぱり言った通りじゃないか。
「人間ずっと気を張ってると精神やられるし? お前は生活面で僕に迷惑かけてんだからそれくらいいいだろ」
「おれなんにも言ってないじゃん。ふふ」
 最後の意味深な笑いはなんだ、気持ち悪い。突っ込むのは絶対面倒だからしないけれど。
「な、なんだよ?」
「そういうとこがかわいいなーって思ってるんだよ。いつも」
 掴まれた腕が全然ふりほどけない。見た目はぼんやりしているが、少なくとも力は自分より上なのだ。
「いらんことしたらメシ食わせないからな」
 絶対この時間にはふさわしくないアレコレをされる。先手を打たねば。
「的確に弱点突いてきたね。さっすがパートナー」
「ありがたくない褒め言葉をどうも」
 何度そっちのペースにのまれるという屈辱を味わってきたと思ってる。
「おっと、力ずくも禁止だ。作るのもやめるぞ」
 一番の好物である自分の手作り料理も存分に活用させてもらう。
「むう、恋人に向かってひどくない?」
「タイミングを考えろというだけの話だが?」
 ようやく解放された。と安堵したのが間違いだった。
「おれが今食べたいのは篠崎だけ、なんだけどな」
 最高に頭の悪い台詞だが、耳元で囁くのは反則じゃないか。こいつもピンポイントに弱点を突いてくる。
「なんてね。君のご飯が食べられなくなるのはいやだから、全部終わったあとでいただくよ」
 ふざけるないい加減にしろ!
 という反撃は、わざとリップ音を響かせたキスをされ、素早く逃げられたせいでタイミングを逸してしまった。
 真面目な声を作ってまで本当にバカとしか言えない。でもそんなバカと飽きずに一緒にいるのだから、人のことは言えない。
「しのざきー、早く食べようよ」
「誰のせいだよ」
 呆れながらも、口元が緩んでいるのは隠せなかった。
 ――明日朝早いから、いただかれるのは全力で拒否するが。

#ワンライ

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創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。使用お題は「吐息」「ゼロ距…

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隣の幼なじみがマジです


創作BL版深夜の60分一本勝負 のお題に挑戦しました。
使用お題は「吐息」「ゼロ距離」です。

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「いいよ。考えてやるよ」

 もちろん冗談のつもりだった。
 今まで自分自身そんな気配を感じたことは一ミリもなかったし、これからも起きるわけがないと信じていた。


 彼は幼なじみで一番の友達だった。
 普段は自分のあとをついて回る甘えん坊かと思えば、言うときははっきり言うし、彼が前に出るべきと己で判断したときの動きは全く迷いがない。
 まさに「守り守られる」という言葉が似合う関係だった。
 それが、なんだ。急に「ミツが好きだ」と真面目な顔で告白なんかしてきて。
「そういう意味で好きって、俺は違うぞ」
「わかってる。ただ、言ってみただけだから」
 明らかに狙って言ったと、もちろんわかっていた。彼、ユウキは大事なことを「ついうっかりこぼす」性格ではない。
「まあ、これで友達やめるつもりはないけど」
「相変わらずわがままだな。俺が気持ち悪いから絶対いやだ! ってごねたらどうするんだよ?」
 てっきり泣きついてくるかと思ったが、ユウキは熟考している。嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「二度とそんなこと言えないように無理やり説得しちゃうかも」
 予感は当たっていた。本当に降参するまで諦めなさそうだから冗談に聞こえない。
「でも、どうするの? おれ、今のところ諦めるつもりは全然ないんだけど」
 その訊き方は正直ずるいし困る。たとえば絶対友達以外ムリ! ときっぱり言っても意味がないということになる。
「どうにもならないだろ。お前と恋の始まりなんて見える気配すらないね」
 しかし、よくも悪くも諦めの悪いのがユウキだった。
「恋の始まり……ときめき?」
 顎を触りながら大真面目につぶやく。
「ほら、相手にときめきを感じたとき『これって恋?』みたいに自問するやつあるじゃん。それだ」
「待て待て、一人で勝手に話進めんなって」
 さらに嫌な予感が強まった気がしてならない。
 ユウキは一歩距離を詰めると満面の笑顔で見上げてきた。
「ねえ、ミツをときめかせられたらさ、おれと恋人同士になること真面目に考えてくれる?」
 アホか、と切り捨てようとしてとどまる。
 たぶん彼は諦めないであれやこれやと手を尽くして条件をのませようとするだろう。もっと面倒になるのは勘弁してほしい。
「いいよ。考えてやるよ」
 絶対にユウキを親友以上の色眼鏡で見ることはない。
 自分の感情を信じていたから、敢えて乗ってやった。諦めて今のポジションのままでいることを選ぶ未来しか見えていなかった。
「ほんと? ありがとう!」
 語尾に音符マークでもついていそうな言い方ではあったが、まあ、しょせんは男だしな……。思わず苦笑がこぼれる。

「約束したのはそっちだからね。覚悟してよ?」

 一瞬で、ユウキの双眸が視界を埋めつくす。緩やかな月を描いている。

「そんなに無防備で大丈夫? おれ、調子に乗っちゃうかもよ?」

 唇に、吐息がかかる。すべての神経が奪われてしまったように身体が動かない、突き飛ばしたり茶化したりできない。
「まあ、ここで無理やりしても意味ないし、宣戦布告ってことで」
 こんな刺激的な宣戦布告があるか。
 ――初めて、ユウキの恐ろしさが身にしみた瞬間だった。

#ワンライ

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くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。使用お題:「苺…

ショートショート・その他

#ワンライ

ショートショート・その他

苦いイチゴはもういらない


くるっぷの深夜の真剣創作60分一本勝負 さんのお題に挑戦しました。
使用お題:「苺」「運命」です。

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「今日こそこのイチゴでケーキを作ってくれ!」
「だから無理」
 ばたりと玄関のドアを閉めると、いつもの捨て台詞を残して彼は帰って行った。
 諦めの悪いその根性だけは評価する。するけれど、どうして私がわざわざケーキを作ってやらないといけないの。
 ため息をついて、ドアに寄りかかる。
 ケーキ作りはもう、二度としない。あの日そう決めたのに、どういう運命の悪戯だろう。
 昔、賞を取ったときの記事かなにかを見たらしいあの男は、たまたま同じマンションに引っ越してきた私の顔を見て開口一番「ようやく君の作るケーキが食べられる!」とキラキラの笑顔で告白してきた。
 理由を聞いたら、デコレーションされたイチゴケーキの写真に「一目惚れ」したらしい。写真でこれなら、絶対味も素晴らしいと思ったとかなんとか。
『今日まで全然ケーキを見つけられなかったけど、まさかこんな運命が待っているとはね!』
 こっちは最悪だ。せっかく辞めたのに、ああして求められて、たまったものじゃない。
 じわりと胸の奥から黒い染みが広がりそうになって、慌てて首を振る。あれはもう過去のことだ。あのとき、何度も何度も己に言い聞かせたじゃないか。


「やあ、今日のイチゴはとっておきだぞ。前から食べてみたかった高級イチゴなんだ。君も作ってみたいって思うんじゃないかい?」
 今日も彼は諦めず、眩しい笑顔で玄関先に立っている。
 余計なトラブルにしたくなくてきつい言葉を使うのは避けていたけれど……もう、いい加減我慢するのはやめよう。
「だから、作らないって言ってるでしょう。何度断ればわかってくれるの。あなた、相当鈍いみたいね」
 精一杯睨み付ける。初めて笑顔以外の表情を向けられて、なぜか視線を外してしまった。
「私は作りたくないの。いくら持ってこられても無理。こんなこと、今日で最後にして!」
 さすがにわかってくれるだろう。一息ついてから、目線を持ち上げる。
「わかった。今は、作りたくないんだね」
 また、彼は笑っていた。本気で理解できなくて頭が混乱する。
「でも、僕は本心じゃないと思ってるんだ。なんというか……君が抱えてる何かをなくせれば、解決するんじゃないかって」
 鼓動が一瞬うるさく胸を叩いた。事情は一切話していないのに、なぜ。
「僕が助けになるよ」
「簡単に言わないで!」
 反射的に叫んでいた。赤の他人がどうにかできるならとっくに解決している。
「一人で抱えているとどんどん辛くなるから。味方なんて誰もいない、自分のことは自分でしか面倒見れない、そうやって閉じこもっていってしまうんだ」
 まるで彼自身に言い聞かせているように聞こえる。雰囲気もまるで変わったように感じたが、すぐにその違和感は消えた。
「だから、ね? ちょっとだけでも、試しになにも知らない僕に寄りかかってみるっていうのはどう?」
「……いいから、帰って」
 力なく彼の身体を押して、ドアを閉める。
 あんなに固かった決意が、ほんの少しでも揺らいでいるのを感じる。
 情けない。一人で消化しようと決めたのに、絆されるつもり?
 ……あんな思い、もうしたくないでしょう?
 いつもはうっとうしいだけのあの笑顔が、こびりついて離れなかった。

#ワンライ

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ショートショート・男女

#[300字SS]

ショートショート・男女

【300字SS】永遠に


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「おくる」です。

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 見送った日の背中が未だに忘れられない。
『……僕を信じて、待っててくれ』
 向かった場所は教えてくれなかった。連絡を取るのも禁じられた。お互いを唯一つないでいるのは、ネックレスに通した婚約指輪だけ。
 苛立ち以上に不安が大きかった。最悪の想像ばかりが脳裏をよぎって仕方ない。
「ごめんね、説得できなかったよ」
 ようやく、ようやく逢えた彼は、目を伏せながら当たり前のようにそう告げた。
 訊き返す声は、出なかった。
「人間と結婚したら君を殺すと言われた。秘密を知られるわけにはいかないって」
 寒い。足の力が抜けていく。
「わかってくれるよね? 僕は、君を誰にも渡したくないんだ」
 この感触は、薬指から?
 ……私、笑えてるかしら

#[300字SS]

2023年2月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「甘い…

ショートショート・男女

#[300字SS]

ショートショート・男女

【300字SS】甘い言葉をくれるひとは


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「甘い」です。

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「貴方の声は簡単に私を虜にしてしまうの。耳が蕩けるようよ」
「なら僕は『君の瞳も格好いい声も柔らかい髪も、全部僕を虜にして離さない……君はまさに運命なんだ!』」

「「いやいや、甘すぎ!」」

 二人してお腹を抱える。まさか一言一句綺麗に揃うなんて、素晴らしい奇跡だ。
「ああ、こんなに笑ったの久しぶりだよ」
 笑いで生まれた熱が消えていく。現実が代わりに降り積もる。
「これで、きっと穏やかにいける」
 白いベッドに腰掛けたままの彼は、こうなって幾度目かの苦笑を零す。
「身体がなくても、僕はずっと君と一緒だ。今度は夢で、たくさん逢おう」
 意識して唇を持ち上げた。
「……忘れないで」
 忘れないよ。あなたが最初で最後だもの。

#[300字SS]

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深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。お題は「①只…

ショートショート・その他

#ワンライ

ショートショート・その他

偶然か運命だったのか


深夜の真剣物書き120分一本勝負  のお題に挑戦しました。
お題は「①只者ではない」を使いました。

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「あたし、実は女優やってるのよね〜」
 目深にかぶった帽子、首元で雑にくくられた髪型、体型にまったく合っていないぶかぶかトレーナーにジーンズ。
 漫画に出てきそうな黒い太フレームのレンズなし眼鏡を外して笑いかけてきた瞬間、変な声が出た。
 本物だ。芸能に疎い自分でも知っているくらい、知名度は抜群に高い。
 眼鏡が制御装置にでもなっているんじゃないか? はんぱないオーラをびしばし感じる。メディア越しより何倍も可愛い。いい加減な服装も不思議と似合っているようにすら見えてしまう。
 まさか、困っているところを助けただけでこんな奇跡が起ころうとは。なけなしの勇気をたまには振り絞ってみるものだ。
「その反応見る限りだと、あたしのこと知ってくれてるんだね。ありがとう! 嬉しい」
「い、いえそんな、恐縮っす」
「さっきの男気どこいったの〜? そんな緊張しないで、ね?」
「い、いや、芸能人と会ったの初めてだし、ほんと可愛いし、むりっすよ」
 無邪気な笑顔が心臓に悪い。自分が今どんなみっともない表情をしているのか、想像もしたくない。
「そう? これでも昔はめちゃめちゃ地味だったんだけどね。いじめられたりもしたし」
 本気でびっくりしてしまった。彼女の表情を見る限り嘘とは思えないし、一体どんなやつがそんなひどいことをしていたんだろう。
 ふと、俯いた彼女がなにかを呟いたような気がした。あくまで気がしただけで、内容はもちろん聞き取れなかった。
「あ、そうだ。ねえ、これもなにかの縁だし……ひとつ、お願いしてもいいかな?」
 小さい顔の前で両手を合わせて、覗き込むように見つめてくる。あざといのにやっぱりかわいい。
「さっきのヤツが諦めるまで、あたしの彼氏になってくれない?」
 すんでで口元を押さえた。な、なにを言い出すのかこのひとは。出会ったばかりの赤の他人になんてことを言い出すんだ!
「君は信用できる人だってあたしのカンが言ってるのよ。あの男気にもほんと感動したし」
 このまま黙っていたら勢いのまま決定されてしまう。確かに芸能人とお近づきになれる夢のような展開ではあるけれども、だ。
「ま、待ってくださいって! ほら、今ってSNSとかで簡単に炎上する時代でしょ? 万が一隠し撮りでもされたら俺、たまったもんじゃないっすよ」
 困っているのに申し訳ないが、リスクはなるべく避けたい。というか警察なりに相談すべきでは……。
「今、警察に行けばって思ったでしょ。なるべく大事にはしたくないのよ」
 ストーカーに命を狙われた、なんて事件もちょいちょい聞くのに、危機感がなさすぎる。
「恋人がいるってわかったら諦めると思うの。ムリなら大人しく警察に行くよ。だから、ね? お願い」
 さらに距離を詰められた。
 卑怯、あざとすぎる、絶対頑固な性格してる。
 昔から押されると押しきられてしまう性格だった。大抵よろしくない方に作用するが、今回もやっぱりそうなりかけている。
「…………俺、で、よければ」
 たっぷり五秒くらいはかけて、承諾してしまった。芸能人じゃないのに芸能人の気持ちをほんの少し堪能できた気がした。すでに胃が痛い。
「ありがとう~! 本当に嬉しい!」
 抱きつかれて少し嬉しくなったものの、ネガティブな未来の数々には太刀打ちできそうもない。
「あの、俺、一般人ですからね。よろしく頼みますよ」
 だからつい弱々しく呟いてしまったのだが、彼女は明るく笑い飛ばした。
「大丈夫! 君には迷惑かからないようにするから。……なるべく、ね」
 なるべく、と聞こえたような気がしたが、これも気のせいだろう。

#ワンライ

20230111183421-admin.png

(画像省略)お題bot*  のお題に挑戦しました。お題は「心臓、高温、…

ショートショート・その他

#お題もの

ショートショート・その他

【お題SS】心臓、高温、雨宿り


20230111183421-admin.png

お題bot*  のお題に挑戦しました。お題は「心臓、高温、雨宿り」です。

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 帰路に急ぐ足がふいに止まる。
 いつも私をからかう彼が、おそらく野良だろう猫を傘の下に入れてあげていた。
 すぐ逃げようと思ったのに、まだ足は止まったまま。
 そんな顔、私に一度も見せたことないじゃない。
 足に頭をすり寄せちゃって、猫ちゃん騙されてるよ。そいつはうんざりするくらい私をおもちゃみたいに扱うんだから。
「お前人慣れしてんなぁ。エサ持ってねーぞ俺」
 動物相手だから声も表情も柔らかいんだ。漫画とかでよく見る悪党そのものじゃない。
「お前みたいに素直になれたら、あそこまで嫌われないんだろうな……」

 心臓がどくどくと高鳴り出す。みっともなく叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
 私のことを言っているのだとすぐにわかった。
 人が見てないと思って、本気で後悔しているみたいな態度を取って、卑怯以外になにがある?
 今の光景を見なかったことにして、ゆっくり踵を返す。
 野良猫に情けない姿を晒す暇があるなら、さっさと謝ってきてもらいたい。
 行き場のない怒りを、私はひとり耐えるしかできなかった。

#お題もの

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(画像省略)毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「初」…

ショートショート・男女

#[300字SS]

ショートショート・男女

【300字SS】最初で最後


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毎月300字小説企画  のお題に挑戦しました。お題は「初」です。

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「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。僕としては自分でよかったのかなって今でも思ってるけど」
「いいえ、いいえ。わたく、私こそ我が儘を聞いていただいて、感謝しています」
 もうすぐ今日が終わってしまう。
 終われば、この人の前にはもう、いられなくなる。
 最初で最後の初恋は、甘くもあり苦くもあった。
 ……大好きな人と一日、自由にいられただけでも、幸運と思わないと。
「ど、どうしたの? どこか痛い?」
「お気に、なさらないで。とても、幸せで」
 負の感情は一切含ませてはいけない。一番の宝物としてしまっておけるものにしておきたい。
「それじゃあ、さようなら」

 彼が引き止めてくれても、初恋は消える定めなのだ。

#[300字SS]

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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。お題は「②媚」を使いまし…

ショートショート・男女

#ワンライ

ショートショート・男女

無意識な色仕掛け?


深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「②媚」を使いました。
一応お題に沿っている……つもりです😅
だいぶアホっぽいノリになりましたw

-------

「っもう、またなにするのよ……!」
 仕方ない。
「ごめんごめん」
「全然反省してないのも同じだし!」
 だって、本人はまったく狙っていないとわかっていても、どうしても「誘われて」しまうから。もちろん本人は悪くない、悪いのは完全にこっち。
「公共の場でやめてって前からずっと言ってるでしょ? もう」
 あ、そのふくれ面、上から見ると本当に可愛い。突き出た唇がちょっとつやつやしていて、今度はそこにキスをしたくなってしまう。ダメだダメだ、さすがに怒り狂っての帰宅コースになってしまう。下手したら一ヶ月はスキンシップを自粛せざるを得なくなる。ああ、でも……
「ぶっ」
「黙ってやられてばっかのわたしじゃないから。てかやっぱり反省してないじゃん!」
 手のひらで口元を覆われてしまった。
 というか相変わらず突き出たままの唇に加えて上目で睨んでくるその仕草は、はっきり言って逆効果だ。「わざとやってるだろ!」と突っ込みたくなってしまうほどだ。
 ……付き合う前から痛いほど実感していたことではあるが、天然の恐ろしさを改めて思い知らされる。
「ひゃっ!? な、なに!?」
 慌てて手を引っ込ませ、固く握りしめる。なにをされたかようやく理解したのか、今度は目線を上げてもっと鋭く睨み付けてきた。
「し、信じらんない……!」
 ……わかっているんだろうか。涙目のせいで、ある意味クリティカルヒット級のダメージを与えてしまっていると、実は理解したうえでやっているんじゃないのか!?
「……俺、本当にお前が好きだ」
「は、あ?」
「すごく可愛いって毎日思ってるし、離れたくないし、今すぐ同棲したいくらい」
 なんだこいつと思われてもいい。でも、爆発しそうなこの気持ちを落ち着けるにはこうするしかないんだ!
「や、やだやめてよ! そういうのも恥ずかしいからー!」
 丸い頬は真っ赤に染まり、丸い両目がさらに潤んでいく。しまった、逆効果か!? ならどうやってこの感情を落ち着かせればいいんだ……!


「……あのさ、いい加減パフェのアイス溶けるよって敢えて言うべき? それとも黙って帰るべき?」
「こいつらダブルデートだってこと忘れてるよな」
「あんたの友達も大概だけど、あの子も本気で嫌がってないのが余計にああさせてんのよねぇ。突っ込んだらそんなわけない! って真っ赤になりながら否定するんだろうけど」
「お互いメロメロだからね。って言っても同じ反応しそうだね」
「はぁ……勘弁してよバカップル……」

#ワンライ

2022年10月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「謎」です。-…

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#[300字SS]

ショートショート・その他

【300字SS】お題「謎」


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「謎」です。

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「謎は謎のまま終わるっていうのもいいものよ。いろいろ想像できて楽しいし?」
理解できない。だって気持ち悪いもの。たとえバッドエンドでも謎ひとつ残らず完結したほうがすっきりできるでしょ?
……そう、思っていたんだけど。

「最初はそんなつもりじゃなかったんだ! 君を傷つけるつもりは……」
「ちょっと魔が差したというか……今は本当に反省してる、もう絶対君を裏切らない!」

ドラマみたいな台詞を受け続けて、ああ、今はあの気持ちがわかるかもなんて、頭のどこかで感じていた。
衝撃を通り越して、もはや奇妙な楽しささえ生まれつつある。

ゆっくりと、下に向いていた視線を持ち上げる。

さて、私はどうオチをつけたと思う?

#[300字SS]

2022年8月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「石」です。-…

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#[300字SS]

ショートショート・その他

【300字SS】さまざまな想いをのせて


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「石」です。

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「不完全なのがいいのよ」
一粒の天然石が彩られたブレスレットを弄りながら彼女はほのかに笑った。
「もちろん宝石なみにキレイなのもあるけどね。でも、わたしはひび割れてたり透明じゃなかったり、そういうのが愛おしいの」
「そういうもんかなぁ……私は宝石の方が好きだけど」
宝石は完璧だ。どの角度から見ても美しいし、隙がない。身につけていると自身の格も上がる気がする。
「わかるわよ。でも、その好きは憧れっていうのもあるんじゃない?」
こういう鋭いところ、本当侮れない。
「……じゃあ、あなたは?」
「……落ち着くのよ」
自分も完璧じゃないから? いや、彼女は完璧にみえる。
変わらない笑みからは、答えは読めなかった。

#[300字SS]

2022年7月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。お題は「①肌…

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#ワンライ

ショートショート・その他

死神は気まぐれに舞い降りる


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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦しました。
お題は「①肌寒い夜」を使いました。

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「もしもし?」
 耳に届くすすり泣く声に、やっぱりな、と眉をひそめる。
 予感じゃない。スマホに表示された名前を見てからとうに確信していた。
『ねえ、あなたも、見たでしょ? 見てしまったんでしょ?』
「……ああ」
 溜め息だったのか、息を飲んだのか。
 どれだけの衝撃と絶望を感じているのかだけは、ただ、わかった。
『なんで……なんで、なの……!』
 俺たちには不思議なつながりがあった。
 夢――一人の人間が意識なく宙に浮いていて、少しすると頭の先から白い煙のようなものが狼煙のように立ち上り続けるという内容を、何の前触れもなしに見ることがある。
 それは、彼女も同じ夢を見たという証拠。
 どちらかの知り合いが、亡くなったという証拠。
 今日……いや、明日かその次の日か。いずれ、逃れられない事実を突きつけられる。
 俺たちに血縁関係もなければ、共通の知り合いもいない。たまたま就業先で出会っただけなのに、その瞬間から死神とも言うべき力が発現したのだ。
 まるでファンタジーな出来事を前に打つ手など思いつきやしなかった。ただただ翻弄され、神経を蝕まれていく。
『もう……もういやよ! 私もうこんなのいや……!』
 荒々しい吐息に同調しかけて、やめた。俺だけはしっかりしていなくては、お互い堕ちる事態だけは避けなければ。
「……神様でも悪魔でも気まぐれ起こして、なくしてくれるかも。いや、なくなれって祈ってないと」
『そんな気休めいらない!』
「ごめん。ただ、」
 ――そう言い聞かせでもしてないと気がおかしくなるから。
 言えなかった。俺はそうでも彼女は俺じゃない。気持ちだけは痛いほどわかるから責められない。叫び出したいのは俺だって同じだ。
 スマホを握る手が細かく震え出す。
 たったふたりで世界に閉じ込められたようだ。生き延びるすべはどこにあるのかとがむしゃらに足掻いて、無駄に終わり、絶望しながら夜明けを迎えている——そんな気分にさせられる。
『……いえ、ごめん、なさい。あなただって私と同じ、なのに』
 力なく首を振った。喉の奥からこみ上げてくるものを必死に飲み込む。

 なぜ、いきなりこんな能力に目覚めたのか。
 なぜ、俺たちなのか。
 なぜ、俺たちでなければならなかったんだ。

「……とりあえず、また大きな図書館とかネットとか、見てみる」
 検索していないワードはなんだろう。まだ行っていない図書館は?
 先が見えなくても、無駄な足掻きでも、今はとにかく動き続けるしかない。「見えない」ということは、未来が決まっていないということだから。
『……スピリチュアルなお店とか、意味、あるかな』
「そうか、そうだね。全然ありそうだから、そういうところも当たってみよう。意外にすぐ手がかりが見つかったりして」
 努めて明るめの声を出す。事実、その線は今まで考えつかなかったのだ。落ち着いてさえいれば、突破口を見つけてくれるのはいつも彼女だった。
『いつもありがとう。……頼ってばかりで、本当にごめんなさい』
 少しだけ、声色に精気が戻ったように聞こえた。
「ううん、俺もありがとう。正直、ちょっと折れかけてた」
『……絶対、こんな力、なくそう』

 電話を終えて、部屋の窓を開けた。真夏にさしかかろうという季節なのに、肌を撫でる風に思わず首をすくめる。
 身体の芯は、あの日からすっかり冷え切ってしまった。
 毎夜、こわくてたまらない。好きだった静寂の時間は、すっかり塗り替えられてしまった。
 早く、取り戻さないと。
 俺たちは、ただの人間なんだ。

#ワンライ

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「洗う」です。…

ショートショート・その他

#[300字SS]

ショートショート・その他

【300字SS】嗚呼 孤独の日々


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「洗う」です。

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初めての時はみっともなく両手が震えていた。時には失敗して報復を受け、逆に命の危険を覚えたほどだ。
何とも思わなくなったのはいつからだろう。
ある日、一心不乱に手を洗う自分を見下ろしているもう一人の自分がいた。
「そいつ」は全く落ちない両手のよごれを信じたくないというような素振りで確認と洗浄を繰り返していた。時にはみっともなく奇声まで上げる始末。
——馬鹿だ。ああ、本当に馬鹿だ。
だったらなぜこの道を選んだ。どうしても成し遂げたい目的があるから、この道を選択したんだろう?
もっと非情になれ。感情を捨てろ。洗い落とすべき対象はそっちだ。

足を踏み入れた時点でもう、「明るい未来」などやってはこないのだから。

#[300字SS]

2022年6月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「手」です。-…

ショートショート・男女

#[300字SS]

ショートショート・男女

【300字SS】隣の悪魔


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「手」です。

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手を離さないで。
確かにそう願った。懇願したと言ってもいい。
そうじゃないと自分を絶対保てないとわかっていたから。一番信頼しているからこそあなたに伝えた。
なのに……約束を破った。予想通りの醜態を晒す私を、泣き叫ぶ私を、あなたは残酷にも見捨てた。
「任せろ」と言ったあの力強い声は演技だったの? 見抜けなかった私が馬鹿だったの?
ああ、もう何も信じられない。全くどっちが役立たずなんだか……

「だから悪かったって! あんな怖いお化け屋敷だって思わなかったんだよ!」
「知らない! 無理して付き合ってあげたのに……信じらんない!」

#[300字SS]

2021年10月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)ふらっと思いついたまま書いてみたものです。主人公:無自覚な友達以上恋…

ショートショート・BL

ショートショート・BL

ひっつき虫が可愛く見えるまで


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ふらっと思いついたまま書いてみたものです。
主人公:無自覚な友達以上恋人未満
お相手:片思い
な雰囲気です。

-------

 コイツは風邪を引いたりすると、必ず自分に泣きついてくる。
 ……それまでは少しでも困ったことがあると、だったが「本当にピンチな時だけにしろ」と交渉しまくった結果が、今だったりする。コイツにとってのピンチは風邪らしい。
『病気になると寂しくなったり人恋しくなったりするじゃん!』
 とは、本人の心からの弁である。
 幸い、高校時代までスポーツをやっていたおかげか頻繁に起きはしないものの、非常にうっとうしいのにかわりはない。


「安藤~どこ行くんだよ~オレを一人にしないで~」
「だー! 買い出しだってんだろが!」
「そんなの宅配とか通販でいいじゃんか~」
「今すぐ持ってきてもらえるわけないし配達の方に申し訳なさすぎるわ! てか徒歩5分もかからないコンビニなんだから我慢しろっての!」
 これである。毎回、これである。
 とにかくべったりひっついてくるのだ。いくら友人とはいえ同性に隙間なくくっついて気持ち悪くないのだろうか?
「ったく、お前は毎回毎回しょーもないな……」
 やはり寝入った隙に行くしかない。一応病人だから気を遣う心はあるものの、精神力が異常にがりがり削られて、気を抜いたら共倒れしてしまうんじゃないかと思うこともある。
「へへ、安藤が優しいとこも毎回変わらないよ」
「へいへい、嬉しいお言葉をどうも」
 ベッドに大人しく横になった石川はふにゃりと口元を緩めた。身長が180以上ある、精悍な男の笑顔にはつくづく見えない。
「つーか、いい加減彼女とか作れよ。よっぽど甲斐甲斐しく世話してもらえんぜ?」
 余計なお世話だろうが、言わずにはいられなかった。自分だって、いつまでも「お世話係」をやらされたらたまったもんじゃない。
「……え?」
 さっきまでの笑顔はどこへやら、見事に固まってしまった石川にこちらも面食らう。
「な、なんだよ。俺ヘンなこと言ったかよ。そりゃ余計なお世話だと思ったけどよ」
 その気になれば、恋人という関係を手に入れられる容姿も性格も備わっている。他の友人もきっと同じ評価をするだろう。
「……オレを捨てるんだ」
 全く予想外の言葉に勢いよく殴られた。恋人に縋り付くダメ男そのものじゃないか。
「オレが頼れるのは安藤しかいないのに……」
「いやいや、他にもいるだろ。お前が俺にばっか言ってくるだけで」
「オレは安藤がいいの!」
 本当に、物理的に縋り付いてきた。振りほどきたくとも病人相手に本気は出せないのに、ものすごい力が腕にかかっていて痛い。
「おま、ちょっと力ゆる」
「安藤じゃなきゃイヤなんだ。いつだって、安藤にそばにいて欲しいんだよ」
 似たようなことは高校生の頃から言われてきた。まるでお熱い告白のようにも聞こえると冗談まみれで返しては石川がただ笑って、気づけばやり取りの頻度は減った。
 どういうつもりで言葉にしているのか、深くは考えていなかった。ただ、石川がどこか寂しそうな雰囲気を漂わせていたような気はする。
「そ、そばにって、なんか、意味合い違うように聞こえるんだけど」
 今日はいつもと違う。風邪を引いているせい? だとしてもこんなに戸惑うだろうか。らしくない返答をしてしまうだろうか。
「ちがくないよ。オレにとっては一緒だから」
 見上げてくる石川の瞳は完全に高熱で揺れていた。触れたら崩れてしまうんじゃないかとつい思ってしまうほど、頬も熟れすぎている。
「オレには安藤だけだもん。知らないでしょ、オレがどんだけ安藤を」
「ま、待て待て。お前風邪引いた勢いで変なこと言うんじゃねえって」
 この流れはお互いにとって不幸しか生まない気がする。もし危惧している通りの流れになったら正直受け止め切れない。
「変なことじゃないよ。オレ、前から言ってるじゃん」
 触れられた腕から伝わる熱さで、自分まで眩暈でも起こしそうだ。こんな展開になるなんて誰が想像しただろう。
「安藤……本当に、だめ? オレ、一ミリも望みなし?」
 これでもかというくらいに眉尻を下げて、図体とは正反対の空気を一気に纏いだした。
 正直、ずるい。こんなの、駄目だと一刀両断しづらいじゃないか。いや、ここで中途半端な態度を晒してしまうのがいけないんだと思う、思うが。
「……なんだかんだで、大事な奴だとは思ってるよ。じゃなかったら、クソ面倒なお世話なんてしねえし」
 石川が求める意味とは違うだろうが、嘘ではない。一番つるんでいる友人だし、一緒にいると気が楽というか、自然体でいられる存在だったりする。
「……安藤がそんなこと言ってくれるの、はじめてだね」
 本当に驚いたようで、小さい双眸がかなり見開かれている。
「ありがとう、納得したよ。今はね」
「今は、ってなんだよ」
「うーん……そうだなぁ」
 頬をそろりとひと撫でした石川は、唇の端をわずかに持ち上げた。
「覚悟しといてね、ってことかな」
 小悪魔のような笑みとは、今のような表情を言うのだろうか。
 初めて、心臓が無駄に高鳴ってしまった。
「へいへい。心からお待ちしておりますからいい加減寝ろ」
 悟られないよう、石川の頭を枕に押しつけて布団をかぶせる。
 きっと自分も見えない熱に浮かされているに違いない。そう思い込まないと、動揺を抑えられそうにはなかった。

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ショートショート・男女

#[300字SS]

ショートショート・男女

【300字SS】宝物=言葉か行動か


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「宝」です。
ベッタベタなネタになりましたw

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大好きだよ。
めんどくせーな。
だって伝えたいんだもの。ね、私のこと大好き?
っせーな、言わなくてもわかるだろ。
そうやっていつも誤魔化してばっかで言ってくれないじゃない!
俺がそういうの苦手だってわかってんだろ?
苦手で押し通すのズルい……。
お前以外とじゃ、こうやって一緒にいたいって思わないけど?

たった二言でいいのに。
ぷかりと浮かんだ不満は、瞬間はじけた。
ぶっきらぼうな話し方からは想像できない力で抱きしめられて、顎を掬われて、何度もキスをされた。頭を撫でる手がとても心地いい。

こっちの方がよっぽど説得力あるだろ?
た、ただ好きなだけのくせに!
そりゃお互い様だ。
……素直じゃ、ないんだから。

#[300字SS]

2021年9月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「残る」です。…

ショートショート・その他

#[300字SS]

ショートショート・その他

【300字SS】つかまってしまった。


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「残る」です。
物語の序章みたいな展開になりました。

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理解できない。
どうして彼が我が物顔で隣に座ってるんだろう。
「ねえ、あんたは居残り勉強する必要ないでしょ」
先生が戻ってこないうちに帰らせたい。本当はこんな変わり者の相手なんてしたくないのに。
「ほう、君も必要ないのに?」
彼はにやりと笑った。
「君の成績は確か、僕の三つ下だったはずだが」
「頭のいいあんたにはわかんないでしょう」
余計なことを言う気がして怖い。早く出て行って!
「矛盾した行動を取る理由は推察できる。が、君は彼にとって生徒でしかない」
「目的は、何」
唇を噛みしめる私に、彼は変わらない表情で対峙する。
「興味があるんだ。無駄とわかっていながら行動する感情源に」
観察させろ。
私に、拒否権はなかった。

#[300字SS]

2021年8月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)お題bot* のお題に挑戦しました。お題は「愛されることには、まだ…

ショートショート・BL

#お題もの

ショートショート・BL

愛したくて愛したくて


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お題bot* のお題に挑戦しました。
お題は「愛されることには、まだ不慣れで、」を使いました。

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 自然を装って手を伸ばした瞬間、肩がぴくりと震えた。
「あ、ごめん……」
「わかってるよ。嫌なわけじゃないんだよな?」
 念のための質問に、彼は小さく頷いた。伏せた睫毛の震えで、内心が痛いほど表れているように見える。

 勇気を振り絞った告白に、受け入れてもらえた瞬間の自分以上に彼は驚いていたと思う。
『告白ってしてもらったことなくて……いつもこっちからしてたから』
 脈があるとわかっていても、自分から告白してOKをもらわないと気持ちを信じられないこと。
 だから多分、告白されていたとしたら、その瞬間に気持ちは冷めてしまっていたかもしれないこと。
 普通じゃないとわかっていても逃れられずにいたことを、告白したその日にカミングアウトされた。
『え、じゃあなんで俺は……』
『わかんない。わかんないけど、大丈夫だったんだ。むしろ、なんかぶわーってなったっていうか、もっと好きになったっていうか……』
 普段の付き合いで驚くほど正直者だと知っているから、ひどく戸惑っている姿を疑う気にもなれなかった。
『じゃあ、正式に付き合って、みる?』
 普通なら諸手を挙げて喜ぶ場面でお互いおそるおそるなのも変な状況だが、改めて気持ちを確かめてみると、控えめに笑いながら頷いてくれた。

「逆に見てみたいかもな、お前の『愛し過ぎちゃう』姿」
 微妙に伝わってくる緊張感をほぐすように肩を軽く撫でながら言うと、びっくりしたようにこちらを見つめてきた。
「トレーニング中なのはわかってるけど、愛されるのも好きだからさ。たまには受けたい」
『恋人に愛される喜び、っていうのを確かめてみたいんだ。あと、勉強もしてみたいし……だからしばらくは、受け身でいさせてくれる?』
 冗談を言っているようにはもちろん見えなかったし、それだけ自分との関係を本気で考えてくれているのだと嬉しくなった。
 今も不満らしい不満は特にないものの、欲が頭をもたげ始めたのもまた、事実で。
「……説明したこと、あったよね?」
 いつでも「100%」を出し切って接していた結果、ある人は重すぎると苦し紛れに呟かれ、ある人は束縛されているみたいで嫌だと泣かれ……反省して言動を改めてみたつもりでも、ゴールは「離別」一本だったという。
 興味本位もあるが、そこまでの愛情を浴びてみたいという純粋な願いもあった。
 たとえどんな姿であっても、彼への想いは絶対に揺るがない。
「わがまま言ってるのは自覚してる。強制もしない。……でも、味わってみたいなぁ」
 敢えて砕けた言い方をしてみた。
「完全再現じゃなくていいから! こんな感じだったかも、ぐらいで全然」
「余計に難しいよ……でも、僕のわがままに付き合ってもらってるもんね」
 気合いでも入れるためか一度頷くと、肩に伸ばしていた手をそっと外し、緩く握り込んできた。
 思わず息をのむ。
 覗き込むように見つめてきた瞳の輝きが、いつもと違う。不快にならないぎりぎりのところで捕らわれているような、どっちつかずの気分になる。
「いつも、本当にありがとう。君には負担ばっかりかけてるよね」
 まとわりつくような甘い声だった。普段は緊張の方が目立つのに。
「僕が君を好きな気持ち、ちゃんと伝わってるかな。いつ愛想尽かされるかわかんないって、毎日不安なんだよ?」
 握ったままの手の甲を、自らの頬に擦りつける。昔漫画でよく見た、段ボールに入れられた子犬のような上目遣い付きだ。
 すでになかなかの破壊力を発揮している。これで全力なのか、まだまだなのか。
「そんなことあるわけないだろ? 本気で好きだから告白だってしたんだし」
 それでも、あくまで日常生活の延長のつもりでいきたい。自ら望んだのは確かだが、ただ享受するばかりでは対等じゃない。
「……ほんと、君の言葉って不思議。すごく信じられるんだ。すごく、安心する」
 自然に距離を詰められ、抱き込まれた。わずかに速い心音に口元が思わず緩む。
「だからかな、僕にできることなら何でもしたい。君の願いを全部叶えてあげたい」
 背中にあった両手が顎を掬い上げる。まっすぐに与えられる視線から摂取できる糖分の限界値は、とうに超えている。めまいでも起こしてしまいそうだ。
「ねえ、僕にしてほしいこと、ない?」
「わざわざ言わなくたって、充分してもらってるよ」
「僕は足りない」
 とん、と肩を押されて、気づけば彼を見上げる体勢になっていた。いつも使っているソファは意外に固いんだなと、どうでもいい感想を内心呟いてしまう。無理やり意識を逸らしていないと今すぐ抱き潰してしまいそうで、安易にその選択肢をとるのは嫌だった。
「僕がどれだけ、君に夢中なのか……知らないでしょ?」
「わかってるけどな」
 触れるだけのキスを終えた瞬間、彼の瞳が頼りなげに揺れた。どうやら心の奥に巣くった不安は、相当しつこく根付いているらしい。
「俺も夢中じゃなかったら『お願い』聞こうなんて思わないし、『わかってる』なんて言えないだろ?」
「でも……」
 キスを返して、頭を包むように胸元へ引き寄せた。くせの弱い髪は相変わらず、指に簡単に絡まる。
「告白した時以上に好きになってる。できるんなら四六時中こうやって一緒にくっついてたいし、いっぱい愛したいって思ってるんだからな」
 シャツを掴む手にぎゅっと力が込められた。触れ合っている箇所すべてが妙に熱く感じるのはきっと、気のせいじゃない。
 彼に感化されて、自分も相当恥ずかしい台詞を口にしている自覚はある。あくまで彼のためだ、悶えるのは一人きりになった時でいい。
「……ずるい」
 くぐもった声は震えていた。
「僕より、君の方がトレーニングになってるんじゃない」
「はは、そうかな」
「本気で、君なしじゃ生きていけなくなっちゃうかも」
「そりゃ光栄なことで」
 もっと愛されるよろこびを味わって、二度と離れられないところまでいけばいい。
 少なくとも、自分はとっくにそうなっているのだから。

#お題もの

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(画像省略)300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「波」です。め…

ショートショート・BL

#[300字SS]

ショートショート・BL

【300字SS】世界でたったひとりだけ


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300字SS  のお題に挑戦しました。お題は「波」です。
めっちゃ遅刻しました💦

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八月の終わりに聞く波音は、夕日も相まってどこか寂しい。
去年以上にそう感じるのは、取り巻く環境のせいだろうか。
「こうやって二人で遊ぶのも、今年までかもね」
「まーたそんなこと……大学別なの、不安すぎかよ」
隣に座る彼は呆れているけど、わかってない。
友は彼だけ。彼に仲のいい人が増えようと、自分は変わらない。
「お前が大事な友達だってのは変わらないから。変な心配すんなって」
笑顔が目にしみる。
「じゃあ、僕が世界で一番大事ですって今、誓ってくれる?」
手の甲にキスまでしてみせた。
「……冗談、だよな?」
「さあね?」
絆されてばかりじゃ悔しいし、少し意地悪してもバチは当たらないよね。
まあ、半分本気なんだけど。

#[300字SS]

2021年7月 この範囲を1話→最新話 の順番で読む この範囲をファイルに出力する

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(画像省略)深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦したのですが、時間内に…

ショートショート・その他

#ワンライ

ショートショート・その他

そこまで触れないで


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深夜の真剣物書き120分一本勝負 のお題に挑戦したのですが、時間内に間に合わなかった代物です😅
途中まで書いていたので、もったいない精神で完成させました。
お題は「①確信 ②核心」を使いました。
だいぶむかーしに、ふと浮かんだシーンを殴り書きしたまま放置していたものだったりします。
珍しく、ファンタジーものです。

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 ――ようやく、ここまで来たのよ。
 懸命に息を殺して、視線の少し先で俯いたまま座る男を見やる。以前は少しでも動いたら目を覚ましていたのに、最近はよほどのことがない限りなくなった。
 回復術兼攻撃魔術も少し操れる術士を探しているという噂を聞きつけた時は、幼い頃から身につけていた教養と元々の素質に感謝した。
 偶然を装い、男の仲間に加われたのは我ながらうまく演じられたと思う。
 警戒心が強い性格ゆえに、仲間を増やしたがらないということはわかっていた。敢えて「そこそこ使える術士」を演じていたのも、無駄に警戒させないため。意外に面倒見のいいところがあったおかげで解雇されずに済んだのは幸運だと言えよう。
 そう、幸運ばかりだった。きっと神は、何もかも失った私を哀れんでくださったに違いない。
 髪留めに偽装した、針のように細いナイフをそっと抜き取る。男が目覚める気配は全くない。聞こえてくるのは規則正しい寝息と、木々のかすかなざわめきだけ。
 ――国の滅亡と同等の苦しみを、あの世で存分に味わうがいいわ。
 首筋を掠めそうなぎりぎりの位置にナイフを構え、一息に突き刺した。

「そろそろ、やってくるんじゃねえかと思ってたよ」

 皮膚を貫く感触は、味わう前になくなった。
 薄い月明かりの下で、二つの鋭い光がこちらをまっすぐに捉えている。
「っと、これはさっさと片付けるかね」
 目的を果たせなかったナイフはあっけなく奪われた。これ見よがしに振り子のように目の前でちらつかせた後、懐にしまう。
「……どうして……」
 口の奥が痛い。どうやらかみ砕く勢いで食いしばっているようだ。そうでもしないと耐えられない。やっと、やっと数年超しの復讐が終わると思っていたのに。
「マデューラ国の第一王女。そこに攻め入ったのが、俺がとうに捨てた国。だったか」
 正体はとうに見破られていたのか、つい最近なのか。男の表情からは読み取れない。
「復讐するのは結構だがな。俺にすんのはお門違いってもんだぜ」
 戦争を仕掛けられた頃には、男はとうに国を捨てていた。仲間に加わる前には知っていた情報だったが、国家相手に喧嘩を仕掛けられるほどの実力も人材もない絶望的な状態だった。
 自分にとっては捨てていようがいまいがどうでもいい。あの国の人間であることに、かわりはない。
「ま、俺にとってもあの国は滅んでもらいたいからちょうどいいかもな。どう?」
 軽々しい態度で、こいつは一体何を言い出すつもりなのか。
「あの国、今相当フラついてるんだってさ。アンタと俺、あと何人か雇えばボコボコにできると思わない?」
「ふざけるな!」
 氷の魔法を放つ。小さくとも鋭い刃は男の頬を掠め、薄闇に吸い込まれた。
「私が……私がどんな思いで、今まで生きてきたと思ってる……!」
「へえ、ほんとはそんな喋り方なんだ。『わああ、すみませんまた失敗しちゃいました~』とか、よくできてたじゃん」
「貴様ぁぁ!!」
 どう行動したのか覚えていない。気づけば首元に手をかけて地面に押し倒していた。逃げられないよう、魔術で男の全身を縛り付ける。
「ずいぶんと立派な殺気じゃん。さっきとは比べものにならないね」
 なぜ、平然と笑っていられる。自力で解けない拘束具をつけられているようなものなのに、どうして命乞いさえもしない。強がっているようにも見えないから、なおさら。
「ほら、早く殺しなよ。さっきみたいな力入れりゃ復讐達成できるぜ?」
 そうだ。この男が何を考えているのかわからないが、隙だらけなのは確かだ。早く終わらせるんだ、両親達の仇をとって、国を復興させるんだ。
 余裕だらけの顔がわずかに歪み始める。そういえば自らの手で人の命を奪うのは初めてだった。討伐依頼の最後を飾る悪党が人間の時、必ず彼がとどめを刺していた。
 視界が闇に覆われていた。いつのまにか、自ら蓋をしていたらしい。
「……お前は、本当に、甘いねぇ」
 不意に違和感を覚えて視界を開く。
 見なくてもわかる。喉元に得物を突きつけられている。両腕を魔術の有効範囲に含め忘れるなんて、致命的ではすまないミスを犯してしまった。
 だが、男は一向に得物を動かそうとしない。どこか愉快そうにも見える。
「わかってたさ。お前が途中から、俺のこと本気で殺そうとしていなかったこと」
「ふ、ざけたことを」
「さっきのナイフ。あのまま振り下ろしても急所は外れてた」
「私が、勉強不足なだけで……!」
「そんな言い訳で、本気で誤魔化せると思ってるのか?」
 頭の中では否定の単語が絶え間なく流れているのに、表に吐き出すことができない。
 ――彼の仕事ぶりを、一番近くで見ていたのは一体、だれ?
 この森に入る前は肌寒ささえ感じていたほどだったのに、汗がにじんで仕方ない。気温の変化がわからない。わかるのは、劣勢に置かれていることだけ。
「まあ、俺もお前をどうこうしようとは思ってないさ」
「なに……?」
「これでも、お前のことは結構気に入ってんだよ」
 理解できない。「ごっこ遊び」だったとしても、仲良く肩を並べて歩く生活はもうできない。
 あるいは、奴隷にでもなれと言っているのかもしれない。
「……殺せ」
 一瞬、男の双眸が揺らいだ気がした。
「お前にいいように使われるくらいなら、ここで果てた方がましよ」
 今度ははっきりと目を見開くと、可笑しそうに小さく笑った。
「何がおかしい!」
「そんな未練ありありの顔で言われても、ねぇ」
 そんなことはない。
 まぎれもない本心をぶつける猶予は、与えられなかった。
 おまけに受け入れがたい現実に襲われている。なぜ、どうしてこんなことに。抵抗らしい抵抗もできていない。
「言っただろ? 俺はわかってた、って」
 唇を解放した彼は、今度は満足そうに目を細めた。
「お前も俺のこと、意外に気に入ってるんだよな?」
 国を滅ぼされた後のこと。
 彼の仲間に加わった後のこと。
 様々な記憶が脳裏を走り抜ける。同時に説明できない感情がぐるぐるにかき回されて、胸の中を圧迫していく。
 私は復讐しなければならない。でなければひとり生き延びた意味がなくなる。こんな痴れ言に構っている暇などない、ないのに。

 気色悪いほどの微笑みから目が逸らせない。
 頬をすべる、ありえないほどに優しい手を払い落とせない。
 命を奪われるものも、奪うのを邪魔するものも、ない。そのチャンスを活かそうとする動きを、取れそうになかった。

#ワンライ